ブログ しみぬき見聞録

しみ抜きを生業とし昭和、平成、令和、不肖の二代目です
仕事を通して日々感じたこと、思うことを、勝手気ままに書いてみたい

干し柿

2009年01月29日 | Weblog
先日、お客様から干し柿を頂いた。
ご自宅で作られたそうで、少し小ぶりだけれど自信の一品との事。
早速、パクついてみた。
うまい、甘い、程よい弾力のある噛み応え。
実は、私の大好物なのだ。

先人の知恵は、たいした物だ
口が曲がるほどの渋柿が、こんなに美味しくなる。
白状するが、黙って失敬した色づいた渋柿を、知らずにがぶりと食べて、えらい目にあったことがある。
見た目は、干からびた貧相な様子だが、寒風にさらされた中味に、滋味がしっかり詰まっている。

腕が枯れたと言う言葉がある。
余分な力みが抜けた、芯のある技と言うことだと思うが、何故か、私は干し柿を見るとこの言葉を連想する。
私も、かくありたい。

舌鼓を打ちながら、「一つどう?」と妻に勧めてみるが「いらない」の一言。

人もまた、世間の風にさらされて渋が抜ければいいけれど、我、妻の顔を見ながら 貴方の渋はいつ抜ける?   当分無理か?








喪服

2009年01月22日 | Weblog
年明けから寒さも一段と厳しくなり、当地でもインフルエンザが流行っている。

その為か、喪服のお手入れが例年より多いような気がする。
喪服は、その黒さが命だから、藍下とか紅下など深みを出す為の染色の技法が、工夫されてきた。

ブラックの染料も、多種多様な物がある。
しかし、染色により生み出す色には、限界がある。
その為、以前から黒染めした後、樹脂加工して黒味を出すことが、行われるようになった。
深色加工といいます。

生地が水に濡れると、色が濃く見える。
生地からの光線の反射が、薄く張った、水の皮膜により抑えられる。
光が吸収され、繊維の深部まで入り込んだ光線が、目に入ってくることにより、濃く見えると言うことらしい。
水は乾いてしまうが、樹脂を均一に生地に付着させることで、同様の効果を得るのだ。
確かに比べると、加工した生地の黒さは、格段に違う。
樹脂加工の副次効果で、水をはじくガード効果もある。

しかし、大きな欠点がある。
摩擦に弱く、こすれると色調がかわる。
均一な樹脂の付着状態が、部分的に取れたり、ムラになると、マワリに比べて本来の生地の艶が出て、白っぽくなる。
光線の反射が変わり、テカリ、アタリがでて、丁度ベルベットが毛倒れした様な状態に見えてしまう。
染料の脱落が、起きているのではない。

帯下、脇、上前ヒザの部分などがそうなりやすい。
染み抜きなどに、格別の注意が必要なのは言うまでも無い。
元のように戻すことには格段の手間がかかるし、お客様がシミや汚れを気にして拭いたり、擦ったりすれば大事になる。
丸洗いなどすれば、樹脂の脱落により、端布と比べると色調ががらりと変わってしまう物もある。

樹脂の種類、加工の方法などにより随分改良がされている物もあるが、事故が起こりやすい事は間違いない。
お手入れする立場から言うと、やっかいな品物なのだ。
カラスの濡れ羽色とは言うが、弱点は全く理解されていない。
呉服屋さんも全く知らないだろう。
しかし、市販の喪服の反物には、ほとんどこの加工がされているだろう。

問題だ。 

売れる為の商品開発は、お客様にプラスになる物であるべきだ。
売らんかな主義、後は野となれ山となれ。
正直、腹が立っている。
これまでずっと、ずうっ~と我慢してきたんだ。









着物シルクパック

2009年01月14日 | Weblog
去年六月から、着物の脱酸素パックの設備を導入した。
この技術はかなり以前から知ってはいたが、採用するか迷っていた。
特殊なフィルムで密封し、脱気した後、不活性ガスの窒素を吹き込んで酸化を防ぐ、第一世代の技術から比べると確かに進歩している。

最近特に、保管中のカビ、しみによる変色が持ち込まれることが、だんだん増えてきている。
日々の忙しい生活のなかで、虫干し、風通しなどと言うことは、忘れられたに等しい。
事故を防ぐ、着物の保管にとっては申し分ない技術ではあるが、此れにて安心とばかり、パックしたお召し物を忘れ去られてしまう事が、怖かったのである。

大事なお召し物には、それなりの愛情と手間をかけてあげないと、駄目だと思う。
かつて、あるしみ抜きの講習会で、「着物の保管は雑にしてくれれば、くれるほど、仕事が増えて儲けにつながる。
カビ、変色大いに結構」と、公言して、はばからない講師がいた。
腹立たしい限りで、本末転倒だ。

いつでも気軽に、気持ちよく着物を楽しんで欲しいし、それだけの価値のある、かけがえの無い、日本の文化だと考えている。
ささやかだが、その支えになり、役立ちたいと言う気持ちで、仕事をしているのだから。

テストを重ねて、年末から本格的にお客様にサービスを始めた。
「大切な着物をパックするなんて」と、抵抗があるかと思いきや、これはいいいわと好評なのも、意外だった。
カビだらけにしたり、どうにもならないほど変色させたり、凝った技法を使った高価な品物ほど、お手入れに難渋するのが常である。

正直なところ、パックの説明をしながら、何ともいえないジレンマを感じてしまう。

お客様のお品物をパックするとき思う。

サヨウナラじゃない。 袖を通していただける時まで、  おやすみなさい。



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白鳥

2009年01月06日 | Weblog
今日、今年初めて和服を着た女性を見かけました。
今日まで着物を目にしなかったは、混雑をさけて初詣をしたせいがあったのかもしれない。

信号待ちをしていると、黒っぽい洋服の一団のなかにまぎれて、薄い金茶地の訪問着をお召しになった女性が近づいてきました。
どんよりとした冬の朝の景色の中で、其処だけピンスポットが当たっているかの様に、パッと明るく見えた。
道路を挟んで相対して、仕事柄どうしても着物が気になり拝見すると、着付けの仕方が、う~ん ちょっと変。
からあげを多く取り、着丈をすこし短くお召しになっている。
足元に目をやると、ゲッ!!  ショートブーツを履いている。
こげ茶の表皮の、くるぶし上まで覆う、先のとがった靴紐付のタイプだった。
たしか、昔、ハイカラさんが通るとか言うコミックでヒロイン達がはいていたように思う。

信号が変わりさっと踏み出したブーツの外側、中ほどには鮮やかに金銀の摺箔か、押し箔が施されていた。
あんな靴は見たことが無い。  二度、ビックリ!!!

横断歩道の中ほどで、丁度すれ違った。
手に荷物をお持ちのようだったが、姿勢もよく、丁度、黒鳥の群れを率いる白鳥のごとく。

茶髪に濃い化粧のコギャル全盛の頃、夏祭りでヒザ上20センチぐらいに裾を切ったミニ浴衣にロングブーツを履いたグループに出遭って、仰天したことがある。
なんじゃこりゃ~!!!!! と思ったが。

しかし、今回は違った驚きだった。
これも、アリかな?  
なによりその女性の凛とした、それでいて自分の非日常を演出し、それを充分楽しんでいるような雰囲気を感じたからかもしれない。
信号待ちの間にも、誰にとも無く少し微笑んでいるような、はにかみながらも周りの視線を浴びることを喜んでいるような表情を視たからなのか。

和服の女性はいい。  やっぱりいい。
年明けに新鮮な驚きとを感じて、嬉しかった。

一番に妻に話したかったが、「美人を見かけて、鼻の下を伸ばして、物欲しそうに、ジロジロ 視てたんじゃないの? フン!!  」と言われそう。

断じて、断じて、そうじゃないんだから。

和服にかかわる職人として、ウ~ン、言い訳に苦労しそうだから、やめとくかな?











あけましておめでとうございます

2009年01月04日 | Weblog
あけましておめでとうございます

静かな、お正月休みでした。
天候も穏やかで仕事を離れて、あれやこれやと雑事には追われましたが、少しはリラックスできたかも?
まずは飲みすぎ、食べすぎをお腹周りをつまみながら、反省しよう。

年賀状に目を通し、気の利いた友人たちのユーモア、暖かさに触れると元気が湧いてくる。


新しい年を迎えて、スタート、気を引き締めてがんばります。