感泣亭

愛の詩人 小山正孝を紹介すると共に、感泣亭に集う方々についての情報を提供するブログです。

小山正孝の詩 「道」 詩集『逃げ水』より

2012年08月14日 | 日記

 


この一本の道は夕日にあはあはと白くかがやいてゐる
左側はコンクリートのひややかな倉庫の壁

一人の青年と一人の少女が話しながら歩いてゐる
右側には河がゆつくりと流れてゐる   
二人は長い影をうしろに残しながら
目を日に射られてまぶしさうに
顔は白く美しくほほゑみながら
大股に歩いてゐる
愛についてたのしさうに希望にもえて話してゐる
あと何時聞かたつて夜になつたら
二人はどこかの街角でさやうならを言ふだらう
この道は暗くなり街燈にかうもりがまつはりつくだらう
河はどんより重くしづみこみながら流れるだらう
倉庫はまつ黒い怪物のやうにそびえるだらう
二人は一人づつになるだらう
その一人づつがどんなに今日の愛を保たうと思つても
わけのわからない力がすぐそれをぶちこはしてしまふだらう
たつた一人の心の中で
青年も 少女も
自分の心のきびしい存在に気づいておびえるだらう
この一本の道は夕日にあはあはと白くかがやいてゐる 


                                詩集『逃げ水』より


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。