長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

藤原伊織著【テロリストのパラソル】

2010-10-08 08:21:50 | 本と雑誌

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島村圭介はアル中の中年バーテンダーである。
しかしそれは菊池俊彦の名と共に、二十年以上過去を消し続けた果て、たどり着いた姿だった。
実は菊池は’71年に起きた渋谷の車爆弾事件の共犯者として、指名手配され逃亡していた。
事件はもう時効になっているのだが、島村として体に染み付いた生活を、最早変えることはできずにいた。
しかしそんな彼がこともあろうに、新宿中央公園の爆破事件に遭遇してしまい、その生活は一変する。
彼の店にやって来たやくざの浅井から妙な忠告を受けた後、何者かの襲撃に遭う。
新宿中央公園爆破事件で多数の死傷者が出たが、その中に菊池の嘗ての恋人優子もいた。
重傷を負った末死んだと、優子の娘塔子が店に来て伝えた。
そして爆破事件でただひとり身元不明のまま残っていた死者の名が公表される。
’71年の車爆弾事件の主犯であり、菊池の親友でもあった桑野誠だった…。
偶然がすぎる。冗談のように過剰にすぎる。
菊池は何かに駆り立てられるように爆破犯人捜しに乗り出すが、そこには思いもよらぬ真実が待ち受けていた…。

今更言うまでもないが、史上初乱歩賞・直木賞W受賞の快挙を成し遂げた秀作である。
ハードボイルドなサスペンスストーリーのはずが、物語は著者独特の軽妙なリズムで流れ、コミカルにさえも感じられる。
これが伊織マジックの真髄である。
『雪が降る』『手のひらの闇』『蚊トンボ白鬚の冒険』『ひまわりの祝祭』と読み、つい最近まで何故か『テロリストのパラソル』は読む機会を逸していた。
我ながら伊織ワールドを、脈絡のない読みかたをしたもんである。


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