goo blog サービス終了のお知らせ 

一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

コアCPIは8カ月連続の3%台、食品上昇は継続の可能性 日銀総裁発言に注目集まる

2025-08-22 15:16:46 | 経済

 総務省が発表した7月の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年同月比プラス3.1%と前月の同3.3%から伸びが鈍化したものの、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIは同3.4%と前月から横ばいで高止まりが継続した。政府の補助金支給により、電気・ガス料金、ガソリン価格が下がり、高校授業料の無償化の影響や東京都の水道料金引き下げなど物価押し下げ効果のある政策対応が多かった中で3%台の物価上昇が継続した。

 物価上昇圧力の中心にあるのが食料品価格だ。生鮮食品を除く食料は前年同月比プラス8.3%と前月の同8.2%を上回り、前月比プラス幅の拡大は12カ月連続となった。日銀はコメ価格に代表される食料の価格上昇はいずれ鈍化すると予想してきたが、猛暑の影響で今年秋以降のコメ価格の高止まりが予想され、その他の食料品価格も10月に大規模な値上げが予想される。ジャクソンホール会議に出席している日銀の植田和男総裁が日本の物価情勢について、何らかの情報発信を行うのか大きな関心が集まっている。

 

 <電気・ガスやガソリン下落、政府の支援策で>

 コアCPIが3%台の伸びとなるのは8カ月連続。7月は、政府の支援策によって電気代が前年同月比マイナス0.7%、都市ガス代が同マイナス0.9%と下がり、ガソリン価格も同マイナス1.3%となり、エネルギー全体は同マイナス0.3%と下落基調が鮮明だった。

 さらに高校授業料の実質無償化によって公立の高校授業料が同マイナス94.1%と大幅に下がり、東京都の水道基本料金の無償化で、水道代は同マイナス2.3%と下落した。

 

 <生鮮除く食料は8.3%上昇、実質賃金マイナスの公算大>

 にもかかわらず、コアCPIが同3.1%と高止まったのは、食料品の価格上昇が大きかったためだ。生鮮食品を除く同8.3%となり、CPIを1.98%ポイント押し上げた。

 その結果、実質賃金を計算する際に使用する「持ち家の帰属家賃を除く総合」は前月の同3.8%から同3.6%へと上昇幅が圧縮されたものの、3%後半の水準が維持され、7月の実質賃金もマイナスの可能性が高まった。

 

 <物価高継続なら、政府・与党への世論の反発強まることに>

 実質賃金マイナスの長期化は国内総生産(GDP)の50%超を占める個人消費の伸びを鈍化させ、内需主導の景気回復の道のりを険しくする大きな要因となっている。

 さらに今年7月の参院選における最大の争点だった「物価上昇」をめぐる政策対応に対する国民の審判も、政府・与党の対応では解決しない、という結果だったとみるべきだ。

 すなわち、足元の食料品価格上昇を中心にした物価上昇を止めることができなければ、政府・与党は根本的な支持率回復に失敗することになると指摘したい。

 

 <上昇率鈍化見込んだコメ価格、猛暑・渇水で高値継続の展開か>

 7月金融政策決定会合後の会見で、日銀の植田和男総裁はコメ価格の上昇はいずれ鈍化し、食料品の価格上昇も沈静化することでCPIの上昇率全体も減速して、どこかの時点で実質賃金はプラス転嫁するとの見通しを示していた。

 しかし、今回の7月全国CPIの結果を見ていると、生鮮食品を除く食料の価格上昇に鈍化の兆しは見えていない。 

 2024年産米の大幅な上昇が起きていたコメ価格をめぐっては、その値上がりの動きはその年だけの現象という見方が当初は根強く、日銀も25年後半からはコメ価格の上昇幅が次第に縮小して、どこかで前年割れになるとみていたとみられる。

 ところが、今年の猛暑とコメ生産の主体である北陸などを中心とした渇水で、25年産米が不作になるとの見方が急速に広がり出した。日本経済新聞電子版は19日の記事の中で、猛暑による渇水で作柄が悪化するとの懸念から、各産地の農業協同組合(JA)による農家への前払い金(概算金)が今年7月時点の見通しから上昇するため、25年産米の店頭価格が「5キログラム当たり4000円を超える見通しとなった」と伝えた。

 

 <賃上げと物流費上昇、食品値上げの継続促す要因に>

 上昇するのはコメだけではない。食料品価格全体が今後、かなり上がりそうな情勢となっている。帝国データバンクが主要195社の食品メーカーを対象に調査した結果、今年8月の飲食料品値上げは1010品目と前年8月を52.8%上回ることがわかった。

 また、今年10月の値上げは3000品目を上回りそうで、4月の4225品目に次ぐ「値上げラッシュ」が予想されるという。

 さらに重要なのが、足元では物流費と人件費の上昇が値上げに結びついているという構造が出来上がってきたことだ。同社の調査によると、値上げ要因(複数回答)で最も多いのは原材料高の97.2%だが、それに次いで多かったのが物流費の80.0%だった。23年調査で58.4%だったところから急増している。

 人件費も23年の9.1%から53.9%へと大幅に伸びており、食料品価格の上昇が一過性でないことをうかがわせる調査結果となっている。

 

 <注目されるジャクソンホール会議での植田日銀総裁の情報発信>

 こうした中で植田総裁は、21日から米ワイオミング州で開催されているジャクソンホール会議に参加し、23日午前10時25分(日本時間24日午前1時25分)から行われる「技術と労働市場」をテーマにしたパネルディスカッションで見解を表明する。

 欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁、イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁も加わった討論の中で、最近の日本の物価情勢を含めた日本経済の現状、さらに日銀の金融政策の動向に関して何らかの情報発信があるのかどうか、BOJウォッチャーの関心を集めている。

 

 <ジワリ上がり出した市場の日銀利上げ織り込み、長期金利も1.615%まで上昇>

 もし、日本の物価情勢に関して新しい情報が発信された場合、週明けのマーケットは敏感に反応する可能性がある。

 というのも、東京市場では日銀の早期利上げに関する思惑がジワリと広がり始め、22日の段階で9月利上げが16%、10月が56%、12月が76%と徐々に織り込みが進みだしているからだ。

 22日の円債市場で、10年最長期国債利回り(長期金利)は1.615%に上昇。30年債も一時、3.210%と過去最高水準まで上がった。

 パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演とともに、植田総裁の発言にも市場はかなり注目していると言っていいだろう。二人の中銀総裁がともに「タカ派」と市場から見なされた場合、週明けの市場で大きな価格変動があってもおかしくないと予想する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

過去4週間に2.5兆円の日本株買い越した海外勢、上値で邦銀の売り 債券損失補填で

2025-08-21 15:45:50 | 経済

 21日の日経平均株価は前日比278円38銭(0.65%)安の4万2610円17銭で取引を終えて3日続落となったが、複数の市場筋によると、この下落局面で国内の銀行勢が利食い売りに動いたという。直近の長期金利上昇などで生じた保有債券の含み損を最高値圏まで上がった保有株式の売却で埋めたかたちだ。

 一方、4万3876円42銭の史上最高値まで押し上げた原動力は、やはり海外勢の買いだった。前週に1兆1000億円超、この4週間に合計で2兆5000億円超の買い越しを記録。海外勢の買いで最高値圏に駆け上がったところで、銀行勢が益出しの売りを出した構図になったようだ。

 

 <最高値圏で国内銀行勢の益出し、保有債券の含み損埋め合わせ 長期金利1.61%まで上昇>

 取引時間中に記録した4万3876円から21日の終値まで1266円の下落となったが、この局面で目立っていたのは国内の銀行勢による益出し売りだったという。大手銀だけでなく、地銀の一部も利食い売りを積極化させていたと一部の市場関係者は指摘する。

 銀行勢を株式の益出し売りに走らせたのは、9月中間決算期末まで1カ月余りというところで起きている国内金利の上昇による保有国債の含み損の拡大だ。

 21日の円債市場では、10年最長期国債利回り(長期金利)が一時、1.610%と2008年10月以来、約17年ぶりとなる高水準を記録。保有債券の含み損が拡大する事態に直面していた。こうした中での日経平均株価の史上最高値更新は、中間決算を前に「渡りに船」と映ったようだ。

 

 <海外勢が前週に1.1兆円の日本株買い越し、日米関税交渉の決着後に本格化>

 一方、財務省が21日に発表した前週8月10-16日の対外対内証券投資(週次ベース)によると、海外勢は日本株を1兆1617億円という規模で買い越していた。

 15日の当欄で中東勢の一角が日本株をまとまった規模で物色していたとオイルマネーの流入を指摘したが、財務省のデータはそうしたマネーフローを裏付けることになった。

 日米関税交渉において対日自動車関税と相互関税の水準が15%で決着したと伝わった23日以降、日本株は大幅上昇を本格化させたが、7月20-26日以降の4週間における海外勢の日本株買い越し額は2兆5944億円に上った。

 

 <岐路に立つ日本株、パウエル議長の発言次第で上下に振れる展開>

 海外勢の買いで日本株の上昇に弾みが付き、国内銀行勢などの利益確定売りで上値が抑えられている今の日本株の構図に大きな影響を与えるのは、19日の当欄で指摘した22日夜に判明するジャクソンホール会議でのパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演だ。

 9月だけでなく年内に合計2回の米利下げを織り込んでいるマーケットに対し、パウエル議長がインフレ警戒色を強めれば、米株下落の動きが日本株に波及し、週明け25日の東京市場で日本株が大幅下落するリスクがある。

 他方、インフレとともに米国内の雇用情勢の悪化にも適切に対応するとパウエル議長が発言すれば、年内2回の利下げの可能性は高いと市場が判断し、米株の堅調さが復活する展開も予想される。

 その際は、相互関税の水準が15%と他のアジア勢に比べて相対的に有利な日本企業への注目度が増し、日経平均株価は4万2000円台から再上昇のきっかけをつかむことになる。

 

 <注目される植田日銀総裁のメッセージ>

 ただ、ここで見落としてはならないのが、植田和男・日銀総裁のジャクソンホール会議における情報発信だ。植田総裁がどのタイミングで発言機会があるのか現時点では不明だが、その発言内容によっては国内でくすぶっている日銀の早期利上げの思惑を刺激する可能性も出てくる。

 この点に関しては、あすの当欄で詳しく説明することにしたい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自動車関税15%へ引き下げで、対米輸出緩やかに回復へ メーカー間の優劣鮮明に

2025-08-20 15:04:26 | 経済

 財務省が20日に発表した7月貿易統計によると、対米輸出額は前年同月比マイナス10.1%の1兆7284億円と4カ月連続で減少した。トランプ関税の影響が出たとみられるが、今後は自動車関税が25%から15%に低下するため、対米輸出額は緩やかに回復する可能性がある。

 また、足元では日本の自動車メーカーが関税分を負担している実態が明らかになっているが、一部のメーカーが潤沢な内部留保をバックに長期間の値下げに耐える体力を持っており、実際に7月の米国市場ではトヨタが前年同月比プラス19.9%と大きく販売台数を伸ばしている。経営体力によって日本車メーカーの優劣が鮮明になる可能性が高まってきた。

 

 <7月の貿易赤字、前年比マイナス81.3%の1175億円 原油安と円高で>

 7月の輸出全体は前年同月比マイナス2.6%の9兆3590億円、輸入全体は同マイナス7.5%の9兆4766億円、差し引きで1175億円の赤字となった。赤字幅は前年同月比マイナス81.3%と大幅に縮小した。原油価格の下落や円高の影響で原粗油の輸入額が前年同月比マイナス18%となったことなどが影響した。

 

 <対米輸出はマイナス10.1%、自動車は28.4%減 トランプ関税で>

 トランプ関税の賦課で注目されていた対米輸出額は、前年同月比マイナス10.1%の1兆7284億円にとどまり、同マイナス0.8%だった対米輸入額の1兆1433億円を差し引くと貿易黒字額は同マイナス23.9%の5851億円となった。

 乗用車とバス・トラックを合わせた自動車の輸出額は同マイナス28.4%の4220億円にとどまった。ただ、数量は同マイナス3.2%の12万3531台で、輸出額を台数で割った平均単価は同マイナス26.1%の341万円となった。多くのメーカーが関税分を自社で負担し、輸出価格を引き下げたためとみられる。

 

 <対米自動車輸出に依存した歪んだ構造、トランプ関税で強制的に修正へ>

 2024年に5兆4712億円の貿易赤字を計上しつつ、8兆6281億円の黒字を対米貿易収支で稼ぎ出し、自動車と自動車部品の輸出額が7兆2574億円と対米輸出額の33.9%を占めるという対米自動車輸出に偏った構造を日本政府は温存してきた。

 トランプ米大統領はそこに目を付けて偏った貿易構造の是正方針を打ち出し、25%の自動車関税を実行に移した。確かに一方的な関税の賦課は自由貿易の原則をねじ曲げる「暴挙」だが、トランプ大統領からすれば、対米自動車輸出に「おんぶにだっこ」という構造を長年、維持してきた日本政府に対し、大きな不満が溜まっていたと言っていいだろう。

 この歪んだ構造を放置してきた日本が、トランプ政権2.0の登場により強制的な輸出圧縮を強いられ、その結果が、3割近い自動車輸出額の現象となって表れていると理解するべきだ。

 

 <「石破降ろし」で語られない自動車依存の経済構造からの脱却、支持回復には青写真の提示が不可欠>

 ここで、話しは足元で展開されている自民党内における石破茂首相への早期退陣要求に飛ぶが、自民党内ではこの歪んだ構造をただすための政策的な手段や短期的な痛み止めの対策に関し、何ら議論が展開されていない。これは、長年政権を担当してきた与党としてあまりにも「無責任」ではないか。

 仮に石破首相が辞任に追い込まれて新しい総裁が新首相に選ばれても、歪んだ経済構造の是正と新しい経済・社会への転換に関する「青写真」が示されなければ、閉塞した経済状況は変わらないだろう。対米自動車輸出に依存した旧来型の経済からの転換をだれも主張しないなら、失われた自民党への支持は戻ってこないと指摘したい。

 

 <対日自動車関税のカット、対米輸出の減少傾向に歯止め>

 さて、ここで経済問題に話題を戻すと、対米自動車輸出額と対米輸出全体の前年比マイナスは、足元で底を打つ可能性があると予想する。

 時期は未定ながら、米国の対日自動車関税が25%から15%に引き下げられることが決まっているため、メーカーが輸出額を引き上げる可能性があるからだ。

 また、足元で米経済は2%台の成長軌道で走っているとみられ、そこに9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが行われる可能性が高まっているため、米経済の好調さが維持される公算が大きくなっている。自動車に限らず、幅広い分野で輸出数量の増加が見込まれ、その点でも対米輸出額の下押し圧力が緩和されると予想する。

 

 <トランプ関税の影響で、来年の春闘での賃上げ圧縮は本当なのか>

 一方、日本に対する米国の相互関税と自動車関税は15%で維持されるため、その分が日本企業の収益を圧迫し、来年の春闘における賃上げ率を押し下げると懸念する声が経済専門家ら相次いで出されている。

 だが、その点について筆者は別の展開を予想する。

 

 <一部の日本メーカーに厚い内部留保、シェア維持へ低価格戦略の採用可能に>

 まず、当面の米国内における自動車販売だが、潤沢な内部留保を抱える日本のメーカーは、15%の関税分を負担する経営体力を備えている。GМやフォードなど米国勢がメキシコ経由の自動車販売価格を値上げしてきた際に、その価格水準を見て少しだけ安い価格設定にしてシェアを確保するという展開が十分に想定できる。

 実際、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、7月の米国内における新車販売台数の前年比は、GMのプラス11.9%、フォードの9.4%に対し、トヨタは19.9%と大幅に伸ばした。トヨタのシェアはGMの16.9%に迫る15.5%だった。

 ただ、経営体力で相対的に劣勢な日本メーカーが、15%の自動車関税の賦課を受けてどのような経営戦略を打ち立てるのかは不透明だ。トランプ関税の登場によって、日本の自動車メーカーの優劣が一段とはっきりしてくることになる、と筆者は予想する。

 

 <日本企業に636兆円の利益剰余金、大企業は人材囲い込みへ高い賃上げ維持へ>

 日本企業の利益剰余金は今年1-3月期に636兆円に達し、前年同月比プラス8.3%と大幅に伸びた。同時に足元で進行する人手不足は深刻さを増し、優秀な人材の確保は大企業にとって死活問題となっている。

 したがって内部留保の厚い大企業は、将来の成長戦略の実行のために大幅な賃上げを実施する計画を固めていると予想する。

 

 <人手不足と賃上げ、企業間の優勝劣敗を加速させる可能性>

 他方、内部留保の薄い企業にとっては、高い賃上げを掲げることができないということも十分に想定される。つまり来年の春闘は賃上げ率をめぐって、企業間に大きな明暗が発生することになるのではないか。

 その際に政府がどのような機能を発揮するべきか──。この点も日本経済の動向を占う上で喫緊の問題だが、自民党内や野党から何ら新味のある提案や主張がないのは残念だ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

注目されるパウエル議長の発言、タカ派色出れば米株下落して週明けの日本株に波及へ

2025-08-19 15:11:26 | 経済

 19日の日経平均株価は前日比168円02銭(0.38%)安の4万3546円29銭で取引を終え、3日ぶりに反落した。最高値圏で推移する日経平均株価にとって当面のリスクは、22日にジャクソンホール会議で予定されているパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演だろう。

 想定よりもタカ派の発言が飛び出し、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ方針はにじますものの、それ以降の利下げはデータ次第と強調した場合、年内に2回の利下げを織り込んでいる市場は失望し、米株下落から日本株下落へと波及する可能性が高まる。反対に株価が上昇するには9月に0.50%の利下げの可能性もあると示唆した場合に限られそうで、日米株価ともに最高値圏での「高所恐怖症」が現実化するのか、次第に緊張感が高まっている。

 

 <22日にパウエル氏の講演、7月米雇用統計後に年内2回の利下げ織り込む市場>

 米ワイオミング州で21日から23日に開かれる年次経済シンポジウム・ジャクソンホール会議の2日目の午前8時(日本時間22日午後11時)からパウエル議長の講演が行われる。

 マーケットでは、次の利下げ時期と幅について「データ次第」と繰り返してきたパウエル議長がどのような政策スタンを示すかに注目している。

 今回の講演での焦点は、米労働省が1日発表した7月雇用統計で、非農業部門雇用者数が7万3000人と市場予想の11万人増から大幅に鈍化しただけでなく、過去2カ月分の雇用者数が計25万8000人も下方修正された点をどのように評価するのかという点だ。

 すでに市場は9月利下げをほとんど織り込み、今年12月までに0.25%刻みで2回の利下げを完全に織り込んでいる。

 

 <注目は9月利下げ後のスタンス、強いハト派傾斜なければ市場は横ばいも>

 7月雇用統計を受けてパウエル議長が9月利下げの方向性を強く示唆したとしても、マーケットはすでに織り込んでいるので、そのメッセージだけではマーケットは動かないだろう。

 仮にデータ次第で10月か12月のFOMCでさらに0.25%の利下げの可能性があるという方向性を打ち出したとしても、そこまではマーケットが織り込んでいる現状では、株価を押し上げる材料にはならず、注目されていた割には市場変動が小さくなり「大山鳴動して鼠一匹」という展開になる可能性がかなりありそうだ。

 可能性としては小さいいが、9月のFOMCで0.50%の利下げの可能性も否定しないという「ハト派」食の強い発言が出てくれば、最高値圏で推移する米株が一段高となることもあるだろう。米アトランタ地区連銀が発表している「GDP NOW」によると、今年7-9月期の米国の国内総生産(GDP)は前期比・年率2.5%で走っており、この堅調な経済の足取りの中での50ベーシスポイント(bp)の利下げは、強い刺激効果を持つからだ。

 

 <足元で強めのインフレ指標相次ぐ、トランプ関税の影響も>

 一方、9月の25bp利下げの後は経済データ次第で年内の利下げなしという可能性に言及した場合、米株が一時的に大幅下落する可能性がある。

 荒唐無稽なシナリオと笑い飛ばすことができないのは、最近になって発表された経済データの中に、強い物価動向をうかがわせる数字が続けて出てきている、という事実があるからだ。

 まず、 米労働省が12日に発表した7月消費者物価指数(CPI)は前年比プラス2.7%と市場予想の同2.8%を下回ったが、コア指数が前月比プラス0.3%と前月の同0.2%から加速。サービス全体では2カ月連続でプラス0.3%と上昇が目立ち、関税の影響を受けやすい家具・家庭用装飾品が0.7%、靴は1.4%と21年4月以来の大幅な上昇となっていた。

 続いて14日に発表された7月の生産者物価指数(PPI)は前月比プラス0.9%と市場予想を大きく上回った。さらに15日にされた7月輸入物価指数は前月比プラス0.4%となり、トランプ関税の影響でインフレが加速する兆候が示された。

 米ミシガン大学が15日発表した8月の消費者信頼感指数(速報値)は58.6と、市場予想に反し低下した。トランプ関税の影響が意識され、物価上昇の想定が重しとなった。

 今回の調査では、1年先の期待インフレ率が4.9%と、7月の4.5%から上昇。5年先も前月の3.4%から3.9%に上昇していた。

 

 <2回目以降の利下げ、パウエル議長がデータ次第を強調すれば米株下落か>

 このようなデータを見ると、トランプ米大統領や政権チームが強調するように関税による物価上昇は一時的と断定できるのか、という問題が存在することに気が付くのではないか。

 パウエル議長がそうした点に懸念を示し、9月利下げは「予防的」に実施する方針を示しても、そこから先はデータ次第で「オープン」という趣旨の発言をした場合、マーケットは年内2回の利下げに「黄信号」が点灯したとみて、米株が大幅に下落する展開も相応にありそうだ。

 

 <タカ派のパウエル発言なら、急上昇中の日本株を直撃へ>

 そのケースでは、シカゴ市場で上場されている日経平均先物も大幅下落となっているだろう。日経平均株価は最高値圏で推移しており、週明け25日の取引で1000円を超す下落という展開になる可能性も否定できない。

 トランプ大統領やベッセント米財務長官から利下げを求められてきたパウエル議長が、どのような判断を示すのか。そのロジックの継続性や中銀の独立性という問題だけでなく、日本株への大きな跳ね返りの可能性も十分に視野に入れるべきだろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パウエルFRB議長の利下げ示唆、あってもドル/円膠着へ その構造を探る 

2025-08-18 16:54:53 | 経済

 週明け18日の東京市場は、米カンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議(21-23日開催)におけるパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演内容を見極めようとのムードが強く、ドル/円は147円前半から半ばでの小動きになった。また、日経平均株価は前週末比336円(0.77%)高の4万3714円31銭で取引を終え、前週末に続いて最高値を更新したものの、4万4000円が当面の壁になる印象を残した。

 パウエル議長が9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを示唆したとしても、すでに市場では織り込まれており、ドル安・円高に振れる可能性は低下している。もし、円高に振れる材料があるとするなら、日銀の利上げが前倒しになるという市場の思惑が浮上するケースだが、市場の警戒感は弱い。大きな材料が出ないなら、需給を反映してジリジリとドル高・円安が進むのではないか。

 

 <147円台で膠着するドル/円>

 18日の日経平均株価は引き続き、海外勢の日本株買いが継続したとみられ、前週末比450円高となる場面もみられた。ただ、急速な値上がりを受けて上値では利益確定売りも着実に出ており、一気に4万4000円を狙う動きにはならなかった。

 株価以上にこう着感が強かったのがドル/円だ。市場の一部にはパウエル議長が利下げに対する立場を従来以上に積極化させれば、ドル安・円高に傾くとの声も出ているが、すでに米利下げはかなり織り込まれており、9月利下げの予告だけではこう着感から抜け出せないという予想が多くなってきた。

 

 <トランプ関税によるインフレ再燃警戒するマーケット、ベッセント氏の利下げ予想と距離>

 市場の米利下げに対する織り込みは、9月が88%、12月までに0.25%利下げで2回分超となっている。来年12月までに5回分強をすでに織り込んでいるが、ベッセント財務長官が予想する6-7回とは距離がある。

 市場が懸念しているのは、トランプ関税によるインフレ再燃と景気を下押しする圧力がベッセント財務長官の予測よりも強くなる展開だ。

 米ミシガン大学が15日に発表した8月の消費者信頼感指数(速報値)は58.6と、上昇を見込んでいた市場予想とは反対に低下した。トランプ関税による物価上昇への懸念が重しとなった。

 1年先の期待インフレ率は7月の4.5%から4.9%へと上昇。5年先も前月の3.4%から3.9%に上がった。

 

 <利下げ織り込み進展なければ、円高予想は空回りに>

 この先、市場の懸念とは逆方向の経済データが相次いで出て、米利下げの織り込みがベッセント財務長官の「御託宣」通りに来年12月までに6-7回へと大きくなるなら、その局面でドル安・円高が進展するだろう。

 しかし、そうでないなら東京市場関係者の中に根強くある「米利下げの実施とともに円高」というシナリオの実現性は低いままに終わると予想する。

 

 <対米投資の活発化、ドル需要の増大も ドル高予想を醸成へ>

 そればかりではない。米利下げの織り込みが進まないケースでは、じわじわと円安が進むことさえあり得る。足元におけるドル不足・円余剰の実需が円の水準を切り下げる圧力になるだけでなく、この先に起きると予想される米国内での活発な投資が「ドルを押し上げる」との観測が広がりやすくなるからだ。

 米国との関税交渉の結果、日本は5500億ドル、欧州連合(EU)は6000億ドルの対米投資を約束した。アップルは単独で米国内の生産拡大に向け1000億ドルを追加投資することを表明している。

 こうした対米投資の活発化は、ドルの需要を喚起し、中長期的なドル高予想を市場で醸成する大きな要因となっている。

 

 <日銀利上げの思惑増大以外に見当たらない円高の要因>

 一方、円の需要を強くするような貿易上の大きな動きは見当たらない。日本の貿易収支は赤字基調を継続し、海外からの新たな大規模な直接投資の案件も出てきておらず、唯一の可能性は日銀利上げだけだ。

 14日の当欄で紹介したように、ベッセント財務長官から日銀は金融政策で後手に回っており利上げすべきだとの指摘を受けたが、それに対する日銀幹部からの直接的なメッセージは発信されていない。

 今のところ、市場は今年12月から来年1月まで0.25%の利上げがあり、来年12月までにもう1回の利上げの可能性を想定している。この織り込みを前倒しさせるような日銀からのメッセージが出れば、円高に振れることになるが、そうでなければドル/円のこう着は継続するだろう。

 「ジャクソンホール会議待ち」の声は次第に高まってきているが、待った挙句にドル/円のこう着が続く、という展開になる可能性が今のところ、最も高いのではないはないか、と筆者は予想する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする