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東京電力の点検データ改ざん事件(5)隠蔽を暴く

2011-08-22 00:13:29 | 原発・放射能

東京電力の点検データ改ざん事件(5)隠蔽を暴く

  

5.原発検査制度の談話を許すな

原子力安全・保安院は、軽微なトラブルを軽視する態度を自ら取り、今回のデータ改ざん事件でも維持基準や事後保全による検査制度を先取り的に導入しようとしている。これが、今回の東京電力による自主点検データ改ざん事件を助長し、温存することにつながったのであり、原子力安全・保安院には、その反省と自己批判が必要である。来年度からの原発検査制度の改定前倒し実施を中止し、より厳格な検査と事故の未然防止を徹底できないような今の状況下では原発の安全を保証できないという勧告をこそ出すべきである。

 

第1に、2000年7月に日系米国人の元GE社員がら内部告発を受け、「規制当局は、的確に情報収集を行うため、法律に基づく報告徴収や立ち入り検査を機動的に実施していく必要がある」(総合資源エネルギー調査会・原子力安全・保安部会「検査制度見直しの方向性(案)-検査制度のあり方に関する検討会中間取りまとめ-」p.8, 2002.6.20)としながら、その行為を取らなかった。

「こうした軽微な事象が存在すること自体は、災害防止上支障がなく、規制上も問題がないことであるが、事業者の組織の中や社会的に批判されることが懸念されると、従業員個人あるいは事業者として情報の提供および活用を躊躇しがちである」(同p.9)と事故隠しの可能性を十分認識し、事故隠しの張本人が非協力的になるのは当たり前であることを知りつつ、「東京電力が非協力的である」ことを理由に、規制当局として当然行うべき東京電力への点検指示や調査を行わなかった。これは規制当局としての義務違反である。

 

第2に、東京電力の点検データ改ざんが明らかになった直後の8月29日、原子力安全・保安院は、「原子力発電所における事業者の自主点検作業記録に係る不正等に関する調査について」を発表し、「8基の原子炉においては、ひび割れ等が存在する機器が、現在も取替又は十分な修理が行われないまま炉内に残っている疑いがあることから、念のため安全についての確認を行い、」「直ちに安全性に重大な影響を与える可能性があるものは含まれていないと判断」し、運転継続を認めた。

これは、現行検査制度が事業者に求める「施設の技術基準への適合」=シュラウドのひび割れの修理を規制当局が求めないことになる。また、原子力安全・保安院による運転継続判断の根拠は、極限荷重評価法や破壊力学的評価による許容レベル以下だというものだが、これが維持基準として使われるとすれば、恐ろしいことである。

原子力安全・保安院は未だ導入されてもいない維持基準による保安検査を先取りし、維持基準を非常に緩く設定する形で運転継続を決定した。これは規制当局が自ら現行検査制度を掘り崩すものである。

今回は、東京電力の自主的判断で、シュラウドにひび割れの疑いがある5基の原発を順次運転停止し、点検することになったが、点検の結果、ひび割れが確認されれば、修理が必要になるはずである。それとも、原子力安全・保安院は「修理する必要はない」というのであろうか。

また、ジェットポンプ関連機器に未修理損傷のある疑いがある他の3基については、停止して点検する予定もない。点検データが改ざんされた疑いのある他の5基および今回は指摘されていない他の原発についても同様である。指摘された件以外には点検データの改ざんがないという保証がない以上、少なくとも東京電力の全原発を止めて、定期点検および自主点検の全データについて生データとの照合を行い、改ざんの有無をチェックすべきである。

 

第3に、原子力安全・保安院は9月3日、2004年度の予定だった検査制度改定を来年度に実施する方針を決め、電気事業法と原子炉等規制法の改正案を早ければ今秋予定の臨時国会に提出する準備を始めた。同改正案には、報告徴収義務の対象範囲拡大や事業者の点検記録類の保存期間延長、違反時の罰則強化などを盛り込むが、主眼はそこにはなく目玉は、原発でひび割れ等の欠陥が見つかってもある技術基準を満たしておれば補修せず、そのまま原発の運転を認めるという「維持基準」の導入である。

自主点検でひび割れが見つかれば修理しなければならないという「厳しすぎる検査制度」が今回の改ざん事件を招いたとの居直り的発言が出され、南直哉東電社長も9月3日の原子力委員会による意見聴取で「維持基準があれば、現場のプレッシャーも違っていた」と述べた。これは盗人猛々しい。本末転倒である。

多重防護の最初の「事故の未然防止」は、定期検査等により「告示501対象設備では常に設置時の状態が保持される」ことがその根拠の一つであり、経年劣化に関しても新設時にはそれを考慮した裕度が持たせてあるから大丈夫だということではなかったか。

維持基準の導入は、これまでの安全管理の考え方を根底から覆すことになるばかりか、原発の経済性が失われ、また、原発の老朽化が進めば進むほど、事業者に都合良いように維持基準そのものがどんどん緩められ、様々な欠陥が蓄積されていくことになろう。

東京電力の点検データ改ざん事件で検査制度が強化されるのではなく、逆に緩められるというのは前代未聞である。これでは、綱紀粛正どころか、多少のひび割れや冷却水漏れは許されるという「緊張感のゆるみ」が助長され、事故の危険が一層増すことになろう。

スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故という重大事故を経験し、日本でも福島原発事故や美浜原発事故という大事故を経験しながら、検査制度を緩めなければ原発の経済性を確保できない状態に陥っている。そうまでして、危険な原発を強硬的に運転し続けることに関して、国民的合意が得られれているというのであろうか。

 

第4に、電力会社から国へ報告される事故には、電気事業法や原子炉等規制法に基づく「法律対象」の報告事象と1977年3月通産大臣通達による「通達対象」の報告事象とがある。1985年以降、法律対象の報告件数は15~25件で推移しているが、通達対象の報告件数は1980年代後半が20~30件に対し、1990年代には10件程度へ激減している。特に「機器の軽微な故障」の報告件数が激減している。

これは東京電力で隠蔽された自主点検によるひび割れ等の「機器の軽微な故障」が隠されたからではないかと推定される。東京電力の点検データ改ざん事件は、事故件数や原子炉スクラム回数が少ないことを日本の原発の優秀さの証明だとしてきた電力会社の主張がいかにデタラメで危険な事故隠しと強行運転によるものであるかを示している。

このような事故隠しの体質を徹底的に暴き出し、膿を出し尽くすことこそが規制当局に求められているのではないであろうか。

 

終わり

 

東京電力の点検データ改ざん事件(4)隠蔽を暴く 



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