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莫大な援助が水の泡、アフガニスタン崩壊が日本に与えた衝撃 。20年来の対アフガニスタン外交が破綻

2021-08-31 11:59:54 | 戦争・内戦・紛争・クーデター・軍事介入・衝突・暴動・デモ

莫大な援助が水の泡、アフガニスタン崩壊が日本に与えた衝撃。20年来の対アフガニスタン外交が破綻

2021.8.25(水) JPpress  古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授

タリバンが政権を掌握したアフガニスタンから米軍機で退避する人々(2021年8月23日)

 

 日本の20年来の対アフガニスタン外交が数日にして崩れ去った──。

 アフガニスタンの現政権の崩壊によって、これまでの20年にわたる日本の対アフガン外交も崩壊する

結果となった。

 

 日本政府は、イスラム原理主義のタリバン勢力を排するアフガニスタン・イスラム共和国(以下「アフガ

ニスタン共和国」)の国家づくりの努力に多額の政府開発援助(ODA)を与えることで協力してきた。

だが8月中旬、アフガニスタン共和国の国家としての枠組みが消滅して、戦後の歴史でも特筆される日本

外交の破綻をきたすこととなった。

 

広範な領域に及んだ日本の援助

 日本とアフガニスタンの国家同士の交流は歴史が長いが、1996年にタリバンが政権を奪取してから、

日本政府は後退し、現地の状況をみるという慎重姿勢となった。しかし2001年末の米国による軍事攻撃で

タリバンが首都カブールから逃走し、2002年に反タリバンのアフガニスタン共和国が発足すると、

日本政府は大幅な経済支援を開始した。現地の軍事制圧を果たした米国や、イギリス、ドイツ、イタリア

など北大西洋条約機構(NATO)諸国の治安維持活動を側面から支援する取り組みでもあった。

 

 日本政府は2002年から2020年までの間に、アフガニスタン共和国に対して総額約70億ドル(現在の

通貨レートで約7700億円)のODA援助を与えてきた。2019年には、日本の対外無償援助のなかでアフガ

ニスタンへの1億2000万ドルが第2位の額だった。ちなみに1位の相手はミャンマーで1億7000万ドルだった。

 

 アフガニスタン共和国に対する世界各国の経済援助の額では、日本は米国やイギリスなどに次いで

いつも4位、5位の順位であり、アフガニスタンにとって重要な支援国となっていた。

 

 日本政府の援助は、農業の整備や灌漑の建設などに始まり、幹線道路や空港の建設、整備などの

インフラ建設に投入された。さらに日本のODAは、各地の難民の救済や警察官の訓練、警察機構への

財政支援から、タリバンの武装解除、社会復帰、地雷の撤去などまで広範な領域に及んだ。

 

 この日本の援助の究極の目的は、アフガニスタン共和国が民主主義、人権尊重、法の支配に立脚する

近代国家に成長することで、イスラム原理主義のタリバンによる厳しい女性抑圧やアルカーイダのような

テロ組織との関連などを排することだった。要するに反タリバンの民主主義国家の成長を目標とする援助

だったのだ。

 

 日本は単に自国からアフガニスタンへの2国間援助を続けるだけでなく、国際的なアフガン支援の

運動の推進役も務めてきた。2012年7月には、50数カ国の政府代表を東京に招き、「アフガニスタン

支援の東京会合」という国際会議の主役となった。同趣旨の国際会合は2016年にもベルギーの首都

ブリュッセルで開かれ、この時も日本は主要援助国として積極的な役割を果たしている。

 

 そして日本政府は、菅政権となった2020年11月にも、スイスのジュネーブで開かれた「アフガニスタン

支援の会合」に茂木敏充外務大臣がビデオ参加して、2021年から2024年までの4年間、アフガニスタンに

毎年1億8000万ドルの経済援助を続けると宣言した。しかもその援助の内容はすべて民主化を支援する

資金投入であり、かつてのタリバン政権によるイスラム的統治の否定でもあった。

 

米軍全面撤退で国家の枠組みが崩壊

 ところが「アフガニスタン支援の会合」からわずか9カ月後の2021年8月に入って、その計画は完全に

崩れ去ってしまった。タリバンが勢力を強め、アフガニスタン共和国の政府や軍隊を崩壊させてしまった

からだ。

 

 その最大の原因は、米国バイデン政権の唐突な米軍全面撤退である。日本の経済援助は、実は米軍や

NATO諸国軍隊の駐留によるアフガニスタン共和国の国家の枠組み保持があってこそ可能だったと言える。

その枠組み全体が瓦解すると、日本のこれまでの政策は必然的に水泡に帰すというわけだ。

 

 タリバンは、民主主義や人権尊重という価値観に依拠したアフガニスタン共和国の国家構築を根底から

否定する。そのため、そうした国家を構築するための外国からの援助も否定されてしまうこととなる。

日本の外交政策にとっては手痛い誤算であり、打撃である。

 

 日本の外務省は今後タリバン政権に対してどのような態度をとるのか明らかにしてはいない。現地での

予期せぬ激変に打つ手を失った、というところだろう。いずれにせよ現時点で明らかなのは、この展開が

戦後の日本外交の大きな破綻となったという事実である。

 


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