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『カナダ文学研究』投稿規定・執筆要項

2021-07-23 | 紀要情報

『カナダ文学研究』投稿規定・執筆要項

 

 

『カナダ文学研究』投稿規定

 

1. 応募資格

原則として学会員に限る。(*依頼原稿はその限りではない。)

2. 使用言語

日本語、英語、フランス語

3. 原稿

カナダ文学・文化に関する未発表の完成稿に限る。

4. 原稿書式

(1) 邦文の場合:A4 版横書き、1 枚横40 字×30 行(400 字詰め原稿用紙

3 枚相当)

(2) 欧文の場合:A4 ダブルスペース1 枚400 語程度

5. 原稿の枚数制限(図表、注、文献リストを含む)

〈原稿の種類〉 〈邦文〉 〈欧文〉

(1) 研究論文 15 枚以上 20 枚以内

(2) 研究ノート 10 枚以上 15 枚以内

(3) 書評 2.5 枚以内

(英仏の書籍も対象とするが、原稿は日本語に限る。)

6. 付記事項

(1) 日本語の論文・研究ノートには、英文またはフランス語のシノプシス

(500 語程度)をつけること。投稿時は氏名不記載。

(2) 欧文の論文・研究ノートには、日本語のシノプシス(800 字程度)を

つけること。投稿時は氏名不記載。

(3) 英語またはフランス語を母語としない者は、投稿前にネイティブ・

スピーカーのチェックをうけること。

(4) 原稿には表紙不要。提出時のカバーメールに以下の情報を記載。

① 執筆者名(フリガナ、ローマ字表記を付す)

② 執筆者の所属機関、役職名・身分

③ 連絡先(住所、電話番号、メール・アドレス)

(5) 原稿に、表題を明記(氏名は不記載)し、通し番号(ページ数)

をつける。

(6) 投稿は会員1 名につき1 編を原則とする。

7. 投稿申し込み

形式:原則としてMS Word 形式で電子メールにより2 カ所の事務局宛に

提出すること。

提出先:日本カナダ文学会編集委員会事務局 y-araki@keiwa-c.ac.jp

日本カナダ文学会学会事務局 muro@nufs.ac.jp

提出期限:2021 年 10月15日(厳守)

投稿希望届:7 月末日までに原稿の種類および仮題(トピック可)を明記

の上、上記アドレスに連絡すること。

8. 採択

投稿原稿については、編集委員会から委嘱されたレフリーの審査に基づ

き、編集委員会が決定する。採択条件としてレフリーより修正意見がつけ

られた論文については、原稿を修正・書き換えのうえ、指定期日までに再

提出し、修正が十分と判断されれば掲載可となる。

9. 校正

執筆者による校正は、初校1 回を原則とする。校正段階での書き換えは原

則として認められない。

 

 

『カナダ文学研究』執筆要項

 

1.    本文について

① MS Word形式で、A4版横書き(邦文40字×30行)(英文1枚 400語程度)

② フォントは和文にはMS 明朝、欧文にはCenturyを使用する。

③ 数字はなるべく算用数字(半角)を用いる。

④ 文字サイズは、タイトル及び章見出し12 ポイント太字、氏名11 ポイン

ト、本文10.5 ポイント、注見出し10.5 ポイント太字、注9 ポ イント、

引用文献見出し10.5 ポイント太字、引用文献10.5ポイントとする。

⑤ 本文中の章の数字は、I II III とし、中央揃えにする。ピリオドはつけな

い。前後1 行空ける。各章を要約するような見出しをつける。

⑥ 邦文のパラグラフは、全角1 文字インデントする。欧文(英・仏)の

パラグラフは、半角5 文字分インデントする。

⑦ 本文中で、作家/ 論者名・作品名に言及する場合は、初出時はフルネーム

で記載する。

外国名をカタカナ表記する場合はその後( )内にアルファベット表記

を入れる。研究対象の作家については生没年、作品の初版年を( )で

示す。

作品名・登場人物名を原語で表記する場合は、統一をはかる。

⑧ 著書、雑誌などのタイトルには『 』(欧文の場合はイタリック体)、

論文タイトルは「 」を用いる(欧文の場合は引用符 “ ” または «   »

を用い、前後に半角スペースを空ける)。

⑨ 引用文に関して

a. 原文で示す場合は和訳をつけない。翻訳して示す場合は、統一をはか

る。

b. 短い文中での引用文は、邦文の場合は「 」、欧文の場合は:“ ” ま

たは «   » で示す。邦文・英文いずれの場合も、「 」“ ” «   » 内

の最後の句点、ピリオドは省く。

c. 長い引用で、邦文原稿の場合、引用の前後を1行ずつあけ、引用文は

全角2 文字分インデントする。

欧文原稿の場合は、シングルスペースで、半角5 文字分インデントす

る。

d. 出典は引用直後に( )内に作者・評論家名、ページ数を記す。

例)(Atwood 50)

使用テキストからの引用の場合は、初出時に注で出典を明記し、以

後の引用ではページ数のみをしるす。使用テキストが複数あり、章

内で混在する場合は、作品名を略記する。章内で同一の作品からの

引用に限る場合は、ページ数のみ。 例)(CA 123)

同一著者による文献が複数含まれている場合には、著者名を加筆する。 

例)(Frye, Anatomy 193)

e. 邦文で1 文の途中を省く場合は、半角中黒6 つ置く。 例)……

欧文の場合は、半角スペースを空けてピリオドを3 つ置く。例). . . 

文末を省く場合、ピリオドは4 つとなる。

⑩ その他

a. 地の文が日本語の場合、ダッシュ「――」は半角ハイフン「−」と区

別できるように全角のダッシュを2 文字分打つ。

b. 年代の表記でまたがる場合は、後半部で上2 ケタを略す。

例)1980〜90 年代

c. 引用ページ数の表記でまたがる場合は、3 ケタの場合に限り、後半の

上1 ケタを略す。例)(58-59)、(131-32)。

 

2.    注・Notes について  

① 注は脚注ではなく、末尾注とし、本文から1 行空けて始める。

② 注・Notes の見出しは、中央揃えで10.5 ポイント太字、以下は9 ポイ

ント。

③ 本文中の邦文・欧文共通して、注番号は上付き、両かっこ( )とし、

通し番号をつける。ただし、邦文の場合は句読点[ 。][ 、] の前、欧

文の場合はピリオド・コンマ[ . ][ , ] の後につける。記号[ ; ][ : ][ ? ][ ! ]

の場合は共通して後につける。

④ 注は原則として注釈が目的であり、出典明示のために注を使用しない。

使用テキストの初出の場合のみ注をつけ、末尾の注で使用テキストを

明示する。

⑤「同書に」「同じ箇所に」を表す Ibid は使用しない。

 

3. 文献リストの記載について

① 文献リストの見出しは、中央揃えで10.5ポイント太字、以下は10.5ポイン

ト。 

② 引用箇所、参考箇所が本文中に明示されていない参考文献については

記載しない。

③ 本文中で直接引用、ないし言い換えて参考にした場合に限り、以下の

見出しで記載。 

a. 日本語原稿(論文・研究ノート・書評):引用文献 (太字)

b. 英語原稿(論文・研究ノート):Works Cited(太字)

c. フランス語原稿(論文・研究ノート):Bibliographie(太字)

④ 日本語論文の場合、欧文文献、日本語文献の順で列挙する。

(欧文文献に翻訳がある場合、欧文の直後に丸かっこで付記してもよい。)

 

4. 邦文の引用文献リストの表記

① 単行本 著者名『書名』発行所、発行年。

② 書籍論文 著者名「論文名」編著『文献名』発行所、発行年、ページ数。

③ 雑誌論文・雑誌記事 著者名「論文/ 記事名」『掲載誌名』号、

発行年月日、ページ数。

 

5. フランス語による引用文献リストの表記

日本ケベック学会『ケベック研究』投稿規定に定めるところに準ずるか、

以下の英語による引用文献の表記に準ずる。

 

6. 英語による引用文献の表記に関して

① Modern Language Association (MLA) 方式への準拠は、引用文献の

表記方法に限る。注などの表記は紀要編集委員会作成の当執筆要綱に

準ずる。

②引用文献の表記は、2017 年現在の最新版 MLA Handbook: Eighth Edition (New York: MLA, 2016) に準ずる。

8th editionに基づくMLA方式の邦訳解説書が入手できる。『MLAハンド

ブック』第8版(秀和システム 2017年)  

 

7. MLA Handbook, 8th edition 準拠の記載例

書籍・雑誌・Webすべてにおいて次の順番で表記する。(媒体によって使

用しない項目もある。)

作者. 資料のタイトル. 資料が掲載されたもののタイトル, 制作に関わったそ

の他の人々, 版, 巻/号, 発行元, 発行年月日/アクセスした年月日(Web資

料の場合), 具体的な場所(ページ数やURL).

 

 〈書物の基本形〉

①    同一著書による複数の書物

Borroff, Marie. Language and the Poet: Verbal Artistry in Frost, Stevens,

and Moore. U of Chicago P, 1979.

---, translator. Pearl: A New Verse Translation. W. W. Norton, 1977.

---. “Sound Symbolism as Drama in the Poetry of Robert Frost.” PMLA, vol.

107, no. 1, Jan. 1992, pp.131-44. JSTOR, www.jstor.org/stable/462806.

(本紀要では、破線を実線     に代え、統一)

 

②    2人の作者の場合

Dorris, Michael, and Louise Erdrich. The Crown of Columbus.

HarperCollins Publishers, 1999.

 

③    3人以上の作者がいる場合

Burdick, Anne, el al. Digital_Humanities. MlT P, 2012.

 

④    編者のいる書物

Nunberg, Geoffrey, editor. The Future of the Book. U of California P, 1996.

 

⑤    編者のいる本の中の章

Bazin, Patrick. “Toward Metareading.” The Future of the Book, editied by

Geoffrey Nunberg, U of California P, 1996, pp. 153-68.

⑥    翻訳本

Puig, Manuel. Kiss of the Spider Woman. Translated by Thomas Cochie, Vintage Books, 1991.

           

〈定期刊行物中の論文〉

①    月刊または隔刊雑誌の中の記事

Deresiewicz, William. “The Death of the Artist―and the Birth of the

Creative Entrepreneur.” The Atlantic, Jan.-Feb. 2015, pp. 92-97.

 

②    週刊または隔週刊の中の記事

William, Joy. "Rouge Territory." The New York Times Book Review, 9 Nov.

2014, pp. 1+.

 

③    通し番号付きの学術ジャーナル中の論文

Goldman, Anne. “Questions of Transport: Reading Primo Levi Reading

Dante.” The Georgia Review, vol. 64, no. 1, 2010, pp. 69-88.

 

〈電子資料〉

①   ネット上で入手できる研究書

Gikandi, Simon. Ngugi was Thiongo. Cambridge UP, 2000. ACLS

Humanities E-book, hdl.handle.net/2027/heb.07588.0001.001.

 

②   オンラインデータベースに収められた学術誌からの論文

Goldman, Anne. “Questions of Transport: Reading Primo Levi Reading

Dnate.” The Georgia Review, vol. 64, no.1, 2020, pp. 69-88. JSTOR,

www.jstor.org/stable/41403188.

 

③   オンラインデータベース上の新聞書評・記事

Hollmichel, Stefanie. "The Reading Brain: Differences between Digital and

Print." So Many Books, 25 Apr. 2013, somanybooksblog.com/2013/04/

25the-reading-brain-differences-between-digital-and-print/.

 

④   ウェブサイト上のビデオ

Buffy the Vampire Slayer: Unaired Pilot 1996.” YouTube, uploaded by

Brain Stowe, 28 Jan. 2012, www.youtube.com/watch?v=Wr3J-v7QXXw. 

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日本カナダ文学会第38回年次研究大会

2021-05-21 | 大会情報

日本カナダ文学会第38回年次研究大会プログラム

Programme of the 38th Conference of the Canadian Literary Society of Japan

日時:2021年6月19日(土)13:00-16:50(12:30受付開始)

Date and Time: 19 June 2021 (Sat) 13:00-17:00 (Registration opens at 12:30)

 

会場:オンライン(Zoom)開催

2021年度の大会はコロナ禍の影響で、遠隔方式(Zoom)による午後からの開催となります。

以下のURLにアクセスしてください12:30~17:30まで有効です。

https://nufs-ac-jp.zoom.us/j/89179751350?pwd=QzM0K0RBcTFPcERKZGQwbXVaL1g4Zz09

ミーティングID: 891 7975 1350

パスコード: 555576

Venue: Online (Zoom)

Access to URL below.

https://nufs-ac-jp.zoom.us/j/89179751350?pwd=QzM0K0RBcTFPcERKZGQwbXVaL1g4Zz09

ID: 891 7975 1350

Passcode: 555576

 

**************************************

総合司会 副会長 室 淳子

Conference Chair: Junko Muro

Vice President, Canadian Literary Society of Japan

 

開会の辞 会長 佐藤 アヤ子                                       13:00-13:05

 

Opening Remarks  Ayako Sato, President, Canadian Literary Society of Japan

 

研究発表 Research Presentation

13:05-13:55

司会 戸田 由紀子(椙山女学園大学) Chair: Yukiko Toda, Sugiyama Jogakuen University                                 

  1. 原田 寛子(福岡工業大学)Presenter: Hiroko Harada, Fukuoka Institute of Technology

「円熟の小説」を超えて:マーガレット・ローレンスの『石の天使』における老い

Challenging the “Fiction of Ripening”: Ageing in Margaret Laurence’s The Stone Angel

 

休憩 Break                                                      13:55-14:00

 

総会 General Meeting  議長 佐藤 アヤ子 Chair: Ayako Sato                14:00-14:30

 

休憩  Break                                                       14:30-14:40  

 

シンポジウム Symposium                                                                              14:40-16:40  

カナダのグラフィックノベル《Canadian Graphic Novels

司会 松田 寿一(北海道武蔵女子短期大学)Chair: Juichi Matsuda, Hokkaido Musashi Women's Junior College

荒木 陽子(敬和学園大学)Yoko Araki, Keiwa College

クロックワーク・エンジェルズ・シリーズにみるメディア・ミックス:音楽→ノベル+グラフィック

Transmedia Franchising: The Clockwork Angels Series

 

クリストファー・J. アームストロング(中京大学)Christopher J. Armstrong, Chukyo University

Kris Bertin and Alexander ForbesのThe Case of the Missing Menにおけるジャンルとスタイル

Genre and Style in Kris Bertin and Alexander Forbes’ The Case of the Missing Men

 

伊藤 節(東京家政大学)Setsu Itoh , Tokyo Kasei University

アトウッドのグラフィックノベル—― The Handmaid’s TaleAngel Catbird

Atwood’s Graphic Novels: The Handmaid’s Tale and Angel Catbird

 

 

閉会の辞 副会長 松田 寿一(北海道武蔵女子短期大学)                  16:40-16:50

Closing Remarks  Juichi Matsuda, Vice President, Canadian Literary Society of Japan

 

 

 

後援 カナダ大使館・ケベック州政府在日事務所

Supported by the Embassy of Canada and the Délégation générale du Québec à Tokyo

 

 

発表要旨

「円熟の小説」を超えて:マーガレット・ローレンスの『石の天使』における老い

原田 寛子(福岡工業大学)

マーガレット・ローレンス(Margaret Laurence, 1926-1987)の『石の天使』(The Stone Angel、1964) は、90歳を超え、死を間近にした女性ヘイガーの物語である。現在の時間と過去のフラッシュバックを通じて、ヘイガーの長い人生における葛藤や悔恨、成長を力強く描いている。

若者を主人公にする「成長小説(Bildungsroman)」に対して、「円熟の小説(Reifungsroman / Fiction of Ripening)」は、年を重ねた女性の物語を前向きに描き出す小説を示しているが、ヘイガーの物語に関しても女性としての人生を前向きに捉える考察がなされている。しかし、「カナダ文学において最も有名な人物」とみなされる魅力的で力強い主人公であるヘイガーの人生は「女性」の枠の中で論じられる以上の要素を備えているのではないだろうか。

本発表では、女性の老いを論じるうえで、「女性にまつわる事柄」に特徴づけられ、もしくは捉われる「女性の老い」の概念を、また、人生の最後に成長を遂げるという座りのよい結末を超える要素を備えた物語としてヘイガーの人生を探っていきたい。

 

Challenging the “Fiction of Ripening”: Ageing in Margaret Laurence’s The Stone Angel

 Hiroko Harada (Fukuoka Institute of Technology)

Margaret Laurence’s novel The Stone Angel (1964) portrays the life of Hagar Shipley, a dying woman over the age of 90. Her present-time story, narrated with flashback memories from the past describes the impressive figure of the protagonist as well as the conflicts, remorse, and atonement that she has experienced in her long life.

“Reifungsroman,” (“Fiction of Ripening”) is a genre of novels that deals positively with middle-aged or older female protagonists and their stories. It is a genre created in opposition to the Bildungsroman, which focuses on young male protagonists. Regarded as a Reifungsroman novel, The Stone Angel is discussed as a narrative that represents an old woman as a powerful figure. However, it can be argued that Hagar Shipley, a strong heroine, possesses aspects to her character beyond what some might categorize as “women’s” issues.

In this presentation, I would like to examine Hagar’s life, character, and the elements that challenge the limiting ideas of women’s aging as “female issues” confined within the traditional female images. I will then delve into how the narrative may be subverting the idea of a well-organized ending of a life.

 

シンポジウム:《カナダのグラフィックノベル》

 

     クロックワーク・エンジェルズ・シリーズにみるメディア・ミックス:音楽→ノベル+グラフィック

荒木 陽子(敬和学園大学)

本発表は主として2020年に逝去したカナダのロックバンド、ラッシュのドラマー、ニール・パートがアメリカのSF作家ケビン・アンダーソンと共同執筆した小説『クロックワーク・エンジェルズ』(2012)と、そこから派生し、アメリカのアーティスト、ニック・ロブルズを加えて出版された同名のグラフィックノベル(2014-15)を取り上げる。そして歌詞にあらわれたコンセプトが、小説版でより明確なナラティブを得、グラフィックノベル版で視覚的実態を得ていく過程を追う。

 同小説およびグラフィックノベルは、ラッシュの同名のスタジオ・アルバムに収録された楽曲の歌詞世界から生まれたものである。1970年代半ば以来、ラッシュはプログレッシブ・ロックにしばしば見られるコンセプト・アルバムを次々に発表していく。その中でリリシストのパートが一貫して描いた、個人と制度の対峙、自由と無秩序の違い、行動することの重要性などのテーマは、メディア・ミックスという形態を介して、一連の歌詞群に込められたメッセージという枠を超えて表現されていく。それらは、娯楽性の高いハッピーエンディングの「冒険譚」(小説版)の一部として紡がれる一方で、音楽アルバムにしばしば登場したイメージをビジュアルに組み込んだ「冒険漫画」(グラフィックノベル)としても昇華され、音楽ファン以外にも広く伝えられる。また本発表は同アルバムの複数のメディアへの発展は、それらがオーディエンスに同時に楽しまれることにより、ある種のミクスト・メディアとして機能する可能性も提示したい。

 

Transmedia Franchising: The Clockwork Angels Series

 Yoko ArakiKeiwa College

Commemorating Canadian rock musician Neil Peart (1952-2020), this presentation attempts to explore the transmedia development of the lyrical world first created by Peart in Rush’s 2012 album Clockwork Angels (2012), focusing on its development into an adventure novel (ECW, 2012) and a graphic novel (BOOM, 2014-2015), in particular. It will examine the process of how Peart’s concepts found in his song lyrics become the basis for the narratives in the novel co-authored by science fiction writer Kevin J. Anderson, and through the addition of visual images, in the graphic novel by artist Nick Robels. While the examination will present the series’ development as a fine example of transmedia franchising, it will also demonstrate its merit as a mixed-media art. 

 

Kris Bertin and Alexander ForbesThe Case of the Missing Menにおけるジャンルとスタイル

 Christopher J. Armstrong

本発表は、Hobtown Mystery Stories(ホブタウン・ミステリー・ストーリー)シリーズのうち、最初に出版された二冊のグラフィックノベルの一つである、Kris BertinとAlexander ForbesのThe Case of the Missing Menにおけるジャンルとスタイルの問題について考察するものである。カナダ東海岸のホブタウンと呼ばれる小さな地域を舞台として、本作は高校のティーン探偵団(The Teen Detective Club)のメンバーである生徒達を中心として展開する。若き冒険家であり、世界を股に掛けた旅行家でもあるサム・フィンチがこの町にやってくると、ティーン探偵団の部員達は彼が行方不明の父を探すのを手伝うこととなる。その捜索の過程で、彼等は自分達の街と、その暗い秘密に気付くことになる。

本発表はグラフィックノベルの発展について簡潔に概観した後、本作ジャンルとスタイルについて、その主題と関連付けて採り上げる。その際、グラフィックノベルの形態分析の手法と、グラフィックノベルが援用しかつ転覆させたコミックブックの「お約束ルールズ」(Baetens and Frey 2015) について総括する。BaetensとFreyも述べているように、グラフィックノベルは革新的で独自性の高いスタイルを創造することに大きく関わっている。しかしながら、グラフィックノベルの多くがコミックブックの歴史に見られるスタイル上及び主題上の題材を志向するのと同様に、この比較的新しいジャンル形式においても、過去のジャンルへの憧憬ノスタルジアが重要な役割を果たしている。しかもグラフィックノベルは、それが世に認められた文学者による独自のグラフィックワークをとして、文学作品たるお墨付きを与えられているにもかかわらず、大衆向けジャンルから借り受けた規範コードやスタイルを排除することはない。BertinとForbesによる本作の場合も、『少女探偵ナンシー・ドリュー』や『少年探偵ハーディ・ボーイズ』シリーズといった、20世紀を通じて人気を博した古典的ヤングアダルト小説の意図的なパロディとして売り出されている。本論はこの作品のノスタルジックな形式について、本作が描く地方社会の覇権的男性性や腐敗、或いは世代間の葛藤といった主題を検証しつつ考察するものである。なお、Bertinが本グラフィックノベルをForbesと共同執筆した点にも焦点を当てるために、Bertinが自身の短編小説で扱った主題についても触れる予定である。

 

Genre and Style in Kris Bertin and Alexander Forbes’The Case of the Missing Men

 Christopher J. Armstrong

This presentation will consider questions of genre and style in Kris Bertin and Alexander Forbes’ The Case of the Missing Men (Conundrum Press 2017), the first of two published graphic novels in a series entitled Hobtown Mystery Stories. Set in the small east coast community of Hobtown, the novel centres on a group of teenagers who belong to a high school circle called The Teen Detective Club. When the young adventurer and globetrotter Sam Finch arrives in Hobtown, the Teen Detective Club aids Finch in the search for his missing father. In the course of their investigation, they make discoveries about their community and its dark secrets.

Beginning with a brief overview of the development of the graphic novel, the presentation focuses on genre and style in relation to themes of the story. I review some of the analytical tools of formal analysis of graphic novels as well as the comic book “rules” that the graphic novel is said to exploit and subvert (Baetens and Frey 2015). As Baetens and Frey point out, graphic novels are very much concerned with creating innovative and individual styles; however, even in this relatively new form, nostalgia plays an important role, as many graphic novels veer into the stylistic and thematic repertoire of comic book history. Moreover, the legitimacy that the graphic novel has received as literary fiction, including the creation of original graphic works by established literary artists, does not preclude the use of codes and styles from popular genres. In the case of Bertin and Forbes’ work, the novel deliberately positions itself as a parody of classic young adult fiction, namely, the Nancy Drew and Hardy Boys series popular throughout the 20th century. This paper will consider the novel’s nostalgic form alongside its exploration of the themes of hegemonic masculinity, social decay, and generational conflict in rural society. Some of the themes of Bertin’s short fiction will be used to help illuminate his collaboration with Forbes in the graphic novel.

 

アトウッドのグラフィックノベル—― The Handmaid’s Tale Angel Catbird

 伊藤 節(東京家政大学)

アトウッドの初のグラフィックノベルAngel Catbird(3部作)は1940年代カナダのスーパーヒーロー漫画を復活させるというクラウドファンディングの呼びかけに応答して実現した。第1巻が2016年、2、3巻が翌年アメリカン・コミックスの出版社から出されている。アトウッド自身が原作、脚本を担当したもので、確かにスーパーヒーローを扱った生粋のアメコミといった趣である。続いて2019年には、トランプ政権発足以来その注目度を一層高めている『侍女の物語』も、グラフィックノベル化された。かれこれ80歳にもなろうとするアトウッドのこのいや増す漫画熱は興味深いものがある。Angel Catbird の羽を付けた猫のルーツが6、7歳の頃に彼女が描いた絵であるように、アトウッドは幼少時から貪欲なマンガの読み手、書き手であった。70年代にはトロントの出版物This Magazineに皮肉たっぷりでコミカルな「サヴァイヴァルウーマン」の風刺漫画を書いて活躍していたことはよく知られている。この漫画には、カナダのスーパーヒーローは、カナダ、女という2重の意味でヒーローの力を欠いているという皮肉とユーモアが込められている。この頃漫画は子供向けのものからカウンターカルチャーの表現手段になっていた。アトウッドにとって漫画の意味するものは娯楽的楽しみだけでなく、政治、文化問題―カナダ人のみならず人間のアイデンティティやジェンダー等に関わる活動とも重なっている。ここではHandmaid TaleAngel Catbirdを通じて、アトウッドの漫画が照射するものを考えてみたい。

      

Atwood’s Graphic Novels: The Handmaid’s Tale and Angel Catbird

                                Setsu Itoh (Tokyo Kasei University)

The first volume of Atwood’s graphic novel Angel Catbird was released by American Comics in 2016, with the second and third volume published the following year. The project was realized through Atwood’s response to a crowdfunding campaign to revive 1940 Canadian superhero comics. The original story and script were written by Atwood herself although it appears to be a pure American superhero comic. In 2019, the graphic novel of The Handmaid Tale was also published. This dystopian story drew increasing attention with the election of Donald Trump as American President. Now about eighty years old, Atwood’s increasing fascination with comics is very interesting. In her early years she not only passionately read comics, also drew them herself. The deep origins of Angel Catbird can be found in a picture of cats with wings which she drew when she was six or seven. In the 1970s, Atwood drew comic strips This Magazine including Survivalwoman, for which she is best known as a cartoonist. These comic strips ironically and humorously depict the double challenge for Canadian women of being both Canadian and female. At that time, comics had become important means of expression for the counter-culture. For Atwood, they were not only pure fun but also the means for mirroring political and cultural problems related to, for example, identity or gender. Through an examination of these two graphic novels, this presentation considers what these comics reflect.

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Newsletter 75

2021-04-04 | Newsletter

NEWSLETTER

THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN

L’association japonaise de la littérature canadienne

            Number 75                                                  Spring, 2021

 

 

会長挨拶

 

日本カナダ文学会会長 佐藤 アヤ子

 

花の季節となりました。

会員の皆様にはますますご健勝のことと存じます。NEWSLETTER 75号をお届けします。

 

中国武漢で最初の新型コロナウイルスの感染者が出てから1年以上が経ちました。しかし、いまだに収束がみえない状況です。このコロナ禍は、この地球上に生活する私たちに様々な弊害をもたらしています。残念ながらその影響は日本カナダ文学会にも及んでいます。室会員のご協力で、年次研究大会を6月19日(土)に名古屋外国語大学で開催する予定でしたが、このコロナ禍の状況での名古屋外国語大学での開催ができなくなりました。そこで今年の大会は、遠隔方式(Zoom)で開催することにいたします。会員の皆様にはご不便をおかけしますが、ご理解いただければ幸甚です。

また、Armstrong会員のご尽力でLisa MooreさんとEva Crockerさんをゲストとしてカナダから招聘する予定でしたが、コロナ禍で来日できないことになりました。コロナが収束した近い未来に、ご参加いただけるということです。

このような状況を鑑みて、今年の大会は従来の午前からの開催ではなく、午後からの開催となります。後述の大会案内をご覧ください。

 

「日本とカナダの作家が語る―パンデミックによる社会変容と創作への影響―」を国際交流基金トロント日本文化センターと私が所属する日本ペンクラブとの共催で行いました。半年以上前からこのイベントを企画し、2021年3月にトロントで行う予定でしたが、コロナ禍でリアル開催ができず、全員が録画での参加となりました。カナダからは、Margaret Atwoodさん、日本通の作家Katherine Govierさん、医者で作家のVincent Lamさん、日本からは、浅田次郎さん、桐野夏生さん、平野啓一郎さんが参加しました。

現在、世界を襲っているコロナ禍は、社会の在り方や人々の意識、行動に様々な影響を与えています。今回のこの企画では、日本とカナダを代表する作家の視点から、パンデミックによる社会変容と自身の創作にどのような影響があったかについて語っていただきました。また、それぞれの作家から相手国の作家への質問を事前に提出していただき、その質問への回答も含めてお話しいただくことで、非常に有意義な日加作家の意見交換の場となりました。3月末には、トロント日本文化センターと日本ペンクラブのYouTubeで配信される予定です。お楽しみください。

 

コロナ禍の折、ご自愛ください。

 

2021年度年次研究大会のご案内 (予定)

 

2021年度の大会は、以下の日程で開催されます。奮ってご参加ください。なお今年度はコロナ禍の影響で、遠隔方式(Zoomでの開催となります。また、カナダからのゲスト2人もコロナ禍のために来日が困難となりました。そのような状況を鑑みて、午後からの開始といたします。ご不便をおかけしますが、ご理解ください。

開催日時:2021年6月19日(土)13:00-16:30

開催方式:遠隔方式(Zoom)

 

○ 研究発表:原田寛子 

「円熟の小説」を超えて:マーガレット・ローレンスの『石の天使』における老い

○ 総会

○ シンポジウム

テーマ :「カナダのグラフィック・ノベル」

発表者 : 荒木 陽子、伊藤 節、Christopher J. Armstrong

     荒木 陽子

メディア・ミックス/ミックスト・メディア:グラフィック+ノベル

伊藤 節

アトウッドのグラフィック・ノベル―The Handmaid’s TaleAngel Catbird 

Christopher J. Armstrong

Genre and Style in Kris Bertin and Alexander Forbes’ The Case of the Missing Men

 

********** 

室会員によりZoomの設定を行っていただきました。以下がURL、ID、パスコードになります。

https://nufs-ac-jp.zoom.us/j/89179751350?pwd=QzM0K0RBcTFPcERKZGQwbXVaL1g4Zz09

ミーティングID: 891 7975 1350  パスコード: 555576。 13:00-16:30の開催に幅を持たせて、12:30-17:30の設定になっています。早めに入られても、延長になっても問題ありません。不明な点は室淳子会員(muro@nufs.ac.jp)にお問い合わせください。学会日近くになりましたら、また皆様に再度ご案内いたします。

 

 

<特別寄稿> (Special Article)

 

 

19

Hiromi Goto

 

  1. numbers have become. significant in a way. i’ve never experienced before. the nation’s tally. every day. more infected. more dead. increasing. after reaching 1000 deaths i stop. entering the dead. in my journal. numbers continue. to figure. globally. to rise.

 

  1. how many have lost jobs. loved ones. lost hope. lost. how many. how much? is enough. to live? these were always important numbers. more people now. feel. the cutting edge.

 

  1. “…billionaires in the United States have increased their total net worth $637 billion during the COVID-19 pandemic so far. At the same time, more than 40 million Americans filed for unemployment.”

 

  1. sometimes i hold my breath. when i walk past. someone. without a mask. this must feel a lot. like racism. and it confuses me. usually. i am alert. in public spaces. for racism. or homophobia. or misogyny. when i cross the sidewalk. to avoid someone. with bad protocols. i wonder. is this how racists feel? toward people? who aren’t white? how strange. this dissonance.

 

  1. my okaasan is eighty-two years old.

 

  1. counting the days. until our mothers. can be vaccinated. in the news. we learn. fewer doses are being shipped. into the country. we check the schedule. the numbers. keep changing.

 

  1. during the first wave. of the pandemic. my partner and i move. vancouver, bc. to vancouver island. lekwungen territory. crossing the salish sea. now we live. in a small rental cottage. on a small mountain range. i think of the nobility. who fled the cities, fled the plague. to sequester themselves. in country villas. we are not nobility. but to move voluntarily. during a global health crisis. is wealth.

 

  1. we e-transfer money. into our adult children’s accounts. they are essential. non-essential. workers. underpaid. exposed to the public. five days. a week.

 

  1. an insta friend sends. a message. an offer of a welcome gift. japanese oyasai. from a local. organic japanese vegetable farm. they tell me. the farm accepts volunteers. who receive a gift of oyasai. for their gift of labour. my eyes widen. heart unfolds.

 

  1. october 2020. i start volunteering. at the farm. i cannot express. how much it means to me. that the farm is run. by diasporic japanese women.

 

  1. as covid numbers rise. and rise. rise. the farm is a counterpoint. i am finding it hard to write. but two rows of old zucchini plants cleared. one greenhouse of end-of-season kyuri plants cut down. three and a half wheel barrows of blackberry vines/3 hrs.

 

  1. i am learning. about seasonal eating. what winter, soil, sunlight, passive green houses. can provide. three and a half hours of chopping pruned apple branches. into firewood. a large bunch of kabu, one cabbage, two carrots, two potatoes, baby lettuce greens, a bunch of kale, daikon tops, parsley.

 

  1. this simple math. made material. makes me want. to weep.

 

  1. i only volunteer. once a week. rain or shine. there is always work. to be done. on a farm. i was a farm girl. once. i remember. debt. unending labour. uncertainty. these things. i do not carry. as a volunteer. this time. once a week. is a gift. i hope i’m paying back. my slow-paced work. i’m fifty-four years old. and not as strong. as i once was.

 

  1. i like to take one photo. of the vegetables i receive. document the season in vegetables. what eating locally really looks like.

 

  1. migrant workers who labour. without state protections. they are not prioritized. for vaccination. no healthcare. no benefits. yet we eat the food. they grow and pick. in fields they do not. own. we eat their labour. we eat their health. in superstores. in warehouse bulk. those oranges. sweet.

 

  1. i visit okaasan. every thursday. stay all day. make supper for us. we eat together. thank you for sharing all this time with me, she says. you don’t have to thank me, i say. we’re just hanging out. “hanging out,” she softly repeats.

 

  1. capitalism has turned. farms into corporations. no longer family-run. your California oranges. cheap. mangoes from Mexico. it’s only “affordable”. because someone else. pays. this cost. a japanese organic vegetable farm. is teaching me. what sustainable. looks like.

 

  1. okaasan falls. into phase 2. of the immunization. schedule. we count. the weeks. the days. we are waiting. for a letter. health authorities. will be reaching out. they say. “It's important to understand the timeline for each phase may change due to vaccine availability.”

 

[1] “How billionaires saw their net worth increase by half a trillion dollars during the pandemic”, Hiatt Woods, Business Insider, October 30, 2020.

2 https://www2.gov.bc.ca/gov/content/safety/emergency-preparedness-response-recovery/covid-19-provincial-support/vaccines February 14, 2021.

 

 

 

続Covid-19とカナダ――日加入国規制おぼえがき――

 

荒木 陽子会員

 

前号では2020年秋にハリファックス自宅から新潟自宅へと帰る2日前までの体験を会員のみなさんと共有したので、今号はその続きを書かせていただくこととしよう。

その後、私たち家族4人は全員無事9月半ばに出国できた。前号の最後に日本入国の際に夫がPCRテストを受け、陰性証明書を入手するのがハリファックスでは極めて困難であることをお伝えしたが、結局夫は出発前日午前に陰性証明書を入手することができた。大都市圏では民間のクリニックが有料で旅行用テストを行っていたが、当時ハリファックスではPCRテストは公立機関のみの実施であった。無料であったがスポットが少なくぎりぎりまで予定が決まらない上、その場では証明書を発行してもらえない。そのため、陰性結果をもってかかりつけ医に行き、そこで証明書を書いてもらうという手間がかかった。終わった頃にはもう午後のおやつの時間になっていた。そして、私たちはその直後に、翌早朝発のために大荷物で空港ホテルに移動することになった。

ただ、やっとの思いで空港ホテルに到着し、夕食をするにしても利用者が極端に少ないため、空いているのは棟続きの空港内のガラガラのファストフード店2店のみであった。いつもは混んでいるテーブルに他に座っていたのは休憩中の空港職員のみで、延期となった「北米先住民体育大会」(NAIG)のための装飾が虚しかった。翌朝の出発では、日本入国に要求されていた夫の陰性証明やビザの他、私たち家族の血縁関係を示す公的書類までをエアカナダの職員に入念に確認されて、やっとのことでぎりぎりに搭乗できた。無事トロント経由でバンクーバーへ到着したが、出国便乗り継ぎの際には、今度は私の戸籍謄本に英訳がないことを理由に、搭乗口職員が私たちの搭乗を渋った。たまたまその場に居合わせた非番の日本人クルーがその場で「本当に家族」であることを証明してくれたことは幸運であった。

成田着となった帰国便は便数が少ないこともあり比較的搭乗率は高かったが、大人でも十分足伸ばして座ることができた。機内では不安定な雇用状況でレイオフかワークシェアになりそうだという航空会社日系人クルーと話していた。彼女は日本在住で日本国籍の夫の元で生活するために日本の配偶者ビザを取ろうとしているということで、サービス時間外で情報交換をした。

成田到着後、子連れの私たちは最後に降機し、PCR検査へと向かう列の末尾に連なる。入国者が少ないせいか意外と混雑しておらず、航空会社職員と思しき係員に誘導され、書類を記入させられた後、家族単位でPCR検査へ。指示が理解できないために鼻に棒を突っ込まれる乳幼児以外は、レモンや梅干しの絵をみせられ唾液検査を受けた。受付番号をカウンターに提出し、更に書類を書き、結果が出るまで1時間ほど待つ。どこかで見た風景だと思いきや、普段はエアカナダが出国搭乗口として使用しているスペースあたりであった。偶然PCR検査の応援要員が新潟から応援に入っていることを知り、失業者が増えていることばかりが報道されるが、仕事が増えている業種があることも再確認した。

PCR陰性の結果をいただいた後は、ガラガラの入国審査エリアへと進む。入国者が少なく余裕があるからか、生まれてはじめて審査待ちの時間に椅子をすすめてもらい、待ち時間に新潟から乗ってきた車を止めてある駐車場に電話して、出口まで車を移動してもらうよう手配した。ただ、審査はいつになくスムーズで、あっという間に手荷物受け取りエリアにたどり着く。すると、そこもいつもとは異なり、カルーセルは停止され、グループごとに荷物がまとめてあり、正直非常に助かった。コロナ禍も悪いことばかりではなかった。

夕方5時前には成田空港を出発し、その後給油して茨城、福島経由で夜の9時前には新潟にたどり着いた。このカナダから日本への帰国から学んだことは、ビザと陰性証明さえ取れてしまえば、コロナ禍の国際移動は快適であったということだ。

実は2021年4月半ばにカナダへと戻ることになっているが、これも既に異例尽くめだ。エアカナダの日本・カナダ航路は4月末まで運休している。おかげさまで初めてヨーロッパ経由でカナダに向かうことに挑むことになった。息子は生後9か月までに世界一周をはたすことになるからすごい。おまけにカナダ政府が2月より今さら国際移動を制限しはじめたため、カナダ国籍所持者も含めて全員に陰性証明を必須とし、入国した空港で再度PCR検査を受け、結果が出るまで3日間ホテル待機となった。政府の指定を受けたホテルの宿泊料は高騰し、ビジネスホテルですら一泊500ドル程度まで価格が吊り上がっているところもあった。果たして無事に私たちはハリファックスの自宅に戻ることができるのか。つづきは年次研究大会で。

 

 

 

<連載:カナダ文学との出会い第15回>

 

「カナダ文学との出会い」     

                                                                   大矢 タカヤス会員

 

生まれつきせっかちなのか、既にしばらく前からこの世からの撤退の準備を始めていて、カナダ方面からはとうの昔に撤収した気になっていたのに、突然、「カナダ文学との出会い」を語れと言われて、少し困惑したことは否めない。それに、そもそも私がカナダなる国の文学のごく一部分の研究に手を染め始めた動機はドラマティックでもロマンティックでもなく、正直なところ極めて散文的というか、政治的あるいは戦略的であって、若い研究者の方々を鼓舞するどころか、幻滅させかねないものである。つまり、1990年代後半、教員養成系のわが勤務校は当時の文部省から少子化を見込んだ定員削減、そのための教育体制再編を迫られ、連日ない知恵を絞って会議を続けた結果、どこにも入りきれない教員を寄せ集めて、「多言語多文化」なる学科を創ることを決めた。そこで私はフランス文学を専攻していたということで、複数のフランス語圏の国についてなにか講義しなければならない破目になったのである。フランスから距離的には遠いのにスイスでもベルギーでもなくカナダを選んだのには、フランス留学中に親しくなった一人のカナダ人の存在が影響したのかもしれない。パリ南郊に「国際都市」という大規模な学生寄宿施設があって各国が館を構えており、私は日本館に1年、アルゼンチン館に2年居住したが、そのアルゼンチン館の隣がカナダ館だったのである。そこに住んでいたトロワ・リヴィエール出身の哲学専攻のカナダ人と親しくなって、一緒に食べたり飲んだり、卓球したり、議論したり、コンサートに行ったりと濃密なつき合いをし、それぞれ帰国してからも時々手紙のやり取りをしていた。

一方、大学の方針が決まって、私は新学科開設時からカナダについて話さなければならないことになり、その他にもEUに関する講義も担当することになって、授業開始までの1、2年間は受験生にもどったつもりで、必死に準備せざるを得ないと覚悟した。

カナダ文学についてはルイ・エモンとかアンヌ・エヴェールなど、フランス文学史に出て来る名前を知っている程度だったが、1979年にアントニーヌ・マイエというカナダ人にゴンクール賞が与えられた際に、おそらくイヴォンというこの友人にカナダ文学について知りたいというようなことを書いたらしい。ある日、段ボールで40冊近い現代作家の作品がドカンと送られてきたのである。彼の蔵書の一部をそっくり入れたのであろう、ガブリエル・ロワやアンドレ・ランジュヴァン、フェリックス・ルクレール、マリー・クレール・ブレなど二十人近いさまざまなケベックの現代作家の作品があった。ジャック・フェロンのものが圧倒的に多かったのが印象に残っているが、マイエの初期の戯曲も3冊ほどあったと思う。

一方、マイエの受賞作を本気で読み始めると、カナダより先にまずアカディとはなんぞやという問題に突き当たり、これを調べ始めると次から次へと知らなくてはならぬことが行く手を阻む。彼女の他の作品を読んだり、アカディに関する著作を入手するなどしてどんどんはまり込んで行ったが、架空の話にせよ、史実にせよ、とにかく舞台となっている土地を全然知らないのだから、もどかしさが募る一方であり、ちょうどその頃、新学科の授業が始まって付け焼き刃の知識を基にカナダについて話すと、そこにカナダ留学経験のある学生もいることが分かってまさに冷汗三斗、次の授業は私が登校拒否をしたい思いであった。そんなわけで、とにかく現地に行かねば、と2001年の夏、パリ滞在の際にカナダまで足を伸ばすことにした。

モンレアルの空港にはイヴォンが迎えに来ており、かくして私たちはほぼ30年を経て再会を果たした。その日はトロワ・リヴィエールの彼の家に行ってそこで泊まり、翌々日だったであろうか、彼の車でアカディに向けて出発した。彼の車はサイドブレーキが壊れているので平らなところでないと停まれないという代物で、彼自身も癌を患ったあと、人工肛門をつける日常であったが、カラケットを経由してモンクトンまでモーテルを転々とする長旅につき合ってくれた。今思うと、もっと感謝しておくべきだったと悔やまれるが、そのときは二人とも二十代にもどったような心持ちで、退屈しない旅だった。ケベック州とニュー・ブランシュヴィック州の州境の河を渡る直前に、どちらも英語に関しては相手を当てにしていたことが判明して大笑いしたことも懐かしい。モンクトンから彼は自動車道で自宅に戻り、私は数日滞在したあと、飛行機でパリに戻った。

その後の数年は夏ごとにこの地方を訪れ、レンタカーで史跡を巡ったり、モンクトン大学のアカディ資料室で文献を読んだりしたが、同時にマイエの作品も読み進めた。そのささやかな成果が2008年に出した『地図から消えた国、アカディの記憶』である。偶々この年の秋にモンクトン大学がマイエの文学活動50周年を記念する国際シンポジウムを主宰し、私も招かれて発表をしたが、その時に初めてマイエ本人と話をすることができた。この企画とは別にモンクトン大学が私の本の出版記念会を開くというので、日本語を解する人間がだれもいない土地で日本語の本をどうやって紹介するのかと奇妙に思ったが、当日は中規模の教室にほどほどの聴衆が集まり、ラジオ・カナダのカメラまで来ていた。アカディ研究センター所長のモーリス・バスク氏は日本語はできないが、本の現物を示しながら、私が伝えていた内容を紹介した。そして私は決してこの本を読むことはない人々にアカディに対する私の思いの丈をフランス語で語った。不思議な出版記念会であった。その間、勤務校でのカナダに関する授業にも余裕が出てきて、アカディの問題を扱うようになっており、一度はラジオ・カナダのクルーがわざわざ小金井まで私の授業風景の撮影に来たことさえあった。

マイエとはその後数回会い、一度はブクトゥッシュのはずれの彼女の別荘で、伊勢エビ食べ放題というもてなしを受けたが、二尾しか食べられなかったのは悔やまれる。彼女のゴンクール賞受賞作『荷車のペラジー』の邦訳を出版できたのはようやく2010年のことである。表紙カヴァーのバックにはマイエ家の墓のあるブクトゥッシュの墓地の写真をぼかして入れた。この墓地に隣接する旧司祭館を改造したホテルのレストランで彼女と最後に会ったのは2011年の夏のことで、年代をよく憶えているのはこの年の夏にカナダでもリシュリュー川流域に洪水があり、東日本大震災と規模は比べものにならないのに、被災した者一人一人にとって苦しみは同じかも・・・というのが二人の結論であった。

その後、モンレアルに住む彼女と数回手紙のやりとりをした。正直に言うと、僭越きわまりない話だが、私には彼女がアカディアンの末裔たちの群れる小さな宇宙とはまた別の世界を描いたら面白いだろうなという思いがあり、それとなくそんな願望を洩らしたこともあった。しかし、この宇宙は彼女の全人生を溶け合わせ、それから独特の鍊金術によって創りだされたものであるから、簡単に変えられるはずはない。2002年の『マダム・ペルフェクタ』だけが彼女のスペイン人の家政婦をモデルにした比較的20世紀の現実に沿った作品であるが、それ以外は、直接的であれ、間接的であれ、根底にはアカディアンのアイデンティティーの問題がマグマのように感じられる作品であると思う。そして2019年には回想記的な『過ぎ行く「時」への一瞥』が刊行された。彼女の作品には珍しく「小説」と題されていない。この年の末だっただろうか、久しぶりに私が送った手紙は宛先人不明で戻ってきた。たとえ「アントニーヌ・マイエ通り」のアントニーヌ・マイエ宛でも本人がいなければこういうことになるらしい。出版社宛に出し直したが、未だになんの反応もない。

 

イヴォンは数年前に亡くなった。

 

           

*以上、ご寄稿ありがとうございました。

 

 

 

 

<会員による新刊書紹介>

 

 

〇 『現代カナダを知るための60章』【第2版】

日本カナダ学会(編)飯野正子・竹中豊(総監修)(明石書店、

2021年3月) 2,000円+税 ISBN 9784750351674

 

*本書は改訂版になりますが、新たに加えられた章があり、また本学会

会員の方々も執筆されていますので、新刊書として紹介させていただき

ます。

 

 

事務局からのお知らせ

<新入会員紹介>

風早 悟史(山口東京理科大学)

マルカム・ラウリーの小説に関心を持っています。カナダで書かれた代表作Under the Volcanoだけではなく、カナダを舞台にしたOctober Ferry to Gabriolaの研究にも挑戦したいと思っています。ラフカディオ・ハーンを中心にした比較文学的な研究や、英米文学作品の翻訳・翻案研究にも取り組んでいます。どうぞよろしくお願いいたします。

風早 由佳(岡山県立大学)

アジア系詩人の作品を研究しております。Fred Wahの研究をしているうちに、TISH詩人や他のアジア系カナダ詩人に興味を持つようになりました。児童文学にも関心があり、マーガレット・アトウッドの児童書にも惹かれています。カナダ文学について、勉強させていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

林 千恵子(京都工芸繊維大学)

アラスカ南東部とカナダに暮らす先住民族Tlingit(クリンギット)の口承物語を研究しています。会員の岸野先生にお声がけいただき入会しました。カナダ文学や、背景にある歴史や社会事情を本学会でより深く勉強させていただき、研究を発展させていきたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。

 

<学会費のご案内>

『カナダ文学研究』第28号をお送りする際に、郵便振込用紙と学会費納入状況のお知らせを同封いたしました。ご確認の上、お振込み頂けますようお願いいたします。2021年度分につきましては、4月以降にご納入頂けましたら幸いです。振込手数料につきましては、恐れ入りますがご負担ください。

学会費:

(該当年度の4月1日より3月31日まで)正会員7,000円、学生会員  3,000円

振込先:

郵便振替口座: 00990-9-183161 日本カナダ文学会

銀行口座: 三菱UFJ銀行 茨木西支店(087) 普通4517257

           日本カナダ文学会代表 室 淳子        

 

 

編集後記

〇3月下旬のこの時季、札幌市近郊の私たちの町ではシベリアへと渡るハクチョウの声を聞くことができます。新千歳に近いウトナイ湖畔で越冬し、春の気配が漂う頃、鳥たちは大小いくつもの群れになって、朝に夕に旅立ちます。互いに声を交わし合い、くっきりと美しいV字を保ちながら大空を進む姿にコロナ下の地上を忘れ、しばし見とれます。オンラインにはなりましたが、延期となっていた大会も開催の運びとなりました。しかし開催自体の有無や方法の検討、カナダからの招聘予定作家との連絡など、会長や会場校室会員をはじめ役員の皆さんは本当に大変だったと思います。また本NLにおいてはHiromi Goto氏からの特別寄稿、荒木会員からの続篇、そして大矢会員による「カナダ文学との出会い」など印象深い文章を送っていただき、とても充実した内容になりました。いつもながらの皆様のご尽力とご協力に感謝いたします。6月に会いましょう!(M)

〇学会開催がオンラインになり直接お会いできないのは残念ですが、普段でしたら長距離移動がネックになるところ、今年はリビングルームからでも参加できるのは何よりです。学会当日は一万キロ以上離れた場所から、昼夜逆転で参加する予定です。楽しみにしております。(A)

〇本学会ニューズレターは、カナダ文学に関する読書会や出版の案内、活動報告など、本学会会員のご投稿を反映させていくものです。寄稿をご希望の方はぜひ、事務局までご連絡をお願いいたします。本ニューズレターは、公式ウェブサイト(http://www.canadianlit.jp/)と共に、電子配信のみ

でお届けしております。よろしくお願い申し上げます。(追記)今号の編集にあたっても、多方面にわたり戸田由紀子会員に協力をいただきました。心よりお礼申し上げます。(M & A)

 

NEWSLETTER THE CANADIAN

LITERARY SOCIETY OF JAPAN 75

発行者 日本カナダ文学会

代 表 佐藤 アヤ子

編 集 松田 寿一 & 荒木 陽子

事務局 名古屋外国語大学 現代国際学部 

室 淳子(副会長)研究室

〒470-0197 愛知県日進市岩崎町竹ノ山57

TEL: 0561(75)2671

EMAIL: muro@nufs.ac.jp

会長連絡先 

EMAIL: ayasato@eco.meijigakuin.ac.jp

 

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『カナダ文学研究』28号

2021-02-25 | 『カナダ文学研究』

『カナダ文学研究28号』は以下のリンクからご覧いただけます。

https://drive.google.com/file/d/1wUTcavLbpGB3mPdHlBXTwAFw9T_o_oDt/view?usp=sharing

 

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NEWSLETTER 74

2020-09-30 | Newsletter
NEWSLETTER
 
THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN
L’association japonaise de la littérature canadienne
Number 74
Autumn, 2020

 

会長挨拶

日本カナダ文学会会長 佐藤 アヤ子

 風のなかに秋の気配を感じるようになりました。
 会員の皆様にはご健勝のこととお喜び申し上げます。NEWSLETTER 74 号をお届けします。

 収束がみえないコロナ禍、日ごとに増える感染者数、連日続いた今夏の酷暑、九州地方を中心に 甚大な被害をもたらした豪雨と台風。世界に目を向ければ、再び感染者が増えている事実。難民キ ャンプやスラム街での感染者と死者の増加に心が痛みます。アメリカの西海岸各州では森林火災が 広がっています。このようなニュースが流れるたびに、この地球はどうなってしまったとのかと思 う毎日です。地球温暖化による気候変動が、感染症拡大や熱中症による死亡など世界的な人間の健 康問題につながっているともいわれています。森林火災と気候変動の因果関係も指摘されています。感染症拡大や森林火災の背景に気候変動を含む環境破壊があるならば、世界中で大きな行動変 容をおこなうことが必要です。

 新型コロナウイルスが世界的に広がってきた今年の 3 月、マーガレット・アトウッドさんはラジ オインタビューにこう答えています。「現在進行中の新型コロナウイルス感染拡大に目を向ける と、これは世界が見てきた最悪の出来事では決してありません。〈リセットボタン〉の機会を与え てくれているのです。これまでのやり方を見直して、違ったやり方を考えるべきかもしれません」 と。

 前期授業が遠隔授業となった大学も多いと思います。感染者が多い地域では、後期授業も遠隔と 対面授業を併設していると思います。日本カナダ文学会も致し方なく今年度の年次研究大会を中止 としました。大会中止は、1982 年に設立された日本カナダ文学会の長い歴史のなかでも初めての ことです。コロナ禍は多くのことに計り知れない影響を及ぼしています。

 しかしこのコロナ禍のなかにあって、負の出来事ばかりではありません。会員の方々がカナダ文 学に関する評論集を上梓されたり、カナダ文学作品の翻訳書を出版社が相次いで出版するなど、カ ナダ文学に関する注目度も高まってきています。うれしいですね。

 災難が相次ぐなか、会員の皆様の一層のご健康とご活躍をお祈り申し上げます。

 

COVID-19 とカナダ――日加入国規制おぼえがき――

荒木 陽子会員

 2020 年の初めごろには、今頃は収束しているだろうと楽観視していた新型コロナウイルス (COVID-19)の流行が止まらない。ここでは記憶がまだ新しいうちに、カナダと日本の出入国を めぐるコロナウイルスの影響を、個人的経験をもとに書き留めておきたい。

 会員各位はお住まいの地域や各々が置かれた状況によって、多様な「コロナ体験」をされている と思う。そのなかで私のコロナ体験を決定づけているのは、今年 6 月の出産だろう。なぜ私の個人 的な経験が「コロナとカナダ」というテーマと関わってくるのか。それはカナダ国籍の夫が育児休 業をとって、出産に立ち会い、その後しばらく日本に居住する予定になっていたからだ。筆者は今 年の夏は恒例のカナダ自宅への帰宅はせずにゆっくり日本で過ごし、7 歳になった娘を初めて地元 の祭りの巨大な仏壇のごとき山車に乗せてやろうと計画していた。この計画をコロナウイルスが直 撃したのだ。

 結局のところラジオがマーガレット・アトウッド女史のデイトン文学平和賞の受賞を伝える 2020 年 9 月 14 日現在、筆者は例年通りカナダにいる。というのは当初中国、EU 中心で北米はア メリカ合衆国どまりだった日本への入国規制が、感染拡大のため 4 月 3 日付でカナダにまで広が り、6 月 1 日に日本到着の予定だった夫が入国できなくなったからだ。そこで、「ワンオペ」でふ たりのこどもの相手をする修行に耐えられなくなった私は、職場復帰し前期残り授業を「懐かしの 対面授業で」消化した後、早めの夏休みをいただき 8 月半ばにカナダに入国した。

 ここで簡単に日加の入国規制の現状を比較してみたい。カナダは日本より一足早く、3月 18 日 付けで永住者や一部の長期居住者を除く外国籍者の入国規制を開始して、現時点で少なくとも 9 月 30 日までこの方針が続く。ただ、直近の家族についてはこの条件からはずれて、6 月 8 日付けでカ ナダに入国できるようになってはいる。9 月からやっと外務省が定めた「特段の事情」がない家族 が入国できるようになった日本より「ほんのすこしだけ」人道的といえるかもしれない。ちなみに この「特段の事情」には子の出生は入らない。

 常時と比較し出入国も異様だった。まず帰国時に公共交通機関が使えないため、生まれて初めて 自家用ポンコツで成田へ移動した。生後 2 か月の乳児と、騒ぎたくて仕方ない小学二年生と一緒に となるとこのプロセスも泊りがけになる。感染が拡大している南関東を避けるため、福島まわりで 空港につく。すると、出国エリアに人がおらず、航空会社カウンターにはスーパーのレジ同様透明 プラスチックの幕が垂れ下がっていた。また噂通りゲートでは搭乗前に検温された。実は夕日の当たる窓際で騒いでいたため、体温が 38.5 度に達していた娘は 15 分ほど空調の下で地上係員に扇い でもらい、体温が下がった時点でやっと搭乗を許可された。

 普段愛用している米国系航空会社のニューヨーク経由便が使えない。頼みの綱のエアカナダも東 海岸行きに便利だった羽田→トロント便や成田→モントリオール便が運休したままで、関東からは 成田→バンクーバー便しか運航されていない。機内で求められる小さな入国・関税用フォームが今 回は数倍大きくなっており、連絡用にいつもは書かせられない 24 時間コンタクト可能な電話番号 やメールアドレスまで記入を求められた。マスクや消毒ジェルが配られる一方で、全員同じ冷たい 機内食に耐えた後、やっとのことで到着したバンクーバー空港の入国審査はいつもの長蛇の列が皆 無で、気味が悪かった。カナダ入国の際は日本入国のために外国人が求められる PCR 検査は不要 だが、全員が 2 週間の自宅待機である。

 こうしてやっとカナダにたどり着いたものの、国内線は州間の安易な移動を妨げるためか、移動 規制で乗客が減少しているためか、ハリファックスへの直行便が運休中だ。そのため移動はトロン ト経由となり、ハリファックス到着は、さらに日付をまたいで 19 日深夜(日本は 19 日昼)になっ た。家を出たのは日本時間の 8 月 17 日夕方であるから、この時点で 2 日がかりである。子連れで 明らかに移動に苦労していた私を助けてくれた、留学先に戻るという日本人高校生に感謝を申し上 げたい。

 ハリファックス到着後も異例だった。いつもなら大した混雑もなく到着後まっすぐ駐車場にむか い車で自宅に帰るのだが、ここでついに日本からご無沙汰していた長蛇の列に遭遇する。荷物を受 け取った後、州外、特に大西洋州トラベル・バブル外からの移動者は入国時同様に、州政府の役人 に滞在先・連絡先を申告することを求められるからだ。この手続きを経て、家に帰ったころには既 に夜はかなり更けていた。

 さて、日々州政府担当者から自宅待機と体調をチェックされた 2 週間の自宅待機はやっと終わっ たが、筆者は近所を散歩したり裏庭で蚊に刺されながらぼーっとする以外は何もできないまま、あ と 2 日でカナダを出国する。夫は今朝、外務省が外国籍を持つ日本人の家族が入国する際にビザと 私の戸籍とともに求める、出国前 72 時間以内に受けた PCR 検査の証明書を入手するために出かけ た。在モントリオール日本領事館によれば、実はまだノバスコシア州内で証明書を発行してもらい 日本に入国したカナダ人はいないようだ。カナダではもっとも感染が拡大したモントリオールで は、プライベートクリニックで私用であっても比較的簡単に検査が受けられる。しかし、ここ大西洋州「最大の都市」ハリファックスでは公立の病院や検査施設で症状のある人と一緒に並んで検査 を受けたのち、発行された検査結果を医師のところに持ち込み、日本政府の求める証明書に記入し てもらわねばならないのだ。果たして 2 日後の早朝の出発までにすべての手続きが済み、夫をつれ て家族 4 人で帰国し、みんなで今度は日本で自宅待機できるのか。現時点で結果は未定である。

 

「新型コロナと私」

 

「新型コロナと私 -共存をどう乗り切るか-」

(池村 彰子会員)

 新型コロナの脅威を前に、私は2月に長女を出産し、引きこもり生活。コロナは、アトウッドが 描いた近未来のように、少子化や、地球環境の変化、病原菌や海洋生物(スポンジ)による人類滅 亡の危機を浮き彫りにしている。夫はテレワークになり、夫婦揃って育児に専念。オンラインで世 界と繋がる便利さを感じつつ、オフラインの大切さも実感。秋学期から職場復帰で対面授業も始ま る。コロナとの共存社会、工夫を重ねて乗り切っていきたい。

 

「A・マイエのこと」

(大矢 タカヤス会員)

教壇にも研究室にも無縁なので、日々の生活はほとんど変わりません。ただ、恒例の秋のヴェネ ツィア、ブルゴーニュ旅行は無期延期です。ところで、昨年末、フランスの友人から A.マイエが新 しい本を出したと知らされ、年初に久々に彼女に手紙を書きましたが、宛先人不明で(自分の名の ついた通りに住んでいたのに!)戻ってきました。出版社経由で出し直しましたが、今まで梨の 礫、ちょっと心配です。

 

「皆様、いかがお過ごしですか?」

(岸野 英美会員)

勤務先の高専では、前期は全て遠隔授業、9、10 月は対面で集中講義・実験実習、11 月から同じ く対面で後期授業スタートです。元気に通学する学生を見るとこちらも嬉しくなりますが、なんと 今冬はコロナに加えてラニーニャ現象発生で大雪が降るとか...。何事ももうしばらく落ち着きそう にないですね。先々の心配もありますが、今は秋。美味しいものも出回り始めました。日々、小さ な楽しみや、幸せを見つけてこの未曽有の状況を乗り越えていけたらと思います。

 

「マーガレット・アトウッド原作のドラマに感化されて」

(佐々木 菜緒会員)

生活様式がオンライン化されていくなかで、私には Netflix との新しい生活が生まれた。ご存知 の方も多いと思うが、『またの名はグレイス』を見ることができる。私は昨年の秋から『侍女の物 語』を WOWOW で見ていたこともあって、ここ半年、博士論文を書きながらマーガレット・アトウッド原作のドラマを見て過ごした。そして、今は佐藤アヤ子先生が邦訳された原作を読んで、ア トウッドの世界の魅力に引き込まれている。

 

「ある救命救急医のことばが重く響く」


(佐藤 アヤ子会長)

 毎日運ばれてくる新型コロナウイルス感染患者の治療にあたる救命救急医の言葉が忘れられな い。「自分は見えないゴールに向かって走るランナーのようだ。でも、止まることはできない。ただ走り続けるだけ」と、医師はカメラに向かって語る。決定的な治療法もワクチンもない現在、感 染の危険も顧みず、只々使命感をもって任務にあたる医師や看護師など医療従事者に感謝と盛大な 拍手を送ります。

 

「新しい日常」

(戸田 由紀子会員)

コロナ禍でするようになったこと、できるようになったこと。人類と感染症関連の書籍を読み漁 った。BBC Global News と NY Times Coronavirus Briefing を毎日確認するようになった。オン ライン会議・授業ができるようになった。登山とカヤックを始めた。山ヒルに初めて血を吸われ た。ワンと鳴くカエル、ヤマカガシ、オコジョ、ツキノワ熊などに遭遇した。日常に感謝すること が多くなった。人生観が変わった。

 

「With COVID-19 ――未知への挑戦――」

(中島 恵子会員)

新型コロナの猛威が全世界を覆うなか、アトウッドが予言した人類の生き残りへのチャレンジが 始まっている。まさにサバイバルの日常を送る私たちに未来はあるのか? 日々の生活雑貨もアマ ゾンで調達、しかし食料品は牛肉缶詰・ビーンズ・コーンスープだけでは過ごせない。野菜・フル ーツ・肉類・卵・魚介類・ミルク、大好きなパンとお菓子を求めてやはり外出。残りの時間はガー デニングとペットのお世話。そしてアトウッド研究、カナダ・・・。

 

「コロナの終わりを願って」

(原田 寛子会員)

「生きている間にこんなことに遭遇するとは」というのが新型コロナウィルスに対する私の一番 の感想でした。すでに知っている歴史的事件や小説の結末とは違い、「終わり」の見えない途上に いることがいかに不安かということを感じています。いつか歴史となり教科書に載るときに、正し く記載されているかを生き証人として確認したいものです。新しい生活・文化に気持ちを柔軟に対 応しつつ、前向きにコロナ終焉の時を待ちながら日々を過ごしています。来年は学会で皆さまにお 会いできますよう願っています。「コロナの終わりを願って」

 

以上、ご寄稿ありがとうございました!

 

<会員による新刊書紹介>

〇 平林美都子著 『女同士の絆:レズビアン文学の行方』(彩流社、2020年4月) 2,500 円+税 ISBN978-4-7791-2675-8 C0098

〇 『英語圏小説と老い』 イギリス読書研究会編(開文社、2020年3月)2,750円 ISBN 978-4-87571-099-86

柴田 千秋著 第六章 「マーガレット・アトウッド作品における「老い」の意味―『キャッツ・アイ』、『昏き目の暗殺者』を中心に」

原田 寛子著 第九章「老いを転覆させる―マーガレット・ドラブル『昏い水』における終わらない生」

〇 出口 菜摘訳 『サークル・ゲーム』マーガレット・アトウッド著 (彩流社、2020 年 5 月) 2,200 円+税 ISBN978-4-7791-2683-3 C0098

 

事務局からのお知らせ

2020 年度の学会費のお済みでない方は、下記の口座までお納めください。なお、2019 年度 以前の学会費がお済みでない方は合わせてお振込み頂けましたら幸いです。振込手数料につき ましては、恐れ入りますがご負担ください。

(振込先)
郵便振替口座: 00990-9-183161 日本カナダ文学会 銀行口座: 三菱 UFJ 銀行 茨木西支店(087) 普通 4517257

日本カナダ文学会代表 室 淳子 正会員 7,000 円 学生会員 3,000 円

 

編集後記

 研究大会が来年以降に持ち越され、秋号配信は無理かもしれないと案じていましたが、皆さまの ご協力のおかげで、無事 74 号をお送りすることができました。急な依頼にもかかわらず、原稿を お寄せいただいた方々には心より感謝申し上げます。短信ではありましたが、久しぶりにお会いで きたかのような、温かく、そしてあまりに多くの時間を隔てた後のような、妙に懐かしい気持ちに なりました。なお、カナダ作家からは、Hiromi Goto 氏より次回春号にエッセイをお送りいただく 予定です。ところで勤務校では 9 月 21 日から後期がスタートしました。一部、遠隔授業を取り入 れながらも対面式を基本とした態勢をとっています。短大生の学生生活にとって、1 年という空白 はあまりに大きすぎると考えた末の苦渋の選択です。出講先の四年制大学では遠隔を中心に進めて います。前期を振り返ると、いずこも同じで、授業準備、学生とのやりとりに日々追われました。 しかし収穫がなかったわけではありません。60 歳代後半に、こうして授業方法や内容を見直し、 時代のツールを使う工夫が少しでもできたことは大きな意味がありました。また、運動不足解消も 兼ねて、2 年ほど前から耕し始めた家庭菜園(約 90 坪)で、今年はほぼ毎夕 1 時間は農作業がで きました。季候にも恵まれ、トマト、枝豆、キュウリ、カボチャ、サヤエンドウ等々、食べきれな いほどの作物の収穫がありました。コロナ禍にあっても、これからの季節は大根やカブ、人参等を ご近所や外国人技能実習寮生たちと分かち合いながら、秋の恵みに感謝したいと思います。(M)

 いろいろありましたが 9 月 17 日に無事家族そろって入国できました。16 日朝 6 時台の飛行機で 出発だというのに、15 日午前まで夫の PCR 検査の証明書が手に入らない・・・という状況でし た。日本はいよいよ 10 月からビザがある外国人が入国しやすい状況になります。一方でカナダは 隣国アメリカ合衆国との国境封鎖を 10 月後半まで延長しました。勤務校では 6 月から対面で授業 をしているのですが、はたしてこれが続けられるのでしょうか。しばらくするとインフルエンザ・ シーズンもやってきます。皆様もどうぞお元気で。(A)

 本学会ニューズレターは、カナダ文学に関する読書会や出版の案内、活動報告など、本学会会員 のご投稿を反映させていくものです。寄稿をご希望の方はぜひ、事務局までご連絡をお願いいたし ます。本ニューズレターは、公式ウェブサイト(http://www.canadianlit.jp/)と共に、電子配信のみ でお届けしております。よろしくお願い申し上げます。(M & A)

 (追記)今号の編集にあたり、戸田由紀子会員には多大なご協力をいただきました。紙面を借りて、心よりお礼申し上げます。(M & A)

 

NEWSLETTER
THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN
第74号

発行者  日本カナダ文学会
代 表  佐藤アヤ子
編 集  松田寿一&荒木陽子
事務局  名古屋外国語大学 現代国際学部
             室 淳子(副会長)研究室
〒470-0197 愛知県日進市岩崎町竹ノ山57
TEL: 0561(75)2671
EMAIL: muro@nufs.ac.jp
会長連絡先
EMAIL: ayasato@eco.meijigakuin.ac.jp

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