一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

石破新総裁に円高・株安の洗礼、新成長戦略の提示なければ一段の市場変動も

2024-09-27 16:29:11 | 経済

 27日に行われた自民党の総裁選では、決選投票の末に石破茂・元幹事長が高市早苗・経済安全保障相を破り、新総裁に選出された。1回目の投票では高市氏の後塵を拝して2位だった石破氏の逆転勝利で新首相の地位を確かなものにしたものの「薄氷の勝利」とも言える。

 総裁選勝利の直後から始まった円高・株安は、金融所得課税の強化に言及して「マーケットに冷たい」とのイメージが付きまとう石破新総裁への手荒い洗礼だったのではないか。この動きは短期的に収束するにしても、潜在成長率が0.5%前後まで落ち込んでいる日本経済を立て直す具体的な成長戦略を打ち出すことが石破氏の着手すべき優先的な課題であると考える。海外勢が注目する具体的な成長戦略を提示できれば、日本株は中長期的に上昇するだろう。だが、成長戦略なき政権運営が続けば、今よりも数段深刻なマーケットからの「挑戦」を受けることになるだろう。

 

 <高市トレード、石破総裁誕生で急激な巻き戻し>

 26日の当欄で予想したとおり、自民党総裁選の結果をみたマーケットは上下に大きく振れた。まず、1回目の投票で、高市氏が181票を獲得して1位となり、2位の石破氏の154票を大きく引き離した結果が伝わると、ドル/円は大幅にドル高・円安が進行して一時、146円40銭付近まで円が売り込まれた。その結果を受けて日経平均株価も大幅に上昇し、前日比903円93銭(2.32%)高の3万9829円56銭で取引を終えた。

 市場では、党員・党友票で高市氏が109票と石破氏の108票を上回り、議員票も72票対46票で差がついていることを材料に「決選投票でも高市氏が勝つ」との見方が台頭。これ以上の日銀の利上げに否定的な高市氏が新首相になれば、円安と株高が続くとみた「高市トレード」が加速する展開になった。

 だが、決選投票では石破氏が215票を獲得し、高市氏の194票を上回って逆転勝利し、高市トレードは瞬時に巻き戻しを強いられた。ドル/円は一時、142円後半までドル安・円高が進行。その後は143円台に戻したものの、日経平均先物はいったん3万8000円を割り込む水準での取引となった。

 

 <市場に冷たいイメージ、成長戦略の提示で修正必須>

 石破新総裁にとって、この日の円高・株安は市場からの強烈なパンチと映ったに違いない。だが、その種をまいたのは石破氏本人だった。自民党総裁選の告示前の今月2日に株式売却益などの金融所得に対する課税強化の可能性に言及。21日には法人税引き上げの余地にも言及した。

 マーケットから見ると、金融・資本市場に「冷たい人」とのイメージが鮮明になり、新総裁の就任後に株価が下がりやす候補とみなされていた。

 ただ、決選投票前の5分間の演説では、岸田文雄政権の経済政策を継承するとの見解を強調しており、岸田首相が強調してきた「資産運用立国」の実現を無視することはないだろう。今回の総裁選では、体系だったマクロ経済政策をめぐる議論は全くかみ合わないままで、石破新総裁の打ち出すマクロ経済政策について、マーケットは金融資産課税の強化などの断片的な情報しか提供されていない。

 石破氏はなるべく早く、経済政策に関する具体的でまとまったパッケージを示す必要があるだろう。日本株を左右する欧米などの海外勢は、低い潜在成長率と進行する少子高齢化の中で日本経済をどのようにピックアップさせるのか、効果的で具体的な成長戦略の提示を求めている。

 足元の「高市トレード」の巻き戻しは、短期的に収束することが予想されている。だが、近く想定される衆院解散・総選挙を前に打ち出されるとみられる経済対策の中に、日本経済の成長性を高める政策が全くなく、災害復旧や従来型の公共投資だけのメニューでは、強い失望感を抱くだろう。成長戦略の不在を放置したままでは、日本株の先行きに光明は見いだせない。

 一方、多くの市場関係者が関心を持っている日銀の金融政策と石破氏の発足させる新内閣との関連では、日銀の独立性を重視する石破氏のスタンスから推定すれば、日銀の利上げに反対する姿勢を示すことはなく、経済・物価の情勢をにらみつつ日銀が利上げの判断を固めることがあれば、その判断を容認すると予想する。

 

 <注目される財務相・官房長官などの人事>

 ここで注目される政治日程を整理すると、10月1日に臨時国会が召集され、その日のうちに組閣が断行される見通しだ。今回の逆転勝利に大きく貢献したのは、岸田首相や林芳正官房長官らが影響力を保持している旧宏池会(岸田派)の決選投票での石破氏支持だったとみられている。このため、組閣や自民党内閣人事で林氏が重要ポストに就く可能性が高いと筆者は予想する。 

 また、決選投票では小泉進次郎・元環境相やその後ろ盾となった菅義偉元首相の石破氏支持も大きなパワーと持った可能性があり、決選投票での逆転勝利の「論功行賞」を人事でどのように行うのか、早速、石破新総裁の手腕が問われることになる。

 その意味でマーケットが注目するのは、財務相、経済財政担当相、外相などの布陣だろう。また、内閣のスポークスマンである官房長官の人選によって、内閣全体の印象が大きく変わりそうだ。

 ただ、政治的な意味合いでは誰が幹事長ポストを射止めるのかが重要だ。新しい石破内閣の重心がどこにあるのかを見抜くことは、市場動向を予測する上でも極めて重要だと考える。

 

 <衆院選は11月3日ないし10日の可能性>

 次に多くの注目が集まるのは衆院解散の時期だろう。石破新総裁は総裁選中に臨時国会では新政権の方針をめぐって野党と議論する必要性に言及しており、予算委員会の開催も視野に入れていることを示唆していた。このため衆院解散の時期は、10月15日ないし17日、衆院選の投開票日は11月3日か11月10日の可能性があるとみられている。

 総裁選の熱気が冷めないうちに衆院選を実施し、自民・公明の連立与党で衆院の過半数を確保という思惑が自民党内にあるようだが、政治とカネの問題に再び世論の注目が集まるようなら、立憲民主党の新代表に就任した野田佳彦元首相ら野党からの厳しい追及を受け、あっという間に劣勢になるリスクもある。

 これまで衆院解散・総選挙を目前に控えた時期に株価が上昇する展開が見られてきたが、今回も同様に株価が追い風を受けるかどうかは、石破氏の発足させる新内閣の支持率や衆院選での情勢次第となるのではないか。

 マーケットに広がった「市場に冷たい石破氏」というイメージの払しょくが最初の課題になると予想している。

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円安の背景に米金利上昇と高市氏当選の思惑、27日の結果次第で市場変動も

2024-09-26 14:10:51 | 経済

 26日の東京外為市場でドル/円が一時、145円台に乗せた。ドル高・円安が進んだ背景には、2025年末にフェデラルファンドレート(FF金利)が3%まで低下するというマーケットの織り込みが大幅すぎるのではないかとの見方から、25日のNY市場で米長期金利が上昇したことがある。

 また、一部の参加者は自民党総裁選(27日投開票)で高市早苗・経済安全保障相が決選投票を経て当選するとみて、円安進展のポジションを構築し始めているとの見方も出ている。このため石破茂・元幹事長が当選した場合には、円売りの理由がはく落してドル安・円高方向に戻ると予想する声もある。自民党総裁選の結果によって27日の東京市場で大きな変動が生じる可能性もありそうだ。

 

 <市場の米利下げ織り込み、行き過ぎの指摘 ボウマンFRB理事発言も材料に>

 145円台での取引は今月4日以来、約3週間ぶり。25日のNY市場で、10年米国債利回りは4.9ベーシスポイント(bp)上昇の3.784%で取引を終えた。

 米長期金利が上昇した理由として、マーケットが現状で織り込んでいる大幅な利下げ幅に対し、一部で疑念が生じていることがある。マーケットは2024年中にさらに75bpの利下げを織り込み、2025年末には2.75%ー3.00まで利下げするとのイールドカーブ(金利曲線)を形成している。

 しかし、今月17-18日の米連邦公開市場委員会(FOМC)で0.50%の利下げに反対したボウマン米連邦準備理事会(FRB)理事は24日の講演で、インフレの主要指標はFRBが目標とする2%をなお「不快なほど」上回っていると指摘。インフレの上振れリスクは依然として顕著であるとの見解を示していた。

 ボウマン理事の指摘に対して、市場参加者の中にも最高値圏で推移する米株価や堅調な経済指標、米財政悪化への格付け会社の懸念などを材料に、米長期金利が上がりだすと警戒している向きも少しずつ増えており、そうした思惑が米長期金利の上昇に結びついたと言える。

 米長期金利がこのまま上がり続けるのか、短期的には26日発表の新規失業保険申請件数や27日の個人消費支出(PCE)価格指数が注目を集めそうだ。

 

 <市場の一部に高市氏優勢の思惑、円売りポジション形勢の材料に>

 日本の個人投資家の中には、0.5%の米利下げやその後の継続利下げが予想される中で、どうしてドル高・円安が進むのか疑問に思っている向きがあるようだ。だが、すでに25年末には3%までFF金利が低下することを織り込んでいる前提でドル/円が143円台で推移し、その織り込みが過剰であるとして米長期金利が上昇すれば、ドル/円がドル高・円安方向で反応するのは自然な流れと説明できる。

 複数の市場関係者によると、26日の円安の動きには、米長期金利の上昇のほかにもう1つの理由があったという。それは、自民党総裁選で高市氏が当選するのではないかとの思惑が一部の市場参加者の中で高まっていることが影響しているという。

 多くの市場参加者は9人の候補が乱立した今回の総裁選の勝利者を織り込めずにいたが、25日付読売新聞朝刊が1面で、自民党総裁選の情勢分析を掲載し、今のところ石破氏が126票、高市氏が125票を獲得する状況で、114票を固めた小泉進次郎・元環境相を含めた3人のうちの2人が決選投票に残るとの見通しを示した。

 複数の市場関係者によると、あくまで報道ベースでの情報をもとにしているが、石破氏と高市氏の決選投票になった場合、国会議員の人気度で劣勢の石破氏が高市氏との戦いで敗れ、高市氏が当選するとの期待感が足元で盛り上がっているという。

 高市氏は日銀による今以上の金融引き締め(利上げ)に反対しており、当選すればドル高・円安が進むとの思惑が形成されつつある。また、円安を好感して日経平均株価も上がりやすい地合いになるとの見通しが出ている。

 

 <石破氏、岸田氏の経済政策継承を表明>

 ただ、27日の投開票の結果が、一部の市場参加者の思惑通りに展開するとは限らない。読売の情勢調査によると、1回目の投票で獲得する党員・党友票は石破氏が98票、高市氏が94票となっている。もし、党員・党友票で石破氏が事前の予想を上回って多くの支持を獲得した場合、衆院選が間近に迫っている中で党員・党友票のトレンドを重視した国会議員が続出し、決選投票でも石破氏が高市氏を引き離して当選するケースも考えられる。

 また、石破氏は25日の会見で、岸田文雄首相が進めてきた「成長と分配の好循環」を「さらに力強く、確実なものにしていく」と述べ、岸田首相の経済政策を継承する意思を表明した。決選投票をにらんで岸田首相の影響力が及びやすい旧宏池会(岸田派)に支持を求めたかたちで、「議員票で劣勢」という固定イメージが崩壊する可能性もある。

 

 <石破新総裁なら短期的に円高も>

 いずれにしても高市氏が当選すれば、短期的に円安が進んで株高になる可能性がある一方、石破総裁の登場なら高市氏を期待して作られた円安ポジションの手仕舞いがあって、円高方向に振れると予想する。

 ただ、中長期的にドル/円と日本株がどのように振れるのかは、新政権のマクロ経済政策がどのように打ち出されるのかを待ってからになるだろう。

 当欄で何度も指摘したように、そこで重要な判断の材料になるのは、低い潜在成長率を押し上げていくための具体的な成長戦略の内容になる。新たな情報発信が加わらないと、新政権へのご祝儀相場の賞味期限は短期化することになるだろう。

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中国株上昇は一時的か、利下げだけで対応不能な資産デフレ 長期化のおそれ

2024-09-25 15:02:20 | 経済

 中国人民銀行が24日、幅広い金融緩和措置と不動産市場支援策を発表したことで、中国と香港の株式市場は24、25日と株価が続伸した。一方で25日の日経平均株価は小幅反落したが、海外勢を中心にした短期筋が日本株よりも中国株を選好した結果とみられている。

 ただ、金利操作に偏重した人民銀の政策対応だけでは住宅価格の下落に端を発した資産デフレの流れを止めることは難しく、数カ月後にはその実態がマーケットにも伝わって中国株は下落局面に入る可能性があると予想する。中国経済低迷の元凶と言える過剰な住宅供給という実態にメスを入れ、財政資金による大規模な未着工住宅の処理などに手を付けなけれ、住宅価格下落と消費低迷が同時に進行する「21世紀版の中国デフレ」を深刻化させかねない。中国依存度の高い日本企業は、中国経済低迷の長期化を覚悟する必要が出てきたと指摘したい。

 

 <広範な人民銀の政策パッケージ>

 人民銀の潘功勝総裁は24日の会見で、近日中に銀行の預金準備率を50ベーシスポイント(bp)引き下げると表明。年内にさらに25─50%bpの引き下げの可能性があるとも述べた。また、具体的な日時は明言せずに新たなベンチマークである7日物レポ金利を0.2%ポイント引き下げ、1.5%とし、中期貸出ファシリティー(MLF)金利は約30bp、最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)は20─25bp低下すると説明した。

 これに関連し、人民銀は25日に中期貸出ファシリティー(MLF)の金利引き下げを公表。期間1年のMLFの金利を2.30%から2.00%に引き下げた。

 24日の政策パッケージでは、既存住宅ローンの金利を平均で50bp引き下げるとともに、全ての種類の住宅について、頭金の最低必要額を価格の15%に引き下げることも公表した。

 さらに商業銀行が他の事業体の株式購入や自社株買い資金の調達を可能にすることを目的に、人民銀行が最大3000億元の低利融資を提供することも打ち出された。

 

 <自社株買い資金に人民銀の低利融資、中国株上昇の大きな材料に>

 マーケットが顕著に反応したのは、この最後の部分の自社株買い資金の調達を容易にするための人民銀の低利融資の提供だった。24日の上海総合指数は114.2078ポイント(4.15%)高の2863.1255で取引を終え、25日も1%超の上げ幅を維持している。

 一方、25日の日経平均株価は5営業日ぶりの反落となり、前日比70円33銭(0.19%)安の3万7870円26銭で取引を終えた。3万8000円付近の戻り売りに押されたとの見方があったが、複数の市場筋によると、海外勢を中心とした短期筋が中国株の選好を強め、アジアの取引時間帯での短期筋による日本株買いのパワーダウンが目立っていたという。

 

 <経済低迷の元凶は住宅価格の下落>

 だが、今回の人民銀の対応策だけでは、中国経済の元凶と言える住宅価格の下落などを起点にした資産デフレの現象を止めて、消費を上向かせて経済を活性化させることは難しい。人民銀行が2020年5月に発表したデータでは、都市部世帯住民の住宅保有率は 96%、そのうち 2戸保有が31%、3戸保有が10.5 %だった。

 その住宅価格の下落に歯止めがかからない。8月の新築住宅価格指数は、主要70都市のうち67都市で前月比マイナスとなった。半数を上回る都市での下落は15カ月連続となった。

 

 <膨張した空き家、住宅価格下落が消費低迷に>

 この下落の背景には、住宅市場の需給が大幅に供給過剰になっていることがある。中国当局から正確なデータが公表されていないものの、ロイターの取材に対し、中国政府の元高官は2023年9月の段階で、中国国内にあるマンションの空室や空き家の規模は、中国の総人口14億人で埋め切ることは不可能かもしれないとの見方を示していた。

 また、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は今年5月、中国国内で6000万戸の集合住宅が売れ残っており、政府の支援がなければ売却に4年余りかかるとの試算を公表している。

 この供給過剰問題の解決に政府が乗り出し、住宅価格の下落に歯止めをかけないと、消費の低迷による様々なマイナスの波及効果が中国経済全体に及び、中国経済全体の低成長を長期化させるという悪いシナリオを現実化させかねない。

 実際、8月の中国国内の新車販売台数は前年同月比でマイナス10.7%と落ち込んでおり、8月の消費者物価指数(CPI)は半年ぶりの高水準と言いながら前年比プラス0.6%にとどまっている。8月生産者物価指数(PPI)は前年比マイナス1.8%に落ち込んだ。

 

 <供給過剰解消に必要な財政資金、阻む2つの要因>

 デフレ的な色彩をこれ以上、強めないようにするには資産デフレの発生源とも言える住宅市場における供給過剰を公的資金の投入で止める必要があるが、2つの理由でためらっていると思われる。1つ目は、大規模な未着工ないし完成後の空き家になっている住宅を公的資金で買い取るには数兆元単位の財政資金が必要になり、その財源をどこに求めるべきか中国政府内に異論が多いとみられていることだ。

 2つ目は、出来すぎたキャベツをトラクターで押しつぶして生産調整するようなことは、農村部で十分な住宅環境に恵まれていない中国国民の反感を買うだけでなく、安い住宅を供給するという中国当局の基本方針に反するという面があるからだと筆者は予想する。

 

 <危惧される日本の失われた30年の再来、日本政府と企業も覚悟必要>

 しかし、このまま手をこまねいていては、せっかく人民銀の金利操作で稼いだ「時間」を無駄に使ってしまうことになりかねず、マーケットが当局に「無策」の烙印を押すようになれば、中国株と人民元に売り圧力がかかり、その先はマネーの中国からの逃避が鮮明になるという悪い展開が控えることになるだろう。

 中国向けの売上高比率が高い日本企業の中には、すでに気付いているところがかなりあるのではないか。「これはどこかで見た風景によく似ている」と・・。日本が1990年代後半から経験したバブル崩壊の過程では、何回も政府が総合経済対策を打ち出し、そのたびにいったんは株価が上がるものの、本丸の不良債権処理に手を付けるまでは、出口の見えない堂々巡りとなり、やがて「失われた30年」となってしまった。そのプロセスに中国も入ってしまった可能性があるのではないか。

 中国ビジネスが主戦場の日本企業は、中国政府がいつまでたっても住宅市場の供給過剰に手を付けないのであれば、ある種の決断をする時が来ると予想する。

 また、新たな首相の下に発足する日本の内閣は、中国経済の低迷が長期化した場合に何が起きるのか、今から詳細なシミュレーションを作成するべきだろう。

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保守寄りの論客・野田新代表で自民党総裁選に影響も、織り込み進まぬマーケット 

2024-09-24 13:00:54 | 政治

 立憲民主党の新代表に野田佳彦・元首相が選出された。27日に投開票される自民党総裁選にも影響が出ると筆者は考える。早ければ10月27日にも実施が予想される次の衆院選を前に、保守寄りの中道路線を掲げる論客の野田氏と互角以上に渡り合える新総裁はだれか、との視点で投票権を行使する自民党国会議員が少なくないとみられているためだ。

 マーケットは混戦の自民党総裁選の結果を絞り切れていないが、衆院解散・総選挙から投開票日にかけて日本株が上昇した過去のケースを踏まえ、どの候補が当選すれば何が衆院選のテーマになって、どういう銘柄が買われるか証券業界ではシミレーションが進んでいるに違いない。ただ、今回は首相経験のある野田氏も新首相の候補の一角に入れておく必要が出てきたかもしれない。

 

 <自民には難敵、世襲議員とカネで追及も>

 23日の臨時党大会での代表選では、野田氏ら4人による1回目の投票で過半数を獲得した候補者がおらず、決選投票で野田氏が枝野幸男・元代表を破って新代表の座を射止めた。

 野田氏が勝利した背景には、近づく衆院選で勝てる「選挙」の顔としての野田氏の強みが意識されたことがあった。立憲民主党の弱点と言われる政権担当能力への疑問点を元首相の経験で打ち消し、外交・安全保障政策の現状維持を掲げ、これまで自民党を支持してきた「穏健保守層」を自民党から奪い取ることを野田氏は狙っており、政治とカネの問題で支持率を落としている自民党にとってはかなりの難敵と言えるだろう。

 また、世襲の制限では、政治団体の資金は最大5000万円まで親から子に名義変更しても非課税になるという現行法の構造に着目し、運用によっては相続税の抜け穴になりかねない点に野田氏が着目している点も見逃せない。世襲議員が多い自民党にとって、世襲の制限を真正面から掲げる野田氏は、非常に戦いにくい相手になる可能性がある。

 

 <衆院選間近、自民・立民とも選挙の顔意識>

 これまでの自民党総裁選で、野党党首選びの結果が自民党内の動きに影響を与えたというケースはなかったと言える。その点で、今回の自民党総裁選は衆院選直前で選挙を意識せざるを得ず、立民と同様に自民党も「選挙の顔」としての機能が優先事項になるだろう。

 さらに論戦力で定評のある野田氏と互角以上に戦える能力があることや、穏健保守層などより中道寄りの有権者にどの程度、支持の手を伸ばせるのかという点も意識されることになったと思われる。

 

 <日本テレビ調査、1位石破氏・2位高市氏・3位小泉氏>

 日本テレビが9月20日ー21日に実施した自民党員・党友を対象にした緊急電話調査(1007人が回答)によると、石破茂・元幹事長が31%の支持を得て1位となり、次いで高市早苗・経済安全保障相が28%で2位、小泉進次郎・元環境相が14%で3位となった。

 この結果を368票の党員・党友票に換算すると、石破氏が121票程度、高市氏が110票程度、小泉氏が54票程度になるという。日本テレビの取材では、国会議員票を加えると、石破氏が160票程度、高市氏が140票超、小泉氏が110票弱という情勢と伝えている。

 もし、この調査のすう勢が1回目の投票結果に出た場合、決選投票は石破氏対高市氏となるが、上記で指摘したように、野田氏が立憲民主党の新代表になった影響がどのように出てくるのかが1つのポイントになりうると考える。

 高市氏の政治的主張が「岩盤保守」に強く支持される一方、穏健保守層の取り合いで野田氏に押し込まれるのか、それとも互角の戦いに持ち込めるのか。この点を決選投票で自民党議員がどのように判断するのか、ということがクローズアップされるだろう。

 他方、石破氏が勝利した場合は、野田氏との主張の差が小さいため、かえって自民党の特徴を訴えることが難しくなるとの指摘も一部で出ている。

 

 <能登大雨被害と補正予算編成、野田氏の主張に自民党はどう対応するか>

 野田氏は24日午後の立憲民主党両院議員総会で、幹事長に小川淳也前政調会長(53)、政調会長に重徳和彦衆院議員(53)などを起用する新執行部の人事案を提示し、承認された。小川氏と重徳氏は同党の次代を担う中堅として期待されており、刷新感を狙った登用とみられている。

 このように野田氏は、かなり「したたかに」に衆院選を戦く態勢を整えようとしているだけでなく、石川県能登半島での大雨被害を受け、2024年度補正予算の成立を優先するよう早くも主張。早期の衆院解散に傾いている自民党をけん制している。

 これに対してマーケットは、新総裁がだれになるのか絞り込めておらず、衆院選前の「与党勝利と経済対策を期待した株買いは出てきていない」(国内証券関係者)という。

 織り込みが進んでいない分、逆に27日に新総裁が選出された後、マーケットが急激に変動する余地もありそうだ。

 終盤情勢をめぐる各種調査結果や野田新代表の登場など、党内を駆け巡る様々な思惑の中で自民党総裁選は27日に結果が判明する。

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市場混乱封じた植田総裁、賃金・サービスに手応え 注目される10月展望リポート 

2024-09-20 17:28:10 | 経済

 注目されていた20日の植田和男・日銀総裁の会見は、「安全運転」に終始した結果、ドル/円もややドル高・円安に動いただけで乗り切り、日銀としては大成功だったのではないか。また、8月上旬以降の円高が輸入物価上昇を通じた物価全体の上振れリスクを減少させ、利上げを判断する際に時間的な余裕があると指摘したことは、ドル売り・円買いを仕掛けようとしていた短期筋の動きを封じることになった。

 同時に今後は賃金上昇の継続やサービス価格上昇への波及などを注視していく姿勢も鮮明にし、次の利上げ判断では賃上げとサービス価格の上昇、消費動向が重要である点を明確にした。10月の金融政策決定会合で公表される経済・物価情勢の展望(展望リポート)の中で、賃上げとサービス価格、消費動向で判断を前進させることができるなら、次の利上げの姿が浮かび上がってくると筆者は指摘したい。

 

 <輸入物価起点の上振れリスク減少、判断に時間的余裕ある>

 この日の会見では、日銀が展望リポートで示したような経済・物価見通しに沿った動きが確認できれば、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくというこれまでの見解をあらためて表明した。

 一部の海外勢を含めた短期筋は、植田総裁が上記のような利上げパスに関する発言をすれば、円買いを仕掛けようと身構えていたが、反対に円安方向に振れる結果になった。

 最大の要因は、8月上旬以降の円高進展で輸入物価上昇を起点にした物価上振れのリスクが「相応に減少している」と明言。合わせて経済・物価状況と利上げによる緩和度合いの調整に関する判断をする際に「確認していく時間的余裕がある」と指摘したことだ。この結果、ドル/円は143円台後半までドル高・円安が進んだ。

 市場の一部では、米連邦公開市場委員会(FOМC)と日銀金融政策決定会合の2大イベントを経て、ドル安・円高が進展すると予想する声が根強くあり、140円割れを想定する参加者も少なくなかった。もし、そうなれば、円高→日本株安という8月上旬のような市場変動の再来も予想され、日銀の想定する利上げパスにもかなりの影響が出かねないリスクがあった。

 だが、植田総裁は市場変動をじゃっ起しかねない発言を回避し、複数の質問にも同じような趣旨で回答するなどの「安全運転手法」を駆使し、相場変動の地雷原を乗り切ったと言えるのではないか。

 

 <賃金上昇や消費データ注目、判断引き上げてよい材料>

 同時に次の利上げ時期を判断する際のヒントに関し、かなりの情報を提供したと筆者は考える。まず、賃金動向をかなり重視し、データが高めに出ていることに手応えを感じている点について率直に認めている点を指摘したい。 

 所定内賃金が高めの伸びを示し、夏季ボーナスもしっかりと増加していることに植田総裁は言及した。会見では細かいデータの出所について説明がなかったが、日銀が重視している毎月勤労統計の共通事業所の所定内給与(一般)は7月に前年比プラス3.0%と高い伸びを示している。

 これが消費に波及すると予想しているとみられ、植田総裁も会見の中で、日銀が出している消費活動指数が2024年第2四半期に増加に転じ、7月も増加が続いているほか、日銀のヒアリングの結果や高頻度データなどからも緩やかな増加基調が今後も続くとの見解を示した。

 その上で、7月以降も日本経済は「(日銀の)見通し通りに動いている」とし、基調的な物価上昇率の判断を上げても「よいような材料」と指摘した。

 

 <円高の物価への影響、米経済判断含め10月展望リポートで分析結果公表へ>

 他方、米経済をはじめとする海外経済の動向がリスク要因であるとも指摘。米経済がソフトランディングするのか、それよりも厳しい景気動向になるのか先行きは「若干、不透明感を高めている」とも述べ、現状では国内の好材料と「相打ちしている」との表現を使って、利上げ判断に踏み込む時期が接近しているわけではないことをにじませた。

 また、足元で140円台前半まで進んできた円高が国内物価に与える影響に関して、米経済がどうなるかという点を見極める中で、為替変動の物価への影響を分析し、10月に公表する展望リポートの中で判断を示してくとの方向性を示した。

 

 <植田総裁が示した重視する5つのポイント>

 さらに注視していくデータとして、1)秋以降も賃金上昇の動きが継続していくのか、2)最低賃金引上げの影響がパートの賃金などに具体的に出てくるのか、3)賃金引き上げの影響がサービス価格への転嫁継続として出てくるのか、4)来年の春闘への動きがどうなるのか、5)サービス価格に影響を与える消費の動向──などを挙げた。

 サービス価格の上昇に関しては、多くの企業で10月に価格改定が予定されていることにも言及し、10月のサービス価格の変動を注していることにも触れた。

 

 <10月展望リポート、市場との対話の節目になるか>

 このように見てくると、国内の賃金上昇の動向やサービス価格、消費動向に一段と前向きの動きがあると日銀が判断すれば、10月の展望リポートでそうした情報を盛り込んで、市場への情報発信を積極化させる展開がありうると筆者は考える。

 他方、リスク要因として提示した米経済のソフトランディングの行方は、米連邦準備理事会(FRB)が年内に50ベーシスポイント(bp)の利下げを実施するかどうかや、11月の米大統領選の結果にも左右されるため、10月の金融政策決定会合の時点で明確な方向性を見出すのは難しいのではないか。

 したがって10月の日銀金融政策決定会合の段階では、国内における賃金から物価への波及、消費の堅調さを確認しつつ、本格的な利上げ判断をスタートさせるのは12月会合以降になると予想する。

 この日の会見では、日銀の賃金や消費などへの積極的評価と米国などの海外経済や市場変動へのリスクをにらみつつ慎重に判断する姿勢を織り交ぜた絶妙の配分が目立ったと言えるだろう。

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