長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

塔晶夫著【虚無への供物】

2019-07-17 08:05:06 | 本と雑誌


1964年(昭和39年)2月29日/第1刷発行、当時なんと講談社から出版され、490円の価格であった。
当時の物価を考えると、それでも高いかも知れないが、これほどの大作が、この価格か!と改めて感心した。
実際この第1作であるこの本は、現在稀本として、高値がついているそうな。
私は今回、図書館で取り寄せてもらった。今回表示した画像は、決してその初版本ではない。
本来ならば、その図書館で借りた本をデジカメで撮って掲載したいところだが、あまりにも小汚く、文中に五頁ほど落丁(ストーリではあまり重要でもない)もあり、はっきり図書館名バーコードの入ったシールも貼られ、その染みだらけの本を掲載するのは躊躇った。
この著者は本名中井英夫の方が有名かも知れないが、最初に出版したのがこれである。
この著者名はフランス語の「お前は誰だ」トワ・キ「おお!」のもじりである。
有栖川有栖の江上二郎シリーズで、江上がバイブルのように、ボロボロになったこの本をいつも持っているなんてシーンもある。
本作は小栗虫太朗「黒死館殺人事件」及び夢野久作「ドグラ・マグラ」と並び、推理小説三大奇書にあげらている。
また文中には「黒死館殺人事件」も「ドグラ・マグラ」も登場する。私はこの二作とも既読であるが、読後実に嫌ーな後味の悪さを感じたのを憶えている。ただし、この二作は後に文庫本として出版されたの読んでいる。

光田亜利夫(みつだありお)と奈々村久生(ななむらひさお・なかなか美人で、お洒落な女性)が氷沼(ひぬま)家に絡む連続殺人事件に挑む。
といっても二人とも素人探偵ではあるが…。
久生は今は仕事でパリにいる牟礼田俊夫(むれだとしお)と結婚することになっている。
さて、氷沼家はなにやら呪われてるいるような、氷沼家の人間もそうだが、代々の当主がいい死に方をしていない。
本来今の当主であった、氷沼菫三郎(きんざぶろう)は妻もろとも、洞爺丸遭難にあい、死亡していて、現在氷沼家邸には、その息子であり長男の氷沼蒼司(そうじ)とその弟の紅司(こうじ)と、これも洞爺丸遭難の折両親を亡くした、従弟である藍司(あいじ)と、何故か転がり込んできた叔父の橙次郎(とうじろう)と、大正時代から仕えている爺やの吟作がいる。
実は亜利夫の高校生の頃の、蒼司は同級であったし、牟礼田は氷沼家とは遠縁ながら縁戚関係にあったのだ。
亜利夫がその氷沼家の屋敷に初めて訪ねたときは、大阪弁で喋る革ジャンを着た、四十がらみの、弾むほどに肥えている八田晧吉(はったこうきち)と出くわした。
氷沼家の番頭格の人間であった。
それに、新潟から上京した、藤木田誠(ふじきだまこと)という、氷沼家とは蒼司の祖父の代からの付き合いで、ご意見番的存在だ。
60過ぎの、銀髪の美しい、日本人離れした巨漢で、渋いツイードのジャケットなぞ着て、海外生活が長いと思われる。
久生は「氷沼家殺人事件」を予想したので、色々と調べ回っていた。
しかし、なんと亜利夫が氷沼家を潜入捜査しているその間に、事件は発生した。
最初の被害者は、紅司だった、密室の風呂場で死んでいた。
紅司は生前、「凶鳥の黒影(まがどりのかげ)」という題名の長編探偵小説を書くといっていた。
また謎の方程式を残したまま逝ってしまった…。
警察も事件記者も排除して、素人探偵たちは推理合戦を行う。
亜利夫と久生と藤木田誠と藍司がこれに加わったが、皆それぞれに今一つの決め手に欠けている。
唯一論理的だったのは、藤木田老人だったのだが…。
藤木田老人は、紅司が残した日記に、鴻巣玄次(こうのすげんじ)なる、不良の輩を書き残していたので、犯人は鴻巣玄次とそして、橙次郎の共同の殺害だったと見た。
それで麻雀に、橙次郎をうまく引き込み、その様子から犯罪を暴こうとの意見を出した。
実際、亜利夫もその計画に参加していたが…。
なんと、その橙次郎が密室で、ガス中毒で死んだ。
しかし、そのトリックを考えると、知らぬうちに亜利夫が犯人だということになってしまう?
亜利夫は警察から事情聴取を受けることになる。
何故か藤木田老人は、新潟へ帰ってしまう。
そして、牟礼田がパリから一時帰国し、実は鴻巣玄次など架空の人物であると宣言した。
しかし、鴻巣玄次は実際にいた!黒馬荘というアパートに住んでいた。
八田晧吉の弟だった(本名八田元晴である)が、服毒自殺をとげた、八田晧吉の目の前で、青酸カリ入りのウイスキーを呷ったとのことだが、目撃者の証言では、晧吉はおろか誰もその部屋から出てきた者はいない。
まったく密室での出来事である。
しかし晧吉は警官を呼びに慌てて部屋を出て行き、その後何者かに内側からドアは閉められ施錠されてしまったのである。
合鍵によって施錠は解かれ、部屋の中を覗いたら、玄次の死体だけが残されていた。
鴻巣玄次は、なんと両親をも殺害した容疑がかかっていた。
それだけではない、広島の原爆で死んだはずの氷沼黄司(おうじ)は生きていた、そんな説も飛び出す、鴻巣玄次と同じアパートに浜中鴎二という名で、部屋を借りていたセールスマンこそ、黄司だという説も浮かび上がる。
世田谷で放火も相次ぎ、なんともっと以前に、戸塚の老人ホームS・B園で祖父光太郎の妹で、高齢を保っていた綾女が九十余名の老女たちとともに、無残な焼死をとげていたのである。
氷沼家の呪いはどこまで続くのか?
この混沌とした状況で、素人探偵たちは推理を働かせようと、懸命になるが…。
果たして真相はいかに?
結局「虚無への供物」とは、何を意味するのか…?
しかし、三名の人間が実は真犯人が誰か、分かっていたのである…。
作中には様々なシャンソンや、国内外の過去の探偵小説の名作も登場する。
そして本質的な意味で色が重要なポイントとなるかも…?
著者がアンチミステリ(反推理小説)を掲げて、渾身の大作を書き上げた最初の力作である。
興味を持った方は是非とも、一読してもらいたい♪と思う次第であります。







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