香港の司法独立に暗雲、企業に大きなリスク
香港の司法制度が目的通りに機能するのを中国当局が許さないのであれば、世界的なビジネス・
金融の拠点という香港のステータスは危うくなる。
香港の不動産市場や金融システムはこれまで、デモに伴う混乱を比較的うまくしのいできた。
背景には、香港の司法制度に関しては「一国二制度」の原則が適用されるとの確信がビジネス界に
浸透していたことがある。特に、法の支配や個人の権利を保障する独立した司法制度が存在するとの
信頼があった。
香港高等法院(高裁に相当)は18日、物議を醸している「覆面禁止法」は違憲との判断を下し、
司法の独立性を証明した。公共の場での集まりに覆面着用を禁止する同規則は、激化の一途をた
どっているデモを抑制することが狙いだ。警察当局は裁判所の判断を受けて、逮捕を停止すると
明らかにした。しかし、中国国営の新華社は翌19日朝、高等法院の判断は香港行政長官の権利を
侵害しており、香港の法律の合憲性を判断できるのは全国人民代表大会(全人代、国会に相当)だけと
主張する声明を伝えた。
これは、現在に至るまでの司法制度の歩みとは異なる。全人代の常務委員会が香港のミニ憲法に
当たる「基本法」を解釈する権限を有していることは事実だ。だが、この究極の権限を行使したのは、
香港が中国に返還された1997年以降で5回にとどまる。一方、香港の裁判所は憲法に関する問題に
ついて、これまでにも多数の判断を下してきた。
香港のビジネス界にとって、これは不吉なことが起きる前兆だ。覆面禁止法は、英国の植民地下に
あった1922年に創設された緊急事態の枠組みを根拠として制定された。香港の裁判所が行政長官の
決定を却下できなくなれば、行政長官は単に緊急事態を宣言するだけで、実質的に無制限の規制権限を
手に入れることになる。メディアの検閲や不動産没収、個人の拘束・送還などだ。
今後の行方は、次に何が起こるかに大きく左右されるだろう。懸念材料の1つが、全人代が基本法の
新たな解釈を発表し、将来的に香港の判事の手足を縛ることだ。そうなれば、行政長官は広範かつ
無制限の権限を手に入れ、中国当局の利益に反する個人を守るという裁判所の能力を弱めることになる。
これが意味するところは明らかだ。そのような事態に陥れば、企業はおそらく、香港で投資や上場、
金融取引を行うことに懸念を強める。また知的財産の保護、人や資本の移動の自由に対する信頼を
傷つけることにもなりかねない。米中の緊張が高まればなおさらだ。
香港の司法独立に対する信頼が失われれば、香港はさらに混迷を深める恐れがある。そうなれば、
中国本土の繁栄と金融安定にも悪影響が及ぶはずだ。