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昭和の二刀流ビルマに死す

2009-06-07 00:21:17 | 剣道
昭和の二刀流ビルマに死す―天覧試合の花形 藤本薫の生涯 (光人社NF文庫)
南堀 英二
光人社

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(amazonより抜粋)
竹刀剣道の時代にも古流術の『二刀』は受け継がれ、昭和初期には二刀流が流行、活躍した―昭和9年、宮城内において開催された天覧武道大会に、弱冠21歳の香川県代表の青年が逆二刀を遣い出場、圧倒的な強さで決勝戦まで勝ち上がった。全国に名を馳せた二刀流の青年剣道家の生涯を近代剣道の発展と共に描く感動作。


前回紹介したタイガーモリこと森寅雄と中学時代好敵手として名勝負を演じた「逆二刀」の名手藤本薫について書かれた本です。
香川高松中時代からめきめきとその才能を発揮、若干21歳で当時開催されていた天覧試合に出場。。今の剣道では感じられない時代背景と対戦の描写には胸躍るものがあります。身長は低かったものの、二刀で鍛えただけあって腕はごつかったそうで、その体型から「樽」の愛称が付けられていたとか。掲載されている中学時代の写真は、卓球の平野選手になんとなく似ています

天覧試合として思い起こすところでは、最近では史上最多4度目の優勝をかけた宮崎正裕さんと警視庁奉職1年目で決勝まで登り詰めた、原田悟さんの試合でしょうか。それもかれこれ10年以上前になるわけですが。
当時の天覧試合は天皇が「神」としての象徴だったように現在とは全く意味合いが違ったはず。この本の冒頭で藤本薫と野間が陛下の前で相見える写真が見開きで掲載されていますが、なんともいえない当時の厳粛な空気感が伝わってきます

野間寅雄の従兄弟であり、講談社の社長の一人息子で剣道の英才教育を受けた野間(先に紹介した、野間寅雄との東京都予選でと藤本、お互い決勝まで全て2本勝という怒濤の強さで勝ち上がってきた両者。
準決勝 藤本コメ  小笠原
    野間ドメ  コ瀬下
決 勝 野間ドメ ド藤本
藤本は決勝の舞台で破れるのですが、「何故やぶれたのか」という理由もこの本を読むと解ります。
試合後、素人、玄人多くの人から「あの試合は君が勝っていた」と言われたらしいですが、藤本氏はわずかに笑みを浮かべるだけで自分からは何も語らなかったらしい。そんなところからも彼の人としての潔さがにじみ出ているような気がします。

その後藤本は戦地ビルマへと発ち、発砲によって右手を失い命を引き取る訳ですが戦友に残した言葉「左手をもう剣道ができんようになる」と涙ながらに話したとの事。その気持ちを思うとどんなにやりきれなかった事かと思います。
享年28歳、もし彼が生き残っていたならば、少なからず現代の剣道も変わっていたかもしれません。

個人的には剣道以外の藤本薫の人間性や性格的なところ(天覧試合後の東京での生活が知りたかった)がもう少し描写されていると嬉しかったのですが、とにかく剣道をやっている人は必読の一冊、間違いなく買いだと思います

またこの本を読んで驚いたのは、日中戦争が半ばを向かえたころから剣道が個人の修養でなく戦技の習得などに重きを置かれ、竹刀が実戦の刀に近い三尺六寸、メンとツキが重視され1本勝負となっていた時期があったという事。こんな黒歴史があった事を初めて知りました。

また最近youtubeを見てみたところ、持田盛二や斎村五郎...といったほとんど伝説となっている昭和初期の剣豪の立ち会いが残っているのが判明。



天覧試合の映像も残っていますが、残念な事にこの昭和9年のものは残っていないとの事。
昭和初期の映像や本を見ると昔は片手横面がかなり多かったんですね。去年の全日本で米屋選手が一回だけ見せましたが、今ではフェイント的に使う人はいても、稽古でそう教えられるものではないのでほとんど使う人はいないでしょう。あと打ち合いの中一本になるようなケースが多いように見えますね。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
拙著紹介していただいて感謝しております (南堀英二)
2009-06-25 00:47:34
拙著、紹介していただいて感謝しております。もしよければ、「テストパイロット」も読んで頂ければ幸甚です。海軍航空隊揺籃期の名パイロットで、終戦前は川西航空機で二式大艇や紫電改のテストパイロットをしていた森川勲という人のことを書いております。森川さんは、戦後、電気、ガス、水道のないことから赴任拒否が続いた小豊島分教場の教員として、世に出ることなく生を終えた人で、城山三郎という小説家などから取材を受けても、「もうすんだことですから」と沈黙を守った人で、森川さんは拙著「昭和の二刀流ビルマに死す」の冒頭に出てくる孤高の剣士・藤岡順さんの友人です。よければ、読んでみて下さい。
ありがとうございます (matsumo)
2009-06-26 11:57:23
南堀様、どうもありがとうございます。まさか著者の方から、直接コメントをいただけるとは思ってもみなかったのでブログを訪れていただき、嬉しい限りです。
藤本薫さんという一人の素晴らしい剣士が戦争によって命を奪われた事は非常に惜しむところですが、こうして南条様の本によってその軌跡と人となりが強く伝わり感動しました。藤岡さんの冒頭の八段の方との試合、きっと南条様がこの本を作るきっかけになったのでしょうね。

テストパイロット、同世代に生きていた方の本という事で、自分の入り口は剣道ではあるのですが、改めてこちらも拝見させていただこうと思います。ご訪問ありがとうございました。

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