選挙戦と突入前の5月25日に開催した勉強会でこの書籍を取り上げました。
2016年7月15日時点では現政権が維持されるたこともあり、株価は上昇基調に戻りつつあるように見えます。しかし、恐怖指数は相変わらず高い...。何かのキッカケで著者の主張するように恐慌が起きるかもしれません。それほどマイナス金利の影響は甚大だと訴えています。ドイツ銀行の破綻による国有化はほぼ避けられないと指摘し、中国も不良債権の規模は天文学的に。そのような環境下で我が国はヘリコプターマネー(日銀による国債の直接買い取り)に踏切ろうとしています。銀行の保有国債(あり玉)もそろそろ残り少なくなってきているのも事実で、発行済の国債がいよいよGDPに迫りそうな雲行きです。日本経済が未知の領域に入りつつあるなか、生活を守るのは人ひとりの判断に委ねられると感じます。
「マイナス金利というのは、 経済が徹底的に冷え込んでいるということを意味する。
金利はその国の経済の体温にもたとえられる。マイナス金利というのは超低体温症に経済が陥ってしまっているということだ。身体中の新陳代謝が不活発になり、免疫力も著しく低下している。極めて危険な状態だ。」 はじめに より引用
米国主導で進められた金融改革をぐぐっと詰めると、リーマンの発生源であったデリバティブ事業というのは担保となる資本(保証金)の裏付けのない仕手会社のようなもの、再発を防ぐために着々と手が打たれています。(中でもFACTA、BEPSが重要 引用文を参照)
ECBやFRBが進めてきた金融緩和と金融機関の締め付け、日本が進めてきた金融緩和と消費税増税...世界的に皆でアクセルとブレーキを踏んでるように見えるのは私だけでしょうか?
以下、気になる指摘を紹介します。
格付け会社に関する大きな改革
「第1は、社債発行に関する新基準では、規制当局は民間の大手格付け会社の格付けをほとんど無視するようになったことだ。既発債が流通市場で活発に売買されて'いる場合、その金利水準を見れば、社債に対する客観的な信用度は誰でも自動的に知ることができるのである。もはや格付け会社の格付けは不要であると言つてよい。
第2の規制改革は、債券の発行主体が、格付け会社に対してだけ特別な情報を提供することが禁止されたのである。これで名門の格付け会社といえども、一般の証券アナリストと同様のデー夕しか入手することができなくなった。」
不正摘発に揺れる欧米の金融機関
「大手銀行の金融不祥事が相次いで摘発されている。英HSBC、英スタンダード・チャータード、米バンク・オブ・アメリカ、米モルガン・スタンレーなど世界でも一流の銀行が不正に手を染めていたのである。
まずHSBCの不正疑惑から見てみよう。2015年2月22日、英「ガーデイアン」紙は、HSBCホールデイングスのスチュアート・ガリバーCEO個人がパナマ企業を通じてスイスの秘密銀行口座に約500万ポンド(約9億2500万円)を保有していると報じた。また、ガリバーCEOは節税上の理由から香港の居住者となっているとも報道している。 HSBCはそのスイス子会社が顧客の脱税を幇助した疑いでメデイアの激しい追及を受けている。」
お金を預からなくなった金融機関
「米銀最大手のJPモルガン・チェースは、預金の1000億ドル(約12兆円)削減計画に乗り出した。新しい金融規制のもとでは、タックスヘイブンに本拠を置いているような法人の怪しげな預金は排除しなければならない。このための措置である。
預金削減は、ゼロ金利時代のもたらす必然的な結果でもある。いくら預金を抱え込んでも、それが利息を稼ぐことができないのであるから、銀行にとっては預金の量的拡大は、利益の拡大を意味しない。むしろ、アングラマネーの可能性のある預金の流入は企業にとってのリスクを高めるだけなのである。」
制裁金の負担でリストラに動く金融機関
「ドイツ銀行はトレーデイング部門も大幅に縮小する。ドイツ銀行は10月、7-9月(第3四半期)業績が約62億ユーロの赤字となると明らかにした。第二次世界大戦後の復興期以降で、ドイツ銀行は初の無配転落の可能性もある。これを受け、ドイツ銀行は最大5億ユーロ(約6 50億円)のボーナスを減らす削減計画を検討。これは2014年の額のほぼ3分の1に相当する。さらにドイツ銀行は、米国のプライベート・クライアント・ブローカレッジ部門を売却し、保険部門の英アビー・ライフ売却を検討し、欧州の株式ダークプール・プロジェクトから離脱する予定である。」
イギリスの中央銀行まで!
「2015年3月5日、英中央銀行であるイングランド銀行(BOE)で、重大な不正行為があり、英国重大不正取締局(SFO)が捜査を開始していることが判明した。 BOEは捜査対象となっていることを認める声明を公表した。捜査の内容は、2008年のリーマンショック後にBOEが実施した市中銀行に対する緊急の資金供給に関して、 不正行為があったという疑いである。 BOEは内部調査に基づき、2014年11月にSFOにこれを報告していた。
英「ロイター」や英「タイムズ」によれば、3月4日の夜に既に、BOEは自らがSFOの捜査対象になっていることを公表している。疑惑の対象をより詳しく言えば、2007年から2008年の金融危機の時に行った短期資金の供給入札での不正行為である。 英国の重大不正取締局がイングランド銀行に捜査に入ったのは歴史上、 初めてのことである。
日本にたとえて言えば、束京地検特捜部が日銀に捜査に入ったのと同様のことであり、そのように考えると、英国民が受けた衝撃の大きさが想像できる。要は、金融業界とそれを監督する英国中央銀行が癒着して、不正行為を繰り返してきたのだが、それがようやく暴露され、正常化の歩みが始まったのである。」
アングラマネーを摘発するために米国歳入庁(日本の国税)が手を打った
「タックスヘイブンやアングラマネーに対する国際的な規制強化の一環としてファトカ(FA TCA)がいよいよ本格的にその威力を発揮し始めている。 FATCAとは、「外国口座税務規律順守法: Foreign Account Tax Compliance Act」の略称である。この法律が2014年7月1日からアメリカで効力を発揮し、 世界的にタックスヘイブンを利用して脱税をすることが非常に難しくなってきている。
FATCA自体は、アメリカの企業や個人が外国に持っている金融口座の情報を、各国税務当局が米内国歳入庁(IRS:アメリカの国税庁にあたる)に通報するというものである。この規則を守らないと、外国の金融機関がアメリカと自由に金融取引を行えなくなってしまう。 そのためにかつてタックスヘイブンと呼ばれた英国のシティやスイスの銀行業界も、 この規制を守らざるを得なくなったのであった。
これだけならば、 アメリカの多国籍企業や富裕層が国際的な脱税ができなくなるというだけのことである。しかし、当然、情報の流れは2方向に作用する。各国政府は、自国内の米国企業・個人の税務情報をIRSに通報すると同時に、アメリカ側に対しては米国内における自国企業や個人の税務情報を通知するように要求することになる。このことが、着実に実行に移されてきた。」
米国では公的資金なしに銀行の清算が可能に...
「2014年7月10日、米連銀副総裁のスタンレー・フイッシャー氏は、就任後初めての講演を行った。講演夕イトルは「金融界の改革で私たちはどれほど遠くまで来たか?」であった。 フイッシャー副総裁は、 極めて重要なことを分かりやすい言葉で述べている。
彼が言ったのはこういうことだ。アメリカでは既に大銀行が万一、倒産しそうになった時に、既に提出してある「生前遺書」に基づいて米預金保険機構(FDIC)が単独で保有資産を処分して清算することができる。この権限はドッド・フランク法によってFDICに与えられたものである。
つまり公的資金を投入せずに、金融機関の処分を行う体制が既にでき上がっているのである。 生前遺書には、どの資産を順番に売つてゆくかが具体的に書かれており、この生前遺書は定期的に監督官庁に提出することが義務付けられている。 「金融機関がとんでもない違法な投機的行為を繰り返して破綻し、その結果、金融システムの安定を保つために、公的資金を投入してしか、問題を解決できない」という状況が、リーマンショックの際には生じていたのだ。」
日本の金融機関は新しい規制に耐えられるか
「G20の金融規制当局で構成する金融安定化理事会(FSB)は、巨大銀行破綻時の対応策として新たな規制概念を導入しょうとしている。それは、総損失吸収能力(TLAC: Total Loss-Absorbing Capacity)である。 TLACは世界の大手銀行30行が適用対象となっている。銀行側は2015年2月2日、このTLACは内容が厳し過ぎ、見直しが必要だと主張する書簡をFSBに送つている。
ちなみに、TLACが適用されれば、三菱UFJ銀行など邦銀3メガバンクは、新たに最大10兆円規模の資金調達を迫られる可能性がある。TLAC規制に対応するために必要な資金額の3メガバンク合計は最大10兆5000億円。新規制の適用は、2019年からである。
日本の3メガバンクは、リーマンショック後、自己資本比率を徐々に上げてきている。2019年の規制達成はそれほど難しいことではない。」
(私は三菱UFJ銀行が国債のプライマリーディーラー返上の動きにはをこの規制が背景にあると思っています)
グローバル企業による租税回避の締め付け
「タックスヘイブン締め上げの一環として、経済協力開発機構(OECD)は、2015年9 月22日までパリで開催されていた租税委員会で多国籍企業の税逃れを食い止める新ルール(B EPS対策)を決定した。このルールは10月に開催された主要20カ国(G20)財務相会議で採用された。これはいわゆるBEPS(べップス:税源浸食と利益移転)と呼ばれる脱税行為を取り締まる新しいルール集である(次節で解説)。このBEPSプロジェクトの原則は「企業利益は、最低税率の国ではなく、利益が発生した国で課税されるべきだ」という新しい原則である。 」
Brexitを予言するようなEU官僚主義の問題点
「ユーロ・エリートは無反省である。今日のEUの現状を創り出したのは、ヨーロッパの大衆ではなく、ユーロ・エリートと言われる、ヨーロッパ統合論者のエリート達である。特にフランスのユーロ・エリートの責任は極めて重大である。彼らは経済統合さえすれば、ドイツは制御可能であると考えてきた。ドイツがヨーロッパを征服することはなく、ヨーロッパがドイツを征服すると考えてきた。しかしこの予測は全く外れた。共通通貨ユーロは、ドイツを縛りつける鎖であると考えられてきたが、 結果は全くその逆であった。」
ドイツの経済学の特殊性...実はこの箇所だけでも私にとってこの書籍の価値は高いと感じます。
(長文となりますが以下に引用します)
欧州の行方を阻むドイツ財政規律主義の正体はオルド自由主義
EUが不況を脱し得ない最大の原因はドイツの財政規律主義である。
現在もECBのドラギ総裁は米国流の量的緩和(QE)を行い、EU経済を浮上させようとしているが、これに今も反対しているのがドイツである。
ドラギ総裁が実行するQEは当然のことながら各国の国債の買い上げを含むものだが、これに徹底的に反対しているのがドイツ勢である。政府の財政赤字の拡大による景気浮揚にも、もとより反対である。
このドイツの財政規律主義の背後には第二次世界大戦後のドイツに特有な経済思想が存在する。それが「オルド自由主義(英: Ordo liberalism独: Ordo liberalismus)」である。その思想について簡略に説明してみよう。
ドイツにケインズ経済学は存在しない。 ドイツのマクロ経済学は全くの別世界であり、 パラレル・ワールドと言つてもよい。そこでは「オルド自由主義」という奇怪な経済学が唯一の正統理論として、 経済政策を支配している。
「ドイツの経済学者とエコノミストは大都把に2つのグループに分けられる。ケインズを読んだことがない人達と、ケインズを理解していない人達だ」(2014年11月17日付、英「ファイナンシャル・タイムズ」)
ドイツで多少なりともケインズ主義経済学の知識を持つている唯一の政党は、旧共産党だけである。かといって、ドイツ経済学の主流派はミルトン・フリードマン流の新自由主義者でもない。
ドイツの正統派の経済学はオルド自由主義と呼ばれ、中道右派から中道左派にまたがっている存在である。日本語では秩序自由主義とも呼ばれる。
オルドとはラテン語で「秩序」を意味する。この学説では、ハイエクなどの経済学のオーストリア学派の影響も指摘はされるが、オーストリア学派そのものとは全く異なるものである。
1948年、フライブルク大学のヴァルター・オイケン(1891-1950)は、古典派経済学とドイツ歴史学派経済学の双方を批判しながら、新しい経済思想を打ち出すため、学術雑誌「オルド」の出版を開始した。
その雑誌で展開された経済思想はその雑誌名を採って、オルド自由主義と呼ばれている。
オルド自由主義者は、国家が強制しなければ自由はないと考える
オルド自由主義によれば、 もし経済を自由放任にゆだねてしまうと元来は自由であったはずの市場が、やがて寡占的・独占的となり、特定の経済権力によって支配されてしまう。オルド自由主義者によれば、 市場が自然に自由な秩序を創り出すことはあり得ないのである。《米国の場合は独占禁止法が一定の歯止めに》
あるべき競争秩序を実現するためには、国家(政府)が法的な枠組みをもって、市場経済に介入しなければならない。この経済政策こそ、市場がもつべき正しい秩序を創り出す「秩序政策Ordnungs Politik」なのである。つまり、オルド自由主義者はこう考える。
・自由競争を正しく機能させるためには国家の介入が必要である。
・同時に、国家が肥大し、経済を完全にコントロールすることを抑止するためには、市場の競争が必要である。
・これを総合すれば、「競争という規律」を国家が強制する、ということになる。
当然、オルド自由主義は、競争を活性化するために、カルテルやコンツェルンを厳しく制限する。経済政策はイコール「市場に秩序を創り出す秩序政策」でなければならないのである。
また市場を通じた所得分配だけでは不公正が生じがちである。競争秩序だけでは不平等が生じ、公共性や共同体の結束力が弱まってしまう。 そこで、 様々な社会保障政策によって社会の公正性や平等性を確保することが必要になる。これは一言で言えば、「競争秩序には社会政策を通じた補完が必要である」ということになる。
以上のような経済に関する思想をオルド自由主義と呼んでいる。
ドイツのオルド自由主義をユーロに導入すれば悲劇が起きる
オルド自由主義は、ドイツ国民の国民的性格に合った信念の体系である。しかし、それはまた、大きな問題をはらんでいる。
第1に、オルド自由主義は経済恐慌に対する首尾一貫した政策を全く持っていないのである( ケインズ経済学を否定するため、これは当然の結果である。
第2に、オルド自由主義は首尾一貫した金融政策をも欠いている。
第3に、ドイツー国が開放的な経済体制の中でオルド自由主義の信念を貫くことからは大きな問題は生じない。ところが、これを世界経済の一般的ルールに採用しょうとすれば、大きな問題が生ずる。
オルド自由主義者は、国家経済に関して、常に経常収支の赤字よりは経常収支の黒字を望ましいと考える。しかし1国の経常収支は必ず他国の経常赤字によって補われている。つまりゼロサム・ゲームなのである。すべての国が経常黒字を持つということはあり得ないということになる。この1点からしても、オルド自由主義を他国に強制することはできないのだ。
以上のような3つの大きな欠点を持っているので、 オルド自由主義をEU経済全体の原則とすることは極めて非現実的である。にもかかわらず、ドイツはどのような状況になろうとも、オルド自由主義の原則を捨てようとしない。
メルケル氏がなかなか首を縦に振らない理由がよく分かる。
2016年7月15日時点では現政権が維持されるたこともあり、株価は上昇基調に戻りつつあるように見えます。しかし、恐怖指数は相変わらず高い...。何かのキッカケで著者の主張するように恐慌が起きるかもしれません。それほどマイナス金利の影響は甚大だと訴えています。ドイツ銀行の破綻による国有化はほぼ避けられないと指摘し、中国も不良債権の規模は天文学的に。そのような環境下で我が国はヘリコプターマネー(日銀による国債の直接買い取り)に踏切ろうとしています。銀行の保有国債(あり玉)もそろそろ残り少なくなってきているのも事実で、発行済の国債がいよいよGDPに迫りそうな雲行きです。日本経済が未知の領域に入りつつあるなか、生活を守るのは人ひとりの判断に委ねられると感じます。
「マイナス金利というのは、 経済が徹底的に冷え込んでいるということを意味する。
金利はその国の経済の体温にもたとえられる。マイナス金利というのは超低体温症に経済が陥ってしまっているということだ。身体中の新陳代謝が不活発になり、免疫力も著しく低下している。極めて危険な状態だ。」 はじめに より引用
米国主導で進められた金融改革をぐぐっと詰めると、リーマンの発生源であったデリバティブ事業というのは担保となる資本(保証金)の裏付けのない仕手会社のようなもの、再発を防ぐために着々と手が打たれています。(中でもFACTA、BEPSが重要 引用文を参照)
ECBやFRBが進めてきた金融緩和と金融機関の締め付け、日本が進めてきた金融緩和と消費税増税...世界的に皆でアクセルとブレーキを踏んでるように見えるのは私だけでしょうか?
以下、気になる指摘を紹介します。
格付け会社に関する大きな改革
「第1は、社債発行に関する新基準では、規制当局は民間の大手格付け会社の格付けをほとんど無視するようになったことだ。既発債が流通市場で活発に売買されて'いる場合、その金利水準を見れば、社債に対する客観的な信用度は誰でも自動的に知ることができるのである。もはや格付け会社の格付けは不要であると言つてよい。
第2の規制改革は、債券の発行主体が、格付け会社に対してだけ特別な情報を提供することが禁止されたのである。これで名門の格付け会社といえども、一般の証券アナリストと同様のデー夕しか入手することができなくなった。」
不正摘発に揺れる欧米の金融機関
「大手銀行の金融不祥事が相次いで摘発されている。英HSBC、英スタンダード・チャータード、米バンク・オブ・アメリカ、米モルガン・スタンレーなど世界でも一流の銀行が不正に手を染めていたのである。
まずHSBCの不正疑惑から見てみよう。2015年2月22日、英「ガーデイアン」紙は、HSBCホールデイングスのスチュアート・ガリバーCEO個人がパナマ企業を通じてスイスの秘密銀行口座に約500万ポンド(約9億2500万円)を保有していると報じた。また、ガリバーCEOは節税上の理由から香港の居住者となっているとも報道している。 HSBCはそのスイス子会社が顧客の脱税を幇助した疑いでメデイアの激しい追及を受けている。」
お金を預からなくなった金融機関
「米銀最大手のJPモルガン・チェースは、預金の1000億ドル(約12兆円)削減計画に乗り出した。新しい金融規制のもとでは、タックスヘイブンに本拠を置いているような法人の怪しげな預金は排除しなければならない。このための措置である。
預金削減は、ゼロ金利時代のもたらす必然的な結果でもある。いくら預金を抱え込んでも、それが利息を稼ぐことができないのであるから、銀行にとっては預金の量的拡大は、利益の拡大を意味しない。むしろ、アングラマネーの可能性のある預金の流入は企業にとってのリスクを高めるだけなのである。」
制裁金の負担でリストラに動く金融機関
「ドイツ銀行はトレーデイング部門も大幅に縮小する。ドイツ銀行は10月、7-9月(第3四半期)業績が約62億ユーロの赤字となると明らかにした。第二次世界大戦後の復興期以降で、ドイツ銀行は初の無配転落の可能性もある。これを受け、ドイツ銀行は最大5億ユーロ(約6 50億円)のボーナスを減らす削減計画を検討。これは2014年の額のほぼ3分の1に相当する。さらにドイツ銀行は、米国のプライベート・クライアント・ブローカレッジ部門を売却し、保険部門の英アビー・ライフ売却を検討し、欧州の株式ダークプール・プロジェクトから離脱する予定である。」
イギリスの中央銀行まで!
「2015年3月5日、英中央銀行であるイングランド銀行(BOE)で、重大な不正行為があり、英国重大不正取締局(SFO)が捜査を開始していることが判明した。 BOEは捜査対象となっていることを認める声明を公表した。捜査の内容は、2008年のリーマンショック後にBOEが実施した市中銀行に対する緊急の資金供給に関して、 不正行為があったという疑いである。 BOEは内部調査に基づき、2014年11月にSFOにこれを報告していた。
英「ロイター」や英「タイムズ」によれば、3月4日の夜に既に、BOEは自らがSFOの捜査対象になっていることを公表している。疑惑の対象をより詳しく言えば、2007年から2008年の金融危機の時に行った短期資金の供給入札での不正行為である。 英国の重大不正取締局がイングランド銀行に捜査に入ったのは歴史上、 初めてのことである。
日本にたとえて言えば、束京地検特捜部が日銀に捜査に入ったのと同様のことであり、そのように考えると、英国民が受けた衝撃の大きさが想像できる。要は、金融業界とそれを監督する英国中央銀行が癒着して、不正行為を繰り返してきたのだが、それがようやく暴露され、正常化の歩みが始まったのである。」
アングラマネーを摘発するために米国歳入庁(日本の国税)が手を打った
「タックスヘイブンやアングラマネーに対する国際的な規制強化の一環としてファトカ(FA TCA)がいよいよ本格的にその威力を発揮し始めている。 FATCAとは、「外国口座税務規律順守法: Foreign Account Tax Compliance Act」の略称である。この法律が2014年7月1日からアメリカで効力を発揮し、 世界的にタックスヘイブンを利用して脱税をすることが非常に難しくなってきている。
FATCA自体は、アメリカの企業や個人が外国に持っている金融口座の情報を、各国税務当局が米内国歳入庁(IRS:アメリカの国税庁にあたる)に通報するというものである。この規則を守らないと、外国の金融機関がアメリカと自由に金融取引を行えなくなってしまう。 そのためにかつてタックスヘイブンと呼ばれた英国のシティやスイスの銀行業界も、 この規制を守らざるを得なくなったのであった。
これだけならば、 アメリカの多国籍企業や富裕層が国際的な脱税ができなくなるというだけのことである。しかし、当然、情報の流れは2方向に作用する。各国政府は、自国内の米国企業・個人の税務情報をIRSに通報すると同時に、アメリカ側に対しては米国内における自国企業や個人の税務情報を通知するように要求することになる。このことが、着実に実行に移されてきた。」
米国では公的資金なしに銀行の清算が可能に...
「2014年7月10日、米連銀副総裁のスタンレー・フイッシャー氏は、就任後初めての講演を行った。講演夕イトルは「金融界の改革で私たちはどれほど遠くまで来たか?」であった。 フイッシャー副総裁は、 極めて重要なことを分かりやすい言葉で述べている。
彼が言ったのはこういうことだ。アメリカでは既に大銀行が万一、倒産しそうになった時に、既に提出してある「生前遺書」に基づいて米預金保険機構(FDIC)が単独で保有資産を処分して清算することができる。この権限はドッド・フランク法によってFDICに与えられたものである。
つまり公的資金を投入せずに、金融機関の処分を行う体制が既にでき上がっているのである。 生前遺書には、どの資産を順番に売つてゆくかが具体的に書かれており、この生前遺書は定期的に監督官庁に提出することが義務付けられている。 「金融機関がとんでもない違法な投機的行為を繰り返して破綻し、その結果、金融システムの安定を保つために、公的資金を投入してしか、問題を解決できない」という状況が、リーマンショックの際には生じていたのだ。」
日本の金融機関は新しい規制に耐えられるか
「G20の金融規制当局で構成する金融安定化理事会(FSB)は、巨大銀行破綻時の対応策として新たな規制概念を導入しょうとしている。それは、総損失吸収能力(TLAC: Total Loss-Absorbing Capacity)である。 TLACは世界の大手銀行30行が適用対象となっている。銀行側は2015年2月2日、このTLACは内容が厳し過ぎ、見直しが必要だと主張する書簡をFSBに送つている。
ちなみに、TLACが適用されれば、三菱UFJ銀行など邦銀3メガバンクは、新たに最大10兆円規模の資金調達を迫られる可能性がある。TLAC規制に対応するために必要な資金額の3メガバンク合計は最大10兆5000億円。新規制の適用は、2019年からである。
日本の3メガバンクは、リーマンショック後、自己資本比率を徐々に上げてきている。2019年の規制達成はそれほど難しいことではない。」
(私は三菱UFJ銀行が国債のプライマリーディーラー返上の動きにはをこの規制が背景にあると思っています)
グローバル企業による租税回避の締め付け
「タックスヘイブン締め上げの一環として、経済協力開発機構(OECD)は、2015年9 月22日までパリで開催されていた租税委員会で多国籍企業の税逃れを食い止める新ルール(B EPS対策)を決定した。このルールは10月に開催された主要20カ国(G20)財務相会議で採用された。これはいわゆるBEPS(べップス:税源浸食と利益移転)と呼ばれる脱税行為を取り締まる新しいルール集である(次節で解説)。このBEPSプロジェクトの原則は「企業利益は、最低税率の国ではなく、利益が発生した国で課税されるべきだ」という新しい原則である。 」
Brexitを予言するようなEU官僚主義の問題点
「ユーロ・エリートは無反省である。今日のEUの現状を創り出したのは、ヨーロッパの大衆ではなく、ユーロ・エリートと言われる、ヨーロッパ統合論者のエリート達である。特にフランスのユーロ・エリートの責任は極めて重大である。彼らは経済統合さえすれば、ドイツは制御可能であると考えてきた。ドイツがヨーロッパを征服することはなく、ヨーロッパがドイツを征服すると考えてきた。しかしこの予測は全く外れた。共通通貨ユーロは、ドイツを縛りつける鎖であると考えられてきたが、 結果は全くその逆であった。」
ドイツの経済学の特殊性...実はこの箇所だけでも私にとってこの書籍の価値は高いと感じます。
(長文となりますが以下に引用します)
欧州の行方を阻むドイツ財政規律主義の正体はオルド自由主義
EUが不況を脱し得ない最大の原因はドイツの財政規律主義である。
現在もECBのドラギ総裁は米国流の量的緩和(QE)を行い、EU経済を浮上させようとしているが、これに今も反対しているのがドイツである。
ドラギ総裁が実行するQEは当然のことながら各国の国債の買い上げを含むものだが、これに徹底的に反対しているのがドイツ勢である。政府の財政赤字の拡大による景気浮揚にも、もとより反対である。
このドイツの財政規律主義の背後には第二次世界大戦後のドイツに特有な経済思想が存在する。それが「オルド自由主義(英: Ordo liberalism独: Ordo liberalismus)」である。その思想について簡略に説明してみよう。
ドイツにケインズ経済学は存在しない。 ドイツのマクロ経済学は全くの別世界であり、 パラレル・ワールドと言つてもよい。そこでは「オルド自由主義」という奇怪な経済学が唯一の正統理論として、 経済政策を支配している。
「ドイツの経済学者とエコノミストは大都把に2つのグループに分けられる。ケインズを読んだことがない人達と、ケインズを理解していない人達だ」(2014年11月17日付、英「ファイナンシャル・タイムズ」)
ドイツで多少なりともケインズ主義経済学の知識を持つている唯一の政党は、旧共産党だけである。かといって、ドイツ経済学の主流派はミルトン・フリードマン流の新自由主義者でもない。
ドイツの正統派の経済学はオルド自由主義と呼ばれ、中道右派から中道左派にまたがっている存在である。日本語では秩序自由主義とも呼ばれる。
オルドとはラテン語で「秩序」を意味する。この学説では、ハイエクなどの経済学のオーストリア学派の影響も指摘はされるが、オーストリア学派そのものとは全く異なるものである。
1948年、フライブルク大学のヴァルター・オイケン(1891-1950)は、古典派経済学とドイツ歴史学派経済学の双方を批判しながら、新しい経済思想を打ち出すため、学術雑誌「オルド」の出版を開始した。
その雑誌で展開された経済思想はその雑誌名を採って、オルド自由主義と呼ばれている。
オルド自由主義者は、国家が強制しなければ自由はないと考える
オルド自由主義によれば、 もし経済を自由放任にゆだねてしまうと元来は自由であったはずの市場が、やがて寡占的・独占的となり、特定の経済権力によって支配されてしまう。オルド自由主義者によれば、 市場が自然に自由な秩序を創り出すことはあり得ないのである。《米国の場合は独占禁止法が一定の歯止めに》
あるべき競争秩序を実現するためには、国家(政府)が法的な枠組みをもって、市場経済に介入しなければならない。この経済政策こそ、市場がもつべき正しい秩序を創り出す「秩序政策Ordnungs Politik」なのである。つまり、オルド自由主義者はこう考える。
・自由競争を正しく機能させるためには国家の介入が必要である。
・同時に、国家が肥大し、経済を完全にコントロールすることを抑止するためには、市場の競争が必要である。
・これを総合すれば、「競争という規律」を国家が強制する、ということになる。
当然、オルド自由主義は、競争を活性化するために、カルテルやコンツェルンを厳しく制限する。経済政策はイコール「市場に秩序を創り出す秩序政策」でなければならないのである。
また市場を通じた所得分配だけでは不公正が生じがちである。競争秩序だけでは不平等が生じ、公共性や共同体の結束力が弱まってしまう。 そこで、 様々な社会保障政策によって社会の公正性や平等性を確保することが必要になる。これは一言で言えば、「競争秩序には社会政策を通じた補完が必要である」ということになる。
以上のような経済に関する思想をオルド自由主義と呼んでいる。
ドイツのオルド自由主義をユーロに導入すれば悲劇が起きる
オルド自由主義は、ドイツ国民の国民的性格に合った信念の体系である。しかし、それはまた、大きな問題をはらんでいる。
第1に、オルド自由主義は経済恐慌に対する首尾一貫した政策を全く持っていないのである( ケインズ経済学を否定するため、これは当然の結果である。
第2に、オルド自由主義は首尾一貫した金融政策をも欠いている。
第3に、ドイツー国が開放的な経済体制の中でオルド自由主義の信念を貫くことからは大きな問題は生じない。ところが、これを世界経済の一般的ルールに採用しょうとすれば、大きな問題が生ずる。
オルド自由主義者は、国家経済に関して、常に経常収支の赤字よりは経常収支の黒字を望ましいと考える。しかし1国の経常収支は必ず他国の経常赤字によって補われている。つまりゼロサム・ゲームなのである。すべての国が経常黒字を持つということはあり得ないということになる。この1点からしても、オルド自由主義を他国に強制することはできないのだ。
以上のような3つの大きな欠点を持っているので、 オルド自由主義をEU経済全体の原則とすることは極めて非現実的である。にもかかわらず、ドイツはどのような状況になろうとも、オルド自由主義の原則を捨てようとしない。
メルケル氏がなかなか首を縦に振らない理由がよく分かる。