kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

彼らは生きていた

2020年06月19日 | 年間ベスト3

悪趣味カルト映画の監督と「ロード・オブ・リング」「ホビット」シリーズのアカデミー賞監督の顔ほかに第一次世界大戦オタクにして複葉機コレクターの顔を持つピーター・ジャクソン。

そのピージャクが監督した第一次世界大戦のドキュメンタリーというのだから、期待は高まろうというもの。
ちょうど広島での公開初日とコロナ禍による劇場休館が重なり、一時はあきらめざる得ないかと思っていたのだが、晴れて広島でも公開。(ちなみにひと頃4月末にスターチャンネルで放送されるという話があったので、まもなくそちらでも見られるだろう)

開幕、傷だらけモノクロの記録映像で第一次世界大戦開戦が伝えられる。あれ、カラーライズされた映像じゃないのか。
その後、インタビュー音声とともに、当時の若者がイギリス軍に志願し、訓練を受け、フランスに送り込まれるまで、モノクロ記録映像が続く。

いよいよフランスの戦場に着いたとたん、映像が現代のニュースのようなカラーに切り替わると、目が覚めるかのよう衝撃を覚えてしまう。まさに「彼らは古い映像の中のいたのではなく、本当に生きていた。」ことを実感させられる見事な展開だ。(実はここに技術的な仕掛けがあるのだが、そこは後述)

そこから塹壕戦の退屈で泥だらけの毎日、小規模な戦闘、砲撃、休暇などの日常がつづられ、世界初の菱形戦車が登場した後、いよいよ大規模攻勢に転じる・・・のだが、大損害を被り、死屍累々の中、やがて休戦と、西部戦線に従軍したイギリス軍兵士の目線で見た第一次世界大戦が再現される。

全編、オーラルヒストリーによるナレーションや音響がただならぬ臨場感を高め、休戦の場面など安堵感と空虚感の狭間に実際に我が身をおいているかのようだ。

当時の撮影フィルムのキズやヨゴレを除去し、カラリゼーションしただけでなく、実はフレーム数も追加している。当時のカメラは手回しで平均12フレーム/1秒で撮影されているから、スクリーンにかけた時に例の「カクカク」した動きになってしまう。これを現在の24フレーム/1秒にするため、前後の動きからフレームを追加しているのだ。これで動きがスムーズになる。

さらに当時は音声が記録できなかったので、映像から読唇して発言内容を確定させ、部隊名から兵士の出身地を特定させて、そこの訛りを話す俳優にアテレコさせているのだ。

さすがWETAというか、メイキングだけをさらに1本のドキュメンタリーとして観たいくらいだ。(ソフト化されたら映像特典として付くだろうか。)

もう一方で、徹底したリサーチの賜物としても映像の半分くらいは新たに製作されたものだし、当時の兵隊のオーラルヒストリーも必ずしも映像が撮影された場所とリンクしているわけではない。
真贋の見分けられない映像とドキュメンタリーの関係とはなんぞやと改めて考えされられることにもなった。(まあ、ピータージャクソン自身がそんなエセドキュメンタリー「コリン・マッケンジー」を撮っているのだが)

さて、力技でもって第一次世界大戦を追体験したワタシは帰国した兵士たちが誰からも感謝されなかった虚しさには涙し、ロストジェネレーションする自分さえ予見としてしまう。

この技術で別の切り口からの新作を見たいし、広島に住んでいるものとしては、この技術を使って被爆前の広島の様子を再現できないものかと考えてしまう。
単に戦争ドキュメンタリーとしてだけでなく、上質のよく出来た映画として、ぜひ見るべき一本。






題名:彼らは生きていた
原題:They shall not grow old
監督:ピーター・ジャクソン




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ユーロクライム! 70年代イ... | トップ | プロジェクト・グーテンベル... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

年間ベスト3」カテゴリの最新記事