

『一茎有情』 宇佐見英治 / 志村ふくみ (用美社)
‘The Prelude’ William Wordsworth
The mind of man is framed even like the breath
And harmony of music ; there is a dark
Invisible workmanship that reconciles
Discordant elements, and makes them move
In one society.

『英国で一番美しい風景 湖水地方』 木谷朋子 / 辻丸純一 (小学館)
歌舞伎の一番はじめの幕が開くときは、ほんとうに華やかで心が浮き立つ感じがする。三味線と鳴物に続く長唄の、柔らかく張りのある言葉で運ばれる旋律は、美しく澄みとおった色彩の大掛かりな舞台背景と相俟って、観る者を一気に古の物語の世界へと誘う。




本当は全幕を観たかったのだが、今回は第一幕の『平成代名残絵巻(おさまるみよなごりのえまき)』だけを、四階の幕見席で観た。理想的には、月に一回くらいのペースで歌舞伎を観たいのだけれど、そうもいかない事情があるのである(笑)。ただ、一等席が良いのは当然であるが、この天井に近い幕見席での立ち見も、想像以上に音は良く聴こえるし、舞台の全体が見渡せて、歌舞伎を観る喜びを存分に味わえる場所である

一幕しか観ていないので劇場プログラムをどうするか迷ったが、買っておいてよかった。ドナルド・キーン先生の「藤十郎さんの米寿に寄せて」という聞き書きの文章が載っていたからだ。

『能・文楽・歌舞伎』 ドナルド・キーン (講談社学術文庫)
“次に歌舞伎を見たのは一九五三年十一月、京都の南座の顔見せで、私が歌舞伎に開眼したのはこの時だった。そして、最初に魅了されたのは女形であった。その時に見た近松門左衛門の『曽根崎心中』でお初に扮した中村扇雀の神秘的な美しさが忘れられなかったのである。”


