お早うございます。
今日は河内の昔話です。
《にりんの木》
加納村の北にある沼のほとりに、天にも届くほどの大きな「にりんの木」がありました。
むかしから「この木から龍が空に昇るんや。そうすると、村に幸せがやってくるんやー」と言い伝えられていて、それを信じているおばあさんが、注連縄を張ってにりんの木を大切にしていました。
ある年のことです。
梅雨の時には、天の底が抜けたように何日も大雨が降り続き、恩智川の堤が切れて村人を困らせました。
その反対に七月には一滴の雨も降りません。川は日に日に細い流れとなり、用水路へ引き入れる水もなくなってしまいました。
村人は、氏神様に雨乞いをしました。でも灼(や)けるようなお日様は、生駒の山から顔を出し、無情にも田畑を焦がして、お城のむこうへ沈んでいきます。
そんな時
「雨を降らすと言われている龍に頼んではー」
「にりんの木に頼んだら、龍を昇らせ雨を降らしてくれはるんやろー」
との声があがりました。
「そんなあほなことー」
と、てんで相手にしなかった人たちも、日照りのひどさにたまりかね、にりんの木にむかって雨乞いを始めました。でも少しも雨は降りません。田畑は亀の甲のようにひびが入り、稲の苗は黄色くなりはじめました。このままだと村に大きな飢饉がおしよせてきます。
日ましに、にりんの木に祈る人が多くなってきました。全身全霊をかたむけて祈る村人の精も根も尽き果てたかと思われた日の夕方のことです。もくもくとにりんの木から黒い雲が湧き出し、ゆっくりと東の方へと広がっていきました。その雲が、みるみる厚い層となって、にりんのこずえをおおいます。とー
「ごぉーっ」
響きとも、雷の音ともつかない大きな音がしたかと思うと、“ピカッ”するどい稲光が四方の空をひき裂きました。
「あっ」
息を呑む村人の頭の上を、黒々とした雲のかたまりが、にりんの木をよじ登るように大空めがけて昇っていくではありませんか。
その中に、龍のらんらんとした眼(まなこ)を、青光りするうろこを村人たちは確かに見たのです。
呆然と見上げる人たちの顔や背にポツポツと水の滴が落ちてきました。命をかけて願った雨だったのです。
やがてごうごうと音を立てて降ってくる雨に、人々は小躍りをして喜び合いました。
今日は河内の昔話です。
《にりんの木》
加納村の北にある沼のほとりに、天にも届くほどの大きな「にりんの木」がありました。
むかしから「この木から龍が空に昇るんや。そうすると、村に幸せがやってくるんやー」と言い伝えられていて、それを信じているおばあさんが、注連縄を張ってにりんの木を大切にしていました。
ある年のことです。
梅雨の時には、天の底が抜けたように何日も大雨が降り続き、恩智川の堤が切れて村人を困らせました。
その反対に七月には一滴の雨も降りません。川は日に日に細い流れとなり、用水路へ引き入れる水もなくなってしまいました。
村人は、氏神様に雨乞いをしました。でも灼(や)けるようなお日様は、生駒の山から顔を出し、無情にも田畑を焦がして、お城のむこうへ沈んでいきます。
そんな時
「雨を降らすと言われている龍に頼んではー」
「にりんの木に頼んだら、龍を昇らせ雨を降らしてくれはるんやろー」
との声があがりました。
「そんなあほなことー」
と、てんで相手にしなかった人たちも、日照りのひどさにたまりかね、にりんの木にむかって雨乞いを始めました。でも少しも雨は降りません。田畑は亀の甲のようにひびが入り、稲の苗は黄色くなりはじめました。このままだと村に大きな飢饉がおしよせてきます。
日ましに、にりんの木に祈る人が多くなってきました。全身全霊をかたむけて祈る村人の精も根も尽き果てたかと思われた日の夕方のことです。もくもくとにりんの木から黒い雲が湧き出し、ゆっくりと東の方へと広がっていきました。その雲が、みるみる厚い層となって、にりんのこずえをおおいます。とー
「ごぉーっ」
響きとも、雷の音ともつかない大きな音がしたかと思うと、“ピカッ”するどい稲光が四方の空をひき裂きました。
「あっ」
息を呑む村人の頭の上を、黒々とした雲のかたまりが、にりんの木をよじ登るように大空めがけて昇っていくではありませんか。
その中に、龍のらんらんとした眼(まなこ)を、青光りするうろこを村人たちは確かに見たのです。
呆然と見上げる人たちの顔や背にポツポツと水の滴が落ちてきました。命をかけて願った雨だったのです。
やがてごうごうと音を立てて降ってくる雨に、人々は小躍りをして喜び合いました。