プレゼンの鉄則!!
日本招致団が駆使したプレゼンの技法
「これが日本人のプレゼンか!」
と、世界中が驚いたプレゼン。それが、2013年9月7日に開かれたIOC総会での、オリンピック東京招致委員会のプレゼンでした。
しかも、以前から日本のプレゼンが素晴らしかったかといえば、決してそうではない。だからこそ、世界はうめいたのです。「日本人のプレゼンは変わった」「ここまで変われるものなのか」と。今回は、そのプレゼンに使われた技法を、パフォーマンス心理学の視点から明らかにしていきます。この10の“鉄則”を守れば、誰でもプレゼン上手になれるでしょう。
【第1の鉄則】グローバルプロトコル「LEP理論(セオリー)」を知る
図を拡大
効果的なプレゼンの三要素(LEP理論)
まずは図をご覧ください。
欧米のプレゼンはもともと古代ギリシャの雄弁術に端を発しています。
「万学の祖」と呼ばれるアリストテレスは、相手に自分の話が効果的に伝わるレトリックス(修辞学・弁論術)の条件を、次の三支点としました。
[L]logos(ロゴス):弁論の内容
[E]ethos(エトス):論者の人柄
[P]pathos(パトス):聞き手の感情
「ロゴス」(L)は、英語で「logic(ロジック)」になりました。話の内容に論理性があり、エビデンスがきちんと入っていることが、ロジカルプレゼンの条件です。
「エトス」(E)は、英語では「ethos」(イーソス)となり、「信憑性」を意味します。「この人が言うから本当だ」と思わせる、人柄の力です。
「パトス」(P)は、英語になって、やはりニュアンスが変わって「pathos(ペーソス)」=「哀感」になりました。これは、聞き手の「感情」(エモーション)に訴えることです。話を聞いた相手が感動したり、感極まって涙を流したり、おもしろがって笑い出したりしたら成功です。ちなみにこれは、私のプレゼン研修や政治家のスピーチコンサルの際に使っている基本形でもあります。
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より「感情」に訴えたほうが勝てる
【第2の鉄則】感情に訴える
今回のオリンピック招致プレゼン成功の理由は、ロジカルだけで迫らず、聞き手の「感情」に訴えたことにあります。人は、理屈だけでは動かないのです。
東京ではオンタイムで電車が走り、安定した交通機関をはじめ、高度な都市機能があること。ドーピング違反者ゼロ。45億ドルの資金。これらは非常に論理的でした。
しかし、IOC審査員たちが気持ちを動かされたのは、これらの「ロゴス」ではなく「パトス」によってだったのです。
第一に、高円宮妃久子さまの東日本大震災に対する感謝いっぱいの笑顔。第二に、「片足を失ったけれど、スポーツに支えられて嬉しかった」という佐藤真海選手のニコニコ輝く笑顔。
そして、ついには安倍晋三首相までもが、「1964年の東京オリンピックに感動し、大学時代はアーチェリーをやった。スポーツは素晴らしい」と、身振り豊かに訴えました。彼らは、聞き手の「感情」に訴えたのです。
東京のプレゼンが終わった後、ロゲIOC委員長は開口一番こう感想を述べました。「彼らは最も多くのIOC委員の感情に訴えた、素晴らしい」、この言葉がすべてを物語っています。
【第3の鉄則】語り手が醸し出す「信憑性」(エトス)を大事にする
「あの人が言うから、本当だ」と、逆に「あの人が言うからたいしたことではあるまい」。どちらも、会社や団体でもよく聞こえてきそうな発言です。
語り手が醸し出す信憑性、つまり本当らしさや信用は、プレゼンの中では最も付け焼き刃が利かないことです。
これまでさまざまな実績を積み上げ、過去に嘘をついていないこと。または、その人の社会的地位を鑑みて、「やると言ったらやるだろう」と相手を信じ込ませる力です。
この代表例が、安倍首相でした。福島の汚染水が当然問題になるだろうと、前もっての情報収集でわかっていましたから、この問題については「私が責任を持つ」と言ったのです。これがもし、猪瀬直樹都知事が「私が責任を持つ」と言っても、恐らく信憑性が薄かったことでしょう。汚染水問題に全責任を負っている一国の首相が言うのだから間違いないだろう、これが「エトス」です。
エトスは、にわかには身につけがたいので、ビジネスマンがエトスの力をつけようと思ったら、日頃の実績を積み、決して嘘を言わない。これが一番大事なところです。
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いい意味で予測を裏切る「コンシート技法」
【第4の鉄則】予測を裏切る「コンシート技法」
スピーチやプレゼンで、まず登場した瞬間に聞き手が予測を裏切られてハッとしたら、これぞまさしくたった“一瞬”で相手の心をつかむハットトリック(hat trick)です。
パフォーマンス心理学では、これを「コンシート技法」と呼びます。「コンシート」を直訳すれば「あざむき」ですが、これは悪い意味ではなく、素晴らしい「コントラスト効果」を出すための技法として使われています。
日本のプレゼンに、IOC審査委員は、出端から予測を裏切られました。日本流の男性優位かつ年功序列のプレゼン順でくるだろうと思っていたら、それが見事外れたのです。先頭のスピーカーもその次も、にこやかな女性だったのですから。
日頃笑い話ばかりしている上司が急に真顔になってシビアな話をしたり、逆にいつも真面目なことばかり言っている経営者が唐突にジョークを言うのも、この類です。
【第5の鉄則】10分間ルール
日本のオリンピック招致プレゼンでは、それぞれの持ち時間は平均すれば1人10分前後でした。誰かが予定より長くしゃべってしまったら、あとの誰かが時間を削ることになります。
私のパフォーマンス心理学の実験では、相手の耳に心地よく聞こえる話のスピードは、1分間あたり266文字(日本人の場合/常識的に漢字がほどよく含まれている)です。
今回は、1人のプレゼンターがだいたい4~5分に話を抑えて、映像や音楽などをそこに有効に加えました。物語的なものからメカニックなものまで、バリエーション豊かな映像が効果的に使われたのです。
社内会議などでも話がなかなか終わらない人がいますが、おのおのの持ち時間をきちんと守るのは、チームプレゼン必勝のミニマム条件と言えます。
【第6の鉄則】三本絞り
人間の頭はどこまで記憶できるか? アメリカの心理学者の研究によると「7つまでは記憶できる」という説もありますが、一般的には3つくらいのほうが人に聞いてもらえます。
竹田恆和会長が、これを採用しました。
○運営の安全
○祝祭
○革新
短時間でポイントを6点も7点も次々に話されると、それぞれの印象が薄くなります。そのため、「三本絞り」は、短いプレゼンの必勝法のひとつなのです。
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【第7の鉄則】言葉以外の動作「非言語表現」のフル活用
ここで、言葉以外の動作にも注目です。まず1点目に、右手で軽い握りこぶしをつくり、左胸に置いて「誓い」の言葉を言う動作を、数人のプレゼンターが使いました。これは、約束や誓いを表す「表象動作」(エンブレムズ)です。胸に手を置いて何かを伝えるだけで、「約束しました」「誓いましたよ」「祈ります」というシンボルになります。
2点目は、安倍首相の「(状況は)制御されている」(アンダー・コントロール)と言いながら、両手のひらで水面を下に押しつけるような動作をしたことです。「ちゃんと押さえ込んでいる」という言葉を、この動作によって補強したのです。
これをパフォーマンス心理学では、「補助動作」と呼びます。この補助動作を上手に使うと、言葉の意味が強まるのです。
3番目が、滝川クリステルさんおなじみの「お・も・て・な・し」といってからの合掌です。
この合掌には賛否両論あり、「日本人の合掌はあんなに腕を水平にしないから、あれはタイ式だ」とも話題になりましたが、祈りの気持ちをシンボリックに示したかったのでしょう。これも「表象動作」です。
【第8の鉄則】スマイルの効果
笑顔は、言葉が伝わらなくても自分の意思が相手に伝わっていく、最強の「非言語表現」です。
今回のプレゼンでは、公用語の英語やフランス語を上手に使ったことも有効な武器でしたが、何よりの「無言の言葉」は、全員がスマイルを意識して使ったことです。
私の実験室でのスマイルの主な効果は、次の3点です。
○相手の警戒心を解く
○親密感を与える
○相手のやる気を喚起する
はじめの2人のスピーカー(高円宮妃さま、佐藤選手)はもちろんとして、普段はあまり笑顔がなさそうな男性陣も、しっかりスマイルを採用していました。
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自分自身の話で相手の心の鍵を開かせる
【第9の鉄則】「自己開示」の物語を話そう
プレゼンで少しだけ自分自身の話をすると、相手が心の鍵を開きます。これを、パフォーマンス心理学では「自己開示」と呼びます。
佐藤選手の骨肉腫と実家の被災は、まさに辛い自己開示であり、にもかかわらず、スポーツによって立ち直ったという話は力強い自己開示でした。
安倍首相の大学時代のアーチェリーも、ほとんどの人が知らなかったであろう、びっくりの自己開示です。
このように、プレゼンの中にちょっと自分の物語を織り込むと聞き手が乗ってきます。ただ、自慢話にならないよう社内プレゼンなどでは、そこだけはよく気をつけましょう。
【第10の鉄則】リハーサルはあがりを防ぎ、自信を得る最大の武器
日本のプレゼンターは、全員が早めに現地入りをし、徹底的にリハーサルを行いました。特に、チームプレゼンではこれが不可欠です。
日頃デスクを並べている仲間とではなく、新しい仲間とならなおのこと、チームリハーサルが必要です。自分ひとりでの練習を繰り返し、チームで合わせてさらに練習すると、回を重ねるごとにどんどん上達していきます。
その最大の証拠に、安倍首相のプレゼンが、06年の所信表明演説より、この度の13年の演説のほうがずっと素晴らしいプレゼンになっていたことです。プレゼンは、練習すればするほど進化します。場数を踏んだ人のほうがプレゼンがうまいのは、1回ごとの真剣勝負がリハーサル効果を上げるためです。
読者諸氏の皆様も、この10の法則を頭に入れて、すぐにプレゼンの練習を開始してみませんか。
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