ブログ しみぬき見聞録

しみ抜きを生業とし昭和、平成、令和、不肖の二代目です
仕事を通して日々感じたこと、思うことを、勝手気ままに書いてみたい

答え

2008年10月30日 | Weblog
「シミを見つけたんだけど、とれますか? 料金はいくらぐらいかかりますか?」
問い合わせのお電話をよくいただく

私の答えはいつも「お仕事してみないとわかりません よろしければお品物をお持ちになってご相談においでください」 である
問いの答えになっているようで、なっていないと自分ながら感じている
しかし、そう答えざるを得ないのは、しみ抜きはその衣料の素材、染色、付着物、経時変化など色々な条件によって成否が変わるからである
結果がすべてであり、技術料、手間代がしみ抜き料金と私はしているからでもある
お召しになれるようにならなかったしみ抜きに、料金をいただくわけにはいかないし、そこがサービス業としての原点でもあり職人としての誇りだと考えている

お客様の期待には答えたい
しかし、沢山変色したシミがある着物を持ち込まれて、五千円ぶんだけシミを薄くしてといわれても困る
前述のブログでかいたように、仕事の説明をしようにも気分を害されたり、仕事の良否よりも、料金を値切ることに嬉々とされている御客様には戸惑わされる

「絶対どんなしみも取ります シミひとつが、OO円です」ハッキリ言えたらどんなにすっきりするだろう

仕事とお客様に、正直になろうとすればするほど、答えに悩む

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期待

2008年10月23日 | Weblog
着物の保管には格別の注意が必要だと思う
お召しになる機会が減っている、最近なおさらである
御来店の御客様からよく聞く話だけど、「箪笥の防虫剤は切らさずしっかり入れておいたのにこんなにシミが出て」

箪笥に入れる薬剤は沢山市販されています
しかし、主たる効能は防虫であり、シミを防ぐ効果は無いに等しい
シート状あるいは粒状の素材に、揮発性の防虫剤を含浸させ、密閉された引き出しのなかにガスが充満することで効果が出る
開け閉めの回数が多かったり、密閉状態が保てないと効果は半減する
また防虫剤とは言うが、正確には殺虫剤なのだ
用法、用量を間違うと事故のおそれがある
高濃度のガスを長期間吸い続けると、人体に影響があると言う説もある

入れないよりは入れたほうが良いかもしれないが、シミやカビなど保管中の事故を全て防ぐ魔法の薬ではない
検品、風通しをしないで薬剤に過大な期待をすれば、あけてびっくり、シミだらけということになる
シミだらけにしてしまって、大変なお手入れ、しみ抜きをして費用をかけるのはもったいない

お金を倹約していると思ってこまめに風通しをお勧めします

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賞味期限

2008年10月17日 | Weblog
随分以前から衣料品の素材として、ポリウレタンが重宝されている
コーティングすれば独特のヌメリ感をもち皮革のように加工も出来るし、繊維と織り込めばストレッチ性を簡単に付加することが出来る
体型に合ったフィット感を得られるのだ
比較的安価な素材であることもあって、爆発的に利用されてきた
しかし、大きな欠点がある
紫外線、水分、その他種々の要因によって経時変化、劣化するのである

一昔前、プラスチックのスキーブーツが破損してけがをしたと言う事が話題になったが同じ事である
靴底にも軽くて成型しやすいポリウレタンは、安価ということもあり今も沢山使用されている
私も礼装用に買っていた靴の底が割れて、駄目になった事がある
3度程しか履かず、大事に靴箱にいれて保管してあったのに

ポリウレタンが利用された素材は、製造された時点で寿命が決まっていて、残りの寿命を刻む時計がスタートしている
メーカーとしての保障は、3年とも5年ともいわれている
生地の段階で長く倉庫で寝ていれば、製品として消費者の手元に届いたときに残りの寿命はあまり無いかも知れない

洋服が変形したり、べたつきがでたり、コーティングが剥がれたり、風合いが変わったり事故がおこる
和服にも金銀彩の糊として沢山つかわれている
着用の有無にかかわらず起こるから始末が悪い
しかし代替品がない以上、衣料の重要な素材のひとつとして利用されていく

消費者にこのような欠点がある事が認識されていない事も問題だ

クリーニング、しみ抜きが引き金になって事故の起こることもある
同業の友人Y君からもその事例をよく聞く
彼は、消費者センターの苦情処理にかかわって、消費者からのクレームを目にしているから以前からこの問題を指摘していた

妻は、大事にしたい洋服を買うときには素材表示をみて、生地を確かめて、ポリウレタンの使用されている物は買わない
絶対に買わない
門前の小僧習わぬ経を読むとやら


世にあふれている品物の賞味期限が切れるのはいつ?

ご存知ですか?

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女心

2008年10月14日 | Weblog
中年の女性の御客様でした
濃紺の訪問着に、シミがついたということで御来店
検品させて頂くと、衿山の部分が赤く変色している
お客様は口紅がついたと言われた

しかし、拡大鏡で見てみても、付着物は繊維上には見られない
普段ベンジンで衿の手入れを、されていると言われる
揮発では当然とりきれない汗が、染料を変色させてのは間違いないだろう
衿の折り山に、一直線に口紅がつくと言うのも考えにくい

シミに気がついたときの状況など、詳しくお聞きして私の所見をお話していると突然「そんな難しいはなしは、どうでもいいの 聞いてもわからない、 きれいになるの、ならないの」と怒り出してしまった
言葉にはいつも気をつけているつもりだし、そのシミについて充分説明をさせて頂いて、料金なども含めて納得を得たうえで仕事をさせて頂く事を心がけている
お客様の怒りがどこにあったのか、口紅のシミではないと言い分を否定したからなのか、よくわからないがショックだったし残念だった

「シミは僕の経験上充分きれいに出来ると思います 大丈夫です」と答えると
「とにかく、きれいにして」と念押しをしてご立腹のまま帰られた
後日引取りにこられて衿の汗やけの部分の直り具合をしげしげとみて「よかった」と一言

あの怒りは何処へ?

女心は複雑、怪奇 いまだよくわかりません


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とっさに

2008年10月07日 | Weblog
以前、ある会合で、しみ抜きの話をして欲しいと頼まれた
相手は一般の方々で、私より少し年配か、同じくらいのお年の男女三十人程で若い方は少なかったように記憶している

絹とか、和服、しみ抜きの話をした後で、「想像して下さい、今、皆さんは自慢の着物を着ている 楽しく食事をしている最中です
大切な着物に食事中に飲み物や、食べ物をこぼしてしまいました
さあどうしますか?」突然質問をしてみました

シーンとしたなかで、誰も声をあげません
「さあどうします」たたみかけるように聞いてみる
まだ答えてくれない
「考えている間に、ドンドンしみは広がっていきますよ さあ、さあどうします」
答えをせかしすように少し強い口調で聞いてみた
小さな声で「ハンカチでふきます」と言う声が聞こえた
すると「お絞りのほうがいい」とか、「拭くよりたたくほうがいい」とか堰をきったように色々な意見が出た

突然、誰かが「こぼした物をなめるか、吸えばいい」と大きな声で言った
一同、大爆笑

欲しかった答えは、乾いたハンカチ、ティシュなどで軽く押さえるだった
とっさの場合あわてて、お絞りやハンカチでしみを取ろうと拭くのが大半だ
絹は水分を含むと膨潤し、其処をこするとてきめん糸の表面が傷つき毛羽立ってしまう
いわゆるスレが起き生地表面の艶が無くなり、光の乱反射によりしらけたように見える
始末が悪いことに、濡れている時は色が濃く見えているのでやりすぎてしまう
乾いてビックリ
お客様にはシミがついてもあわてないで さわらないでそのままお持ちくださいとお願いするがそれは難しいことだ

しかし皆さん あわてないで さわりすぎないでプロにおまかせあれ


誤り

2008年10月03日 | Weblog
事故品 しみ抜き依頼
黒と白コンビ 婦人服ワンピース 素材 綿 ナイロン ポリウレタン
白場の部分に黒の色が移っている
表示は水洗X 漂白X 仕上げ低温 石油系ドライ可 
業者は石油系ドライをして移染したと言っている

テストしてみると水では、まったく黒の色は出てこない
多少熱をかけても、強めの洗剤を使っても同様である
ところが、油性の溶剤を滴下すると見事に色が出てくる
明らかに表示と製品の性能が合っていない

製品につける表示法は、以前に書いたように法律により決められているが、どの製品にどの表示をつけるかはメーカーにまかされている
実際に完成した製品を色々なテストをして表示をつけているわけではない
メーカーにしても製品すべてにテストをするとなれば、経済的な負担は大きなものになりそれは販売価格に転嫁される
企画、試作段階でクリーニングに対する配慮は期待できない
工業規格に基づいた簡易的なテストが行われば、いいほうだろう
実際の商業クリーニングの内情、知識の無いまま表示を選択することが大半ではないかと想像する

上記の製品は染料で染めてあるのではなく、顔料の染めであると思う
変色、退色しにくい事から顔料が利用されることが、近年多い
手洗いの表示をつけるべきで、ドライクリーニングはXにすべきである

単なる付け間違いなのか、石油系ドライの表示にしておけば問題ないと言う安易な経験則によるものなのか?
この部分は消費者には目の届かない暗部といえる

しみ抜きは無事終わり業者さんもご満悦の仕上がりとなりましたが、同じ製品がどれだけ市場にでているのか考えると  頭をかかえているクリーニング屋さんが、沢山いるんじゃないかな?



やれやれ