NHK 100分de名著でも紹介されたラフカディオ・ハーンの『日本の面影』(池田雅之訳、角川文庫、初版2000年9月)は、ハーンの世界に引き込む和訳の美しさがある。おおくの随筆の中(「日本の庭にて」)でハーンは樹木には魂があるという日本の考え方とともに伝説を紹介している。京都の武家屋敷の庭に生えていた柳の木の物語りである。その木の霊は美しい女に姿を変え侍の妻となり可愛い男の子を授かったが、三十三間堂の修復のため主君の命により木を伐ることになった・・・・。
兵庫に「おりゅう柳」という伝説もある。筋はハーンが紹介するものと同じである。 https://www.hyogo-c.ed.jp/~rekihaku-bo/historystation/legend3/html/pdf/014-l.pdf 三十三間堂の建立をめぐって多くの木が伐られ、多くの伝説が生まれたようだ。
文楽の舞台は、熊野。横曽根平太郎(梛の生まれ替り)と妻お柳(人の姿に変えた柳の精)、息子みどり丸の別れの物語り。
時の権力者 白河法皇の頭痛は前世である蓮華王坊の髑髏が柳の木に残っていることが原因であり、この柳を使って都にお堂を建て、遺骨を安置すれば治まる・・・そのために柳を伐ることになる。それまでのあらすじには、熊野の山中で修業を続ける修験者蓮華王坊は、仲睦まじ気な梛(なぎ)と柳の木の枝が修行の邪魔になるとして、梛の木を切ってしまう。ところが蓮華王坊は柳に突き刺さって死んでしまい、後に白河法皇として生まれ変わる、とあります。
この説明はパンフレットに書かれているがわかりにくい。上演資料によると、底本である『祇園女御九重錦』の初段 発端(熊野行場の段)の梗概は次のようである。
熊野権現に立てた百度の大願の百度目となって山に登る蓮華王坊の前で、梛が人の姿になり自分は連理の枝を王坊に切られたが、王坊の功力で人界に生を受けることになったという。梛は、柳が夫婦の仲を裂かれたことを恨んで仇しようとしていると忠告し、魂となって飛び去り、常陸に横曽根平太郎として生まれる。王坊は柳の祟りで慢心を起し、異形の客僧に谷へ落とされ柳の梢に貫かれて死ぬが、その魂は人界に白河法皇として出生する。
髑髏の筋が見えなかったのだが、これでつながった。