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「その油、米国が回してくれるのか」田中角栄が挑んだ資源立国 - J-Stage 前野雅弥 (日経新聞 シニアエディター) (2018)

2022-01-26 04:51:19 | 日記

 

■田中角栄が挑んだ資源立国 - J-Stage

前野雅弥 (日経新聞 シニアエディター) (2018)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/60/11/60_656/_pdf/-char/ja

 

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もう少し角栄が首相を続けていたなら,角栄は何を成していただろうか。

それは間違いなく資源外交だった。


角栄は中国との国交正常化を成したあと,すぐさま資源問題に着手した。

角栄にはもともと日本にとって資源問題は極めて重要な問題との認識が強かった。


首相に就任した時から側近に「このまま日本が資源を海外に牛耳られているのは問題だ。

特に石油をメジャー(国際石油資本)に押さえられた現状ではダメだ。


こういうことこそ,政治のトップが前面に立って突破口を開いていかなければならない」。

こう話していたのだった。


ここで筆者が思い出すのが 1990 年代の後半,筆者はエネルギー記者クラブの配属となった時のこと。

エネルギー記者クラブの主な守備範囲は電力・ガス業界と石油業界なのだが,ここで奇妙な日本語を耳にする。


「石油元売り会社」という日本語だ。

日本には「石油会社」はない。


あるのは「石油元売り会社」だけだというのだ。

石油会社というのは探鉱,掘削など石油開発と石油精製をあわせて行うというのが必要条件。


日本の場合,石油開発はほとんど行っておらず,手がけているのは石油精製と販売だけ。

精製する大本の原油はその大半をメジャーに掘り出してもらい日本に回してもらっている。


だから「石油元売り会社」というのが正確なのだというわけだ。

分かったような分からないような話だが,いずれにしても日本のエネルギー調達が完全に海外に押さえられてしまっているという事実だけはよくわかる。


角栄はこれを危惧した。第2次世界大戦で中国に出兵した時,「ガソリンがないから」という理由で車に乗せてもらえず歩いたというエピソードを披露しているが,エネルギーがないということがいかに惨めなことなのか,角栄は身に染みて感じていた政治家だった。


だから,角栄は日中国交正常化を成し遂げた後,さほど時間を置かずに資源外交に乗り出した。

1973年9月のことだ。


フランスを皮切りに英国,ドイツ,ロシアと角栄にしては珍しい長期の外遊だったが,そこで角栄は徹底的に日本のエネルギー調達ルートの多角化に道筋をつけようと奮闘した。


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田中角栄が挑んだ資源立国 - J-Stage
前野雅弥 (日経新聞 シニアエディター) (2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/60/11/60_656/_pdf/-char/ja

 

 

 

 


■「その油、米国が回してくれるのか」(田中角栄のふろしき)小長秘書官の証言

2018年4月30日

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29918350X20C18A4X12000/


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フランスを皮切りに英国、西ドイツと欧州からスタートした2週間あまりの資源外交。

ソ連でのブレジネフ会談をもって、ひとまず幕を閉じた。


期待が大きかった北方領土返還で決定的な言質を引き出せなかったとはいえ、日本とソ連の間で領土問題が懸案として存在することを認めさせたのは間違いなく角栄の剛腕だった。

そして何より肝心の資源の共同開発では欧州の国々との間で大筋で合意を取り付けることができた。


角栄自身、「いくばくか」と抑制を利かせながら「実りある旅だった」と資源外交を評価した。

万事、自分のことには控えめな角栄にしては珍しいことだったが、確かに中東一極集中、石油に依存しきった日本のエネルギー調達体制に警鐘を鳴らした意味は大きかった。


ただ、皮肉なことに角栄が鳴らした警鐘の有意性はすぐに証明されることになる。

まるで角栄がソ連から東に向かうのに歩調を合わせたかのようにイスラエル軍は戦線を東に拡大、ゴラン高原で一部、1967年の休戦ラインを突破したのだ。


第4次中東戦争が激しさを増し、日本の石油調達に黄色信号がともった。

こうなると角栄は再び激務の中に放り込まれる。


「郷に入れば郷に従えとはいうけれど……」。

資源外交中、欧州の長い食事に辟易(へきえき)としていた角栄だったが今度は食事をとる時間もなくなった。


裏を返せばそれだけ日本は緊迫していた。

決定的だったのは10月17日。


石油輸出国機構(OPEC)加盟のサウジアラビア、イランなどペルシャ湾岸6カ国が原油の「公示価格」を21%引き上げることを決める。

ウィーンでメジャー(国際石油資本)と引き上げ交渉に臨んでいたが中東戦争を背景に値上げを強行したのだった。


危機は石油の価格だけにとどまらなかった。

「中東戦争に石油を武器に」と唱えるアラブ石油輸出国機構(OAPEC)がその閣僚会議で、イスラエル支援国に対する制裁を打ち出したのだ。


親アラブの「友好国」にはこれまで通り石油を供給するが、イスラエル支援する「反アラブ」、またはその中間でも「非友好国」と判断し石油の供給を絞り込む措置を決めたのだった。

この決定で日本は凍りついた。


政界、官界はもちろん経済界は混乱を極めた。

日本はどっちだ。


友好国に入れば、間一髪で命脈を保つ。

しかし、仮に反アラブと見なされれば……。


日本経済は間違いなく致命的なダメージを受ける。

反アラブか友好国か、それとも非友好なのか。


情勢を見極めようと角栄もあらゆるルートから情報収集を試みる。が、簡単ではなかった。

1973年7月に角栄が設立した資源エネルギー庁はフル稼働、世界情勢を刻々と伝えてきたが、それだけでは十分ではなかった。


時間とともに事態は悪化の一途をたどる。

10月末、エクソンなど国際石油資本(メジャー)が日本に対して原油の供給量の削減を通告してきたころには、一部地域はパニックといっていい状況に陥っていた。


銀座のネオンは消え、スーパーマーケットにはトイレットペーパーを求め長蛇の列ができた。

「このままだと日本はまずい」。


ヒリヒリするような角栄の緊張感が秘書官の小長啓一に伝わってきた。

そんな時だ。


中東からの帰途、米国務長官、キッシンジャーが日本にやってくる。

11月15日。午前11時から行われた角栄との会談ではまさに「息が詰まるようなギリギリのやり取り」だった。


「国務長官ご就任おめでとうございます」。

和やかだったのは冒頭だけ。


キッシンジャーはすぐに切り込んできた。

「米国と一緒にイスラエルの味方をしてくれとまでは言わない。ただ、アラブの友好国となりアラブの味方をするのはやめて欲しい」


しかし、角栄がひるむことはなかった。

そしてピシャリ。


「日本は石油資源の99%を輸入、その80%を中東から輸入している。もし輸入がストップしたらそれを米国が肩代わりをしてくれますか」――。キッシンジャーが一瞬黙る。すかさず角栄が「そうでしょう」。


そのうえで畳みかけた。

「アラブにある程度、歩み寄った対応をせざるを得ない、日本の立場を説明するためアラブ主要国に特使を派遣する準備を進めている」。


日本はこれまで通り同盟国である米国との友好関係を維持しながら、石油資源については独自の外交を展開せざるを得ないことを毅然として説明したのだった。


11月22日。

角栄の言葉は現実のものとなる。


閣議で石油危機を打開するため中東政策を転換することを了承したのだ。

武力による領土の獲得や占領を許さないこと、1967年戦争の全占領地からイスラエルが兵力を撤退させることなどを官房長官、二階堂進の談話としてアラブ支持を明確に発表したのだった。


12月10日、今度は副総理の三木武夫を中東八カ国に差し向けた。

いわゆる「油乞い外交」。


経済協力という切り札も切ったが、何よりも「国際紛争の武力による解決を容認しないというのが日本外交の基本的態度」という姿勢が中東諸国の共感を呼んだ。

そして運命の12月25日、クリスマス。


ついに朗報が舞い込む。

OAPECが日本を「友好国」と認めたのだった。


日本に必要量の石油が供給されることが決まり危機は去った。

ここでもまた角栄の舞台回しが国難を救ったのだった。

 

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「その油、米国が回してくれるのか」(田中角栄のふろしき)小長秘書官の証言
2018年4月30日
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29918350X20C18A4X12000/

 

 

 

 

 

■『田中角栄の資源戦争』

アメリカの傘下を離れ、世界の資源国と直接交渉する大胆な「資源外交」

アメリカや欧州の覇権、石油メジャーやウラン・カルテルの壁を突き破ろうとした角栄

著者:山岡淳一郎

出版社:草思社

発売日:2013年04月02日

楽天ブックス https://a.r10.to/hDEF13

 


■【F35、1機分のお金で何ができたか―「欠陥商品」147機6兆2000億円を爆買いの愚】 ニューズウィーク 2019年4月16日

2022-01-26 04:51:00 | 日記

 


■【F35、1機分のお金で何ができたか―「欠陥商品」147機6兆2000億円を爆買いの愚】

ニューズウィーク 2019年4月16日

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/f35114762000.php


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<度重なる事故で性能が疑問視されているF35の爆買いをアメリカに約束した日本。その代償は高くつく>


航空自衛隊三沢基地(青森県)所属の最新鋭戦闘機F35Aが太平洋上で墜落したと、10日、岩屋毅・防衛大臣が記者団に語った。

同戦闘機の尾翼の一部が発見されたものの、操縦していた自衛官は、まだ行方不明のまま。


大変痛ましいことであり、筆者としても、その生存を祈りたい。

他方、F35シリーズは、以前からその安全性が疑問視されてきた上、1機116億円もする「米軍史上、最も高価な戦闘機」であることから、同シリーズを147機も爆買いしようとする安倍政権の計画にも批判の声が上がっている。

 

・懸念されていた966件の欠陥


安倍政権の兵器爆買いの問題を指摘してきた市民団体「NAJAT(武器取引反対ネットワーク)」代表の杉原浩司さんは「F35のトラブルは以前から懸念されていた」と語る。


「今年2月に国会で宮本徹・衆院議員が追及したように、F35シリーズは昨年1月の時点で未解決の欠陥が966件もあることが、米政府監査院(GAO)に指摘されていました。実際、2017年にパイロットの酸素欠乏が6回も起きるなど、F35シリーズは重大トラブルを起こしていますし、未だそれらの欠陥を改善しきれていません。F35シリーズの海兵隊仕様であるF35Bは、昨年9月に墜落事故を起こし、米国防総省は国内外の全てのF35シリーズの飛行を一時停止していました。それにもかかわらず、2012年に決めていたF35Aを42機購入に加え、安倍政権は昨年末に閣議決定した『中期防衛力整備計画』で、105機(うち42機はF35B)も追加購入するとしているのです」(杉原さん)。

 

・1機116億円のF35のかわりにできたこと


安全性に疑問が持たれる上、1機116億円という高価さからも、杉原さんは安倍政権のF35シリーズ爆買いを批判する。


「政府の給付型奨学金の予算は、2018年度で105億円とF35A1機分より少ない。今年3月に打ち切られた、原発事故での自主避難者への福島県からの住居支援の額が約80億円です。F35A1機分のお金があれば、90の認可型保育所を新設できます。F35シリーズは維持管理費も高く、運用30年で1機あたり307億円もかかります。安倍政権が計画している147機の購入費・維持管理費をあわせると、総額で6兆2000億円という莫大な金額となります。人々の暮らしや教育への支援をないがしろにしながら、トランプ政権に媚を売るために、欠陥戦闘機を爆買いすることは許されません」(同)。


野心的な軍拡を進める中国やロシアに対抗するためには、防衛費増はやむ無しという主張もあるが、杉原さんは「むしろ、逆効果」と反論する。「レーダーに映らず、強力な爆弾を搭載できるF35シリーズは極めて攻撃性の高い戦闘機で、日本の防衛戦略の基本方針である『専守防衛』の域を超えています。F35シリーズを自衛隊が大量配備することは、中国やロシアにさらなる軍拡の口実を与え、際限のない軍拡競争で日本の財政をさらに圧迫するという事態を招きかねないのです」(杉原さん)。

 

・兵器爆買い、トランプのさらなる要求を招く


安倍政権のF35シリーズ爆買いの背景には、安全保障とは別の動機もあるようだ。


防衛省や自衛隊の動向に詳しい半田滋・東京新聞論説兼編集委員に筆者が聞いたところ「米国のトランプ大統領は日本の自動車に関税をかけようとしています。それを防ぐため、F35シリーズやイージス・アショアなど米国の兵器を爆買いしているのです」という。「これに味をしめたトランプ大統領が来年秋の大統領選での再選に向けて、日本へさらに法外な要求をしてくるかもしれません」(同)。

 

・カナダはF35購入を白紙に


トランプ大統領のご機嫌をうかがうために、あまりに高価かつ安全性にも疑問が生じているF35シリーズを爆買いするべきなのか。


カナダも、トランプ政権から貿易摩擦にからみ圧力を受けているが、F35シリーズについては、65機を購入する計画を白紙にし、今年5月に改めて次期戦闘機の入札を行うとしている。


その入札は、必ずしもF35にこだわらず、ユーロファイタータイフーン(英独伊等の共同開発)や、ラファール(フランス製)、グリペン(スウェーデン)も含めて行うのだという。


日本としても、今回の事故の原因を徹底的に検証するとともに、人々の生活や教育への支援をないがしろにしている中での兵器爆買い自体を見直すことが必要なのではないだろうか。


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【F35、1機分のお金で何ができたか―「欠陥商品」147機6兆2000億円を爆買いの愚】
ニューズウィーク 2019年4月16日
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/f35114762000.php


ゼロから分かる安倍政権の統計不正問題 Newsweek 2019年03月06日

2022-01-26 04:50:41 | 日記

 


ゼロから分かる安倍政権の統計不正問題

Newsweek 2019年03月06日

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2019/03/post-67.php


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統計不正は国家の基盤を揺るがす大問題であり、多くの人がその重大性に気付いているはずだが、専門性が高く「よく分からない」のが正直なところだろう。

不正の中身が分からなければ、それを評価できないのは当然である。

本稿では統計不正の中身について可能な限り平易に解説したい。

今回、不正が発覚したのは厚生労働省の「毎月勤労統計調査」である。

これは賃金や労働時間に関する統計で、調査結果はGDPの算出にも用いられるなど、基幹統計の1つに位置付けられている。

アベノミクスに関する争点の1つは雇用と賃金なので、この統計はまさにアベノミクスの主役といってよい。

そうであるからこそ「忖度」の有無が問われているともいえる。

 

・勝手にサンプル調査に切り替えた


不正の根幹部分は、調査対象となっている従業員500人以上の事業所について、全数調査すべきところを一部で勝手にサンプル調査に切り替え、しかもデータを補正せずに放置したことである。

サンプル調査そのものは統計の世界では一般的に行われる手法であり、サンプル調査を行ったからといって、それだけでデータがおかしくなるわけではない。

今回のケースでは東京都における500人以上の事業所は約1500カ所だったが、実際には500カ所しか調査していなかった。

ここで得られた数字に約3を掛けるという補正作業を行えば、1500カ所に近い数字が得られる。

 

・補正作業を忘れていた


毎月勤労統計調査については、全てに全数調査が義務付けられているので、サンプル調査に変更した段階でルール違反なのだが、数字がおかしくなったのはサンプル調査そのものが原因ではなく、この数字の補正作業を忘れていたからである。

1500カ所分の数字が必要であるにもかかわらず、500カ所分の数字しかなかったので、東京都における賃金総額が実際よりも小さくなり、結果として全国の賃金総額も減ってしまった。

現実の補正作業はシステム上で行われるので、外注しているシステム会社への業務連絡を怠ったのが実態と考えられる。

 

・2018年以降のデータだけを訂正した


このミスは2004年からずっと続いており、十数年間、賃金が低く算出されていたことになるが、本当の問題はここからである。

作業ミスが発覚した場合、本来であれば、2004年までさかのぼって全てのデータを訂正しなければならない。

ところが厚労省はこうした訂正作業を行わず、どういうわけか2018年以降のデータだけを訂正するという意味不明の対応を行い、その結果、2018年から急激に賃金が上昇したように見えてしまった。

 

・「現実に近い数字になった」では済まない


この対応が、賃金がなかなか上がらないことにいら立ちを強めていた安倍政権への忖度だと批判されている。

2018年以降の数字を訂正したことで、同年以降の賃金総額が増加し、より現実に近い数字になったとの見方もできる。

だが多くの国民にとって重要なのは、勤労者全員が受け取った賃金総額がいくらかではなく、賃金が前年より上がったのか下がったのかである。

これに加えて統計には連続性が不可欠であり、途中で基準が変わることはあってはならない。

もしこの訂正がなければ2018年の賃金は前年比で下がっていた可能性が高く、景気に対する国民の認識は違ったものになっていただろう。

整理すると、厚労省は、①全数調査すべき調査をサンプル調査に勝手に切り替える、②サンプル調査の場合に必要となる補正作業を忘れる、③全データを訂正せず2018年からの訂正のみにとどめる、④一連の対応について外部から指摘されるまで明らかにしない、という4つの不正を行ったことになる。

 

・忖度した可能性は高い


同省が2018年以降だけの訂正にとどめた本当の理由については明確でない。

意図的にこうした訂正を行った可能性もあるし、データの管理がずさんで、2004年までさかのぼった訂正ができなかったことも考えられる。

ただ、2018年のデータから調査対象の事業所を大幅に入れ替えており、これも賃金を大きく上昇させる要因となった。

調査対象の事業所入れ替えも定期的に必要な措置ではあるが、ミスが発覚し訂正するタイミングで実施するのは不適切である。

一連の対応を総合的に考えると、政権の意向をある程度、反映させた可能性は高いとみてよいだろう。

なぜこのように推測できるかというと、霞が関では不正にならないギリギリのところで、統計の数字を政権が望む形に微修正することはよくある話だからである。

一方で、中央官庁の職員には公務員としてのプライドもあるので、修正はあくまでも職業倫理の範囲内にとどめるのが暗黙のルールとなっていた。

今回の不正はこれを著しく逸脱しており、統計データとしての連続性を消失させるなど、従来では考えられない対応を行っている。

忖度の度合いはともかくとして、同省の組織劣化がかなり進んでいるのは間違いない。

 

・他の統計でも不正が明るみに


今回の不正発覚をきっかけに、同省の賃金構造基本統計調査や、あるいは総務省の小売物価統計調査など他の統計でも不正が明るみに出ており、問題をさらに複雑にしている。

賃金構造基本統計調査は調査員による調査を実施すべきところを郵送に切り替えていた。

小売物価統計調査については、調査員が調査を怠り、過去のデータを提出していたことが明らかとなっている。

どちらのケースも許されることではないが、従事者による「手抜き」を100%防ぐことはできない。

統計学的な信頼性という観点からすれば、想定された範囲内のトラブルとみてよいだろう。

 

・日本の国家統計は貧弱


では、深刻な統計不正は毎月勤労統計だけなのかというと必ずしもそうとは言い切れない。

実はあらゆる統計の集大成ともいえるGDPの正確性についても疑問視する声が少なからず上がっている。

日本銀行は非公式ながらもGDPの算出方法について疑義があるとするペーパーを公表したし、一部の専門家はGDPの数字が上向くように修正されていると批判している。

GDPは最もマクロ的な統計なので、それ自体にある程度の曖昧さがあり、現時点において日本のGDP推計に問題があると断言することはできない。

だが、先進諸外国と比較して、GDPを中心とした日本の国家統計が貧弱であり、改善の余地が大きいことは紛れもない事実となっている。

統計というのは近代民主国家における礎であり、これが信用できなくなったら民主国家としては終わりである。

国家が持つ対外的パワーというのは、経済力や軍事力などハード面だけにとどまるものではなく、統計の信頼性や情報公開などソフト面の影響が極めて大きい。

こうしたソフト面でのレベルの違いが国際交渉力に大きく関係していることを、私たちはもっと認識すべきである。

<2019年3月12日号掲載>


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ゼロから分かる安倍政権の統計不正問題
Newsweek 2019年03月06日
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2019/03/post-67.php