イスラム国のシリア「首都」支配、崩壊の兆候
多くの戦闘員がラッカから逃亡
2017 年 3 月 29 日 10:30 JST 更新 THE WALL STREET JOURNAL
過激派組織「イスラム国(IS)が首都と称するシリア北部ラッカではここ数日、同組織に忠誠を誓う数百人が逃亡している。ラッカでは人通りも途絶え、水や電気も不足するなど、ISの統治が崩れつつある兆候がある。
現地住民らは、恐れられていたISの宗教警察も姿を消したと述べた。通りをパトロールしているIS戦闘員の数も、軍事検問所の数も少なくなっているという。
ISは26日、ラッカ近郊のタブカにあるダムが米国主導の空爆の下で崩れるだろうと警告。逃亡が始まったのはそれからだ。警告をきっかけにパニックが発生し、IS戦闘員も住民も高台に向かって逃げたという。
その後、一部の戦闘員は自らラッカに戻り、ISも若干の補充要員を現地に送り込んだもようだ。しかし現地住民の話では、ISの戦闘部隊全体としては激減したままだという。
ダム崩壊の警告は逃亡の隠れ蓑か
戦闘員の激減がISによるラッカ放棄の最初の兆候なのか、あるいはラッカ防衛のために再結集しようとしているのかは分からない。米国主導の有志連合はIS掃討作戦の一環でラッカ攻撃を準備している。有志連合のスポークスマンは、ISが有志連合の動きを阻止するため、ダム爆破を検討している可能性もあると述べた。
多くのIS戦闘員は既に、ここ数カ月間でラッカを抜け出し、シリア東部デリゾールの軍事拠点に移動していた。地元の人権活動家らは、ダムに関する26日の警告は、IS戦闘員とその家族が一般市民にまぎれて逃亡する隠れ蓑にする意図があるのではないかと推測している。
ただ、現地住民はラッカの状況が最近数日間で大きく変化したのは間違いないと語っている。
住民らによれば、食料品店は営業しているが、法外に価格をつり上げている。これは、価格統制を行う宗教警察が不在のためだという。また市内の複数の病院は閉鎖されており、タブカのダムから供給される水や電気も不足している。
ラッカはかつてISの強さの象徴であり、同組織が自ら宣言したシリアとイラクの広大な地域にまたがる「カリフ国」にとって決定的に重要な都市だった。現在、ラッカは有志連合から激しい軍事圧力にさらされている。米軍兵士と民兵組織「シリア民主軍」のメンバーたちは、タブカ市周辺で進軍し続けている。
有志連合は27日までに、戦略的に重要なタブカ空軍基地とハマとラッカを結ぶ道路をISから奪取。この道路は、ISが西部の支配地域からラッカを補強するのに使っていた主要道路だ。
英国に本拠を置く「シリア人権監視団(SOHR)」は28日、ISがタブカの兵力を補強するため、ラッカから戦闘員900人を送り込んだと報告した。
ISは、米国主導の空爆によってタブカのダムの制御室が破壊されたと主張している。
Photo: rodi said/Reuters
しかし、有志連合のスポークスマンは、空爆によるダムの構造上への影響はないと否定。地元出身のエンジニアと技術者のグループ(その一部はダム保守に現在従事しているか、あるいは過去に従事していた)は、ダムが構造的に不安定だとしたうえで、修復のための停戦を呼び掛けた。
ある西側外交官は、ISがダムを管理する人的資源を失い、その結果としてラッカに水と電気が来なくなった可能性があると指摘。ISはダムの欠陥を有志連合のせいにしようとしているのではないかと語った。
ラッカの小学校が米軍によるIS空爆の巻き添えに。子供たちが犠牲になった。