日本カナダ文学会

The Canadian Literary Society of Japan

NEWSLETTER 79

2023-03-31 | Newsletter

NEWSLETTER 79

THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN

L’association japonaise de la littérature canadienne

Spring, 2023

 

会長挨拶

 

出口の見えないコロナ禍、そしていつ終わるのかわからないロシアによるウクライナ侵攻、暗い出来事 が続いています。それでも、春は巡ってきます。会員の皆様にはお元気にてご活躍のことと存じます。 NEWSLETTER 79 号をお届けします。

2023 年 2 月 6 日にカナダ大使館で、来日中の作 ヤン イー 家キム・チュイさん、芥川賞作家で中国出身の楊 逸

さん、直木賞作家の中島京子さんによる文学フォー ラムが、佐藤アヤ子の司会・進行で開催されました。 テーマは「多様性の時代を描く作家たち」。

キムさんはベトナム戦争時の 1968 年、サイゴンに生まれました。 10 歳の時にボートピープルとして家族とともにベトナムを去り、マ レーシアの難民キャンプを経て、モントリオールに移民。デビュー 作『小川』(Ru)は、難民としての体験を描いた自伝的小説で、壮絶 な体験が作品の底に流れています。「移民を受け入れることは選択肢 を増やし、社会が柔軟になる」とキムさんは語ります。

楊さんは、「私が中国で暮らしていたところも、キムさんがいたマレーシアの難民キャンプのようにひ どかった」と回想し、「カナダに移民したキムさんの体験に共感する」と語ります。

中島さんの最近作『やさしい猫』は、「人間軽視の日本の入管行政を問うた」話題作。父母はトルコか ら来たクルド難民の少年など多彩な人物が登場します。

「多様性は力」という考えから、多様性、多文化主義を国策にしているカナダ。多民族国家ならではの 政策です。多くを学ぶことができた日本・カナダ作家フォーラムでした

第 41 回日本カナダ文学会年次研究大会は、岸野英美会員のお力添えをいただき、6 月 17 日(土)に大 阪の近畿大学で開催されます。現在、対面開催に向けて準備を進めておりますが、コロナ禍の出口が見え ないために、ZOOM の設定も行います。また、特別講演者として参加予定であった Lisa Moore さんと Eva Crocker さんは残念なことに来日が困難となりました。懇親会はキャンパス内の「ザ・ラウンジ」で 行います。近大マグロが楽しめそうです。ぜひ対面でご参加ください。大会日近くになりましたら、また 皆様にご案内いたします。

日本カナダ文学会会長 佐藤 アヤ子

 

 

2023 年度年次研究大会のご案内

 

2023 年度の日本カナダ文学会年次研究大会は、以下の日程で開催されます。奮ってご参加ください。 現在、対面開催に向けて準備を進めておりますが、コロナ禍の状況が見通せないため、対面+オンライン (ZOOM)の開催となります。ご不便をおかけしますが、ご理解ください。

開催日時:2023 年 6 月 17 日(土)10:00-16:30
会 場:近畿大学 東大阪キャンパス(大阪府東大阪市) 開催方式:対面+オンライン(ZOOM)

<午前の部>
〇 研究発表1 風早悟史
雨の波紋 ― “The Forest Path to the Spring” における楽園の表象 ―

≪Ripples of Raindrops: The Representation of Paradise in Malcolm Lowry’s “The Forest Path to the Spring”≫

〇 研究発表2 池村彰子 マーガレット・アトウッド『負債と報い』とチャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』考察 ― アダプテーションと新しいスクルージたち ―
≪A Consideration of Atwood’s Payback and Dickens’s A Christmas Carol :
― Focusing on the Adaptation and New Scrooges ― ≫

<午後の部> *総会後
〇 シンポジウム
カナダの LGBTQ+文学 ≪Canadian LGBTQ+ Literature≫

発表者:Beverley Curran、佐々木菜緒、戸田由紀子

・Beverley Curran

カナダ文学における LGBTQ+の多様さについて

≪Exclusive Feminism, Inclusive Trans, and Transdiscursive Queer in Contemporary Canadian writing≫

・佐々木菜緒
複数性としての主体の表出-ケベックのクィア文学前史
≪Emergence of Plural Subjectivity: The Prehistory of Queer Literature in Québec≫

・戸田由紀子

サムラ・ハビブによるクィア・ムスリムの回想録 ― We Have Always Been Here ≪Samra Habib’s Queer Muslim Memoir —We Have Always Been Here≫

 

〇 懇親会 「ザ・ラウンジ」(近畿大学キャンパス内)

 

 

 

開催校より

岸野 英美会員

第 41 回日本カナダ文学会年次研究大会は、2023 年 6 月 17 日(土)に近畿大学東大阪キャンパス で開催される予定です。現在、対面開催(一部オンライン)に向けて準備を進めております。詳細 につきましては新学期開始後に改めましてお知らせいたします。まだまだ新型コロナウイルス感染 症の完全なる終息が見えない中での開催となりますので、会員の皆さまにはご不便をおかけするこ ともあるかと存じますが、何卒ご協力とご理解賜りますようお願い申し上げます。多くの会員の皆 さまとお会いできることを楽しみにしています。

近畿大学東大阪キャンパスへのアクセスおよび宿泊情報:
★ アクセス (https://www.kindai.ac.jp/access/) 近鉄奈良線「大阪難波」駅より「鶴橋」駅で乗り換え、近鉄大阪線「長瀬」駅下車、徒歩約 10 分で 近畿大学西門に到着。 (または、近鉄奈良線「大阪難波」駅より「八戸ノ里」駅下車、近大直通バス約 6 分で近畿大学東正門 に到着。)

★ 宿泊 大学付近におすすめする宿泊施設はありません。近鉄線沿いには宿泊施設が多くあり、交通 アクセスもスムーズです。

(参考) ダイワロイネットホテル大阪上本町(https://www.daiwaroynet.jp/osaka-uehonmachi/) 相鉄フレッサイン大阪なんば駅前(https://sotetsu-hotels.com/fresa-inn/namba-ekimae/) U・コミュニティホテル(https://www.u-community.co.jp/)

 

<連載:カナダ文学との出会い 第17回>

大塚 由美子会員

 

2004 年 7 月末、私は NY 行きの飛行機に乗っていました。目的地はカナダのトロント。NY 経由でナ イアガラの滝を訪れ、国境を越えてカナダへ。非常勤先の前期授業終了後、期末試験までの僅か 1 週間 ほどの休日を利用して「行くなら、今でしょ!」と、思い切って出かけたのです。旅行料金が上がる夏休 みの前に。

トロント行きの目的は、その時に読んでいたマーガレット・アトウッドの Life before Man について論 文を書くため。トロントのロイヤルオンタリオ博物館(ROM)はアトウッドの作品では最初の小説 The Edible Woman からお馴染みの場所ですが、Life before Man ではとりわけ重要な舞台となっているので、 現地に行っておかなくては、という訳です。小説に登場するバス停は実在するため、私も登場人物になっ たつもりでバスに乗車。想像力を働かせ、作品に入り込もうとしました。

一方オンタリオ美術館では、カナダの風景画で有名なグループ・オブ・セブンの絵画を鑑賞したり、本 屋では、滲んだハートの表紙が目に留まり、アトウッドの詩集 True Stories を記念に購入したり...。 わずか 1 週間のトロント滞在でしたが、帰国後、一気に Life before Man 論を書きあげることができ、 トロント行きの目的を無事(?)達成。論文執筆中の夏休みの間、タイトルに込められた有史以前の時代 からの壮大な時の流れに思いを馳せながら、そして、記念に購入した詩集 True Stories の「目撃証言は あなたがしなくてはいけないこと」という詩行に込められたアトウッドからのメッセージを感じながら、 「やっぱり、アトウッドはいいなぁ」と改めて思いました。

私にとって「カナダ文学との出会い」は、まさにマーガレット・アトウッドの作品との出会いに他なり ません。上述のトロント行きの 4 年前の 2000 年、私は大学院博士課程でアメリカ文学を専攻していまし た。指導教授はアメリカ詩人ウォルト・ホイットマンの研究者で授業では米英の詩も読みましたが、加え てフェミニズム理論や女性作家たちの詩・小説・エッセイ等を読む機会もありました。そのゼミでアトウ ッドの小説 The Edible Woman に出会ったのです。その後 Surfacing の詩的な文章に触れて「アトウッ ド、好き...」との思いが高まり、博士課程ではアトウッドを研究しよう、と決めました。

カナダ文学会に出会ったのは、私の学位請求論文「マーガレット・アトウッドの小説におけるサバイバ ルの重層性」に対して 2008 年 3 月に博士(学術)が授与された直後だと記憶しています。他の学会で、 アトウッド作品の翻訳家・研究者として著名な佐藤アヤ子先生にお会いしてカナダ文学会に入会するこ とができました。佐藤先生との出会いは幸運としか表現できません。後に博士論文を元に『マーガレッ ト・アトウッド論:サバイバルの重層性』を出版できたのは、佐藤先生と先生からご紹介いただいた彩流 社の竹内淳夫氏お二人のお力添えが大きかったからです。

アトウッドの作品に出会う前、ルーシー・モード・モンゴメリの Anne of Green Gables は大好きでし たし、マイケル・オンダーチェの The English Patient は映画化もされて有名でした。大学院の授業では ジョイ・コガワの Obasan も読んではいましたが、私にとっての「カナダ文学との出会い」は何といって もマーガレット・アトウッドの作品なのです。

(おおつか ゆみこ)

 

 

事務局からのお知らせ

学会費につきまして、郵便振込用紙と 2022 年度末までの納入状況のお知らせを学会誌『カナ ダ文学研究』第 30 号とともにお送りいたしております。

ご確認の上、お振込み頂けますよう お願いいたします。恐れ入りますが、振込手数料につきましては、ご負担ください。

学会費:

(該当年度の 4 月 1 日より 3 月 31 日まで)正会員 7,000 円、学生会員 3,000 円

振込先:
郵便振替口座: 00990-9-183161 日本カナダ文学会 銀行口座: 三菱 UFJ 銀行 茨木西支店(087) 普通 4517257 日本カナダ文学会代表 室 淳子

 

編集後記

○ コロナ禍に老人ホームに入居した母との面会はいまだアクリル板ごしで、耳の遠い母との会話は歯 がゆいものです。認知症で言ったことをすぐさま忘れ、いやだと言った数秒後にまったく何のこだわり もなくいいよと翻す母ですが、悲しくもありつつ正にこれぞ「意識の流れ」を体現しているのかと。人 の記憶と意識の不思議さを感じさせられます。(Y)

○ カナダ、マレーシア、ドイツなど海外への出張が再開しました。新型コロナが収束に向かい各国の 往来の規制が緩和される一方で、学生引率でドイツ滞在中の今、ロシア・ウクライナ戦争の影響拡大を 感じています。ロシア上空を大きく迂回して現地入りしたドイツの語学学校では、さまざまな事情を抱 えて逃れてきたウクライナやロシアの人々と一緒にドイツ語を学んでいます。早く戦争が終わり、帰り たくても祖国に戻れない人々が祖国に戻れますように。(T)

○ 先日、カナダ大使館で行われた特別上映会でカナダ映画 Bootlegger を観ました。ひとつの小さな コミュニティーの物語ですが、今の民主主義や資本主義そして消費社会全体を振り返り、他人同士が ともに生きることの障壁となるいろんな問題を考えさせられました。一方、先頃行われた WBC での 日本優勝のニュースは、シンプルな情熱とチームワークのすばらしさが、その結果とともに春の訪れ を明るい希望で彩ってくれるものに感じられたのでした。(S)

 

NEWSLETTER THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN 第79号

発行者 日本カナダ文学会
会 長 佐藤アヤ子
編 集 沢田知香子 & 戸田由紀子 & 山本かおり 事務局 名古屋外国語大学 現代国際学部

室 淳子(副会長)研究室
〒470-0197 愛知県日進市岩崎町竹ノ山57 TEL: 0561(75)2671
EMAIL: muro@nufs.ac.jp
HP: https://blog.goo.ne.jp/kanadabungaku kai84burogudayo
会長連絡先
EMAIL: ayasato@eco.meijigakuin.ac.jp

 


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