1 平成24年(行ケ)第10239号 審決取消請求事件
2 本件は,拒絶査定不服審判請求不成立審決書の取消しを求める事案です。
3 本件の争点は進歩性の有無です。
4
4-1 本判決は、「本願発明と引用発明とは,いずれも溶融ガラスの清澄方法に関するものであり,技術分野が共通するほか,溶融ガラスが1800℃ないし2000℃の温度に加熱される点でも共通する」としつつ。「本願発明は,前記1アに説示のとおり,特に高融点ガラス材料に対して公知の清澄剤を添加しても清澄効果が十分ではなく,毒性を有するものを含む清澄剤を多量に添加する必要があったという課題を解決するものであるのに対し,引用発明は,前記2アに説示のとおり,従来のガラス溶融用の炉を裏打ちする耐火物がガラスによって徐々に溶解又は腐蝕するため,溶融及び精製温度が1600℃より低い値に制限されるという課題を解決するものであるから,引用発明は,本願発明を実施する上で前提となる課題を解決するものであるとはいえるものの,本願発明と引用発明とでは,解決すべき課題が同一あるいは重複しているといえない」と述べた上で、「引用発明における清澄は,前記2ウに説示のとおり,溶融ガラスを1800℃ないし2000℃の温度に加熱することのほか,バッチ内電極等によるホットスポット精製を行う構成を組み合わせてもよいというものであって,これらによるガラスの粘度の低下及び対流の発生に伴い,炉内の溶融ガラスの表面からの気泡の除去が想定されている(物理的清澄方法)と認めることができるものの,それ以外に,例えば溶融ガラスに清澄剤を添加して清澄ガスを発生させることについては,引用例1には何ら記載も示唆もない」ことから、「引用例1には,上記の物理的清澄方法に対して清澄剤を添加して化学的清澄方法により溶融ガラスを清澄することを組み合わせることについては,示唆も動機付けもないというほかない」と判断する一方、「引用例2に記載の発明は,前記に説示のとおり,有害な清澄剤の使用を回避するという点で本願発明と解決課題及び作用効果に重複する部分があり,化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばFe2O3及びSnO2)を添加するものであるほか,減圧又は撹拌という物理的清澄方法を併用するものであるが, 溶融ガラスの清澄が行われる温度は,前記カに記載のとおり,1200℃ないし1500℃にとどまる。また,本件優先日当時の他の化学的清澄方法における清澄温度についてみると, 甲3は,「アルカリ金属を含有しないアルミノ硼珪酸ガラスとその用途」という名称の発明についての公開特許公報(特開平11-157869号)であり,そこには, 化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばSnO2及びCeO2)を添加することが記載されている(【0030】~【0032】)が,実施例においては,1620℃で清澄が行われているにとどまる(【0035】)。甲5は,「高強度ガラス繊維用組成物」という名称の発明についての公開特許公報(特開平11-21147号)であり,そこには,化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばFe2O3)を添加することが記載されており,当該清澄剤が,1600℃を超える温度では効果があまり期待できない従来の清澄剤に対して,高い溶融温度を有するガラスにおいても十分に効果を発揮することが記載されている(【0013】~【0015】)が,実施例においては,1600℃で溶融が行われているにとどまる(【0018】)から,それよりも更に高温である本願発明の1700℃以上の温度や,引用発明が採用する1800℃以上の温度で当該清澄剤を使用することについてまで示唆があるとはいえない。甲6は,「無アルカリガラスおよびフラットディスプレイパネル」という名称の発明についての公開特許公報(特開平10-45422号)であるが,そこには,化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばFe2O3及びSnO2)を添加することが記載されており(【0025】),処理の対象となる無アルカリガラスは,粘度が102ポイズ以下となる温度が1770℃以下であることが記載されている(【0029】)が,実施例では,1500℃ないし1600℃で溶解されているにとどまる(【0032】)。甲10は,「ガラス技術製造上の欠陥」という題名の文献(昭和55年(1980年)刊行)であるが,そこには,化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばSb2O3及びAs2O3等)を用いることが記載されているが,清澄酸素の放出は,最高でも1520℃であることが記載されているにとどまる。乙4は,「ガラス溶融炉からの有毒物質の放出を減少させるための方法である水強化型清澄法」という名称の発明についての公開特許公報(特開平11-79755 号)であるが,そこには,化学的清澄方法として本願明細書に記載の清澄剤(例えばSb2O3及びAs2O3等)を用いることが記載されている(【0023】)ほか,清澄剤による清澄ガスの最大放出が生起する温度と溶融ガラスの加熱温度とを一致させることが望ましいこと(【0003】【0004】)が記載されているが,溶融ガラスの清澄は,1450℃又は1500℃で行われているにとどまる(【0049】【0064】)ばかりか,「殆どの商業的なガラス炉は,すでに最高耐火温度近くにおいて運転されており,ガラス清澄温度をさらに高くすることは多くの場合実用的ではない」(【0069】)との記載がある」との各証拠の記載を認定した上で,「化学的清澄方法が実施される溶融ガラスの温度は,最高でも1620℃であって,それを超える温度とする例は見当たらず,また,それを超える温度で清澄剤を使用することについて示唆するものも見当たらないから,本願発明の1700℃以上の温度や,引用発明が採用する1800℃以上の温度において本願明細書に記載の清澄剤を使用することは,本件優先日当時の当業者にとって公知でも自明でもなく,また,当該使用をすることが動機付けられることもなかったものというべきである」と判断しました。
4-2
本判決は、さらに、「本願発明は,前記1アに記載のとおり,例えば清澄時間を従来技術の約3時間から約30分に著しく短縮するという作用効果を有するものであるところ,当該温度により清澄時間をこのように著しく短縮できることについては, 前掲各証拠には何ら記載も示唆もないから,引用発明を含む従来技術に接した当業者は,本願発明の奏する上記作用効果を予測することができなかったものといえる」と述べ、「引用例1に接した本件優先日当時の当業者は,引用発明に基づいて本件相違点のうち,「少なくとも1種の清澄剤が溶融ガラスに添加され」ることを容易に想到することができなかったものというべきである」と判断し、「本願発明は,本件審決の認定に係る引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,これに反する本件審決は,取消しを免れない」と結論付けました
5 本判決は、想到性を否定するとともに、効果の予測不可能性を根拠として進歩性を認めた例として参考になります。
以上
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます