バンマスの独り言 (igakun-bass)

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気分で聴き分ける’70年代ロックの名曲 7 (第31話~第35話)

2015年04月23日 | この曲が好き!特別企画70年代ロック
気分で聴き分ける’70年代ロックの名曲シリーズ、今回は第31話から第35話までをエントリーします。




第31話 :うるさいんです、このバンド! でも・・・



★ROCK'N ROLL STANDARD CLUB BAND 「ロックンロール・スタンダード・クラブ・バンド」 1996
         
 
   
このロックンロール・スタンダード・クラブ・バンドはご存知、今稼ぎまくっている日本のバンド「B'z」の松本氏がDJのFMラジオ番組「BEAT ZONE」において企画しスポットで結成された、主に’70年代のビッグネームのロックンロールを中心とした洋楽カヴァーバンドのことです。松本氏や他の日本人メンバーのそれぞれの曲に対する思い入れを目一杯詰め込んで制作され、短期間ではありましたがライブ・ツアーも行われました。(スポットのバンドなので現在は解散していると思います)

まず感じた事。このアルバムはとてもラウドです!騒々しいパワーが全開っていう感じです。これはいい意味でも悪い意味でもです。どこか普段の欲求不満が爆発したような激しさがあります。でも、およそロックをやってる人間は押しなべて大きな音でプレイしたいのが本能でしょう。 それをこのアルバムではストレートにやっちゃってます。そこが実にカラっとしていて気持ちがいいんです。

さらにほとんどの曲を歌っている、生沢佑一(TWINZER)が凄いんです。このボーカリストの事は失礼ながら、全く知りませんでしたが英語の詩をよく理解し歌っています。発音も立派なものです。あえて有名なボーカリストに例えるとツェッペリンのロバート・プラント風とでも言えば分かりやすいかな、です。

リーダーのギターを食ってしまっている印象すらあります。ドラムもやはりもろジョン・ボーナム風で重戦車のような凄みのあるリズムを叩き出しています。

さてトラック・ナンバーを見てください。
 
  01 I Got The Fire (Montrose )
  02 Fool For Your Loving (White Snake)
  03 'cause We've Ended As Lovers (Jeff Beck)
  04 Into The Arena (The Michael Schenker Group)
  05 Rock And Roll, Hoochie Koo (Rick Derringer)
  06 Move Over (Janis Joplin)
  07 Life For The Taking (Eddie Money)
  08 Sunset (Gary Moore)
  09 Wishing Well (Free)
  10 Communicatin Breakdown (Led Zeppelin)
  11 Mistreated (Deep Purple)


比較的静かに(と言ってもあくまで曲想が)プレイを聞けるのが02と08くらいであとはヘヴィーです。しかし松本氏は日本のポップス・グループのバンドのメンバーとは思えない程の重いロックがその身体に流れているようで、彼の事に興味が無かった僕など、ただただ意外で驚きなのです。

特筆したいのは04でしょうか。シェンカーの原曲をもしのぐ、より安定したテンポ感にまず好感を持ちました。よくこなれた演奏が聞けます。こういう曲ってテクだけで走ると聞いてるほうはつまらないのです。曲の構成が大きく2部に分かれているので全体の統一感を出すのが結構難しいのです。
そんなこの曲ですが、さすがにキモの部分をしっかり押さえた、気持ちのいい演奏になりました。好演です!

続く05ははっきり言って原曲を凌ぐ快演です。この曲はこうあるべきだとすら思えました。 06は思い切ったアレンジとパワー感で驚かされました。ジャニスの持つ独特のダークな雰囲気を残しつつ、パワフルにシャウトするボーカルが特にいいです。また、リズム隊の張り切りかたが尋常ではありません。これだけでこの曲はこのアルバムのベスト・トラックに成り得ると感じました。 

07はテンポを落とした泣き節が聞けます。残念ながら原曲を知りませんでしたが、このアルバムでの演奏がオリジナルよりはるかにヘヴィーであろうことは想像出来ますね。非常に落ち着いた各人のプレイが好印象です。

08はギターのインストです。この曲が入っているゲーリー・ムーアのアルバムを知らないので比較が出来ませんが、03同様、ギター小僧が好きそうな曲ですね。案の定、リーダーは気持ちよさそうに弾きまくっています。途中ピアノが冷たい音でメロディーを弾く部分が気に入っています。

09はボーカリストが違う人のようですが、この人、ポール・ロジャースがうまいです。日本人でこの感じで歌えるなんて感動すらします。曲は単純ですが歌で点数を稼ぎましたね。

10はプラント風ボーカルとボーナム風ドラムが待ってましたとばかりに張り切るトラックです。コピーとはこんな演奏を指すのでしょうか。そっくりです。 

11はこのバンドのホットな特徴がよく出た演奏になりました。本家パープルよりサウンドが重く、ねっとりした感じです。
エンディングなどひとひねりしたアレンジで、彼らの思いが伝わってくるような、悪く言えばそこまで気合を入れるなよ~、
というトラックです。

以上、とてもうるさくて騒々しいアルバム(笑)の紹介でした!   でも大好きです、こういうの!
 



                                 
第32話 :復活と消滅~UFO飛来 再び彼方へ ('70年代サウンドということで)



★UFO    

「WALK ON WATER/ウォーク・オン・ウォーター」 1995
         
    
このシリーズの基本は'70年代ロック、ということなのですがこのUFOというバンドは間違いなく今でも'70スピリットをもった息の長いバンドなのでここでも採用することにしました。
 
多少の独断と偏見は容赦いただくとして、このUFOの「ウォーク・オン・ウォーター」は近年のあまりパッとしないハード/ヘビメタ(HR/HM)ジャンルにおいて名作の一枚として自信を持って推薦します。

このUFOというバンド、マイケル・シェンカーというロック界の「神」と呼ばれるギタリストがいた長い活動歴のあるバンドなわけですが、多くのバンドにもみられるように解散・再結成・メンバー離脱など紆余曲折の目立つバンドでした。原因は主にシェンカー君の動向にあったようですが、1994年の末にオリジナル最強メンバーで復活し、翌’95年にはロック・シーンにそれも最前線にいきなり復帰したのでした。(この後、シェンカーの脱退によりまたまた活動停止)



まず、全編を聞き通して痛感するのはメンバー全員の音楽に対する方向性がピタッと一致し、同一ベクトルをもって正に全員一丸となってアルバムが作られている点です。これは当たり前のようでいて実は大変な事であり、成果なのです。
ボーカルのフィル・モグの懐かしい歌いまわしを聞き、シェンカーの泣きのギターを聞き、控えめだけどツボを心得たリズムセクションの安定したビートを体感すると、もうUFOの懐かしい栄光の時代('70~)へ完全タイム・スリップしてしまいます。
このアルバムの世間での評価はHR/HMファン以外はメジャーに取り上げられなかったようで、僕は大いにしゃくにさわりましたが、発売元がメジャー・レーベルでなかった点が(日本は ZERO CORPORATION)多少災いしたのかもしれません。

しかし冒頭でも書いたようにこれはロック界の至宝とも言うべき傑作中の傑作であることは疑いありません。
ここまできっちりと凝縮され均整の取れたハード・ロック・アルバムはそうそう聞けるものではないと思います。

では、各トラックについてコメントを入れておきます。

1 A Self Made Man
 イントロの重量感にいきなり圧倒されます。フィル・モグの懐かしいボーカルに長いブランクを忘れてしまいます。正統的なミディアム・テンポの歌謡調ロックに仕上がっていてアルバムのオープニングにふさわしいシンプルさもいいです。
    
2 Venus
 リフは常套的で新しさはありませんが、メロディックな曲です。恐らくギターのフレーズを入れにくいのでしょう。シェンカー君がてこずっている感じがします。

3 Pushed To The Limit
 小粋な小品ですが、無駄のない(贅肉のない)曲作りにベテランの底力と余裕を感じます。僕らがコピーしたことのある曲ですが、聞いた印象よりも意外にコピーに苦労した覚えがあります。これがプロのなにげない技なのでしょう。不思議なリフとサビの進行に特色があります。

4 Stopped By A Bullet (Of Love)
 アコギを効果的に入れていてタイトな仕上がりです。シェンカーの出番はあまり必要のないように思えます。

5 Darker Days
 強い印象を持てない曲ですが、それは曲に仕掛けがなく、コード進行などに独自の意味付けがないからでしょう。

6 Running on Empty
 アルバム中盤にきて、この曲はステ曲でしょうか。アコギによる中間部のギターは最近のシェンカー君のオハコ的フレーズですが、残念ながらつまらないです。

7 Knock, Knock
 ボーカルのフレーズ・ラインが美しいですが、それをさらに際立たせる何かに欠けていて、聞いていて不完全燃焼です。もしかしてライブなどでは観客に受けるノリの曲なのかもしれません。

8 Dreaming of Summer
 このアルバムの中の最高作です。イントロからなにやら不思議に期待が高まります。コード進行がUFO的な叙情を持ち、泣けるメロディーが前面に流れていきます。マイナー・コードの特徴的使い方にシェンカー&モグの最高の美点を見ます。中程のギターの歌い方は「現象」や「フォース・イット」の頃の美しさです。ボーカル・ラインがとてもきれいで他の模範となる出来栄えです。

9 Doctor, Doctor - (New Version)
 このトラックはいわいるオマケではありません。UFOでもMSGでも必ずアンコール・ピースとして取り上げられるロックの名曲をもう一度、オリジナル・メンバーが気持ちも新たに録音したもので、同曲で最も完成度の高いパーフェクトなトラックになりました。ギターのオーバー・ダビングにわざとらしさを感じさせる部分がありますが、それを除いてもなお強烈なインパクトがあります。この曲は俺たちの宝だ、と言わんばかりの自信と誇りがプレイからほとばしっています。意外と難しいリズムをリズム隊の抜群の安定感のあるテクでサラッとこなしていて、さすがベテラン達のウルトラ演技だと感心します。

10 Lights Out - (New Version)
 このトラックはいわいるボーナス・トラックです。ニュー・バージョンですがUFOの大ヒット曲であるこの曲はすでにライヴ・アルバム等で頂上を極めたテイクがあるので、より良い音質で楽しめる、といった意味では嬉しいトラックです。

 

                                

第33話 :  バンドの誕生の瞬間を聴く



★レズリーウエスト/マウンテン     「Leslie West/Mountain」 1969
         
    
 
このアルバムこそがハードロック ・ファンとしての僕の原点を形作り、それに加えて真の意味でのアメリカン・ハードロック・バンドの誕生を体験できるものであるとずっと思い続けてきました。

もしあのクリームが解散せずに活動を続けていたら、このようなアルバムを作ったんではないかと多くの人が言うように、このバンドのプロデューサー:フェリックス・パパラルディの音楽性はポスト・クリームの答えとして当時まだ無名のアメリカ人巨漢ギタリストのソロアルバム制作という構想にまとまっていったのです。

そしてこのギタリストの為のアルバム制作はそのレコーディングの過程で次第に「マウンテン」というとてつもなく偉大なアメリカン・ハードロックバンドの実質誕生へと進展していくことになりました。

パパラルディはこのレズリー・ウエストというアメリカン・デブちゃんのソロ・アルバム制作過程でそれまで密かに温めていた自らの音楽的・実験的構想を次々と具体化し(複雑なコード進行やキーボードの導入などなど)、当初の無名ギタリストのソロアルバムという性格を大きく方向転換したとも言えるアルバム制作に変わっていったのです。そしてこのアルバムを聴くと目の前で着々と「バンド」(マウンテンという)が誕生していく様が実感できるのです!

このアルバム・タイトルは「レズリーウエスト/マウンテン」と奇妙な併記がされていますがこれこそ1つのバンドが誕生する際の混沌を表していると思います。時代は一般的だったブルース・ロックからハード・ロックへの変化の兆しを見せ、一方でブリティッシュ・ロックから巨大化するアメリカン・ロックへのファンの熱い眼差しが顕著になりつつありました。

レズリーはこの名目上のソロアルバムを出したその年にもう「マウンテン」としてライブハウスやウッドストックにバンドとして出演している事からも、パパラルディの仕掛けによって、その後の偉大なバンドの足跡の第一歩を踏み出したと言えるのです。

収録されている曲の中には実験的な雰囲気の曲もありますが、けっこう複雑なコード進行やメロトロンの使用などすでにマウンテンというバンドの形が作られていると感じられます。
アルバムを聴き進んでいくとレズリーのギターの後ろからパパラルディのベースラインがヘビのようにウネウネと絡みついて次第にはっきりとその輪郭が見えてくるといったバンドとしての一体感が時間を追って明瞭になります。この瞬間こそがバンドの誕生です!

さて収録曲の紹介です。

1 Blood Of The Sun
   今でもこの曲はマウンテンの代表曲の1つでしょう。 ギターとベースのユニゾンによる印象的なリフがかっこいいし、隙間を埋めるベースのうなりが何とも快感なんですよ~。ボーカルに少し硬さが残っています。それに日本のGSみたいなドラミングに時代を感じます。

2 Long Red
  なんだか明るい太陽の下で大きく伸びをしたくなるような穏やかで平和な音楽ですね。キーボードの屈託の無い陽気さが好きなんです。

3 Better Watch Out
  なんでここまでベースが絡みつくんだ、と思わずうなってしまうほどの執拗なストーカーぶりのパパラルディにレズリーもタジタジでしょう。

4 Blind Man
  ブルースです。ユニゾンのリフはひたすら重くのしかかってきますが、レズリーのボーカルは負けませんね。歪んだトーンが特徴のパパラルディのギブソン・ベースが生き生きとしています。この音、なかなか出せないんですよ!(EB-1というベースギターです)

5 Baby, I'm Down
  ちょっとクリームを思わせるコード進行の中にもパワー・ボーカルが気持ち良く、ベースのうなりもヘビーで気に入っています。

6 Dreams Of Milk And Honey
  マウンテンでは重要な作品です。リフの変化がシャレていてノリもよく、パパラルディが目立ってきてます。すでにギターのトーンはレズリーのものといっていい確立されたいい音です。あとベースも同じくね。

7 Storyteller Man
  ホンワカした曲にもかかわらずベースのあの歪んだトーンでの絡みは後のマウンテンの特徴の1つです。

8 This Wheel's On Fire
  キーボードが入っていますが、これなどはソロ・アルバムからバンド・サウンドへの変化の過程であると思われます。曲の基調はソロアルバム風の曲ですね。

9 Look To The Wind
  メロディックな曲ですが何と言っても「メロトロン」の使用が摩訶不思議な 雰囲気を漂わせて妙な浮遊感があります。コード進行にも実験的要素が感じられます。

10 Southbound Train
  これはもろにアメリカン・サウンドです。テンポの速さも後のマウンテンでもそう多くはない種類のものです。

11 Because You Are My Friend
  出た!歌うのをガマンできなくなったパパラルディがフォーク調の柔らかい音楽に優しく歌います。最後の曲でアルバムの主人公以外の人が歌ってしまうところにバンド誕生という本性がつい出てしまった訳です。こんな曲をアルバムに入れてしまうのはアメリカ人の好みです。

 

                                

第34話 :  音楽の持つフレーバーを聴く



★LOVE PSYCHEDELICO  「THE GREATEST HITS」 2001 (ラヴ・サイケデリコ)
         
  
'07sからいったん離れます。

告白しますが僕は隠れ「デリコ」ファンです! 膨大な昔のロック音楽について書いている最中に突然このユニットの音楽を思い出してしまい、いま書かないといつ書けるかわからないという軽い強迫観念にとらわれて書いておくことにしました。番外です。

「デリコ」とは日本でJ-POPが認知だれるようになってからから上昇気流に乗っている男女二人のポップ・ユニット:LOVE PSYCHEDELICO(ラヴ・サイケデリコ)の事なのは今更説明でもありませんよね。(以下、デリコと呼ぶ)

ただバンドのメンバー以外で僕を知る人には少々驚く事実だとも想像できるのです。常々僕が周囲の人たちに言ってる事、それは当時、巷で垂れ流され続けている「J-POP」(主にチャートの上位を賑わしているグループなどです)が大嫌いなことです。「演歌」も勘弁してほしい人間ではありますが、自分の好きなロック音楽に近いのにもかかわらず、今のこの「J-POP」の主流をなしているサウンドにはどうにもガマンができないでいます。 その中でも特に、若いニイチャン達がヘナヘナと踊りながら繰り出すアメリカのラップに似せた不可解な日本語の歌詞とバックの単調な音楽にノックアウト寸前です。(いまではヒップポップという)

詩の世界には「韻を踏む」という常套的テクニックが存在しますが、くだらない内容の日本語の詩(あるいは詞)に韻ばかり踏んでどうするの?といつも思っています。リズムの流れを強調したいがためにピーマンな頭をフル回転させてなんとか形にしている、といった浅はかさを感じます。それにハッキリ言って日本語は無理です。シラブル数が英語とは違うんですからそこは自覚が必要です。だから・・・僕は今の「J-POP」の大半が嫌いなのです。

しかし・・・前置きが長くなりましたが、そんな「J-POP」にも救いがありました。このデリコの2001年のデビュー・アルバムの登場です。当時は今よりは低脳のヒップホップ系のグループが少なかったものの、その登場には時間が掛からない所まできているといった正に嵐の前夜のような様相だったのでこのアルバムを何の期待もなしに聞いた時には、まず笑い転げました。
そしてその後、次々と流れ出す60-70’sのフレーバーにどんどんと聞き耳を立てて感心する僕がいました。コードやリフの扱いがよき時代のそれと同じじゃないですか。歌詞は英語と日本語の便利な所や特徴をうまく選びながら交互に使っていて、ちょっと聞いただけでは何を言っているか解からないといった一種の欠点とも言えるフィーリングが何とも心地よいのです。これは音楽の下地にオールドファッション的フレーバーを周到にしかも計算高く敷いている成果だと思えるのです。デビューアルバムのタイトルを「THE GREATEST HITS」などと自信なのかおとぼけなのか判然としない人を食ったような彼らの感性がもとても面白くその後の興味を持ち続けさせることとなったのでした。

アルバムでは特に前半が好きですが、アルバムの冒頭を飾る「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」は単純なリフの上に抑揚の無いドライな歌のラインが昔風で枯れていていいし、エンディングの後ろで聞ける安っぽいギターのフレーズがダサくて結構。

2曲目「Your Song」、いいですねぇ、この曲。歌メロに前曲にも増して抑揚が付き、音楽に陰影があって、おしゃれで高度な味付けがなされています。さらには英語混じりの歌詞が淀みなく流れて気持ちがいい曲です。

3曲目は「Last Smile」、おそらくアルバム中の最高傑作でしょう。リズムはこの人たち特有の冷たい機械リズムで淡々としているのですが、歌詞に推進力があり、そのリズム感は音楽全体をぐいぐいと引っ張っています。打楽器類でグルーヴ感を作り出さない面白い例だと思います。

4曲目「I mean love me」、昔のプログレ的コード進行と軽いギターのカッティング、バックのトレモロ・リバーヴを効かせたアレンジにとてつもない斬新さを感じます。 地味な曲ですがアタマだけは使ってますね。どこか「U2」のサウンドフレーバーとプロコルハルムの臭さを嗅ぎ取ったのは僕だけでしょうか。

5曲目「Moonly」、 ストーンズ的なノリを持つこの曲は、特に日本語と英語が渾然一体となって溶け込んでいる歌に特徴があり、ブリッジの部分が昔のアメリカのフォークソングを思い出させます。

7曲目「I miss you」、メロディーが美しいと思います。アメリカのオールドファッションと日本の歌謡曲が合体したような独特の香りがあり、オルガンが目立たないながら効果的です。

                 *****
 
ところでヴォーカルの「Kumi」は1976年生まれ、ギターその他の「Naoki」は1973年生まれ、僕らのバンドの結成時と前後して生れたこの二人がどうしてこのような60-70’sフレーバーを習得したのでしょうか?
英語の発音を聞く限りKumiは帰国子女であろうと想像できますが、レコードからだけでこれら昔のテイストを自分のものにしてオカネを稼げるなんてほんとすごいと思えます。

でもね、デリコはアタマを相当使い、難解だけれども考えて作られた事が判る歌詞を持っていることで、ヘナヘナ踊りながらみんなでユニゾンしてる今流行のJ-POPグループらより数段上のクラスのアーティストだと確信しています。
・・・だから僕は隠れ「デリコ」ファンなのです!
                                 




第35話 :  ニッポン・ロックの原点を聞こう



★FLOWER TRAVELLIN' BAND    「MAKE UP」1972  フラワー・トラベリン・バンド  「メイクアップ」
         
  

熱狂のGS(グループサウンズ)ブームが去って、日本でも一足先に欧米で盛り上がっていたロックミュージックがいよいよ始動しはじめた’70年初頭、この日本のロックの原点のようなバンドが現れました。

それまでのGSなどは商業作曲家による完全な歌謡曲であって、そこでプレイしていた多くのバンドは一部を除いて好むと好まざるとに関わらずロックのスピリットからは遠くかけ離れた活動をしていたのでした。が、このブームが去ると、ウズウズして待っていたかのように欧米の本格的ロックサウンドを実践する連中があちこちから出てきたわけです。

商業的に成功するかどうか暗中模索のこの動き。当時のロック大好きプレーヤーは続々と入ってくる新しいテクノロジー(楽器や音響機器)などに胸を躍らせ憧れと好奇心一杯にそれぞれ自分の進むべき音楽へと羽ばたいていました。

フラワー・トラベリン・バンドという奇妙なバンド名を冠した彼らもヤンチャなお兄ちゃん達でしたが、当時こんなロックアルバムを作るバカはいない時代にすごい事をやってしまった愛すべきロッカーたちの、これは大成功のプロジェクトになりました。

ヴォーカルにギター、ベース、ドラムスの基本4人編成ですが、アルバムを聞くとキーボードがかなり重要なサウンドを作っています。以下、いくつかの収録曲についてコメントを入れます。

アルバムタイトル曲の「MAKE UP」は見事なロックです。ユーライアヒープを彷彿とさせるキーボードのイントロ、それに続くノリのいいリフ、日本人とは思えない声質のジョー山中のヴォーカル、どこを切り取ってもカッコいいサウンドです。
今風に中間部にギター等のアドリブパートがあるわけじゃないけど非常にタイトに曲作りがされていて、最高の日本ロックが誕生しています。

「LOOK AT MY WINDOW」などはゆったりとしたテンポでフォーク調のメロディーがホンワカとさせますがこれはイギリスのトラッドの影響が聞き取れます。中間部になるとベースの単純なシークエンスに乗ってギターやキーボードがアドリブを延々と(少し長すぎる!)繰り広げます。A-B-Aの構成なのでまたゆったりした歌が戻りますが、やはり当時としてはある種挑発的な音楽ではあります。

「SLOWLY BUT SURELY」はこのバンドのある意味実験的な姿勢がよく表れた曲です。冒頭の不協和音の塊りが静まるや、秒針を刻むようなキーボードになんとティンパニがのっかって荘厳さを出した後、おどろおどろしいギターのフレーズがどろっと流れ出します。注意して聞いてほしいのはこの部分のギターのフレーズは終始同じ音を繰り返しているにも関わらず、下を支えるベースの音が変化するので聞こえてくるサウンドには表情が出るという点です。このアイディアはとても面白く当時はかなり斬新と感じました。またこのバンドのサウンドの一大特徴である半音階を多用した民族的音階風のフレーズもこの曲の不思議な雰囲気を作る最大の武器となっています。

我々のバンドの学生時代はこの曲をコピーしていましたが、ヴォーカルのハイトーンが大変で当時ベース&ヴォーカルだった僕などこの曲をやる度に声が枯れてしまったものです。

♪Woman~♪のかん高い絶唱で有名な「SHADOWS OF LOST DAYS」は日本人離れしたマイナーブルースを聞かせます。曲ごとに異なる表情とアプローチにこのバンドの非凡さが見え隠れしますが、逆に方向性が定まっていない印象も受けてしまいます。しかしこの冷めた感じのブルースにジョーの熱唱が乗っていく様は日本の歌謡曲の持つ叙情性を垣間見せ、和洋折衷の面白さを作り出しています。聞いているとどこかグランドファンクの「ハートブレーカー」を連想させる部分もあって興味が一層そそられます。

あともう1曲書きます。問題作「HIROSHIMA」です。
広島の原爆きのこ雲を描写したちょっとエキセントリックな作品ですが、これなども例によって民族的半音階を使ったメインメロディが特に印象的ですね。もともとこのバンドのルーツというか好みはこのようなファーイースト・メロディーにあるのではないでしょうか。冒頭のベース・ソロは2つの弦を鳴らしながらコードワーク的にメロディーを重々しく弾いていきますがこういう発想自体当時は大変に珍しく、その後に続くヴォーカルの引きつったような歌いまわしがこの世のものとは思えない世界を一気に作り出しています。このバンドは他のアルバムに「SATORI」という東洋的諦観を表現した不思議な曲がありますが、言葉で言えば「どろっ」とした世界がロックサウンドによって表現される様は諸外国のロックには絶対見られない「日本のフラワー・トラベリンここにあり」といった独特の存在感があって頼もしく感じていました。

間違いなくオリジナルティーあふれるニッポン・ロックの原点に触れる事の出来るバンドであると思います。
                                 



次回(36話~40話)に続きます。    (トップの写真はFLOWER TRAVELLIN' BAND 「MAKE UP」のジャケット)

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