ブログ しみぬき見聞録

しみ抜きを生業とし昭和、平成、令和、不肖の二代目です
仕事を通して日々感じたこと、思うことを、勝手気ままに書いてみたい

思い出す事

2020年12月25日 | Weblog
昨今のTVのなかで、時折、職人の技にスポットを当てている番組がある
仕事柄、嬉しくなって、ついつい追いかけてしまう
他業種の職人さんの事であっても、ウンウンと頷いてみたり、感心したり
手仕事の苦労は通じるものがあり、妻の冷ややかな目も気にならず,見入ってしまう

この仕事に手を染めたころ、亡き師匠に連れられて、着物文化の勉強に、京都で職人さんの工房めぐりを
した事を思い出しました
なかでも、一番よく覚えているのは、下絵を描いた白生地に、防染の為、糸目のりを置く職人さんでした
柄の縁取りに、先金をつけた渋紙で作られた筒で、防染糊を細く引く仕事です
簡単にイメージすると、ケーキのデコレーションの絞り出し? の様なもの  


地色染め、柄色さしを終えて、蒸し、糊落とし、水もと 水洗を経て鮮やかに浮き上がる糸目の白さ
これが、友禅染の隠れた魅力と私は思っています
地色と文様の間を区切る白い一筋の線
とかく色使い、文様に目は奪われますが、職人気質の私には気になるのです

鰻の寝床と言われる京町屋の玄関を入り、家人の方にご挨拶をすると、「今、仕事中ですから 良ければどうぞ」
案内されて、土間を抜け奥まった狭い階段を上がった所が仕事場でした
「一区切りついたころに、声をかけてください」 小声でささやくように話し、家人の方は階段を下りてゆきました

畳敷きの細長い仕事場は薄暗く、その中に手元を照らすスタンドの明かりの中に一人職人さんが座っていました
仕事場の左右の端には、木と竹で作られたローラーの様な物があり、端と端を仮縫いされた、反物がかけられています
ベルトコンベヤーのようにピーンと張られた白生地には、青花で下絵が描かれています

物音一つしない

作業の邪魔にならないよう、そっと近づき、仕事を見せていただく  というか、手元を覗き込んで見た
初老の職人さんの横顔は、厳しく、呼吸の音さえ聞こえない
左手で、生地の張を調整しながら、細い筒金の先から、下絵の描かれた生地の上を滑るように、糸目糊が置かれてゆく
正面の糊置きが終わると、左手で、生地を引き、ずらす
カラ、カラと、かすかにローラーの音が聞こえるのみ

一反の糊置きが終わるまで、どれぐらいの時間が過ぎたのか 
息を詰めたような時間は、長かったように思うが、それが気にならない程、私も緊張していた

フウ~ツ と 張り詰めた雰囲気を一気に緩めるような吐息の音と共に、顔を上げた職人さんの顔からは、、先ほどまでの
厳しさは無く、好々爺 そのものでした

「仕事中は、この座布団から立つことは出来ませんねん 席を外して座りなおすと、最初の一筋が、それまでと変わってしまいます
 折角、その時に合わせた糊の加減が変わるし、力の入れ具合が同じ様にいきません   何年やってても
それが、後まで残る仕事ですから  家の者にも、声をかけんように 電話があっても出ません そう言ってあります」

「俯いて一日中仕事してますから、胸を悪くするする人が多いんです しょうがないです」

仕事のお話を聞きながら、糊置きの終わった反物を見せて頂きました

「糸目糊置きというと、下絵の通りなぞるだけと思われるかもしれませんけど、それは大間違いで、
葉っぱの葉脈にしても、太い所から細く流す
柄の始まりから留めまでの線の勢い、塗り絵とはちがいます、これは職人の個性が出ます 」

その言葉を込められた技への誇りと自信が、柔らかな笑顔と共に、強く印象に残りました

今も、友禅の着物の糸目の白さと、線の走りを見る時、あの時の職人さんを思い出します













  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする