発酵処理装置審取
平成23年(行ケ)第10284号 審決取消請求事件
請求認容
本件は無効審判成立審決の取消しを求めるものです。
争点は,進歩性の有無です。
裁判所の判断は9ページ以下
1 本判決は、まず、「甲第2号証には,従来技術及び実施例として,処理槽(発酵槽)の長尺方向の縁の両側にレールを設け,処理槽を跨ぐように設けられ,レール上を車輪で走行する架台に撹拌機を搭載し,この架台を長尺方向に往復走行させて被処理物を撹拌する構成が記載され,甲第3号証にも,実施例として,堆積槽(発酵槽)の長尺方向両側にU字溝ないし溝によらない走行路を設け,堆積槽を跨ぐように設けられ,走行路を車輪で走行する台車に撹拌機を搭載し,この台車を長尺方向に往復走行させて被処理物を撹拌する構成が記載されている。したがって,本件出願当時,発酵槽の長尺方向の側壁ないし縁部にレールや溝を設けたり,あるいはレール等を設けずに単に走行路を設定して,発酵槽の上方を跨ぐような構造を有する台車がこの走行路を車輪で往復走行できるようにし,かつこの台車に,回転軸に撹拌のためのパドル等が取り付けられており,正回転,逆回転による回転動作(撹拌動作)が自在な撹拌機を搭載する程度までのことは,当業者の周知技術にすぎなかったということができる」と認定した上で,「甲第2,第3号証に記載されたかかる周知技術と引用発明はその技術分野が共通であり,甲第2,第3号証に記載された発酵槽(処理槽,堆積槽)が,引用発明の発酵槽と同様に,内部を隔壁で物理的に区切らない単一槽であることまでは是認できる」との判断を示しました。
2 しかしながら、本判決は、引用発明の,解決課題に着目し、「引用発明が解決しようとする課題は,発酵槽内を複数の領域に概念的,論理的に区切り,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理する点にあり(甲1の2頁左下欄10~16行),引用発明の撹拌機も,下記第1図のとおり,発酵槽(1)内からいったん移動通路(15)上に移動させた後,移動通路上を発酵槽の長尺方向に沿って他の領域の前(開口部側)まで移動させ,再度発酵槽内に移動させることによって,上記の領域ごとの被処理物の撹拌頻度の管理を可能にするものである」と認定した上で、「引用発明においては,撹拌機の構成と移動通路とは機能的に結び付いているものである」と判断し、引用発明の発酵処理装置の構成から移動通路(15)を省略し,かつ奥行き方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する甲第2,第3号証から認められる周知技術に係る撹拌機の構成に改め, 同時に概念的,論理的に複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することができるようにすることは,甲第2,第3号証に表れる構成が当業者に周知のものであるとしても,本件出願当時,当業者において容易ではあったと認めることはできない」と結論付けました。
本判決は、周知技術と引用発明はその技術分野が共通であるにもかかわらず、引用発明においては,撹拌機の構成と移動通路とは機能的に結び付いているものであることを理由として、引用発明の発酵処理装置の構成から移動通路(15)を省略し,かつ、周知技術に係る撹拌機の構成に改めること等は容易ではないと判断したものであり、単に技術分野の共通性のみでは動機付けを安易に肯定しない近時の裁判例の傾向に沿ったものと思われます。
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