伊方原発の廃炉のために

2006年から「伊方原発のプルサーマル問題」として続けてきましたが、伊方原発の廃炉のために、に15年に改名しました。

気候危機に関して:CCSは偽りの希望、ミッション・インポッシブルな対策をいま選んでは詰んでしまいます

2021-01-24 07:57:49 | 続・温暖化いろいろ

文書を作りましたので紹介。

CCSは偽りの希望、ミッション・インポッシブルな対策をいま選んでは詰んでしまいます

 

  詳細は拙トゥギャッターまとめの「CCS(炭素回収/貯留)と日本の脱石炭

https://togetter.com/li/1599156 をご覧ください。                           

 この文では、CCSを名目に使った子どもたちにツケを廻すポンジースキームを紹介しています。日本の政治家たちはこの問題に取り組まなければ、ティッピング・ポイント問題を無視して世界を破滅においやったA級戦犯となるでしょう。

それにしても、菅総理が新しい目標2050年カーボンニュートラルを掲げたらその目標に向かってみんなが一斉に駆けてゆくというのはなんという問題の考えなさであることよ。1.5℃目標を死守できなければ、アンド、オーバーシュートを許さない経路を辿らなければ、私たちに良い未来はありません。CCUSに頼ることが出来る、というのはポンジースキーム(サギ)だと若者が叛乱を起こすべきレベルの話です。

小倉 正


●将来に先送りされた宿題の大きさ

グレタ・トゥーンベリ ”人々がこの課題の大きさに気が付いたと想像してください。そうすれば、全ては変わるでしょう。” 将来必要な負の排出技術(NET)の規模についてのグラフをGlen Petersが紹介しているものを示して。

グレン・ピータース ”どれだけ大量のCCSが排出シナリオで用いられているかを忘れるのはたやすい。 年間100万トンのCO2を貯留する平均的なCCS施設を今から2050年まで毎日1基ずつ建てるなら、2050年には年間11ギガトン分出来ている。2日に1基ずつなら5ギガトン。 図では平均でそのくらいだ。”

※1 ケビン・アンダーソン教授「もっとも重要なことは、排出量削減モデルが、二酸化炭素除去技術、つまりまだ開発されていない技術に過剰に依拠しているということです。現在使われているすべての気候モデルで、これが機能すると語った研究者はひとりもいません。」本「グレタ たったひとりのストライキ」P.148より。

同教授「…奇妙に聞こえるかもしれませんが、つい2年前まで、この事実を知る研究者は多くなかったのです。まだ開発されてもいない技術が、ごく一部ではなく、すべての未来計算に使われていると知って驚いた同僚は多いですよ。」

ケビン・アンダーソン ”英国CCCの第6次炭素予算報告書が出たばかりだが、ここに英国をパリ公約から脱輪させ今日の排出削減をサボらせそうな、「実質ゼロ」遅延がどう行われるかを説明する要約がある。"10 myths about net zero targets and carbon offsetting, busted
https://www.climatechangenews.com/2020/12/11/10-myths-net-zero-targets-carbon-offsetting-busted/

グレタ・トゥーンベリ ”学校ストの121週目。明日でパリ協定から5年目。動かざることと抜け穴探しの5年間。 もうこんなことは続けられない。 遥かな「実質ゼロ」目標ではなく、今から拘束力のある、毎年の炭素予算に基づく真のゼロへ、動き始める時だ。 #未来のための金曜日 #1.5度を求める闘い ”


●気温はオーバーシュートしてよいとの未来を確定してしまう

http://env.go.jp/earth/石炭火力発電輸出ファクト集2020.pdf

  ここに、環境省が作成した、「石炭火力発電輸出ファクト集2020」という資料があります。中立、客観を旨とし、と唄っていますが、この左側1.5℃特別レポートから引用したグラフもIPCC第三作業部会のモデラーたちが潜り込ませた概念※1が前提のものです。

1.5℃目標を満たせる排出削減経路は、一本一本の線が各シナリオになっていますが、(一部をのぞいて)大半はCCSの大量普及がシナリオの大前提ですよ、と解説してくれています。それでもCCSを使わないシナリオの線は、排出量がマイナス側に入らないことで区別できます。

この7ページはもっと大事なことを解説してくれていて、CCSを大量普及させるシナリオでは全て、オーバーシュート(過剰に温度が上昇してから後になって逆転して収束する)がある程度は起きることを前提としています。「慣性」によるS字曲線型の動きはCCSの普及速度についても当てはまり、当初の時期には不足するCCSによるオフセット分を後期(カーボンニュートラル達成後の期間)に更に過剰にCCSを実現させることで補うことにしているのです。
 その結果、右側模式図のように、気温の上昇はオーバーシュートして、1.5℃を通り過ぎた後に2℃なり3℃なり4℃なりまで上昇した後、最終的に辻褄をあわせる1.5℃まで下げればいいのだ、というとんでもない考え方が1.5℃気温安定化目標の中に潜り込んでいるのです。(な・の・で・早ければ2030年に1.5℃に到達してしまう予測なのに2050年になってからニュートラルでよいという議論をできるのです。)


 これは模式図なので、どこまでオーバーシュートを許すつもりなんですか?と政治家さんたちに聞いてみてください。

  このオーバーシュートを前提とするCCSの大量普及目論見こそが、今日本政府が脱石炭をしなくてもいいはずだ、としている経団連のお偉いさんたちの前提条件なのです。

環境省が翻訳した、IPCC1.5℃特別レポートの概要より12ページ。https://t.co/5zVWNYaJaE

  1.5℃目標を達成するためのシナリオには実は複数の経路が想定できますが、それはNETを大量に(膨大に)導入するオプションを使った場合の話です。図の2つ目の※印を参照。

環境省が翻訳した、IPCC1.5℃特別レポートの概要より51ページ。https://t.co/5zVWNYaJaE

  代表的な排出削減の4つの経路を同51ページで示しています。 この左端にはCCSもBECCSも使わない経路が示されています。
実際には排出削減の経路はたった一つ、とても細い山道を辿って安全に、急速に降りていかなければならない道ですが、それを嫌がるだろう政治家のために用意されたのが右側の赤で囲まれた経路です。

  2年前18年の10月に、IPCCの科学者たちは政策決定者のためにこの1.5℃特別レポートを用意して、これらの政策のどれを選びますか、まさか前図の③やこの図の経路P4は選ばないでしょうね? という問いかけをしているのですが、COP24の時もCOP25の場でもこのレポートは数カ国の政府の反対により受け取られませんでした。

感謝して受け取り、ここに書かれている選択肢、大規模CCSを導入する道を選ぶのかどうかを論議するのは政治家の使命です。

●ティッピングポイントの危険な評価は5℃→2℃へ オーバーシュートしたら知らぬ間にティッピング・ポイントを越えてしまい、最終的に目標としていた気温に戻る方向の復帰できなくなるため、あとで挽回は不可能となるリスクを負う、つまりCCSは偽りの希望だと分かった。

 CCSはおよそ、偽りの希望と言わざるを得ません。これを後日に大量導入するという先送りの道は、ティッピングポイントが2℃あたりだと示されたIPCCの1.5℃特別レポートで事実上閉ざされてしまっているからです。

 19年11月末には各種の気候カタストロフィ(急激で不可逆的な出来事)とそのティッピングポイント(臨界点or転覆点)/ティッピングカスケード(各ティッピング要素のドミノ倒し)についてのネイチャー誌への研究者たちの寄稿が話題を呼びました。

 IPCCの第3次〜5次までの総合レポートと1.5℃特別レポート、昨年発表の雪氷圏特別レポートの中ではティッピングポイントに至るリスクが継続して評価されてきました。

 11月のネイチャー誌寄稿ではこの各ティッピング要素がどういう順番の連鎖でドミノ倒しが起きるのかが描かれており、連鎖の起点となるのはまさに今起こっている北極海の海氷の消失プロセスです。

 当初は5℃以上のかなり遠くに見え始めた脅威だ、とされていたティッピングポイントが、1.5℃特別レポートでは2℃昇温のあたりでもリスクが高いと危険視される方向に変わったことに焦点をあてる内容でした。(もちろんこれは1.5℃特別レポートの中身を読みこんだ人は18年に知っていたはずのことです。)

 

●何を対象にCCSを行うべきか

エンドオブパイプ技術として想定されているのが、CCSとかCCUSの略語で知られているCO2の地中や海中への回収貯留と、再利用(つまり化石燃料に戻してやって、それをまた使うので一回のみのリサイクル)です。エンドオブパイプ技術とは、CO2が最も重量のある廃棄物であるという特性からして、CO2公害の抜本解決を目指すものでないことは明らかです。

CCSを実施するためには、まず化石燃料を火力発電所で燃やさないとCO2を排ガス中から集められません。決して低炭素にはできないワンセットの行為である上、さまざまなロスが実際には出てくるはず、理想的なロスのないCCSの幻想を皆が持っているために騙されているのだと思います。分離し、圧力を掛けて液化、輸送などに掛かるエネルギー/CO2のため、火力発電所のCO2排出量を「ある程度は」削減できる技術とみなすべきであり、LCAの結果を早急に開示されなければなりません。

第二に、CCSはそれ自体がNET(負の排出技術)ではありません。地下に閉じ込めるためのCO2が消費した化石燃料由来であるなら、使ったものを地下に返すとしても(輸送他に掛かるエネルギーのことは考えなくても)「火力発電所」+「CCS」を合わせたシステムのバウンダリー内がカーボンニュートラルになるのが最大限の成果で、他の分野での排出活動をオフセットしてくれる「ネガティブエミッション」の効用は得られません。

本来はCCSはベストアベイラブルテクノロジーと組み合わせるべきですから、化石燃料の中ではコジェネあるいはGTCCガスタービンコンバインドサイクルとの組み合わせとすべきです。効率が最悪な石炭産業の延命のために使うほどの余裕は人類にはありません。

 

●バイオマスはカーボンニュートラルか?

そして元々考えられていた第一のNET技術とは、BECCS(「バイオマス発電」+「CCS」の組み合わせ)だったはずです。木質(などの)バイオマス発電は、植物が成長時にCO2を吸収したバイオマスからエネルギーを取り出してCO2を大気に捨てていますが、「別の現在成長中の植物」とこの「バイオマス発電」を組み合わせたシステムのバウンダリー内がカーボンニュートラルです。これを、燃やしているバイオマス自体の過去の成長時のマイナス分と組み合わせてカーボンニュートラルなのだ、とみなす考え方は間違いです。なぜなら、過去の植物の成長というNETの効果は現在の大気中CO2濃度の変化としてすでに反映されているとみなすべきであって、現在の排出そのものを「カーボンニュートラル」な技術だからないものとするダブルカウントは出来ません。(炭素予算を考えるにあたっては、まずは炭素会計上の考え方を適正にしなければなりません。つまり年次を区切って年頭から年末までの間のシステムの全体とバウンダリーを考えるべきであって、過去の効果を今年の会計に勝手に組み込むようなことはできないのです。)

…ということは、最初の規定が間違っていて、NETとなるのは、「別の現在成長中の植物」+「バイオマス発電」+「CCS」の組み合わせだということになります。これをワンセットのNET技術として考える必要があることになります。

●そして上記の唯一の大規模NET技術を蔓延させることは生態系の崩壊につながる


環境NGOグループ、大規模バイオマス発電の中止を求める共同声明発表
「生物多様性を脅かし、気候変動を加速させる」

https://www.foejapan.org/forest/biofuel/201203.html


 もうひとつの危機、生物種の大絶滅も直ちに大転換、大転回をさせなければなりません。自然の吸収源は、自然を再生するためのみに使うことを目指す必要があるでしょう。そのような形の取り組みのために全ての土地を使わなければなりませんから、バイオマスエネルギー作物のための土地は排除しなければなりません。従って、このNETは実施不可能です。

 

●その他の論点

以下、安田陽氏 https://twitter.com/YohYasuda の一連のツイートより。


本日(11/3)の日経朝刊。このところ立て続けに水素キャンペーン記事出してるところみると、知らないで書いてるというより確信犯的かもしれません。記事には「川崎重工業は褐炭に狙いを定める」とあるので、内容からすると「日本の水素、脱炭素に逆行」という見出しが適切かと。

CCSの研究開発自体はカードの1枚として悪いことではありませんが、脱炭素のための選択肢としては本来最後(最下位)です(まだ実現可能性が十分明らかでなく高いから)。他に確実で低コストな手段がありながら「CCSありき」で話が進むとなるとやはり脱炭素に逆行と評価されてしまうリスクもあるでしょう。

本日(11/18)の日経朝刊、CCUS(CO2回収利用貯留)が何故か1面トップ。CCUSは脱炭素の「有力手段」でなく「他の全ての手段を取り尽くした上での最後の手段」ですよ…。野球で言えば4番打者不在のまま下位打線の話題ばかり。やはりこの国は脱炭素の優先順位がおかしい。

優先順位の問題です。2050年CO2削減80%目標であればCCUSは殆ど不要なレベルで、カーボンニュートラルであればある方がよい「かもしれない」レベル。技術的実現可能性→経済的実現可能性→外部性も考慮した上での市場性という優先順位から考えるとCCUSが一面トップでもて囃されるのはやはり不可解です。

他のフォロワーさんへの情報提供にもなる良いご質問ですので、ご回答致します。IRENAから今年出た別の報告書によると、2050年ゼロカーボン達成にはCCUSは6%必要と見積もられています(p.44 Figs.1&2)。https://t.co/blHYt8dGii

つまり80%削減目標であればCCUSなしで再エネ&省エネで十分達成可能です。もちろん、ゼロカーボンを目標とするなら「他の全ての手段を取り尽くした上での最後の手段」としてCCUSが必要となります。それ故、私の元投稿(日経新聞記事へのコメント)では「優先順位」を強調してご指摘したわけです。


 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ことしの第34回伊方集会は10... | トップ | 2020年3月に県議会にXR四国... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

続・温暖化いろいろ」カテゴリの最新記事