隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

どうしようもないけど、なんだかかわいい兄弟~「ロンサム・ウェスト」

2014年05月14日 18時02分52秒 | ライブリポート(演劇など)

2014.5.8(木)
ロンサム・ウェスト
The Lonesome West
at 新国立劇場小劇場

翻訳・演出 小川絵梨子

出演 堤真一(コールマン・コナー)
    瑛太(ヴァレン・コナー)
    木下あかり(ガーリーン)
    北村有起哉(ウェルシュ神父)

 http://www.siscompany.com/west/

 
 私たちにとっては、久々の新国立劇場小劇場。オシャレなコンパクトな会場はシアタートラムにも通じる。本多劇場などの下北沢の劇場とはちょっと異なる雰囲気。
 余談ですが、開演前にちょっとぶらぶらしていて、オペラシティのお店で、メンズのカジュアルなシャツ+Tシャツを購入。



■近くにいたら、やっかいだな
 ・・・そんな感じのどうしようもない兄弟が、なんでそんなことで?ということで際限のないケンカが始まる。
 ケンカというか、こぜりあいというか、争いというか・・・、究極のじゃれあいというか。
 舞台は兄弟の居間。そこを訪れる神父や若い娘ガーリーを巻き込んで、仲が悪いんだか、実は空気になれないほど結局は仲がいいんだか、そのあたりが私には最後までつかめない・・・、でもそばにいたら本当に厄介だな、と思わせる兄弟のお話がせま~い世界で繰り広げられる。
 実は「事故ではなく兄が殺した」父親の葬儀を終えて兄弟が神父を伴って帰宅するところから話が始まるのだから、最初からすさまじい(もちろん、父親殺しはあとになって観客にも神父にも明らかになるのだけれど)。
 今までに、いかに相手がひどい理不尽なことを自分にしてきたか・・・、その具体例をあげるところがもうとてつもなく、くだらなくて、ばかばかしくて、でも不思議に限りなくおかしいし、笑えちゃう。
 暴力もハンパじゃないし、銃を持ち出したり、相手の大事なものを迷うことなく破壊してしまう兄、それに抵抗しつつ、そんな兄を全力で罵倒し叩きのめそうとする弟。
 そのあいだで、もともともっていたはずの常識や中庸の心を完膚なきまでずたずたにされてアル中気味の神父は、それでも最後の力をふりしぼって、兄弟にまともな話をし続ける。
 その三人の機関銃のような会話に若いガーリーが蓮っ葉で少し常軌を逸することはあっても、至極まともに健全に対抗する。
 神父は兄弟に最期の言葉を残して湖に消え、神父を愛していたガーリーも去る。
 残った兄弟は、神父の残した手紙に従おうと互いに少々の努力はして、客はそのおかしさに笑い声をあげるが、二人は元の木阿弥・・・。
 でも、破滅にはいたらず、こうやって救いようのない争いを続けながら、一緒に酒をのんだり、父親や神父のことを語り合ったりしながら、結局、命をつないでいくのではないか・・・、そんな未来を私は見たように感じたのだけれど。

 それにしても、そばにいたらこんなやっかいな人間はいないけれど、ふっと思ったのです。こんなふうに思ったままを口に出して言えることへの羨望。
 ただ、ふつうの人間は、あんな振る舞いをしたらあとで自己嫌悪に陥って立ち直れないかもしれないから、あの兄のような人間は、ある意味、「選ばれた人種」なのかも・・・と(舞台の感想ではありませんけど)。


■しっくりくる感じ-マーティン・マクドナー
 翻訳劇なのに、言葉のやりとりに違和感を感じさせないのは脚本や演出の冴えなのだろうけれど、原作がマーティン・マクドナーと知って、ああ~と納得。
 結構好きな本なのです。
 『ビューティ・クイーン・オブ・リーナン』もおもしろかったし(よかったら、ココを)、それ以上にいまだに忘れられない「ウィー・トーマス」の破壊力(これも、よかったらココを)。
 (とくに「ウィー・トーマス」のほう、恥ずかしいくらいテンション高めで書いていますね。あれ、忘れられないくらいおもしろかったんですよ)
 残酷で残忍で、どうしようもないくだらないやつらのお話が、なぜか悲しく見えてきたり、ちょっと自分を振り返らせたり・・・、私にはそういう芝居たちです。
 そして、今回は話のおもしろさや意外性やドッキリはなかったけれど、スピード感と救いようのない会話に大いに得点を差し上げたい。

 Lonesome West はアイルランドのどこかさびれた街をもイメージさせるし、lonesomeにはただ「寂しい」だけではなく、誰かを求めるがゆえに「寂しい」というニュアンスもあって、そこも心惹かれる。



■役者たち
 そして、そのせつないおもしろさやくだらなさを生き生きを動かしているのは、まさに4人の役者たちです。
 兄弟を演じた堤真一と瑛太。どちらも大きくおおらかで、動きも美しく、機関銃のようなセリフもとても聴きやすく迫ってくる。堤真一の兄はどうしようもないけれど、どこかかわいらしさを見せる。瑛太は私のイメージを突き破って、繊細な面と、ときに雄雄しい野獣のような顔もしっかり見せてくれる。
 そのあいだで右往左往する神父の北村有起哉は、兄にも弟にもない「人としての真ん中」を丁寧に形作っているところがいい。
 紅一点、若い女性を演じる木下あかり。男たちと同じ空気を背負いながら、たった一人まっすぐに何かを見ている感じが伝わって、とても印象的だった。 


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