総務省が発表した7月の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年同月比プラス3.1%と前月の同3.3%から伸びが鈍化したものの、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIは同3.4%と前月から横ばいで高止まりが継続した。政府の補助金支給により、電気・ガス料金、ガソリン価格が下がり、高校授業料の無償化の影響や東京都の水道料金引き下げなど物価押し下げ効果のある政策対応が多かった中で3%台の物価上昇が継続した。
物価上昇圧力の中心にあるのが食料品価格だ。生鮮食品を除く食料は前年同月比プラス8.3%と前月の同8.2%を上回り、前月比プラス幅の拡大は12カ月連続となった。日銀はコメ価格に代表される食料の価格上昇はいずれ鈍化すると予想してきたが、猛暑の影響で今年秋以降のコメ価格の高止まりが予想され、その他の食料品価格も10月に大規模な値上げが予想される。ジャクソンホール会議に出席している日銀の植田和男総裁が日本の物価情勢について、何らかの情報発信を行うのか大きな関心が集まっている。
<電気・ガスやガソリン下落、政府の支援策で>
コアCPIが3%台の伸びとなるのは8カ月連続。7月は、政府の支援策によって電気代が前年同月比マイナス0.7%、都市ガス代が同マイナス0.9%と下がり、ガソリン価格も同マイナス1.3%となり、エネルギー全体は同マイナス0.3%と下落基調が鮮明だった。
さらに高校授業料の実質無償化によって公立の高校授業料が同マイナス94.1%と大幅に下がり、東京都の水道基本料金の無償化で、水道代は同マイナス2.3%と下落した。
<生鮮除く食料は8.3%上昇、実質賃金マイナスの公算大>
にもかかわらず、コアCPIが同3.1%と高止まったのは、食料品の価格上昇が大きかったためだ。生鮮食品を除く同8.3%となり、CPIを1.98%ポイント押し上げた。
その結果、実質賃金を計算する際に使用する「持ち家の帰属家賃を除く総合」は前月の同3.8%から同3.6%へと上昇幅が圧縮されたものの、3%後半の水準が維持され、7月の実質賃金もマイナスの可能性が高まった。
<物価高継続なら、政府・与党への世論の反発強まることに>
実質賃金マイナスの長期化は国内総生産(GDP)の50%超を占める個人消費の伸びを鈍化させ、内需主導の景気回復の道のりを険しくする大きな要因となっている。
さらに今年7月の参院選における最大の争点だった「物価上昇」をめぐる政策対応に対する国民の審判も、政府・与党の対応では解決しない、という結果だったとみるべきだ。
すなわち、足元の食料品価格上昇を中心にした物価上昇を止めることができなければ、政府・与党は根本的な支持率回復に失敗することになると指摘したい。
<上昇率鈍化見込んだコメ価格、猛暑・渇水で高値継続の展開か>
7月金融政策決定会合後の会見で、日銀の植田和男総裁はコメ価格の上昇はいずれ鈍化し、食料品の価格上昇も沈静化することでCPIの上昇率全体も減速して、どこかの時点で実質賃金はプラス転嫁するとの見通しを示していた。
しかし、今回の7月全国CPIの結果を見ていると、生鮮食品を除く食料の価格上昇に鈍化の兆しは見えていない。
2024年産米の大幅な上昇が起きていたコメ価格をめぐっては、その値上がりの動きはその年だけの現象という見方が当初は根強く、日銀も25年後半からはコメ価格の上昇幅が次第に縮小して、どこかで前年割れになるとみていたとみられる。
ところが、今年の猛暑とコメ生産の主体である北陸などを中心とした渇水で、25年産米が不作になるとの見方が急速に広がり出した。日本経済新聞電子版は19日の記事の中で、猛暑による渇水で作柄が悪化するとの懸念から、各産地の農業協同組合(JA)による農家への前払い金(概算金)が今年7月時点の見通しから上昇するため、25年産米の店頭価格が「5キログラム当たり4000円を超える見通しとなった」と伝えた。
<賃上げと物流費上昇、食品値上げの継続促す要因に>
上昇するのはコメだけではない。食料品価格全体が今後、かなり上がりそうな情勢となっている。帝国データバンクが主要195社の食品メーカーを対象に調査した結果、今年8月の飲食料品値上げは1010品目と前年8月を52.8%上回ることがわかった。
また、今年10月の値上げは3000品目を上回りそうで、4月の4225品目に次ぐ「値上げラッシュ」が予想されるという。
さらに重要なのが、足元では物流費と人件費の上昇が値上げに結びついているという構造が出来上がってきたことだ。同社の調査によると、値上げ要因(複数回答)で最も多いのは原材料高の97.2%だが、それに次いで多かったのが物流費の80.0%だった。23年調査で58.4%だったところから急増している。
人件費も23年の9.1%から53.9%へと大幅に伸びており、食料品価格の上昇が一過性でないことをうかがわせる調査結果となっている。
<注目されるジャクソンホール会議での植田日銀総裁の情報発信>
こうした中で植田総裁は、21日から米ワイオミング州で開催されているジャクソンホール会議に参加し、23日午前10時25分(日本時間24日午前1時25分)から行われる「技術と労働市場」をテーマにしたパネルディスカッションで見解を表明する。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁、イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁も加わった討論の中で、最近の日本の物価情勢を含めた日本経済の現状、さらに日銀の金融政策の動向に関して何らかの情報発信があるのかどうか、BOJウォッチャーの関心を集めている。
<ジワリ上がり出した市場の日銀利上げ織り込み、長期金利も1.615%まで上昇>
もし、日本の物価情勢に関して新しい情報が発信された場合、週明けのマーケットは敏感に反応する可能性がある。
というのも、東京市場では日銀の早期利上げに関する思惑がジワリと広がり始め、22日の段階で9月利上げが16%、10月が56%、12月が76%と徐々に織り込みが進みだしているからだ。
22日の円債市場で、10年最長期国債利回り(長期金利)は1.615%に上昇。30年債も一時、3.210%と過去最高水準まで上がった。
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演とともに、植田総裁の発言にも市場はかなり注目していると言っていいだろう。二人の中銀総裁がともに「タカ派」と市場から見なされた場合、週明けの市場で大きな価格変動があってもおかしくないと予想する。