人間の抜毛症(脱毛症)と、ネズミの過剰グルーミングの相関性を示唆する記事をみかけ、チャクの過剰グルーミングにも何かヒントになるかなと調べています。
ネズミにも過剰グルーミングというか、抜毛症があるそうです。(2)(3)
興味深いのは、自分の体を対象とした過剰グルーミングとは別に、周りのネズミをお手入れしてくれる「床屋さん」タイプがいるところ。
集団で暮らすネズミの中に「床屋さん」役のメスがいて、周りのネズミをグルーミングして周り、彼女以外は毛がなくなってしまう。
で、その床屋さんをグループから外すと、違うメスが床屋さんの役割を継ぐんだそうです。
そういえば、昔おうちにハツカネズミがたくさんいたとき
世話役のメスが、周りのネズミを毛づくろいしすぎてよく怒られてました。
人間も、自分の毛髪だけでなく他人の毛を抜きたい衝動に駆られる人がいるようです。(6)
ネズミの場合、床屋さんになるのは必ずメスみたいで
猫の心因性過剰グルーミングも、有る調査では72%がメスとのデータがあります。(4)
人間も、抜毛症は女性に多いと言います。
個人差も多少あるのかと思いますが、人間の場合
イライラしている時と、TVなど観てリラックスしている時、ボーっとしている時に毛を抜きたくなったり、無意識に抜いていたりするんだそうです。
チャクのペロペロも、ストレスがかかった時だけではありません。
ソファーでリラックスしている時に始めたり、手持ち無沙汰でやっちゃうのかなぁと思うことがあります。
鳥にも過剰に羽を抜く異常行動があるそうです。(4)
ただ、野生の鳥で羽が無いと、飛ぶ時に弊害が出るし、寄生虫がつきやすかったり感染症にかかりやすく、生存率の低下に繋がるので、生存競争の激しい自然界でそのような自傷行為をするとは考えにくいそうです。
一方、インコやオウムなど飼われている鳥の10%に、このような異常行動がみられるとの報告があります。(4)
籠の中の鳥は、不安やフラストレーションに加えて、
空を飛ぶという本能が満たされないこと
仲間同士のグルーミングが無い(少ない)というのも大きな要因だそうです。
猫も、以前考えられていたよりずっと社会的な動物だということがわかってきています。(7)
多頭でも過剰グルーミングはあるようですし、猫密度が高ければそれはそれでまた問題が発生したりしますが、猫一人だと、ペロペロしたりされたりというコミュニケーションがない分、全部自分の体に向かってしまうのでしょうか。
猫科の野生動物についても、心因性脱毛症は考えにくいそうです。(4)
鳥と同じように過剰グルーミングによって、野生での適応度(環境に適応して、生存・繁殖する能力の度合い)が下がるためです。
しかし、捕獲された"元"野生動物では心因性脱毛症が確認されています。
外で暮らす動物にもストレスがかかることはありますが、発散するはけ口があるため、飼われている動物のように慢性的な葛藤を抱えることは、基本的にないそうです。
原因は「ストレス」というよりも、生得的な行動を阻害されることで生まれる葛藤(本能を満たせないための葛藤)ではないかという見解もあるようです。
過剰グルーミングを含む異常行動が、室内飼いに多いという話は色んな資料に出てきます。
あと、先日デズモンド・モリスの本を立ち読みしていて気づいたのですが
屋内猫というのは、鳥の羽をむしったり、獲物の内臓をひっぱりだすという経験をしませんね。
チャクは以前、ムートンの毛を激しく毟ることがあって、イライラしているのかと思ったのですが、毟るという行為がハンティングに連携した本能を満たして気持ちよかったのかもしれません。
同じ頃、過剰グルーミングを発症する前ですが、爪を激しく噛んだり、鏡の前でため息をつくことが多く、バッチのクラブアップルとチェリープラムを飲ませたことがあります。
その後、異常な爪噛みとため息はほとんど無くなったものの、ムートン毟りはおさまりませんでした。これは、猫の本能(種のテーマ)をなんとか満たそうとする行為だったからなのかもしれません。
異物は、喉につまらせたり、飲み込んで腸に詰まったりということが心配ですが
何か安心して毟らせてあげられるものがあったら、思う存分毟らせてあげたいです。
鳥の羽むしりを擬似体験できるオモチャとかあったらいいんだけどなぁーと思いつつ、人間はいったい何をやってるんだろう・・・と自己嫌悪になってきます。
以前、何かの番組で観たのはこちらかな あとり農園 犬や猫がちゃんと役割を持って人間と共生していて、こんな暮らしできたらって思いました。
そういえば、チャクは猫草を食べない分まで引き抜いていることがあります。
猫草なら安心だし、多少の慰めにはなるのかしら。
やはり、外の世界を人工的に再現するのは、なかなか難しいですね。
抗酸化作用があるとして、サプリなどで販売されているアミノ酸の一種 N-アセチルシステインが、人間の心因性脱毛症に効果があったというリサーチもありました。(5)
動物というのは、心地よいこと、気持ちいいことを繰り返す習性があります。
N-アセチルシステインを摂取することで、脳内の特定個所におけるグルタミン酸(興奮性神経伝達物質)濃度を抑え、毛を抜いた時の快感を抑える効果があるようです。
しかし、こちらも誰にも効くとはいかないようで、改善が確認できたのは56%
N-アセチルシステインは、猫の角膜炎に処方される点眼薬や、アセトアミノフェン(非ピリン系の解熱鎮痛薬に含まれる)中毒による肝機能障害の治療に使われているようです。
犬猫用のサプリでも含まれているものがあります。薬剤師ではないので詳しくは分かりませんが、抗うつ剤より副作用が少ないような気がします。
毛を抜いた時の快感に代わる喜びがあれば、毛は抜かなくなるのかもしれません。
おまけ
中国医学では、肝臓と目は密接な関係にあり、イライラすると肝機能を低下し、目にも悪いと言います。肝臓の酵素合成に必要なアミノ酸(N-アセチルシステイン)が情緒に影響したり、角膜炎の治療に有効というのが中国医学と重なっておもしろいなぁと思いました。
【参考】
(1)遺伝子操作でネズミに抜毛症
アメリカ国立精神衛生研究所 プレスリリース 2007年7月22日
(2)Barbering in Mice: Causes and Prevention
(3)Barbering in mice: a model for trichotillomania
(4)Trichotillomania
著者: Dan J. Stein,Gary A. Christenson,Eric Hollander 75-78
(5)Health Food Supplement May Curb Compulsive Hair Pulling
ScienceDaily (July 7, 2009)
(6)抜け毛症に悩むあなたへ。
(7)Clinical Behavioral Medicine For Small Animals (著者: Karen Overall MA VMD)
(日本語版は「動物行動医学―イヌとネコの問題行動治療指針 Karen L.Overall (著), 森 裕司」)
(8)N-アセチルシステインおよびスコルビン酸によるネコ免疫不全ウイルス(FIV)感染細胞におけるアポトーシスとウイルス増殖の抑制
The journal of veterinary medical science 60(11) pp.1187-1193, s.v 19981100 [Index] Japanese Society of Veterinary Science
(9)猫におけるアセトアミノフェン中毒の治療に用いるN-アセチルシステインとメチレンブルーの単独または組合せでの比較 (1996)
月刊動薬 文献番号 66856
ネズミにも過剰グルーミングというか、抜毛症があるそうです。(2)(3)
興味深いのは、自分の体を対象とした過剰グルーミングとは別に、周りのネズミをお手入れしてくれる「床屋さん」タイプがいるところ。
集団で暮らすネズミの中に「床屋さん」役のメスがいて、周りのネズミをグルーミングして周り、彼女以外は毛がなくなってしまう。
で、その床屋さんをグループから外すと、違うメスが床屋さんの役割を継ぐんだそうです。
そういえば、昔おうちにハツカネズミがたくさんいたとき
世話役のメスが、周りのネズミを毛づくろいしすぎてよく怒られてました。
人間も、自分の毛髪だけでなく他人の毛を抜きたい衝動に駆られる人がいるようです。(6)
ネズミの場合、床屋さんになるのは必ずメスみたいで
猫の心因性過剰グルーミングも、有る調査では72%がメスとのデータがあります。(4)
人間も、抜毛症は女性に多いと言います。
個人差も多少あるのかと思いますが、人間の場合
イライラしている時と、TVなど観てリラックスしている時、ボーっとしている時に毛を抜きたくなったり、無意識に抜いていたりするんだそうです。
チャクのペロペロも、ストレスがかかった時だけではありません。
ソファーでリラックスしている時に始めたり、手持ち無沙汰でやっちゃうのかなぁと思うことがあります。
鳥にも過剰に羽を抜く異常行動があるそうです。(4)
ただ、野生の鳥で羽が無いと、飛ぶ時に弊害が出るし、寄生虫がつきやすかったり感染症にかかりやすく、生存率の低下に繋がるので、生存競争の激しい自然界でそのような自傷行為をするとは考えにくいそうです。
一方、インコやオウムなど飼われている鳥の10%に、このような異常行動がみられるとの報告があります。(4)
籠の中の鳥は、不安やフラストレーションに加えて、
空を飛ぶという本能が満たされないこと
仲間同士のグルーミングが無い(少ない)というのも大きな要因だそうです。
猫も、以前考えられていたよりずっと社会的な動物だということがわかってきています。(7)
多頭でも過剰グルーミングはあるようですし、猫密度が高ければそれはそれでまた問題が発生したりしますが、猫一人だと、ペロペロしたりされたりというコミュニケーションがない分、全部自分の体に向かってしまうのでしょうか。
猫科の野生動物についても、心因性脱毛症は考えにくいそうです。(4)
鳥と同じように過剰グルーミングによって、野生での適応度(環境に適応して、生存・繁殖する能力の度合い)が下がるためです。
しかし、捕獲された"元"野生動物では心因性脱毛症が確認されています。
外で暮らす動物にもストレスがかかることはありますが、発散するはけ口があるため、飼われている動物のように慢性的な葛藤を抱えることは、基本的にないそうです。
原因は「ストレス」というよりも、生得的な行動を阻害されることで生まれる葛藤(本能を満たせないための葛藤)ではないかという見解もあるようです。
過剰グルーミングを含む異常行動が、室内飼いに多いという話は色んな資料に出てきます。
あと、先日デズモンド・モリスの本を立ち読みしていて気づいたのですが
屋内猫というのは、鳥の羽をむしったり、獲物の内臓をひっぱりだすという経験をしませんね。
チャクは以前、ムートンの毛を激しく毟ることがあって、イライラしているのかと思ったのですが、毟るという行為がハンティングに連携した本能を満たして気持ちよかったのかもしれません。
同じ頃、過剰グルーミングを発症する前ですが、爪を激しく噛んだり、鏡の前でため息をつくことが多く、バッチのクラブアップルとチェリープラムを飲ませたことがあります。
その後、異常な爪噛みとため息はほとんど無くなったものの、ムートン毟りはおさまりませんでした。これは、猫の本能(種のテーマ)をなんとか満たそうとする行為だったからなのかもしれません。
異物は、喉につまらせたり、飲み込んで腸に詰まったりということが心配ですが
何か安心して毟らせてあげられるものがあったら、思う存分毟らせてあげたいです。
鳥の羽むしりを擬似体験できるオモチャとかあったらいいんだけどなぁーと思いつつ、人間はいったい何をやってるんだろう・・・と自己嫌悪になってきます。
以前、何かの番組で観たのはこちらかな あとり農園 犬や猫がちゃんと役割を持って人間と共生していて、こんな暮らしできたらって思いました。
そういえば、チャクは猫草を食べない分まで引き抜いていることがあります。
猫草なら安心だし、多少の慰めにはなるのかしら。
やはり、外の世界を人工的に再現するのは、なかなか難しいですね。
抗酸化作用があるとして、サプリなどで販売されているアミノ酸の一種 N-アセチルシステインが、人間の心因性脱毛症に効果があったというリサーチもありました。(5)
動物というのは、心地よいこと、気持ちいいことを繰り返す習性があります。
N-アセチルシステインを摂取することで、脳内の特定個所におけるグルタミン酸(興奮性神経伝達物質)濃度を抑え、毛を抜いた時の快感を抑える効果があるようです。
しかし、こちらも誰にも効くとはいかないようで、改善が確認できたのは56%
N-アセチルシステインは、猫の角膜炎に処方される点眼薬や、アセトアミノフェン(非ピリン系の解熱鎮痛薬に含まれる)中毒による肝機能障害の治療に使われているようです。
犬猫用のサプリでも含まれているものがあります。薬剤師ではないので詳しくは分かりませんが、抗うつ剤より副作用が少ないような気がします。
毛を抜いた時の快感に代わる喜びがあれば、毛は抜かなくなるのかもしれません。
おまけ
中国医学では、肝臓と目は密接な関係にあり、イライラすると肝機能を低下し、目にも悪いと言います。肝臓の酵素合成に必要なアミノ酸(N-アセチルシステイン)が情緒に影響したり、角膜炎の治療に有効というのが中国医学と重なっておもしろいなぁと思いました。
【参考】
(1)遺伝子操作でネズミに抜毛症
アメリカ国立精神衛生研究所 プレスリリース 2007年7月22日
(2)Barbering in Mice: Causes and Prevention
(3)Barbering in mice: a model for trichotillomania
(4)Trichotillomania
著者: Dan J. Stein,Gary A. Christenson,Eric Hollander 75-78
(5)Health Food Supplement May Curb Compulsive Hair Pulling
ScienceDaily (July 7, 2009)
(6)抜け毛症に悩むあなたへ。
(7)Clinical Behavioral Medicine For Small Animals (著者: Karen Overall MA VMD)
(日本語版は「動物行動医学―イヌとネコの問題行動治療指針 Karen L.Overall (著), 森 裕司」)
(8)N-アセチルシステインおよびスコルビン酸によるネコ免疫不全ウイルス(FIV)感染細胞におけるアポトーシスとウイルス増殖の抑制
The journal of veterinary medical science 60(11) pp.1187-1193, s.v 19981100 [Index] Japanese Society of Veterinary Science
(9)猫におけるアセトアミノフェン中毒の治療に用いるN-アセチルシステインとメチレンブルーの単独または組合せでの比較 (1996)
月刊動薬 文献番号 66856