1か月半ぶりのバンコクです。この暑さはすっかり夏を思わせます。セミも鳴き始めました。
日本に居ても、こちらに来ても、一番気がかりなこと、それはやはり妻の病状です。1月から国立チュラロンコーン病院で、タキソテールという抗がん剤を3週間に一度点滴しており、先週3回目が終わりました。12月に、腋の下に再発した乳がんの摘出手術をバンコク病院で受けましたので、術後の抗がん剤は薬代の安いチュラロンコーン病院でというお決まりのコースです。
ところが現在の妻の状態に関して、またしても2つの病院の医師の間に見解の相違があることがわかりました。術後に腋の下に見つかった、もうひとつのシコリの件ではありません。(組織検査の結果、これはガンではないことが既に判明しています)
昨日、術後の定期チェックのためにバンコク病院へ行ったときに、私の疑問を担当医師にぶつけてみて明らかになったことがあるのです。それはPETの画像についての解釈です。
PETというのは、これまで見つけることのできなかったような、ごくごく小さなガンを発見できる画期的な画像診断法で、「陽電子放射断層撮影(Position Emission Tomography)」というそうです。ブドウ糖と同じような成分をもったFDGという物質を体内に注射してから断層撮影するのですが、要するに、がん細胞は普通の細胞の3~8倍も多くのブドウ糖を取り込む性質があるので、がんの部分にFDGが集まるのです。すると、がんのある部分が白く光って見えるので診断できるというわけです。
昨年の12月に再手術する前に、バンコク病院でこの検査を受けました。その結果、腋の下の塊はがんということがPETによっても判明しただけでなく、体内のほかの場所には、はっきりとした所見が見られないという診断だったのです。
ところが、腋の下だけではなく、もう1か所、右の鼠径部のあたりに、ごく小さく光っているものが画像には写っていました。バンコク病院の検査技師は、これを「反射」と解釈し、そのように記述しています。ところが、チュラロンコーン病院の医師は、鼠径部、つまりリンパ節があるところですが、そこにも既に転移している可能性があると、妻に告げていたのです。その疑問を、バンコク病院のD先生にぶつけてみました。
「チュラロンコーンの先生は、右の鼠径部にもがんがあるかもしれない、その可能性は5分5分だと言っているそうです。その根拠は、ここで受けたPETの画像に、小さな丸く光るものが写っていたからです。私もその画像は見ています。D先生は、がんの可能性はあるとお考えですか?」
下手な英語が通じたのか、通じなかったのか、D先生は「一体何の話ですか?」という反応を示しました。
「PET検査って、いつの検査のことですか?」
「ですから、12月にここバンコク病院で受けたPETです。」
「ええ?腋の下以外の場所にがんは見つかっていませんよ。」
そう言いながらも、鼠径部に小さな丸いものが写っていたことは間違いないと私が主張したので、D先生も手許にあるパソコンからPET検査の結果を改めて読み出しました。
「これは反射の可能性が高く、あるいは炎症反応の可能性も否定できないと書いてあります。つまり、PET画像では、実際にはない塊が、反射によって写りこんでしまうことがよくあるのです。反射かどうかの判断はむずかしいのですが、どの場所に写っているかが重要です。」
D先生の説明によると、妻の病気は乳がんである。乳がんは転移の経路がほぼ決まっている。とくにリンパ節に転移する場合は、乳房や腋の下から、いきなり鼠径部に転移する可能性はほぼゼロだというのです。
「もし鼠径部にがんが転移しているなら、それより前に、胸部(鎖骨付近)のほかのリンパ節に転移するはずです。私は乳がん専門ですから、これは断言できますよ。」
「つまり、鼠径部の光っているのは、がんではない、ということですか。」
「そうです。」
このやりとりは英語だったので、妻はほとんど理解できないかと思ったのですが、何となく意味が分かったようでした。
「(おなかを指して)ここにも小さいがんがあるかもしれないと思っていたんですよ。チュラの先生がその可能性があると言うんですから。でもないんですね!!」
「少なくとも12月の検査の時点では、ないと言っていいです。」
妻は、てっきり自分の体の中にガンがまだあると思っていたようなのです。D先生の説明を聞いて、胸をなでおろしたのは、私というよりも妻の方でした。
1か月ほど前に、腋の下のシコリががんの再発なのかどうかを巡っての、2つの病院の医師の見解の違いについて書きました。その時も思ったのは医師の「専門性」ということです。チュラロンコーン病院の担当医は、がんが専門なのですが、とくに乳がんだけをみている先生ではありません。消化器系とそれ以外のがんで分かれているようですが、いろいろながんの患者を日常的にみています。それに対して、バンコク病院のD医師は、乳がん以外のがんは扱っていません。同じ画像を見ても、判断が分かれる原因は、ひょっとしてそこにあるのではないかと私は思っています。
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この辺でなんか怪しいなとおもいましたが(悪性腫瘍だの骨髄性結核だのと重病のオンパレードがあるわけないという思い込みですが)結果的には腫瘍でも結核でも無かったです。多分、糖がリンパ節に集まっただけだったのでしょう。
PET検査は、よく行われるが専門の方が少ないのかもしれません。
私の調べた範囲でも、PETはがんではないのに反応したり、逆に糖分をあまり吸収しない種類のがんが存在したりするようです。新しい検査法が開発されても、すべての医師がその検査法に応じた高度な診断技術を身につけているわけではないと思います。
医師に助言できる優れた検査技師の存在も重要かと思いますし、PETのような優れた検査法でも、過信は禁物ですね。