長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

近藤史恵著【シャルロットの憂鬱】

2017-05-29 10:49:04 | 本と雑誌

彼女と出会わなければ、気付かなかったこと。
気づかせてくれて、ありがどう。
元警察犬シャルロットとの穏やかな日常に、ふとまぎれこむ不可解な謎。
ささやかな歪み。解決するたびに、絆が強くなっていくような気がした。
犬を飼うと、犬を飼っている知人が増える。
犬の名前は知っているけど、飼い主の名前は知っているとは限らない。
シャルロットは雌のジャーマンシェパード。
警察犬を早く引退し、四歳で池上家にやってきた。
はじめて犬と暮らす共働きの夫妻にとって、賢く聞き分けがよく、少し甘えん坊のシャルロットとの日々はとても新鮮。
犬同士、飼い主同士、ゆるやかな連帯も生まれるが、なかには不穏な事件を持ち込む者もいて…。
トラブルを起こすのはたいてい飼い主。
家族として、犬を迎えたはずなのに。
表題他五編の連作短編コージーミステリ集。
私は無類の猫好きだが、別に犬が嫌いではない。
それに小型犬より大型犬の方がむしろ好きである。
猫みたいに、直ぐにちょっかいを出したりは、怖くてできないが。
遠くから眺める分には問題はない♪
この物語は、そんな風に眺めるように読んだような気がする。
なんだか、ほんわかする小説である。
著者は犬好きなのだろう、よく他の話の中にも犬が登場するし、犬についてよく知っている。

宮部みゆき著【おまえさん上・下】

2017-05-26 08:29:42 | 本と雑誌

まず初めに、宮部氏の小説は昨今、実に話が長くなっているのが顕著に表れている。
私のような速読のできない者としては、こつこつじっくりと読むため、読了に非常に時間を要する。
この「おまえさん」にしても上下とも五百頁を超え、計千頁を超えるので、まる二週間読了に時間を費やした(ずっと本を読んでいるわけではないが)。
この作品は、「ぼんくら」「日暮し」に続く、”ぼんくら”同心・井筒平四郎のシリーズ第3弾である。
三日前の朝まだき、転がっていた亡骸から染み出した血と脂が、未だ消えずに残っている。
消しても消しても消えないでいたのである。
それをお徳が手下のおさんとおもとを引き連れ、消しにかかる場面から始まる。
さてそれはさておき、痒み止め薬「王疹膏」を売り出し中の瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺された。
本所深川の”ぼんくら”同心・井筒平四郎は、将来を期待される同心・間島信之輔(残念ながら醜男)と調べに乗り出す。
その斬り口は、お徳らが人像を消そうとしていた、身元不明の亡骸と同じだった。
それを見抜いたのは、信之輔の大叔父にあたる本宮源右衛門であった。
源右衛門は「遺恨じゃな」と断言した。
両者をつなぐ、隠され続けた二十年前の罪。さらなる亡骸…。
瓶屋に遺された美しすぎる母娘は事件の鍵を握るのか。
二十年前から続く因縁は、思わぬかたちで今に繋がり、人を誤らせていく。
男は男の嘘をつき、女は女の道をゆく。
こんがらがった人間関係を”ぼんくら”同心・井筒平四郎の甥っ子、美少年の弓之助は解き明かせるのか。
真犯人が判明した後、さらに深く切ない謎が待つ。
男は男で、女は女で、それでも男女で生きていく。
事件の真相が語られた後に「残り柿」「転び神」「磯の鮑」「犬おどし」の四つの短編で明かされる、さらに深く切ない男女の真実。
断ち切らない因縁が、さらなる悲劇を呼び寄せる。
謎解きは終わっても、恋心は終わらない。
愉快な仲間たちを存分に使い、前代未聞の構成で著者は挑む。
出会えてよかった?知らなきゃよかった?
何が正しいかとか、何が正しくないかは、誰も語れない…。




宮部みゆき著【荒神(こうじん)】

2017-05-15 17:54:55 | 本と雑誌

時代小説というよりは、ファンタジー時代噺といったところか。
東北小藩の山村が一夜にして壊滅する。
怪物はなぜ現れたのか?北の民はどう立ち向かうのか?
時は元禄、東北の山間の仁谷村が一夜にして壊滅状態となる。
隣合うニ藩の関ヶ原の合戦以来の因縁、奇異な風土病を巡る騒動…。
不穏さをはらむこの土地に“怪物”は現れた。
仁谷擁する香山藩では病みついた小姓・直弥や少年・簑吉らが、香山と反目する永津野藩では専横な藩主側近の弾正や、心優しきその妹・朱音らが山での凶事に巻き込まれていく。
礫も弓も鉄砲も、それに火さえつうじぬ、恐るべき怪物の正体とは?
交錯する北の人々は、それぞれの力を結集し、“災い”に立ち向かう!
山は飢え、怒っている…。
大魔神のような一大スペクタクル作品といえる。
ただ違うのは、大魔神は善の使者だが、この怪物は悪の塊である…。
結末は切なく哀しく美しい。

有栖川有栖著【鍵の掛かった男】

2017-05-15 17:14:12 | 本と雑誌

2015年1月、大阪・中之島の小さなホテル<銀星ホテル>で一人の男・梨田稔(69)が死んだ。
警察は自殺による縊死と断定。
しかし梨田の自殺を納得しない人間がいた。
同ホテルを定宿にする女流作家・影浦浪子だ。
梨田は五年ほど、銀星ホテルのスイートに住み続け、ホテルの支配人や従業員、常連客から愛され、しかも2億円以上預金残高があった。
影浦は、その死の謎の解明をミステリ作家の有栖川有栖とその友人の犯罪社会学者・火村英生に依頼。
が、調査は難航。
梨田は身寄りがない上、来歴にかんする手がかりがほとんどなく人物像は闇の中で、その人生は「鍵の掛かった」としか言いようがなかった。
生前の彼を知る者たちが認識していた梨田とは誰だったのか?
結局、自殺か他殺か。
他殺なら誰が犯人なのか?
密室よりも冷たく堅く閉じた、孤独な男の壮絶な過去とは?
思いもしない悲劇的結末が関係者全員を待ち受けていた。
珍しく本文の三分の二程は、火村が入試で動きが取れず、有栖川有栖が刑事よろしく単独で捜査する。
あとの三分の一でいよいよ火村が出馬するが、現場のスイートルームを検分し、僅かな手がかりから、直ぐに他殺である事を示唆する。
そしてある事から、一瞬にして犯人を特定してしまう…。