抗体のお話

抗体、特に生乳中のミルク抗体の有用性について解説します。

下痢に対するミルク抗体とビフィズス菌の効果の比較

2006-03-02 00:00:01 | Weblog

 ロシアの小児科医Kushnareva MV博士の論文(Zh Mikrobiol Epidemiol Immunobiol. 1995 Mar-Apr;(2):101-4.) は新生児の下痢をミルク抗体で治したというものです。この報告は大切な情報を教えてくれます。ここで、詳しく見てみましょう。
 新生児下痢患者は全て抗生物質治療後の菌交代症による下痢でした。感染症の治療には抗生物質を用いて治療するのは医療の常道です。感染症の原因菌を駆除するために抗生物質は欠かせない医薬品です。しかし、抗生物質の使用は同時に、腸内に常在する善玉菌悪玉菌を含む全ての菌にも作用し、腸内細菌バランスを崩します。これが元通りに戻れば問題ないのですが、バランスが崩れると下痢が発生します。即ち、菌交代性下痢です。抗生物質による治療が新たな病気の原因となるわけです。
 下痢の治療の選択肢としては、抗生物質、善玉菌を増やすビフィズス菌製剤がありますが、小児科医であれば、新生児は、まだ免疫機能が未熟のため、自分で抗体が作れないことや、母体の都合で初乳(生まれて最初にでる母乳)が不十分の新生児は下痢による死亡率が高いことは十分知っています。初乳には抗体が多く含まれています。そこで、博士らはらは母乳の抗体の代わりに、牛の初乳を用いて治療をしたわけです。対照として、すでに有効であることが判っているビフィズス菌製剤による治療群と比べてみました。判定には、便性状と共に、ビフィズス菌製剤治療グループとミルク抗体治療グループに於ける糞便中のビフィズス菌の数を計って優劣を判定しました。
 患者は様々な病気(臍炎、結膜炎、気管支炎、肺炎、結膜炎)のために菌交代症起した64人の新生児及び未熟児で、この内の37人にはミルク抗体製剤を、残る27人にはビフィズス菌製剤を、1-3週間与えました。
 下図に、治療前(左)から治療後(右)の状態を示しました。重度はビフィズス菌数が1g中107以下、中等度は107~108個、軽度は109~1010個、正常は1010個以上を示します。

新生児菌交代症下痢に対するミルク抗体製剤とビフィズス菌製剤の効果の比較

 ミルク抗体製剤、ビフィズス菌製剤ともに有効でしたが、両者を比べるとビフィズス菌の増加と大腸菌、ブドウ球菌の減少について、ミルク抗体摂取グループで効果が早くみられたというものです。
 
 新生児は免疫力が未熟で、生後3ヶ月ごろからやっと自分で抗体を作れるようになり、一人前のレベルに達するのに約1年かかります。この報告で治療された新生児は体重1400gから2500gと記載されています。まさに新生児と未熟児で、自分で作った抗体は全くゼロの段階です。この論文は、新生児下痢にミルク抗体を飲ませるとビフィズス菌を増やすとともに、下痢が治療できることを証明しました。母乳によらずとも、ミルク抗体によって善玉菌を増やし、下痢に有効であったことを示した意義は大きいと思います。



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