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第4話(2)

 橋頭堡(2)

(ダンの話 その1)

 開戦の1週間前、僕らは4ヶ月の戦闘訓練を受けた後、地中海寄りの防衛拠点、ブタペストに配置された。
ここでは休戦ラインが運河東岸にあり、ブタペストのわずか2キロ前方に、エジプト軍の前哨があった。

 監視塔に登り、双眼鏡でのぞくと、相手陣地内の兵士や車両が見える。

 我が要塞は地雷原と鉄条網に囲まれ、遮蔽された火砲や機銃陣地を持つ。
しかし、守備兵はわずか30人だ。

 朝、要塞の外へ、ハーフトラックに乗り、パトロールに出る。
トラクリンへと通ずる海岸道路の両側を調べる。
海からのエジプト軍コマンドや特務員の侵入を見つけるためだ。

 「軍曹どの、あそこに足跡があります。」
砂浜に真新しい足跡がいくつも、海辺から道路を越えて続いている。
「これはイスラエル兵の軍靴の跡だ。」

 「もし私がエジプトのコマンドなら、我が軍の軍靴を使いますよ。」
「奴らが、そんなに利口と思うか?」
「1ヶ月の暇な任務だ、そうきりきりするな。」

 イスラエル軍は前の6日間戦争(第3次中東戦争)の勝利で、アラブ軍を完全に見くびっていた。
しかし、それが誤りであることがすぐにわかった。

 ヨム・キプールの日(大贖罪日)、警戒態勢をとるよう隊長から命令され、完全武装で塹壕に入る。
前面のエジプト軍陣地に、動きは見られない。
「いやに静かだな。何かが起こりそうだ。」

 午後2時、要塞上空低く、エジプト空軍機の編隊が轟音を上げ、飛び去る。

 一息ついて、地平線上に無数の閃光が光った。
「掩体壕に退避!」

 2,30秒後、砲弾がうなりを上げて落ちてきた。
大地が震え、爆煙で何も見えない。

参考文献:「The Yom Kippur War」、A.Rabinovich、Schocken Books、2004
     
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