日本カナダ文学会公式ブログ

日本カナダ文学会の活動と紹介

Newsletter 75

2021-04-04 | Newsletter

NEWSLETTER

THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN

L’association japonaise de la littérature canadienne

            Number 75                                                  Spring, 2021

 

 

会長挨拶

 

日本カナダ文学会会長 佐藤 アヤ子

 

花の季節となりました。

会員の皆様にはますますご健勝のことと存じます。NEWSLETTER 75号をお届けします。

 

中国武漢で最初の新型コロナウイルスの感染者が出てから1年以上が経ちました。しかし、いまだに収束がみえない状況です。このコロナ禍は、この地球上に生活する私たちに様々な弊害をもたらしています。残念ながらその影響は日本カナダ文学会にも及んでいます。室会員のご協力で、年次研究大会を6月19日(土)に名古屋外国語大学で開催する予定でしたが、このコロナ禍の状況での名古屋外国語大学での開催ができなくなりました。そこで今年の大会は、遠隔方式(Zoom)で開催することにいたします。会員の皆様にはご不便をおかけしますが、ご理解いただければ幸甚です。

また、Armstrong会員のご尽力でLisa MooreさんとEva Crockerさんをゲストとしてカナダから招聘する予定でしたが、コロナ禍で来日できないことになりました。コロナが収束した近い未来に、ご参加いただけるということです。

このような状況を鑑みて、今年の大会は従来の午前からの開催ではなく、午後からの開催となります。後述の大会案内をご覧ください。

 

「日本とカナダの作家が語る―パンデミックによる社会変容と創作への影響―」を国際交流基金トロント日本文化センターと私が所属する日本ペンクラブとの共催で行いました。半年以上前からこのイベントを企画し、2021年3月にトロントで行う予定でしたが、コロナ禍でリアル開催ができず、全員が録画での参加となりました。カナダからは、Margaret Atwoodさん、日本通の作家Katherine Govierさん、医者で作家のVincent Lamさん、日本からは、浅田次郎さん、桐野夏生さん、平野啓一郎さんが参加しました。

現在、世界を襲っているコロナ禍は、社会の在り方や人々の意識、行動に様々な影響を与えています。今回のこの企画では、日本とカナダを代表する作家の視点から、パンデミックによる社会変容と自身の創作にどのような影響があったかについて語っていただきました。また、それぞれの作家から相手国の作家への質問を事前に提出していただき、その質問への回答も含めてお話しいただくことで、非常に有意義な日加作家の意見交換の場となりました。3月末には、トロント日本文化センターと日本ペンクラブのYouTubeで配信される予定です。お楽しみください。

 

コロナ禍の折、ご自愛ください。

 

2021年度年次研究大会のご案内 (予定)

 

2021年度の大会は、以下の日程で開催されます。奮ってご参加ください。なお今年度はコロナ禍の影響で、遠隔方式(Zoomでの開催となります。また、カナダからのゲスト2人もコロナ禍のために来日が困難となりました。そのような状況を鑑みて、午後からの開始といたします。ご不便をおかけしますが、ご理解ください。

開催日時:2021年6月19日(土)13:00-16:30

開催方式:遠隔方式(Zoom)

 

○ 研究発表:原田寛子 

「円熟の小説」を超えて:マーガレット・ローレンスの『石の天使』における老い

○ 総会

○ シンポジウム

テーマ :「カナダのグラフィック・ノベル」

発表者 : 荒木 陽子、伊藤 節、Christopher J. Armstrong

     荒木 陽子

メディア・ミックス/ミックスト・メディア:グラフィック+ノベル

伊藤 節

アトウッドのグラフィック・ノベル―The Handmaid’s TaleAngel Catbird 

Christopher J. Armstrong

Genre and Style in Kris Bertin and Alexander Forbes’ The Case of the Missing Men

 

********** 

室会員によりZoomの設定を行っていただきました。以下がURL、ID、パスコードになります。

https://nufs-ac-jp.zoom.us/j/89179751350?pwd=QzM0K0RBcTFPcERKZGQwbXVaL1g4Zz09

ミーティングID: 891 7975 1350  パスコード: 555576。 13:00-16:30の開催に幅を持たせて、12:30-17:30の設定になっています。早めに入られても、延長になっても問題ありません。不明な点は室淳子会員(muro@nufs.ac.jp)にお問い合わせください。学会日近くになりましたら、また皆様に再度ご案内いたします。

 

 

<特別寄稿> (Special Article)

 

 

19

Hiromi Goto

 

  1. numbers have become. significant in a way. i’ve never experienced before. the nation’s tally. every day. more infected. more dead. increasing. after reaching 1000 deaths i stop. entering the dead. in my journal. numbers continue. to figure. globally. to rise.

 

  1. how many have lost jobs. loved ones. lost hope. lost. how many. how much? is enough. to live? these were always important numbers. more people now. feel. the cutting edge.

 

  1. “…billionaires in the United States have increased their total net worth $637 billion during the COVID-19 pandemic so far. At the same time, more than 40 million Americans filed for unemployment.”

 

  1. sometimes i hold my breath. when i walk past. someone. without a mask. this must feel a lot. like racism. and it confuses me. usually. i am alert. in public spaces. for racism. or homophobia. or misogyny. when i cross the sidewalk. to avoid someone. with bad protocols. i wonder. is this how racists feel? toward people? who aren’t white? how strange. this dissonance.

 

  1. my okaasan is eighty-two years old.

 

  1. counting the days. until our mothers. can be vaccinated. in the news. we learn. fewer doses are being shipped. into the country. we check the schedule. the numbers. keep changing.

 

  1. during the first wave. of the pandemic. my partner and i move. vancouver, bc. to vancouver island. lekwungen territory. crossing the salish sea. now we live. in a small rental cottage. on a small mountain range. i think of the nobility. who fled the cities, fled the plague. to sequester themselves. in country villas. we are not nobility. but to move voluntarily. during a global health crisis. is wealth.

 

  1. we e-transfer money. into our adult children’s accounts. they are essential. non-essential. workers. underpaid. exposed to the public. five days. a week.

 

  1. an insta friend sends. a message. an offer of a welcome gift. japanese oyasai. from a local. organic japanese vegetable farm. they tell me. the farm accepts volunteers. who receive a gift of oyasai. for their gift of labour. my eyes widen. heart unfolds.

 

  1. october 2020. i start volunteering. at the farm. i cannot express. how much it means to me. that the farm is run. by diasporic japanese women.

 

  1. as covid numbers rise. and rise. rise. the farm is a counterpoint. i am finding it hard to write. but two rows of old zucchini plants cleared. one greenhouse of end-of-season kyuri plants cut down. three and a half wheel barrows of blackberry vines/3 hrs.

 

  1. i am learning. about seasonal eating. what winter, soil, sunlight, passive green houses. can provide. three and a half hours of chopping pruned apple branches. into firewood. a large bunch of kabu, one cabbage, two carrots, two potatoes, baby lettuce greens, a bunch of kale, daikon tops, parsley.

 

  1. this simple math. made material. makes me want. to weep.

 

  1. i only volunteer. once a week. rain or shine. there is always work. to be done. on a farm. i was a farm girl. once. i remember. debt. unending labour. uncertainty. these things. i do not carry. as a volunteer. this time. once a week. is a gift. i hope i’m paying back. my slow-paced work. i’m fifty-four years old. and not as strong. as i once was.

 

  1. i like to take one photo. of the vegetables i receive. document the season in vegetables. what eating locally really looks like.

 

  1. migrant workers who labour. without state protections. they are not prioritized. for vaccination. no healthcare. no benefits. yet we eat the food. they grow and pick. in fields they do not. own. we eat their labour. we eat their health. in superstores. in warehouse bulk. those oranges. sweet.

 

  1. i visit okaasan. every thursday. stay all day. make supper for us. we eat together. thank you for sharing all this time with me, she says. you don’t have to thank me, i say. we’re just hanging out. “hanging out,” she softly repeats.

 

  1. capitalism has turned. farms into corporations. no longer family-run. your California oranges. cheap. mangoes from Mexico. it’s only “affordable”. because someone else. pays. this cost. a japanese organic vegetable farm. is teaching me. what sustainable. looks like.

 

  1. okaasan falls. into phase 2. of the immunization. schedule. we count. the weeks. the days. we are waiting. for a letter. health authorities. will be reaching out. they say. “It's important to understand the timeline for each phase may change due to vaccine availability.”

 

[1] “How billionaires saw their net worth increase by half a trillion dollars during the pandemic”, Hiatt Woods, Business Insider, October 30, 2020.

2 https://www2.gov.bc.ca/gov/content/safety/emergency-preparedness-response-recovery/covid-19-provincial-support/vaccines February 14, 2021.

 

 

 

続Covid-19とカナダ――日加入国規制おぼえがき――

 

荒木 陽子会員

 

前号では2020年秋にハリファックス自宅から新潟自宅へと帰る2日前までの体験を会員のみなさんと共有したので、今号はその続きを書かせていただくこととしよう。

その後、私たち家族4人は全員無事9月半ばに出国できた。前号の最後に日本入国の際に夫がPCRテストを受け、陰性証明書を入手するのがハリファックスでは極めて困難であることをお伝えしたが、結局夫は出発前日午前に陰性証明書を入手することができた。大都市圏では民間のクリニックが有料で旅行用テストを行っていたが、当時ハリファックスではPCRテストは公立機関のみの実施であった。無料であったがスポットが少なくぎりぎりまで予定が決まらない上、その場では証明書を発行してもらえない。そのため、陰性結果をもってかかりつけ医に行き、そこで証明書を書いてもらうという手間がかかった。終わった頃にはもう午後のおやつの時間になっていた。そして、私たちはその直後に、翌早朝発のために大荷物で空港ホテルに移動することになった。

ただ、やっとの思いで空港ホテルに到着し、夕食をするにしても利用者が極端に少ないため、空いているのは棟続きの空港内のガラガラのファストフード店2店のみであった。いつもは混んでいるテーブルに他に座っていたのは休憩中の空港職員のみで、延期となった「北米先住民体育大会」(NAIG)のための装飾が虚しかった。翌朝の出発では、日本入国に要求されていた夫の陰性証明やビザの他、私たち家族の血縁関係を示す公的書類までをエアカナダの職員に入念に確認されて、やっとのことでぎりぎりに搭乗できた。無事トロント経由でバンクーバーへ到着したが、出国便乗り継ぎの際には、今度は私の戸籍謄本に英訳がないことを理由に、搭乗口職員が私たちの搭乗を渋った。たまたまその場に居合わせた非番の日本人クルーがその場で「本当に家族」であることを証明してくれたことは幸運であった。

成田着となった帰国便は便数が少ないこともあり比較的搭乗率は高かったが、大人でも十分足伸ばして座ることができた。機内では不安定な雇用状況でレイオフかワークシェアになりそうだという航空会社日系人クルーと話していた。彼女は日本在住で日本国籍の夫の元で生活するために日本の配偶者ビザを取ろうとしているということで、サービス時間外で情報交換をした。

成田到着後、子連れの私たちは最後に降機し、PCR検査へと向かう列の末尾に連なる。入国者が少ないせいか意外と混雑しておらず、航空会社職員と思しき係員に誘導され、書類を記入させられた後、家族単位でPCR検査へ。指示が理解できないために鼻に棒を突っ込まれる乳幼児以外は、レモンや梅干しの絵をみせられ唾液検査を受けた。受付番号をカウンターに提出し、更に書類を書き、結果が出るまで1時間ほど待つ。どこかで見た風景だと思いきや、普段はエアカナダが出国搭乗口として使用しているスペースあたりであった。偶然PCR検査の応援要員が新潟から応援に入っていることを知り、失業者が増えていることばかりが報道されるが、仕事が増えている業種があることも再確認した。

PCR陰性の結果をいただいた後は、ガラガラの入国審査エリアへと進む。入国者が少なく余裕があるからか、生まれてはじめて審査待ちの時間に椅子をすすめてもらい、待ち時間に新潟から乗ってきた車を止めてある駐車場に電話して、出口まで車を移動してもらうよう手配した。ただ、審査はいつになくスムーズで、あっという間に手荷物受け取りエリアにたどり着く。すると、そこもいつもとは異なり、カルーセルは停止され、グループごとに荷物がまとめてあり、正直非常に助かった。コロナ禍も悪いことばかりではなかった。

夕方5時前には成田空港を出発し、その後給油して茨城、福島経由で夜の9時前には新潟にたどり着いた。このカナダから日本への帰国から学んだことは、ビザと陰性証明さえ取れてしまえば、コロナ禍の国際移動は快適であったということだ。

実は2021年4月半ばにカナダへと戻ることになっているが、これも既に異例尽くめだ。エアカナダの日本・カナダ航路は4月末まで運休している。おかげさまで初めてヨーロッパ経由でカナダに向かうことに挑むことになった。息子は生後9か月までに世界一周をはたすことになるからすごい。おまけにカナダ政府が2月より今さら国際移動を制限しはじめたため、カナダ国籍所持者も含めて全員に陰性証明を必須とし、入国した空港で再度PCR検査を受け、結果が出るまで3日間ホテル待機となった。政府の指定を受けたホテルの宿泊料は高騰し、ビジネスホテルですら一泊500ドル程度まで価格が吊り上がっているところもあった。果たして無事に私たちはハリファックスの自宅に戻ることができるのか。つづきは年次研究大会で。

 

 

 

<連載:カナダ文学との出会い第15回>

 

「カナダ文学との出会い」     

                                                                   大矢 タカヤス会員

 

生まれつきせっかちなのか、既にしばらく前からこの世からの撤退の準備を始めていて、カナダ方面からはとうの昔に撤収した気になっていたのに、突然、「カナダ文学との出会い」を語れと言われて、少し困惑したことは否めない。それに、そもそも私がカナダなる国の文学のごく一部分の研究に手を染め始めた動機はドラマティックでもロマンティックでもなく、正直なところ極めて散文的というか、政治的あるいは戦略的であって、若い研究者の方々を鼓舞するどころか、幻滅させかねないものである。つまり、1990年代後半、教員養成系のわが勤務校は当時の文部省から少子化を見込んだ定員削減、そのための教育体制再編を迫られ、連日ない知恵を絞って会議を続けた結果、どこにも入りきれない教員を寄せ集めて、「多言語多文化」なる学科を創ることを決めた。そこで私はフランス文学を専攻していたということで、複数のフランス語圏の国についてなにか講義しなければならない破目になったのである。フランスから距離的には遠いのにスイスでもベルギーでもなくカナダを選んだのには、フランス留学中に親しくなった一人のカナダ人の存在が影響したのかもしれない。パリ南郊に「国際都市」という大規模な学生寄宿施設があって各国が館を構えており、私は日本館に1年、アルゼンチン館に2年居住したが、そのアルゼンチン館の隣がカナダ館だったのである。そこに住んでいたトロワ・リヴィエール出身の哲学専攻のカナダ人と親しくなって、一緒に食べたり飲んだり、卓球したり、議論したり、コンサートに行ったりと濃密なつき合いをし、それぞれ帰国してからも時々手紙のやり取りをしていた。

一方、大学の方針が決まって、私は新学科開設時からカナダについて話さなければならないことになり、その他にもEUに関する講義も担当することになって、授業開始までの1、2年間は受験生にもどったつもりで、必死に準備せざるを得ないと覚悟した。

カナダ文学についてはルイ・エモンとかアンヌ・エヴェールなど、フランス文学史に出て来る名前を知っている程度だったが、1979年にアントニーヌ・マイエというカナダ人にゴンクール賞が与えられた際に、おそらくイヴォンというこの友人にカナダ文学について知りたいというようなことを書いたらしい。ある日、段ボールで40冊近い現代作家の作品がドカンと送られてきたのである。彼の蔵書の一部をそっくり入れたのであろう、ガブリエル・ロワやアンドレ・ランジュヴァン、フェリックス・ルクレール、マリー・クレール・ブレなど二十人近いさまざまなケベックの現代作家の作品があった。ジャック・フェロンのものが圧倒的に多かったのが印象に残っているが、マイエの初期の戯曲も3冊ほどあったと思う。

一方、マイエの受賞作を本気で読み始めると、カナダより先にまずアカディとはなんぞやという問題に突き当たり、これを調べ始めると次から次へと知らなくてはならぬことが行く手を阻む。彼女の他の作品を読んだり、アカディに関する著作を入手するなどしてどんどんはまり込んで行ったが、架空の話にせよ、史実にせよ、とにかく舞台となっている土地を全然知らないのだから、もどかしさが募る一方であり、ちょうどその頃、新学科の授業が始まって付け焼き刃の知識を基にカナダについて話すと、そこにカナダ留学経験のある学生もいることが分かってまさに冷汗三斗、次の授業は私が登校拒否をしたい思いであった。そんなわけで、とにかく現地に行かねば、と2001年の夏、パリ滞在の際にカナダまで足を伸ばすことにした。

モンレアルの空港にはイヴォンが迎えに来ており、かくして私たちはほぼ30年を経て再会を果たした。その日はトロワ・リヴィエールの彼の家に行ってそこで泊まり、翌々日だったであろうか、彼の車でアカディに向けて出発した。彼の車はサイドブレーキが壊れているので平らなところでないと停まれないという代物で、彼自身も癌を患ったあと、人工肛門をつける日常であったが、カラケットを経由してモンクトンまでモーテルを転々とする長旅につき合ってくれた。今思うと、もっと感謝しておくべきだったと悔やまれるが、そのときは二人とも二十代にもどったような心持ちで、退屈しない旅だった。ケベック州とニュー・ブランシュヴィック州の州境の河を渡る直前に、どちらも英語に関しては相手を当てにしていたことが判明して大笑いしたことも懐かしい。モンクトンから彼は自動車道で自宅に戻り、私は数日滞在したあと、飛行機でパリに戻った。

その後の数年は夏ごとにこの地方を訪れ、レンタカーで史跡を巡ったり、モンクトン大学のアカディ資料室で文献を読んだりしたが、同時にマイエの作品も読み進めた。そのささやかな成果が2008年に出した『地図から消えた国、アカディの記憶』である。偶々この年の秋にモンクトン大学がマイエの文学活動50周年を記念する国際シンポジウムを主宰し、私も招かれて発表をしたが、その時に初めてマイエ本人と話をすることができた。この企画とは別にモンクトン大学が私の本の出版記念会を開くというので、日本語を解する人間がだれもいない土地で日本語の本をどうやって紹介するのかと奇妙に思ったが、当日は中規模の教室にほどほどの聴衆が集まり、ラジオ・カナダのカメラまで来ていた。アカディ研究センター所長のモーリス・バスク氏は日本語はできないが、本の現物を示しながら、私が伝えていた内容を紹介した。そして私は決してこの本を読むことはない人々にアカディに対する私の思いの丈をフランス語で語った。不思議な出版記念会であった。その間、勤務校でのカナダに関する授業にも余裕が出てきて、アカディの問題を扱うようになっており、一度はラジオ・カナダのクルーがわざわざ小金井まで私の授業風景の撮影に来たことさえあった。

マイエとはその後数回会い、一度はブクトゥッシュのはずれの彼女の別荘で、伊勢エビ食べ放題というもてなしを受けたが、二尾しか食べられなかったのは悔やまれる。彼女のゴンクール賞受賞作『荷車のペラジー』の邦訳を出版できたのはようやく2010年のことである。表紙カヴァーのバックにはマイエ家の墓のあるブクトゥッシュの墓地の写真をぼかして入れた。この墓地に隣接する旧司祭館を改造したホテルのレストランで彼女と最後に会ったのは2011年の夏のことで、年代をよく憶えているのはこの年の夏にカナダでもリシュリュー川流域に洪水があり、東日本大震災と規模は比べものにならないのに、被災した者一人一人にとって苦しみは同じかも・・・というのが二人の結論であった。

その後、モンレアルに住む彼女と数回手紙のやりとりをした。正直に言うと、僭越きわまりない話だが、私には彼女がアカディアンの末裔たちの群れる小さな宇宙とはまた別の世界を描いたら面白いだろうなという思いがあり、それとなくそんな願望を洩らしたこともあった。しかし、この宇宙は彼女の全人生を溶け合わせ、それから独特の鍊金術によって創りだされたものであるから、簡単に変えられるはずはない。2002年の『マダム・ペルフェクタ』だけが彼女のスペイン人の家政婦をモデルにした比較的20世紀の現実に沿った作品であるが、それ以外は、直接的であれ、間接的であれ、根底にはアカディアンのアイデンティティーの問題がマグマのように感じられる作品であると思う。そして2019年には回想記的な『過ぎ行く「時」への一瞥』が刊行された。彼女の作品には珍しく「小説」と題されていない。この年の末だっただろうか、久しぶりに私が送った手紙は宛先人不明で戻ってきた。たとえ「アントニーヌ・マイエ通り」のアントニーヌ・マイエ宛でも本人がいなければこういうことになるらしい。出版社宛に出し直したが、未だになんの反応もない。

 

イヴォンは数年前に亡くなった。

 

           

*以上、ご寄稿ありがとうございました。

 

 

 

 

<会員による新刊書紹介>

 

 

〇 『現代カナダを知るための60章』【第2版】

日本カナダ学会(編)飯野正子・竹中豊(総監修)(明石書店、

2021年3月) 2,000円+税 ISBN 9784750351674

 

*本書は改訂版になりますが、新たに加えられた章があり、また本学会

会員の方々も執筆されていますので、新刊書として紹介させていただき

ます。

 

 

事務局からのお知らせ

<新入会員紹介>

風早 悟史(山口東京理科大学)

マルカム・ラウリーの小説に関心を持っています。カナダで書かれた代表作Under the Volcanoだけではなく、カナダを舞台にしたOctober Ferry to Gabriolaの研究にも挑戦したいと思っています。ラフカディオ・ハーンを中心にした比較文学的な研究や、英米文学作品の翻訳・翻案研究にも取り組んでいます。どうぞよろしくお願いいたします。

風早 由佳(岡山県立大学)

アジア系詩人の作品を研究しております。Fred Wahの研究をしているうちに、TISH詩人や他のアジア系カナダ詩人に興味を持つようになりました。児童文学にも関心があり、マーガレット・アトウッドの児童書にも惹かれています。カナダ文学について、勉強させていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

林 千恵子(京都工芸繊維大学)

アラスカ南東部とカナダに暮らす先住民族Tlingit(クリンギット)の口承物語を研究しています。会員の岸野先生にお声がけいただき入会しました。カナダ文学や、背景にある歴史や社会事情を本学会でより深く勉強させていただき、研究を発展させていきたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。

 

<学会費のご案内>

『カナダ文学研究』第28号をお送りする際に、郵便振込用紙と学会費納入状況のお知らせを同封いたしました。ご確認の上、お振込み頂けますようお願いいたします。2021年度分につきましては、4月以降にご納入頂けましたら幸いです。振込手数料につきましては、恐れ入りますがご負担ください。

学会費:

(該当年度の4月1日より3月31日まで)正会員7,000円、学生会員  3,000円

振込先:

郵便振替口座: 00990-9-183161 日本カナダ文学会

銀行口座: 三菱UFJ銀行 茨木西支店(087) 普通4517257

           日本カナダ文学会代表 室 淳子        

 

 

編集後記

〇3月下旬のこの時季、札幌市近郊の私たちの町ではシベリアへと渡るハクチョウの声を聞くことができます。新千歳に近いウトナイ湖畔で越冬し、春の気配が漂う頃、鳥たちは大小いくつもの群れになって、朝に夕に旅立ちます。互いに声を交わし合い、くっきりと美しいV字を保ちながら大空を進む姿にコロナ下の地上を忘れ、しばし見とれます。オンラインにはなりましたが、延期となっていた大会も開催の運びとなりました。しかし開催自体の有無や方法の検討、カナダからの招聘予定作家との連絡など、会長や会場校室会員をはじめ役員の皆さんは本当に大変だったと思います。また本NLにおいてはHiromi Goto氏からの特別寄稿、荒木会員からの続篇、そして大矢会員による「カナダ文学との出会い」など印象深い文章を送っていただき、とても充実した内容になりました。いつもながらの皆様のご尽力とご協力に感謝いたします。6月に会いましょう!(M)

〇学会開催がオンラインになり直接お会いできないのは残念ですが、普段でしたら長距離移動がネックになるところ、今年はリビングルームからでも参加できるのは何よりです。学会当日は一万キロ以上離れた場所から、昼夜逆転で参加する予定です。楽しみにしております。(A)

〇本学会ニューズレターは、カナダ文学に関する読書会や出版の案内、活動報告など、本学会会員のご投稿を反映させていくものです。寄稿をご希望の方はぜひ、事務局までご連絡をお願いいたします。本ニューズレターは、公式ウェブサイト(http://www.canadianlit.jp/)と共に、電子配信のみ

でお届けしております。よろしくお願い申し上げます。(追記)今号の編集にあたっても、多方面にわたり戸田由紀子会員に協力をいただきました。心よりお礼申し上げます。(M & A)

 

NEWSLETTER THE CANADIAN

LITERARY SOCIETY OF JAPAN 75

発行者 日本カナダ文学会

代 表 佐藤 アヤ子

編 集 松田 寿一 & 荒木 陽子

事務局 名古屋外国語大学 現代国際学部 

室 淳子(副会長)研究室

〒470-0197 愛知県日進市岩崎町竹ノ山57

TEL: 0561(75)2671

EMAIL: muro@nufs.ac.jp

会長連絡先 

EMAIL: ayasato@eco.meijigakuin.ac.jp

 


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