遊鵬窟

展覧会感想メモ等

貴婦人と一角獣展

2013-06-17 21:45:40 | 展覧会

会場:国立新美術館 会期:2013年7月15日まで

 

クリュニーの至宝と7,8年ぶりの再会です。現地より明るめの証明で堪能することが出来ました。

 

これがフランスを離れたというのは,かつて百済観音をフランスに貸したのと同程度に大変なことですが,タピストリ美術が日本に馴染みのないせいか,あまり観客もおらず,ゆっくり鑑賞出来ます。作品保護のため空調が効いてますので,羽織るものがあった方がよいでしょう。

 

「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」が原画作者というふれこみの展示解説ですが,ビデオを見る限り,時祷書の人物・衣服描写とはせいぜい「~派」レベルの類似性しかないように思いましたし,タピストリの下絵自体,獅子と一角獣の目つき,表情,たてがみ,尾,体格等,人物の表情,衣紋のひだ等の描き方が大きくばらついていて,4人以上の画家が手がけているように見えます。

展示解説で明らかに下絵が異なるとされた「触覚」以外でも,「聴覚」は一角獣が特異な顔をしていますし,「視覚」は人物の表現が特にフランドルっぽく,顔貌は他の作品とかけ離れています。ハイタカ(図録ではハヤブサになってますが,姿が一番近いのはハイタカですし,貴婦人が鷹狩に使っていたのはハイタカかマーリンです)の表現でいうと,「わが唯一の望み」だけ足革が描かれています。貴婦人と獅子の顔貌の類似性と愛玩犬の存在からは,「味覚」と「わが唯一の望み」が同一人による対作品,同じく貴婦人の類似性から「嗅覚」と「聴覚」が同一人の手のような気がします。

そこで図録の解説をみてみると・・・・「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」という名の下にまとめられる複数の芸術家云々(20頁)とあり,もはや「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」という観念自体あやしいものになっていました。どうしても使いたければアンヌ・ド・ブルターニュ派でいいんじゃないでしょうか。

 

閑話休題,この6面のタピストリは,ファンタジックかつ典雅な画面として,ボッティチェルリの「春」やウッチェロの「サン・ロマーノの戦い」に比肩するものでしょう。そして,今時の化学染料には決して出せない,目がさめるような,それでいて深い眠りにいざないような,赤,青,緑,黃・・。まだ観てない方は,騙されたと思って会場に足を運びましょう。

 

2013年6月16日観覧


ユトリロ展

2013-06-17 20:24:15 | 展覧会

会場:日本橋高島屋 会期:2013年6月24日まで

 

個人コレクションからの出品でユトリロの画風の変遷を通覧しています。

ユトリロの作品をまとめて観るのは初めてで,色彩の時代の作品の変貌ぶりに驚きました。

白の時代は,建物,特に壁に対する親愛の情が全面に出ながらも,自閉なりの一定の精神的均衡を感じるのですが,色彩の時代以降は,なんというか精神的にはじけた感じで,時に現れるあまりに生々しい色遣いは,好みの分かれるところだと思います。

 

いつも同じパターンの後ろ姿で現れる,記号化された通行人の存在からは,いつも依存する対象を欲しがっているゴッホと違い,人に対する突き放した姿勢が画面に出ている気がします。

その分,客体としての風景ではなく,意味ある他者として建物と街角の肖像を描き続けたのでしょう。

 

2013年6月15日観覧


瀬戸神社~海の守護神~

2013-06-09 18:59:47 | 展覧会

会場:神奈川県立金沢文庫 会期:2013年6月9日まで

http://www.planet.pref.kanagawa.jp/city/bunko/tenji.html

 

大神社展タイアップ企画なのか,小振りながら作りの良い神像が沢山見られます。併せて,1階には,龍華寺の元になったのが瀬戸神社の別当寺だった関係で,神奈川県の誇る天平仏,龍華寺の脱乾漆造菩薩半跏像が特別公開されています。

 

会場では,玉眼造の阿形と吽形の随神座像一対が,一癖も二癖もありそうな表情で出迎えてくれます。仏師が仁王像を神像化するとこんな感じになるのでしょう。

 

本殿の諸像では,つり目の男神坐像と女神坐像,威厳のある童形形神坐像,彩色のよく残る唐裳姿の女神坐像などが,最小限の鑿遣いで小ささを感じさせない量感ある造形を生み出し,並々ならぬ彫技がうかがえます。

 

1Fに出陳の龍華寺の脱乾漆造菩薩半跏像は2回めの対面ですが,華麗な髷に端正な面貌,肩衣の曲線の玄妙,白鳳仏を思わせる張りのある胴部,奈良の脱乾漆仏と比べても出色の像といえます。まだ市文なのが理解できません。大人の事情があるのでしょうか。江戸期以前の伝世では東限の脱乾漆仏ですが,近年庫裏改築で見つかるまで知られていなかったという,来歴の謎も含め,非常に興味深いところです。奈良時代に持ち込まれたのか,それとも南都焼討の後,鎌倉幕府の要人が持ってきたのか・・・・

 

観覧後,瀬戸神社と摂社の琵琶島神社まで歩いてみました(1駅分)。海に面した気持ちのよい場所にあります。特に,琵琶島神社は,突堤を通って,小橋を渡る小島にあり,沖の潮が流れ込んでくると見えて,周りの海水が澄んでいます。やはり,弁才天社(サラスヴァティ=アナヒータ)は,海にしろ,池にしろ,きれいな水の畔にあってこそ。

 

観覧日:2013年6月9日


高橋真琴個展 海のファンタジー~人魚の世界~

2013-06-09 17:56:24 | 展覧会

会場:ギャラリー向日葵 会期:2013年6月8日まで

 

画業60年を迎える高橋先生の個展。

 

高橋先生は確立した様式(マニエラ)の中で,毎回新趣向というか,遊びをいれてきますが,今回は人魚の国変わり特集です。非売品の大作は赤毛の人魚ですが,70年台の挿絵でも背景に描かれているクラゲは,今回背景でダンスをしています!縄文人魚という,他の人なら描きそうもないものも。

 

70年台の絵本挿絵の人魚姫は,王子救出と海の泡になるラスト場面の構図と色遣いが秀逸。いつもながら,保存状態の良さには驚かされます。

 

販売対象作品は,6月1日段階ですべて完売していました。

 

2013年6月1日観覧