バンマスの独り言 (igakun-bass)

趣味と実践の音楽以外に日々感じる喜びや怒り、感動を記録するためのブログです。コメント大歓迎です!

気分で聴き分ける’70年代ロックの名曲 6 (第26話~第30話)

2015年04月22日 | この曲が好き!特別企画70年代ロック
気分で聴き分ける’70年代ロックの名曲シリーズ、今回は第26話から第30話までをエントリーします。



第26話 :唯一無二のアメリカン・バンドかな?



★オールマンブラザース    「ALLMAN BROTHERS BAND」 1969  オールマン・ブラザース・バンド
         
    

意外と言っては語弊がありますが、オールマンブラザースというバンドって今もなかなか熱心なファンが付いているそうですね。’60年代後半、アメリカ南部の地域でそこの地場音楽であるブルースをもとにしたロックを創作?した結果、サザンロックという今では聞き慣れたサウンド・ジャンルが誕生しましたが、その代表格であり創始者みたいな貫禄をもつのがこのバンドです。そしてこのバンドの崇拝者は今となっては当時リアルタイムで聞いていたファンがほとんどということになるでしょう。
 
言うまでも無く、このバンドの看板はツインギターとツインドラムでした。サウンドの傾向はいわゆる「ホワイト・ブルース」ですが、ギターを弾くデュアン・オールマンは巧みなボトルネック奏法などで独特の存在感があり、そのプレイに惚れ込んだクラプトンが制作中の新しいバンドによるアルバムに彼のギターをフィーチャーしたりして、その名前も一躍ビッグになりました。

そのアルバムこそかの有名な「レイラ」であり、デュアンを知らない人でも自然に耳にしていると思われる位、ロックの世界では超名盤ですね。(ただし当時の録音技術を考慮しても音質が悪すぎるアルバムでもあります)

さて、そんなギタリストが作ったオールマンブラザースバンドは1969年、この衝撃的なデビューアルバムを発表しました。後、高校生になった僕は、レコードに針を下ろすと同時にいきなり始まるツインギターのユニゾンによるフレーズになにやら不気味な新鮮さを感じたものでした。(いまCDで聞いても1曲目の冒頭部分がいきなり鳴り出します)

「Don't Want You No More」 すぐに曲は8ビートのハモンド・オルガンのソロになりますが、それが終わると付点リズムに変化してデュアン・オールマンとディッキー・ベッツのツインギターが交互にチェイスしていきます。この曲だけを聴いてもこの二人のギタリストのプレイを比較する楽しさがあります。
と、すぐにブルース好きには耳慣れた定番的雰囲気のスローブルース「It's Not My Cross To Bear」にメドレー的に変わり、どちらかというとデュアンにくらべ若干センシティブなディッキーのギターがよく歌いながらもブルースの暗さみたいなものを感じさせない、不思議な明るさをもって流れていきます。しかし一方でとても粘着質な音楽でもあります。

3曲目「Black Hearted Woman」は軽いリズムに乗ってソウルやブルースそしてロックの巧みな融合(=オールマン・サウンド)が聞き取れます(この変化が好きです)。けっこうこういう曲ってアマチュアが手を出すんです。途中、ドラムをバックにハミングを入れてみたりしてライブで受けそうな曲想ですから。

次の「Trouble No More」はもろテキサスあたりのブルース・フィーリングです。それをロックビートでデコレーションしているわけです。歌に合いの手を入れるスライド・ギターの雰囲気はどこか南部のじいちゃんブルースマンが弾いているような土臭い感じです。さらに曲は続きますがリズムに関して少し言えば、やはりツインドラムスの独特なビート感がこのアルバムの曲全てを支配しているとまで言わないにしても、これが新しいバンドが現れたというインパクトの一翼を担っていると言っていいと思います。

実は、このツインドラムスという編成が僕は好きではありません。他にもドゥービー・ブラザースもそうですが、オカズが入るときのバタバタした感じがイヤです。ベース弾きとしてはビート感をドラムスと一対一で作りたいのです。どっちのドラムを見て弾けばいいのだろう?などと思ってしまいます。

近年では、ピンク・フロイドがライブでツインドラム編成でした。しかしその映像を見る限り、体力の衰えたメイン・ドラマーを補佐するといった感じでサブ・ドラマーがいました。オールマンズは若いドラマーを使っています。
アルバムを聞いている限りにおいて、ツインドラムスはツインギターほどの音楽上の貢献をしているとはとても思えないのです。

このバンドはこの後の2枚目アルバム「IDLEWILD SOUTH」(1970)ではさらに入り組んだツインギター・プレイを聞かせます。上記のデビュー・アルバムがブルース色の濃いサウンドであったのに対して、ここではサウンドにより広がりができています。さらにデュアンとディッキーの対照的なタイプの二人のプレイがより印象的に聞こえます。特に4曲目「In Memory of Elizabeth Reed」などはサンタナを想わせるムーディーな雰囲気とプログレ的な仕掛けであっと思わせます。音楽の基本的な所はオールマン的ではあるのですが、ディッキー・ベッツというもう一枚の看板により強くライトが当たったような気がします。泥臭さを鮮烈に感じていた若かった僕は少し都会的になってきたこのバンドの変身に面食らった覚えがあります。

このバンドの路線を引き継いだプロのバンドがいたでしょうか?
唯一無二のステータスを今も持っている数少ないアメリカン・バンドですね。
                                 


第27話 : ダンサブルなロックの台頭



★TOTO

 「宇宙の騎士/TOTO」 1978
「ハイドラ/TOTO」  1979
            
         
頭がどうにも疲れているのに何か音楽は聞きたい、かと言って内容が重かったり感情過多のハイテンションだったりはお断り。こんな時に聞いてもいいなぁと思うアルバムがこの2枚です。

ハードなロックミュージック全盛の’70年代後半、みんな次に何が(どんなバンドorサウンド)出てくるんだろうとそわそわし始めたそんな頃・・・一方でダンス・ミュージックがブームを作っていて、その筆頭にEW&F(アース・ウインド&ファイア
ー)、’80に突入してからはカーズ、プリンス、トーキング・ヘッズなどが日本でもブレイク・・・このTOTOが登場しました。
都会的なセンスと優れた演奏技術に支えられた当時のクロスオーバー(現フュージョン)ミュージックをよりポップに、そしてロックをベースにした音楽、これがダンス・ミュージックと並行(対抗)して現れたロック・サイドの答えでした。

TOTOのデビュー・アルバムであるこの「TOTO」(邦題:宇宙の騎士・・笑ってしまうネーミングです!)はそんなロック界の期待を裏切らない超話題作として登場したのです。それまでこのバンドのメンバーはボズ・スギャックスというスターのバックバンドを勤め、このボーカリストの成功を文字通り裏方として導いた功績が万人に認められていましたが、やっと独立した演奏活動をこのアルバムによってスタートさせたわけです。(このような関係は後に日本でも井上 陽水と安全地帯の関係に見られます)
 
発表当時、僕はまずオープニングナンバー「Child's Anthem」で度肝を抜かれました。いきなり聞いた事も無いプログレ+フュージョンのインストじゃないですか!しかもアレンジや音が洗練されていて泥臭くない! 10年ほど前にレコード・デビューした多くのロック・バンドのデビュー・サウンドと比較しても(良い悪いでなく)やはりロック・シーンの激動は’70年代後半にあり!と確信してしまうようなインパクトを持った曲でした。淀みないメロディーが流れ、心地の良いビートが爽快です。
 
2曲目からはボーカルが入っていよいよバンドの正体を見せることとなります。 それまであまり聞いた記憶のないかん高い声です。今でもよく思うことの一つに「欧米のボーカリストは日本人よりオクターブ、声が高いのじゃないか」ということです。しかしこの疑問は今や確信となっています。

我々のバンドでも色々なアーティストのコピーをしますが、どうにも声のキーが高すぎて名曲と言われている曲でも手が出せないものがあるのがホント残念です。(カンサスなどキーの問題がクリアできたならば本当にやってみたいです!)
そんな高くてよく通る声質は非常に輝かしい印象を聴衆に与え、高音楽器(ギターなど)に負けないだけの全体的な推進力の大元となっています。

2枚目のアルバム「HYDRA」(ハイドラ)は前作を越えるロック色を打ち出して、さらにこなれたアレンジとストレートさを同居させた曲が増えていますね。特に僕は「St.George and The Dragon」が好きです。今聞いてもかっこいい曲です。アルバム的には多少、デビュー当時より華やかさが後退していますが、メンバーの個性といったものを考えれば当然の成り行きで、ポップなロックから本来のロックへ回帰していった印象をもっています。

ここで各曲のそれぞれの印象といったものを細々と書くより、TOTOというバンドのアルバムを聞いて感じる事を言えば、時代をよく見てうまいタイミングで登場したな、ということに尽きます。
ダンス・ビートを取り入れながら、アレンジは千変万化。それもロックの基本から離れることなくハードとメロディアスを共存させている・・・それに思わずやられたっ!と思ってしまう絶妙なアレンジです。かっこいい曲変化や流れの意外性、これらが卓越したテクニックを持つギタリスト:スティーブ・ルカサー や 今は亡き名ドラマー:ジェフ・ポーカロ 等の妙技のよってこともなげにプレイされていくさまは豪快であり爽快です。この時代あたりからロックの聞き手は、耳に心地よい、身体がウキウキするような音楽を求めるようになりました。そしてそれに合わせるかのように多くの生きのいいグルーヴ感を持ったグループが登場したのでした。

それまでのブルースから枝分かれして発展したブルース・ロックやシンプルで執拗なリフを中心としたいわいる正統的ハードロック、ヘヴィーロックの充実に陰りがでてきたのも正にこの時代からなのでした。
                                 


第28話 :産業ロック?それもいいじゃないか!



★BOSTON

 「幻想飛行/ボストン」 1976
         
    

TOTOやこのBOSTONのファンには申し訳ないんだけど、この両者はサウンド・イメージがアメリカン・ポップ・ロックで、ハイトーンのボーカル、メロディックで都会的、etc といった部分で似ているような感じがしてなぜかいつも混同しているんです。だから前回TOTOを取り上げた手前、今回は「自分の頭の整理」も兼ねてBOSTONの登場となったわけです。

バンド名のBOSTONは言うまでもなくアメリカ東部、マサチューセッツ州の州都の名で、それをストレートに拝借しちゃうというあまりアタマを使ってない感じの命名ですね。 でも逆にその単純なネーミングに自分たちの町のプライドをかけたっていう自負が見え隠れしてますよね。実は僕はここにも少しの間住んでいたんです。だからNYと比べて、音楽環境がどういうふうに違うかが体感的に解るんです。クラシカルでヒストリカルな町並みと超近代的な大都市の二つの側面をもっていて、そのミックスされた文化の香りがとてもクールな都市なんですが、そこから発せられる音楽もまたいろんな側面を持っていて楽しいです。
 
この古くからの都にマサチューセッツ工科大学(MIT)というアメリカの理系の優秀な頭脳が集まる大学があり、BOSTONというバンドの全ての舵をとるリーダー、トム・ショルツはそこの卒業生であります。(ちなみにポピュラー音楽の世界で有名なバークリー音楽院もボストンにあります。あっ、あとハーバード大学も!)

そのせいか彼らの音楽は大変に理知的で、特に音響面での革新的な技術を最大限に生かしたサウンドは、当時群をぬいてすばらしい響きでした。
そしてさすがに大都市のバンドらしく、このデビュー・アルバムからは都会的でスマートなポップ感あふれるロックがふんだんに聞けます。 僕がこのバンドとTOTOのサウンドを混同してしまう最大の理由はその洗練されたポップ性にあるわけで、いかにもアメリカ人好みの軽やかで爽やか系というのがとっつき易いんだなぁと思うんです。

エンジニア系のアーティストは、とにかく凝り性の人が多いように思うんですが、このトム・ショルツのギターの音を聞けば、すぐ納得するはずです。
多重録音やエフェクトを多用したギター・サウンドは、ストレートにギターのプラグをアンプに突っ込むタイプのプレーヤーとはエモーショナルな面からして違いますね。それは言わば情念をストレートに吐き出すタイプと考え抜いてものを話すクールなタイプとの差でしょう。どっちがよりロック的なのかは単純に言えない難しさがあるんですが、一般にポップな音楽というのは実はそれなりにしたたかに計算されたサウンドや表現法を駆使しているもんなのですよ。そしてその結果、人々にスーッと受け入れられてベストセラー・アルバムになったりするのです。

アルバム・トラックの中では多くの人に愛されている1曲目「宇宙の彼方へ/More Than a Feeling」がやはり僕も大好きです。12弦のアルペジオからゴージャスなエレキ・サウンドに移る始まりの部分の音質だけですでに「美しい」ですし、よく伸びたギターは本当に宇宙の彼方まで聞く者をいざなうかのようです。それにリズムもメリハリのあって気持ちがいいですね。
ここで面白いのはサビにハンドクラップ(手拍子)が入っている点です。意外性があってポップさもあり、いいアイデアですね。そしてメロディーの流れるような爽快さが気持ちがよく、こんな大傑作をデビューの1曲目に据える彼らの力量と自信の深さにただただ恐れおののくばかりです!

実は僕、この曲のコピーをしてみたいとず~っと思っているのです。ポップ系はウチのバンド・カラーじゃないしなぁー、と消極的にならざるをえないのですがね・・・。音がかっこいいし、ステージで演奏した時きっとスピーカーから出て行くギターの伸びやかな音が目の前を通って観客席に一直線に飛んでいくような、そんなステージ風景をつい想像してしまうんですよ。

このバンドが登場し、このデビュー・アルバムが大成功した頃から、彼らのような音楽を「産業ロック」と呼ぶようになったんです。多くの人に受け入れられてセールス的にも成功し収益性の高いロック・ミュージックを供給できるバンドの事です。でも陰ではやっかみ半分に「金儲けの音楽=産業ロック」と思われていたのです。それまでのバンドってデビューするまで、機材の調達に苦労し、練習場所に苦労し、メンバーの固定に四苦八苦し・・・という図式があったんで、BOSTONのように技術、機材、才能に最初から恵まれていたバンドは優等生的だったですしね。

だけどどうです?みなさん。いい音楽にはお金もついて来て当然でしょ?いい音楽なのにお金に恵まれないアーティストもいるでしょうが、大衆の支持はポピュラー音楽の世界では絶対不可欠です。売れるアルバムを作るにあたってどの位の苦労があるのかは知りませんがこんなにもメロディアスでポップな感覚と爽やかなボーカルやコーラス、切れのいいバックのサウンドをもつBOSTONのようなバンドがもしも批判的なニュアンスで「産業ロック」と呼ばれ、後ろ指をさされるんだったら僕は大きな声で言ってやりますよ、「産業ロック?それもいいじゃないか!」ってね。
                                 


第29話 :シンフォニック・プログレって?



★BARCLAY JAMES HARVEST   

「妖精王/OCTOBERON」 1976 バークレイ・ジェームス・ハーベスト
         
    

1970年代も後半に入るとロックの世界も正に百花繚乱の様相で、リアルタイムでロックを聞きまくっていた僕らは、それこそ眼が眩むような音また音の洪水を経験したんです。

正統派のハード・ロックはもとより、前回、前々回に紹介したビッグ・ヒットを伴った「産業ロック」といわれたポップ・ロック、隆盛を極めていたプログレッシブ・ロック、少し地味になってきたブルース系ロック、サザン・ロック、ヘヴィー・メタルの台頭などなど、いくらお金があっても足りないくらいのレコードのリリース量・・・・とまぁ、いろいろ思い出したらきりがないですよ。

そんな状況のなかでじわじわと頭角をあらわしてきたのがロックとポップスのいいとこ取りにクラシック風の壮大なアレンジを施してスケールアップした[バンドの音を越えた]華麗なサウンドを誇るシンフォニック・プログレバンドの登場でした。

イギリスの「バークレイ・ジェームス・ハーベスト」というバンドはその代表的存在でした。本国イギリスよりもヨーロッパ各国で評判が高かったのもなんとなく分かるような気がします。このバンド、基本形はトリオだそうですが、もちろんアルバムで聞けるサウンドは手の込んだアレンジで壮麗です。日本では正直言ってほとんど無名に近い認知度で、レコードは数年で廃盤。CDは近年やっと輸入盤で入手しましたが大変な時間が過ぎた後のリリースだったのです。

我々のバンドは当時まだ結成されて間もない頃でしたが、みんなでこのバンドの1976年のアルバム「妖精王」を聞いた時は少なからずショックを受けた記憶があります。あの頃にしてはとても「ビューティフル」なLPジャケットのデザインは、いわいる「ジ
ャケ買い」を誘発するような凝った物でした。

音楽は適当にアコギが入ったほとんどスローな曲ばかりで、ロックに目覚め、とんがっていた若い僕らにはちょっと物足りない感じのものでした。どことなくビージーズのような柔らかなメロディーとハーモニー。刺激的な音は無く、それでいてロック。まぁ耳には優しく綺麗なサウンドなんだけど、なんとも完成されすぎた音楽なのでした。ところが、この「妖精王」の中の1曲には身の毛がよだつようなトラックがあったのです!

曲の名は「Suicide ?/ 自殺者?」といいます。
例によって耳ざわりの良いサウンドが始まると思いきや、イントロからいきなりとてつもなく悲壮感のこもったシンセとギターのユニゾンによるメロディーが流れだし、間髪を置かずに僕には不吉と言っていいような胸騒ぎが起こりました。
何だかよく分からないこの不気味な美しさと淡々とした歌の静けさ。何だろう、この感じは・・・初めての音経験・・・シンセは悲しみと憂いをいっぱいにたたえ冷酷なまでに冷たい響きのピアノを従えて流れ続けている・・・・それをバックに歌は一人ぼっちの悲しさ、話し相手のいない苦しさを歌っている!歌詞は主人公の行動を時系列で説明しています。


 <・・・朝、ベッドで目を覚ましたら彼女は去っていた、外の騒がしさをよそに心は空虚だ。町を歩き回り「ルーザー」というクラブ・バーに入った。店内はお客でざわついている。そしてその中を通り過ぎビルのエレベーターに乗って屋上へ出た。オレはガードレールから身を乗り出した。雲がゆっくりと流れていた。下から声がした。「飛ぶな!神よ、おれの車をどかす時間をくれ!」 と、その瞬間誰かの手がオレの肩に触れ「間に合った!」と言った。でもその手の衝撃でオレは宙に舞った。風を全身に感じた。そして歩道の冷たく硬い感触も・・・>


題名が「自殺者?」、やばそうな結末が見え隠れしてきて、思わず身を乗り出して聞いているうちに、フェードアウトでいつのまにか音楽は消えてしまっています。すると今までの歌詞をそのまま「音」で再現し始めたではないですか! コツコツと街を歩く音、バーの扉をギーっと開くと、店内のざわめき。さらに歩いてエレベーターに乗る音とそのモーター音。屋上に出ると町中のいろいろな音に混じって風の感覚。はるか下で誰かが自分を見て騒いでいる。その時「間に合った!」という声とともに誰かの手が自分の肩に触れたその瞬間、不気味な風切り音がボワ~っと鳴って・・・これは自殺なのか?

音楽があまりに美しかったのでこの終わりの「音による再現」はすごいショックです。いつ聞いても身の毛がよだちます。本当です!何度聞いてもです!

このリアルで恐ろしい音楽が、その後もずっとバークレイ・ジェームス・ハーベストの強烈な印象として残っています。しかし安心と言ってはなんですが他の曲はほとんどみな美しいロック・バラードです。

あの恐ろしい「音画」による体験は明快な結末が分からないまま、ずっと「?」の付いた題名の意味を考えさせられています。

華麗な衣装をまとった妖精の王。このジャケットに見る深い悲しみの表情が、その音楽とともに数十年が過ぎた今も心に引っかかっているのです。
                                 




第30話 :懐かしさと新しさ(温故知新) 2



★GEORGE LYNCH 「フューリアス・ジョージ/FURIOUS GEORGE」 2004 ジョージ・リンチ
         
    

前回のこのシリーズの第22話でマイケル・シェンカーのカバー・アルバムを取り上げましたが、あのアルバムと同じプロデューサーが同じコンセプトで第2弾を制作しました。この制作者、マイク・ヴァーニーはイングヴェイの発掘やギタリストにスポットを当てたアルバムを世に出すことでかなり知られた存在です。今回のアルバムは’80年代にカミソリ・ギターと形容された鋭いキレ味が特徴のヘビメタ・プレーヤー:元DOKKENのギタリスト(シェンカーと同じ歳です)ジョージ・リンチによるカバー・アルバムです。

まずはトラック・ナンバーを見てください。

01.Space Station #5(MONTROSE)
02.Sins A Good Man’s Brother(GRAND FUNK RAILROAD)
03.All Along The Watchtower(Jimi Hendrix)
04.Stormbringer(DEEP PURPLE)
05.I Want You / She’s So Heavy(THE BEATLES)
06.Blood Of The Sun(MOUNTAIN)
07.Bridge Of Sighs(Robin Trower)
08.Precious And Grace(ZZ TOP)
09.I Ain’t Superstitions(Jeff Beck)
10.One Way Or Another(URIAH HEEP)
11.You Shook Me(LED ZEPPELIN)
12.Dancing Madly Backwards(CAPTAIN BEYOND)

マイケル・シェンカーによるカバー・アルバムの曲目には驚かされ、喜びもしましたが、今回の曲目もまた、思わずうれし泣きしてしまう程の曲がずら~っと並んでいます。

まず02、僕が高校生の時、最もGFRらしい曲だと思って大好きでコピーしてたんですが、彼らの中からこの曲を持ってくるのは意外で驚きでした。ほぼ原曲に忠実ですが、GFRのドラムの特徴であるバスドラムのシンコペとベースのうなる感じがよくでていて嬉しく聞けました。

03は以前から何度かここで書いている曲なんですが、ディランの曲のジミヘン・バージョンをコピーしています。特にジミヘン・バンドのドラマーのオカズの特徴をよくとらえていて憎い演出です。(他にこの曲はU2やD・メイソンのコピーが良い!)

06は、かのレスリー・ウエスト(マウンテン)のデビュー・アルバムからの最高の一品。「マウンテン」ではなく「レスリー・
ウエスト」とアルバムの題名はなっていたんですよ。そしてレスリーはこのリンチ少年だけでなくリッチー君やシェンカー君など実に多くのギター少年に絶大な影響を与えたのでした。
このトラックでは、そのレスリーに似た声でボーカルがとられ、雰囲気も最高の仕上がりとなっています。このトラック、気に入っています。
 
07は僕のアイドル、ロビン・トロワーの懐かしいアルバム・タイトル曲です。
サウンド自体は地味な感じですが、奥の深い名作だと思っています。ユニ・ヴァイブという今は幻のエフェクター(ジミヘンで脚光を浴びた)の音の再現は苦労した事でしょうが、フェイズ・シフターやコーラスをミックスしたような幽玄なサウンドで気品のあるブルースを形成していて、聞きほれてしまいました。

08はZZの作品から、ライブで必ず演奏される傑作です。ZZの特徴であるもったりしたグルーヴ感はありませんが、リンチ君はこのバンドに相当影響されたようです。かっこいいZZという感じに仕上がりました。

他にも書かなければいけないような演奏が続きますが、このようなアルバムを聞くと、自分自身がリアルタイムで聞いてきた’70年代の数多くのバンドの素晴らしさが再び心に蘇ります。
リンチは’80年代のいわいるテクニカル・ギター・ブームのさなかに有名プレーヤーとして活躍し始めましたが、やはりこういうルーツがあったんだと知り嬉しい気分でした。

ただし僕はそのテクニカル・ギターと呼ばれる一団の代表選手イングヴェイ等のプレイが嫌いなんです。確かにテクはあるでしょう。でも音数が多く「しゃべり過ぎ」だと感じます。音と音との間を可能な限り詰めて、外から誰も侵入できないような鉄壁なラインを作っているプレーヤーが多いですね。
これは僕に言わせれば自分のラインに自信が無いと見えるのです。本当のエモーショナルな演奏というのは音と音の間に微妙かつ繊細な「間(ま)」を持っているものです。聞き手はその隙間に自分の感情を挿入して「感動」を生成させるのです。

リンチ君も僕らと同世代。もう少し枯れてきてほしいと思います。その点、シェンカー君は少し先を行っていると感じています。当時、この二人のセッション・コンサートがアメリカであったそうです。そりゃすごい事になったんでしょうが日本にはその詳細が伝わってこなかったようで残念ですが、成功したギタリストの多くが異口同音に影響されたギタリストに今回の選曲に出てきた人たちの名を口にするのを聞くにつけ、同時期にリアルタイムで楽しんできた僕らの昔話にも今の若い人には説得力を持つんじゃないかな、という気分になるのでした。


次回(31話~35話)に続きます。    (トップの写真はB.J.ハーベスト「妖精王/OCTOBERON」のジャケット)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。