遊鵬窟

展覧会感想メモ等

華麗なる英国美術の殿堂 ロイヤル・アカデミー展

2014-09-28 21:25:39 | 展覧会

会場:東京富士美術館 会期:2014年11月24日まで

久しぶりの東京富士美術館。館内は程よく空いている。

いきなり冒頭でヒューズリが出て来て意表を突かれる。ゲインズバラもいつもの女性肖像ではなく,風景画の大作を持ってきている。その斜向かいにレイノルズの「セオリー」が周囲を圧している。ゲインズバラの大作が霞むほどの存在感を少ない色数で出しているのは,さすがとしか言いようがない。気品あふれる横顔,力強さを備えた体躯,軽やかさを演出する足首にかけての力の抜けと,レイノルズのイタリア・ルネサンスの古典へのアプローチを身を以て学生に示す傑作!

中盤ではコウブの「1875年度のロイヤル・アカデミー店出品審査会」がなかなか笑える。最初は,オークション会場風景かと思ってしまった。ワッツのレイトン像も親友を描いただけあって,英国肖像画史上屈指の傑作と思われる。

そして本店の目玉が,ミレイの「ベラスケスのスーベニア(想い出)」。決して誰も真似し得ない孤峰ベラスケスの高みに対し,その技術を真似るのではなく,その精神を汲んで生み出された神品。自らの技術を用いて,ベラスケスの描こうとした魂の高貴さをシミュレートしたもの。この点,やはりベラスケスを研究し抜いて描かれたマネの傑作「笛を吹く少年」より,更に一歩深くベラスケスに近づいているような気がする。天才は天才を知るか。

最後にミレイの12歳の彫刻デッサンがあり,その早熟ぶりに驚嘆。一部にミレイはラファエル前派からアカデミー画家に変節したというような言われ方もしたりするが,むしろ,ミレイこそ正統なアカデミズム教育の申し子であり,ラファエル前派運動は青年期の一時の試行錯誤と位置づけた方がいいような気がする。

「ベラスケスのスーベニア(想い出)」を見るだけで足を運ぶ価値のあるところ,「セオリー」で少なくとも2度おいしいお値打ち展覧会。しかも充実した常設展も見られるので,今秋必見の1つ。

2014年9月27日観覧


東アジアの華陶磁名品展

2014-09-28 20:56:48 | 展覧会

会場:東京国立博物館 会期:2014年11月24日まで

久しぶりの大陸からの中国文物だが,ほとんどが3級文物,見るべきものは2級文物の秘色青磁碗(唐)と南朝の青磁壺くらい。魅せつけるように書かれた三級文物(従前表示されているのを見たことがない)のキャプションが,昨今の冷えきった日中関係を反映している。「ひそく」は,発色は好みが分かれるところ,官窯特有の完璧主義が,器厚の薄さ,玉を思わせる肌合いによく出ている名品で,口縁の欠けも薄さがよくわかるので魅力を損なうものではない。

朝鮮半島物は,中国に比べると,作りこみの甘さを感じる。高麗青磁も初見の頃は,その翡色に感動したが,汝窯や南宋官窯を見てしまうと,月並みに見えてしまうのは致し方ない。却って,李朝の鉄釉の大壺は,筆勢あふれてなかなか良かったが,会場では勢いのある変形唐草文と思っていたのが,帰宅後説明を読んで龍だったと知り,愕然。

日本は,中国や朝鮮と陶磁の全盛期がずれるので,いまひとつ展示物が咬み合っていない感じ。古九谷手の伊万里と馬高の火焔土器が出色だが,火焔土器は唐突で,展示意図が不明。

全体的に,やっつけ感に満ちており,企画された時点では豪華展示の予定が,政治的理由で失速し,中止するのも政治的理由でできなかったという事情が想像される。

2014年9月19日観覧