会場:国立新美術館 会期:2014年10月20日まで
タイトルだけ見ると,有名美術館の目玉出品+数合わせのやっつけ出開帳(よくある)みたいですが,いやいやその実態は「絵画でたどる第二帝政と第三共和政初期のフランスのすべてー社会,経済,政治,外交,文化,芸術」。優品を出し惜しみせず,美術史上のテーマに沿った展示に見えて,同時に当時のフランスの社会状況,階級構成,都市化と農村,鉄道の出現と金融市場の勃興,外交情況などを透け出しめている展示構成は,オルセーの本気を感じます。
今回の目当てだったカバネル「ヴィーナスの誕生」は,ゾラに酷評されたそうですが,「マジパン」のごとき筆致は,パステル画でないのにパステル画のような効果をもたらし,シャルダンにも似た名人芸として,むしろ讃えたいところです。この絵のすごいところは,遠景近景の並の描写と色彩を工夫するとともに,ヴィーナスの体を界面に浮かせつつ,髪は水中にたゆたわせることで,女神の大きさを等身大にも巨大にも両様に感じさせていることです。これによって,画中の女性像を,単なる裸婦ではなく,神性をまとわせる存在とすることに成功しています。ヴィーナスとクピドのポーズの絶妙なポーズ,ヴィーナスの表情ともに,ボティチェルリの神品に同じテーマで挑もうとするカバネルの意欲あふれる作品です。
優品揃いの中,今回目立っていたのが,アンリ・ファンタン・ラ・トゥール。静物画の哲学性と近代の感性を両立させた53番「花瓶のキク」は,今展示屈指の優品。各人の個性と文化サークルの雰囲気を一枚の群像画に凝縮した76番「テーブルの片隅」からは,野心,自負,超然,夢想,沈思・・・様々な想念を載せた時代の空気が漏れ出てきます。
サロン系画家では,残念ながらブーグローは出てませんが,ジェロームが21番「エルサレム」で,かつてない磔刑描写を見せてくれます。中東の陽射しの中での影の表現は,レヴァントへのフランスの関与の高まりと無縁ではないでしょう。エリー・ドローネーの2点もいい。
モネの大作71番「草原の朝食」は,印象派以後の画家の中で一頭抜けた鋭敏な光線感覚が見どころです。75番「アパルトマンの一隅」も,色彩と光線の妙に唸らざるを得ません。
マネは目玉の「笛を吹く少年」の洗浄したてと見える瑞々しい魅力もさることながら,84番「ロシュフォールの逃亡」の動きを感じる並の描写に脱帽。
あと魅かれたのはカイユボット16番「鉋をかける人々」。同時代の批評家を困惑させた「いびつな空間」は,むしろ北斎などの日本美術のそれの親和性があり,かえって自然に受け入れられるところです。ジャポニズムが衝撃だったわけですね。
さて,キュレータの仕掛けた本展のスパイスともいうべきものは,世界史の教科書でお馴染みの22番「フランス戦役1814年」と,ヴェルサイユ講和会議の立役者の若き日を描いた81番「ジョルジュ・クレマンソー」。この2点は,今年がナポレオン退位200年,第1次世界対戦100年であることにかけた出品でしょう。「気がついたかな?」と片目をつぶっているキュレーターの顔が見えるようです。
(2014年7月12日観覧)