ブログ しみぬき見聞録

しみ抜きを生業とし昭和、平成、令和、不肖の二代目です
仕事を通して日々感じたこと、思うことを、勝手気ままに書いてみたい

2009年03月05日 | Weblog
「いらしゃいませ。お手入れですか?しみ抜きですか?」

ご来店の御客様へのわたしの第一声である
初めてのお客様には、特に、お品物を検品させていただきながら、私のしみ抜きの仕事について、お話をしている。
しみ抜き、染色補正などは日頃なじみの無い事だし、料金を含めてお客様の疑問に丁寧に答えることも、大事な仕事だと思っている。
納得頂けないままの、押し付け仕事だけはしたくないし、喜んで頂けなければ仕事の甲斐が無い。

その着物は、幾重にも包まれていた。
文庫(たとう紙)の内に中紙を重ねて巻き、たたまれた間には折しわを防ぐために、幾重にも厚手の紙をはさんである。
たまねぎを剥くがごとく広げないと、検品ができない。
神経質なお客様であることはよくわかる。

細かく、目を通しながら衿、袖口、なにより汗のお手入れが必要なことをお話していると、お客様が、着物をさわる私の手元を、じっと見ている。

「私、友達に、ここを紹介されてはじめて来たのよ。 失礼だけど、誰が、何処でしみぬきをしてるの?」

「私が、ここで、仕事をしています。」

「ここで、本当に仕事をしてるの?  京都に送ってるんじゃないの?」

少しムッとしたが、壁の額を指差しながら「その染色補正技能士の合格証は、私のものです。 引退した父も、同じ一級技能士ですし、ここで昭和47年からお仕事させて頂いてます。」と答えると、黙って店の中をあちこち暫らく見ていた。

「誰だかわからない人に、べたべた、大事な着物をさわられたくないのよ。 まして、あっちこっちと荷物で送られるなんていやだから、聞いてみたのよ。」

「ご相談だけでも結構ですが、お手入れはどうされますか?
 大事なお品物を、お預かりさせていただくのですから。」と聞くと

「大切な友達からの紹介だから、おまかせするわ。」

腹立たしかったと言うより少しショックだった。
仕事を始めた若い頃は「貴方がしみ抜きをするの?」とたびたび言われたことがあった。
たぶん、職人とは、年季の入った風体をしていると言うイメージと、かけ離れていたからだろう。
しかし、30年この道にあって職人の顔になっていないのだろうか?
自信を持って仕事の話をさせて頂いてきたつもりだけど、説得力がなかったのかな?

「気難しいお客様でも安心してもらえるだけの風格が無いのよ 顔に!!
まだまだ本物の職人のオーラ、オーラが無いのかもね。」妻にはそう言われそうだが

 顔、顔か?  そいつを言っちゃあ、おしまいよ。