ブログ しみぬき見聞録

しみ抜きを生業とし昭和、平成、令和、不肖の二代目です
仕事を通して日々感じたこと、思うことを、勝手気ままに書いてみたい

甘い

2009年03月31日 | Weblog
お客様から振袖を、お手入れにお預かりした。
えもん掛けにかける為に、パッと広げると、たもとから何か飛び出した。
軽やかに、ひらひらと舞う、それはピンクの薄紙を、桜の花びらのかたちに切りぬいた、紙吹雪だった。
卒業式か、結婚式の折に、祝福のため撒かれたものにちがいない。
桜 もう四月だ

妻の誕生日がやってくる。

ネットで、なにやら検索していると思ったら、ケーキの代わりに近頃評判の美味しいタルトが、食べたいと言う。
先日の日曜に、そこへ、買い物帰りに連れて行くことになった。
雑誌とか、テレビにも、何度か紹介されている、タルト専門店らしい。
白い箱を抱えて、ニコニコしながら店を出てきて、車に乗り込むと、「みんな美味しそうで、散々迷ったわ。 もちろん貴方のおごりよね。」
「ハイハイ、 で、いくつ買ったの?」と聞くと、一人二個で、七個買ったと言う。
あれ?おかしいやろ八個でないと 不吉な予感。
「息子には二個ずつ、私と貴方は一個ずつ食べて、残りは味見で、半分こ、すればいいのよ。
甘い物は食べすぎはだめよ、メタボなんだから。」と妻

三時のおやつに食べることにした。

箱を開けると季節の果物のいい香り、 「貴方は抹茶のタルト、身体に良いわよ」と言いながら、妻はイチゴをふんだんに使ったタルトを食べている。」
「これ、下にイチゴのムースが入ってる、おいしいなぁ~!!」と息子達

ほろ苦い抹茶と甘味を抑えた小豆は、あっさりしていて確かに美味しい。
しかぁ~し!! 私はフルーツたっぷりの甘いほうがいい。
今まで、身体に悪いほど、ケーキやお菓子は食べたことは無い。

「それ、どんな味」と聞きながらクリームを遠慮なく、すくい取ると「大人の味やね」と妻
私はやけ気味に「年寄りの味、爺さんの味だ」と悪態をつく。

残りのタルトは、晩御飯の後で、食べることにしようと妻が言う。

わたしは夕食後、テレビを見ながら、いつもの様に、コタツでうたた寝をしてしまった.
フッと気がつき、「タルトは?」と聞くと「もう食べちゃった。」と ニコニコしながら妻。

「お父さん気持ちよさそうに、いびき掻いて寝とったで。」とニヤつく息子達。

「一口どうぞ」も、無しかよ。

予感的中、はかられた。  甘いタルトより、もっと甘かったのは私だった。

「これよろしく。」妻の差し出すレシートを見ると抹茶のタルトが一番安い。
かえすがえすも残念なり。

妻が、三日坊主になりながらも、ダイエットに関心を持っていることを知っている。
「願わくば、ボンレスハムのような体型になりませんように。」心密かに祈念して、誕生日に贈る言葉にしたいと思います。







しつけ

2009年03月24日 | Weblog
「ごめんください」
「いらしゃいませ。しみ抜きですか?お手入れですか?」

「初めて、娘に振袖を着せたので、お手入れをして欲しいのですが」

お品物を拝見させていただくと、長じゅばんも、振袖も、仕付け糸が付いたままである。
振袖の仕付け糸は、ひっかけたのか、所々切れている。

「お手入れをしていただいて、かざりの糸が切れているので、直してくれませんか?」 と言われた

飾りの糸??? 仕付けの糸のこと??
「仕付け糸は、飾りではなくて、仕立てあがった着物の形を整え、きせ、ふきなどを保つためにしてあるもので、必ず、お召しになる時には取ってしまう物です。」とお話しすると

「こんなにきれいにしてあるのに、取ってしまうのはもったいないわ。」

「いやいや、そうじゃなくて  それがマナーです。」

以前、とある式場で、仕付け糸がついたまま、お召しになっていた親戚の若い女性を、目ざとく見つけた年配のご婦人が「みっともないじゃないの」と叱責しながら、手早くはずしているのを見かけたことがある。

重箱のすみを、つつくような約束事は御免だが、仕付けをつけたままお召しになるのは、商品タグ、値札をつけたまま、洋服をお召しになる様なものだ。

仕付け、しつけ、ウ~ム  身の横に美しいと書いて 躾、しつけ
人にも、心と身体を整える、躾け糸があれば!!
まず、身近な、あの人につけて   

いかん、妄想が暴走しないうちにやめとこう。


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ありがとう

2009年03月12日 | Weblog
先日、勉強会で神戸のY君の所へおじゃました。
先乗りでK君とH君、Y君と弟君のM君、合流して一緒に夕食をご馳走になっていた。

私の携帯が鳴った。
次男の携帯電話からだった。
席をはずして、店の外で出てみたが切れていた。
発信してみるが、でない。   嫌な予感がする。
このところ、残業が続いていたが、もしかして、事故!!
自宅にかけると、妻がでるなり 「警察!!警察から、今、電話があった!!」
「事故か?」たたみ掛けるように言うと、神戸のN署から電話と言う。
わけがわからず、なんのこっちゃ、戸惑う私に、「落し物したやろ、タクシーに」と言う。

あっ!! 財布 確かにポケットは空だ。
タクシーから降りる時、おつりの無いように、きっちり出してあげようとして、小銭入れをバックから出したとき、財布をシートに置いた。
領収書をもらい、荷物を持ってそのまま。  ガ~ン あの時 後の祭り。

N警察署の電話番号を聞き、事の次第を話して、明日取りに行きますと伝えた。
事故でなかったことに、ホッとしたものの、ガックリ。
こりゃあ、勉強会が終わって家に帰れば大目玉ものだ。

店内に戻り、Y君達に話すと、明日、警察まで連れて行ってくれるという。
翌日、無事、財布はそのまま受け取ることが出来ました。 ありがたかった。 感謝!!
善意の方々のおかげで、気分一新、しみぬきの勉強会もすることもでき、やれやれ。

「ただいま」玄関をあけると、袋からお土産をすぐ出した。
テレビを見ていた息子達の前に、「約束のワッフルやで。焼きたて買ったけど、冷めてしもた。」ドカッとおいた。

息子達は箱を開けて、「これ何味かな?」などと言いながら、パクつきだした。
妻も何か言いかけたが、匂いに負けて手を出した。

日頃、嫌なことばかり見聞きするが、善意と云う物のありがたさ、大切さをあらためて教えられた。

財布を届けてくださったS様、タクシーの運転手さん、 ありがとうございました。

世話をかけたY君、M君、ありがとうございました。

心配をかけた、Y君のご家族の皆さん、勉強会の会の皆様  ありがとうございました。

最後に、辛辣な妻の小言を忘れさせ、私を守ってくれた焼き立てのワッフル、
特に、季節限定のキャラメルチョコレート味のワッフル様  
ありがとうございました。

深く感謝します






2009年03月05日 | Weblog
「いらしゃいませ。お手入れですか?しみ抜きですか?」

ご来店の御客様へのわたしの第一声である
初めてのお客様には、特に、お品物を検品させていただきながら、私のしみ抜きの仕事について、お話をしている。
しみ抜き、染色補正などは日頃なじみの無い事だし、料金を含めてお客様の疑問に丁寧に答えることも、大事な仕事だと思っている。
納得頂けないままの、押し付け仕事だけはしたくないし、喜んで頂けなければ仕事の甲斐が無い。

その着物は、幾重にも包まれていた。
文庫(たとう紙)の内に中紙を重ねて巻き、たたまれた間には折しわを防ぐために、幾重にも厚手の紙をはさんである。
たまねぎを剥くがごとく広げないと、検品ができない。
神経質なお客様であることはよくわかる。

細かく、目を通しながら衿、袖口、なにより汗のお手入れが必要なことをお話していると、お客様が、着物をさわる私の手元を、じっと見ている。

「私、友達に、ここを紹介されてはじめて来たのよ。 失礼だけど、誰が、何処でしみぬきをしてるの?」

「私が、ここで、仕事をしています。」

「ここで、本当に仕事をしてるの?  京都に送ってるんじゃないの?」

少しムッとしたが、壁の額を指差しながら「その染色補正技能士の合格証は、私のものです。 引退した父も、同じ一級技能士ですし、ここで昭和47年からお仕事させて頂いてます。」と答えると、黙って店の中をあちこち暫らく見ていた。

「誰だかわからない人に、べたべた、大事な着物をさわられたくないのよ。 まして、あっちこっちと荷物で送られるなんていやだから、聞いてみたのよ。」

「ご相談だけでも結構ですが、お手入れはどうされますか?
 大事なお品物を、お預かりさせていただくのですから。」と聞くと

「大切な友達からの紹介だから、おまかせするわ。」

腹立たしかったと言うより少しショックだった。
仕事を始めた若い頃は「貴方がしみ抜きをするの?」とたびたび言われたことがあった。
たぶん、職人とは、年季の入った風体をしていると言うイメージと、かけ離れていたからだろう。
しかし、30年この道にあって職人の顔になっていないのだろうか?
自信を持って仕事の話をさせて頂いてきたつもりだけど、説得力がなかったのかな?

「気難しいお客様でも安心してもらえるだけの風格が無いのよ 顔に!!
まだまだ本物の職人のオーラ、オーラが無いのかもね。」妻にはそう言われそうだが

 顔、顔か?  そいつを言っちゃあ、おしまいよ。