長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

【隣家の柿木】

2010-11-11 12:51:53 | 日記・エッセイ・コラム

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私は此花区に引越す前は、とある場所の名ばかりのマンションの一階に住んでいた。
部屋のベランダ(そんな大仰なものでもないが)から、ブロック塀越しに隣家の柿木が見える。
塀の内側(マンションの敷地内)に、毎晩秋その実がいくつか転げ落ちてくる。
ある年強風でいっぱい落ちてきて、隣家の人が脚立に登り塀越しに覗いているのを目撃した。
外部の人間は入れないようになっているのだ。
仕方がないので全部拾って、隣家の人に渡してあげた。
その折これは渋柿だと知った。
正直柿はあまり好きではないので、まったく興味もないのだが・・。
そんなことより、その柿の実を食べに小鳥たちがやってくる。
初めてメジロを目撃したときは驚いたものだ。
目の周りが白い小さな緑色の妖精が、枝を飛び交い舞い踊っていた。
いつの間にかこの町も変わった、子供のころはそれこそ蝉も鳴かなかったし、雀と鳩以外の野鳥なぞ見かけはしなかった。
空気が汚染されて、小児喘息に悩ませられていたほどで、少なくなった空き地からはバッタが姿を消し、春のモンシロチョウでさえ珍しくなっていた。
それでも何故か秋にはコオロギだけが、やたら鳴いていた気がする。
今は緑が増え、暖かい時期にはアゲハチョウが平和に舞っている。
近くのジョギングコースのある公園では、春の早朝に散歩すれば鶯が鳴いている。
夏には嫌でも蝉時雨が体験できるし、キジバトなぞ野良鳩と同じように普通にいる。
セキレイの一種と思しき姿も時折見かける。
イカルやヒヨドリも多く見られるし、招からざるカラスどもが生ごみをあさり、どこからやってくるものか、あの凶悪なスズメバチまで飛んでいる。
だが不思議と秋の道にコオロギの鳴声はなく、零れ銀杏葉が黄河をなすだけである。
そしてある朝、ツーツービーと聞き覚えのある鳴声と、コンコンと何かを突く音に目を凝らせば、隣家の柿木の枝にヤマガラがいた。
以前ひょんなことから、尾羽が全部抜けてしまったヤマガラを保護して、尾羽が生え揃うまで一時飼育したことがある。
直ぐに人になついてしまって、山に放すとき寂しい思いをしたものである。
懐かしさに早速デジカメを出してかまえたが、このところ撮りすぎていたのかバッテリーがあがっていた。
ふと気づいた、町が変わったのではなく、自然の生態系が変わったのではないかと・・・。