参院選前の4月13日、自由主義経済や規制緩和を考えるためにこの書籍を選び学びました。タイトルを並べて眺めると一部違いはあっても、都知事選に出馬した七海候補とかなり共通する政策や視点を提供していることが分かります。
共通してないのは、自由主義や民主主義の根底に流れている人間の尊厳にかかわる宗教的価値観だと思います。例えば、「子供は親を選べない」とか「非認知能力(忍耐力など)の重要性」を主張していますが、宗教は明確な答えを持っています。(認知能力は分別..)
米国の年度改革要望書のお先棒を担いでいると批判されることが多い著者ですが、私も株式等価交換方式の導入を主張する同氏の姿勢は郵便銀行を米金融業に売り渡すのか!と亀井氏と同じ印象(国賊...失礼しました)を持ったことがあります。この懸念は外れました、よく考えたらそんな時間のかかる効率の悪いことなどを金融資本主義の権化がするはずもありません。巨大過ぎて引き受けてくれるヘッジファンドもいないと思います。
同氏の失敗は小泉政権の時代に金融庁や日銀に乗り込んで、流動性供給に最大限の精力を傾けながら、必要な財政支出を削りすぎてしまったことにあると思います。同じことを今も繰り返してるのではないでしょうか。
財政支出で大切なことは投資と消費をはっきり分けて考えることだと思います。
小さな政府に舵を切らなければならない時期ではあっても、投資を怠れば未来に禍根を残す、この現実的なバランス感覚はシビアな時代に生き残っている中小企業経営者に尋ねれば良いと思います。胃の痛みを感じながら、神にも祈る思いで意思決定をしていることが分かると思います。
ともあれ、はじめの全文と全体の章立と見出しを並べて見ます。
これだけでも、政策を考える上で参考となる切り口です。
(同氏は格言もうまく使っています、さすが!)
それにしても、記者からの「トリクルダウンはどうなったんでしょうか?」との質問に「そんなものはもうない」となぜ答えたんでしょうか、この章立てを見れば本音でないことは明らかだと思います。(記者の都合の良いとこどりかもしれませんが)
はじめに―「どうなる」ではなく「どうする」を考えよう
「コンパス」を持っているか
二〇二〇年以降、日本や世界はどうなっているのか。
巷間よく言われるように、財政破綻が近いのか。それとも「アベノミクス」が奏功して経済財政ともに再生するのか。それに伴って、私たちの暮らしや働き方はどう変わるのか。さらには混沌とするEUや、景気減速が顕著になった中国はどうなるのか。
こうした国内外にある諸問題に対し、私なりの「未来予想図」を提示したのが本書です。そこで、各章の冒頭には、簡単にその「見取り図」を示しました。来るべき未来の全体像を掴んでいただいた上で、その後の解説をお読みいただければと思います。
ただし、私が本書を執筆した意図は、たんに「未来予想図」を示すだけに留まりません。「これからどうなるか」を知ることではなく、「これからどうするか」を読者白身が考える、 そのきっかけにしていただきたいと思っているのです。
マサチューセッツ工科大学のメディアラポには、「The Principles」 と題された九つのキーフレーズが掲げられています。インターネットが登場する前(before Internet)と登場後(after Internet)では世の中のバラダイムが変わったとして、 具体的に九つの大きな変化を挙げているのです。
その中に、私がとりわけ興味を持ち、未来をもっとも象徴的に表していると思う言葉があります。
「Compass over Maps」―地図よりもコンバスが重要な時代になる、ということです。
変化の激しい昨今、地図はすぐに上書きされます。 最新版を手に入れても、しばらく経つと役に立たなくなる。しかし、どれほど地形や境界線が変わっても、コンバスがあれば自分の進むべき道がわかります。 針路はそれぞれが決めることですが、その根拠となる自分なりの哲学や座標軸を持つことが、 これからの時代には非常に重要になるということです。
従来、人生の地図には「定番」がありました。偏差値の高い有名大学を出て、一部上場の大企業に入り、管理職に就き、一戸建ての家を持ち、生涯安定的に暮らす、というものです。
しかし、みなさんも感じていらっしゃるとおり、今やそんな地図は何の役にも立ちません。いい大学を出ていい会社に就職したと思っても、 その会社がいつまで存続するかわかりません。勤め先が外資系の会社に買収されて、ある日を境に業務内容がガラリと変わる、ということも実際に起きています。あるいは会社は存続しても、白分の席が無事に残るとは限らない。そのとき、古い地図しか持っていなければ、たちまち路頭に迷うことになるでしょう。
知識がすぐに陳腐化してしまう世界
ここで重要なのが、「自分にはこれができる」というものを持っていることです。例えば、「財務のプロフェツショナルとしてやっていく」でもいい。あるいは「この方向に進めば間違いない」という信念を持つことでもいい。こういう確国としたものがあれば、慌てることはありません。それが「コンバスを持つ」ということです。
そう考えると、「Compass over Maps」とは、二十一世紀を生きていく私たちにとって象徴的な言葉のような気がしてきませんか。
とりわけ教育において、 この言葉は重要な意味を持つと思います。かのアインシュタインは、「教育とは、学校で習った知識をすべて忘れた後で、自分の中に残ったものを指す」と述べています。ここでいう「知識」が「地図」に相当します。便利なものではありますが、すぐに陳腐化するし、じつは間違っていたということもよくあります。
例えば鎌倉幕府の成立年を「いいくに(一一九二年)」と覚えた人は多いと思いますが、最近の歴史教科書では一一八五年と記されています。つまり知識白体は、あまりアテにできないわけです。
しかし、知識をひととおり得た後で概念のようなものを掴み、俗にいう「地頭」を鍛えることができれば、人生のあらゆる場面で役に立つ。それは本人の意志と努力しだいで身につけられるものだと思います。
「自力」を鍛えることがますます必要とされる時代に
「Compass over Maps」は、 「competitiveよりもcompetent であれ」と言い換えることもできます。「competitive」は「競争力がある」という意味ですが、ステージが限られます。例えば、excelを使って与えられたデータを解析し、表をつくり、さらにwordを使ってレポートを書く。これはcompetitiveな仕事です。しかし、数年後にはexcelもwordも古くなり、 まったく別のソフトがスタンダードになっているかもしれません。その時点で対応していなければ、競争力を失うわけです。
一方、「competent」とは「対応能力がある」という意味で、状況がどれほど変わっても競争力を維持し続けることを指します。前者が「知識による競争力」であるのに対し、後者は「自力による競争力」であると言えるでしょう。
例えばアメリカの大学では、最初の四年間で基本的な教養(arts & science)を広く学ぶのが一般的です。それを踏まえて、ビジネス、法律、メディカルの専門スクール(つまり大学院)で技術を身につけていくわけです。一見すると遠回りに思えますが、幅広い知識を吸収して世の中を知り、自分の頭で考える下地をつくるという意味で、欠かせないプロセスなのです。
実際、competentがいかに重要かは、世の中を見渡してみればわかります。 少し前まであった仕事が消滅するということは、当たり前のように起きている。身近な例で言えば、写真の現像屋さんはもうほとんどありません。アート写真ならともかく、私たちがデジカメで撮った写真ぐらいなら、せいぜい店舗にあるPCを自分で操作すれば十分でしょう。
あるいは、 小さな旅行代理店も消えていっています。 普は代理店で飛行機などの切符を取ってもらうといったニーズがありましたが、今ではネットで予約し購入しますから、ほとんど必要ありません。今後生き残っていくのは、自分でパック旅行を企画して売り込むことができる大きな代理店たけです。
新聞も変わるかもしれません。今はまだ配達が主流ですが、やがて電子版が主流になり、さらには自宅白で印刷するというバターンが定着する可能性もあります。 朝起きると、自分の関心のある記事だけが並ぶオリジナルな新聞がプリントァウトされる、という世界が来るかもしれません。すでにネット上では、ニュースを好みに応じてキュレーションできるサイトがいくつも登場しています。
そういう世の中で、古い知識や技術に固執しても意味がありません。頼れるのは自身がcompetentであるということたけです。
例えば私の場合、competentなものとして、長らく勉強してきた経済学を用いて基本から考えるという点にあると自負しています。先のギリシャの財政破綻問題にしても、ワイドショーのコメンテーターは「ギリシャは借りたお金をムダ使いして返さない。けしからん」としか伝えません。しかし問題の本質は、そもそもEUとは何か、ドイツやフランスは、それぞれどういった利害関係を持っているかということです。
後にも詳しく述べますが、ドイツ・フランスは、ギリシャのEU加盟を認めた時点で、やがてこういう問題が起きることはわかっていたはずです。それでもなお、仲間に加えたい事情があった。それがいったい何なのかまで考えなければ、 ギリシャ問題を見きわめることも、まして今後を見通すこともできません,そこで欠かせないのが、経済学的な「ものの考え方」なのです。
「悲観は気分である。楽観は意志である」
そしてもう一つ、認識しておくべきことがあります一一 残念ながら、 世の中はけっして公平でも平等でもないということです,
『「学力」の経済学』(ディスカヴアー・トゥエンティワン)という本がぺストセラーになっています。著者は私のゼミの卒業生で慶應義塾大学准教授の中室牧子さん。教育にまつわる常識を次々と覆す、たいへん衝撃的な内容ですが、その中に、「認知能力」と「非認知能力」という言葉が出てきます,
認知能力とは、 TOEFL®やTOEIC®などの点数や学校の成續など、計測できる能力を指します。しかし、実際に各方面で成功してきた人を観察してみると、認知能力については、社会的成功との関連がほとんど見られないそうです。それよりも非認知能力、例えば我慢強さ、時間を守ること、白制心などのほうがはるかに関係しているそうです。
では、非認知能力は何で決まり、それを高めるにはどうすればいいか。残念ながら、それはまだ十分に証明されていません,しかし私が思うに、ある程度は学校教育ではなく、家庭環境が関係している気がします。
少なくとも認知能力に関しては、親の教育水準や所得水準でかなり決まります。非認知能力についても、同じような傾向が見られるのではないでしょうか。
これは、教育の機会の平等には限界があることを意味します。例えば私の友人は、親が二ューヨークに赴任しているときに生まれ、若いころからアメリカ文化に馴染んで暮らしてきました,おかげで苦労せずに英語が話せます。生まれたときから、機会の与えられ方が違うわけです,
子どもは親を選べないので、これ自体は変えられません:とうしても機会の平等にこだわるなら、すべての子どもを一カ所に集めて教育するしかない,しかし、それは人間としてやるべきことではないでしょう。
たたし、これはあくまでも平均的な話です。親の教育・所得水準が高くても、かならずしも子どもの非認知能力が高いとは限りません,また、逆のパターンもたくさんある。世の中に不公平・不平等は無数にあると認めた上で、それを跳ね返すぐらいの気概が必要ということです。「コンバス」や「competent」と呼べるものを持つていれば、それは十分に可能だと思います,
アランの『幸福論』の中に、「悲観は気分である。楽観は意志である」という言集があります。自分の人生を平均に当てはめる必要はありません。何十年も先の将来を悲観したり、年金の心配をしたりしているようでもダメ。「自分はできる」と信じてチャレンジすること、失敗しても年金がセロになっても食べていけると楽観できること、あきらめずに努力することが、結局は「幸福」につながると思います。またそのプロセスの中で、非認知能力も自然に高まるのではないでしょうか。
冒頭にも述べましたが、本書はたんなる「未来予測」の本ではありません。重要なのは、いかに自分の「コンバス」や「competent」をつくっていくか。二〇二〇年の世界を知ることは、これからのあなた自身のコンパスをつくることに、 大いに役立ってくれると思います。本書がその一助となれば幸いです。
第1章 二〇二〇年東京五輪は、日本にとって最大かつ最後のチャンス
東京五輪で来るべき未来の姿
❶「改革のモメンタム」が到来する
二〇二〇年には自動車の自動走行が実現可能に
なぜロンドンは二ューヨークに勝てたのか
❷⃣世界は「大いなる収斂」の時代へ
アジアの中間所得層はあと数年で三・五倍に膨張する
バルコ二ーに駆け上がれるかどうかが、 勝敗を決める
第2章 いよいよ「イノベーションと英語の時代」が日本にも到来する
「イノベーションの時代」が運んでくる未来
❶イノベーションを起こす条件とは
『もしドラ』の女子マネージャーこそイノベーター である
ノベーションには「金融家」が欠かせない
❷何もしなければ堕ちていく時代
インドでもウォールストリートでも、同じ仕事ができる時代に
世界は一つになり、よりフラットに
グロー口バリゼーションは選択ではなく、 事実としてある
❸「仲間」と「英語」で生き残れ
なぜイノベーティブな起業家の傍らには、常に「相棒」がいるのか
国家公務員試験の課目にT OE F L® が入る?
今すぐ学校教育の英語から脱せよ
❹東京・名古屋・大阪がつながり、世界最大の都市圏ができる
将来の日本の強みは「メガ・リージョン」にある
二〇二七年、リニア新幹線で「超大都市圏」が誕生する
❺再生可能エネルギーが日本経済を変える
日本に到来する、 技術開発のチャンス
再生可能エネルギーは日本を救うか
東京五輪で活躍するか、 「水素プロジークト」
第3章「正社員」より「自由な働き方」を目指す時代
「働き方」の未来予想図
❶「終身雇用・年功序列」の強要は時代不適合
労働は人と社会をつなぐ接点
終身雇用・年功序列は、「守るべき伝統」ではない
経済を失速させた民主党の「ばらまき」政策
「働く者どうしが対立する」時代へ
❷二〇二〇年に向けて「解雇のルール」制定が必要だ
「雇用労働相談センター」で新しい働き方がつくられる
「同一労働・同一条件」の実現に向けて
日本人は「改革嫌い」か?
❸多様な働き方の先にあるものは
正社員礼費の固定観念は昭和の遺物?
「労働時間で給与を支払う」の問題点
海外からゲストワーカーを受け入れれば、 女性の働き方が一変する
❹「プ口」ならいつでも、どこでも生きていける
世界に通用する大学教育とは
どの会社に勤めているかではなく、どういう専門性を持っているか
「残業するほど暇じゃない」と言える日々を送ろう
第4章二〇二〇年、日本経済の再生なるか
改革の先にある、二〇二〇年の日本の姿とは…
❶規制改革が進まない理由
規制改革後進国・日本
日本の農業の未来は「オランダ式」にある
医療の行く末は変えられるか
❷近未来への布石としての「国家戦略特区」
「国家戦略特区」という突破口
日本経済の未来は「国家戦略特区」から見えてくる
特区が日本人の働き方の概念を変える
高齢化社会を見据えた「ドローン特区」
❸空港が日本経済を羽ばたかせる起爆剤となる
羽田空港を「片田舎の空港」から「世界のハブ空港」へ
成長戦略の目玉、空港の「民営化」が始まる
空港は地域活性化の原動力になる
❹「観光立国・日本」の伸びしろはかくも大きい
「日本版D MO」 が外国人観光客誘致のテコに
日本の世界遺産登録はまだまだ少なすぎる
第5章財政健全化への道、問題は改革実行力
二〇二〇年、財政は黒字化するか
❶「骨太方針」への期待と不安
「経済再生を優先」と明言
「霞が関文学」で曖昧にされた社会保障改革
❷若者向けセーフティネットの拡充が日本経済の原動力になる
社会保障の主役を若者に
「給付つき税額控除」の導入で働く人が増える
❸「プライマリー・パランス黒字化」は二〇 二〇年までに達成できるか
前提の数字を実態に合わせてみると
「説明責任」を果たさなくていいのか
❹歳出・歳入改革の未来
一度膨らんだ予算は、元に戻らない
日本から逃げ出す富裕層たち
第6章世界経済、変化する者だけが生き残る
二〇二〇年、世界経済のパワーパランス
❶アメリ力経済は強さを維持する
イノベーションを生むのは自由な空気
企業経営をガラス張りに
九〇年代に出現した二つの「フロンティア」
アメリ力の「格差」問題が二〇二〇年に影を落とす
❷それでもヨー口ツパは割れない
ギリシャがEUから見放されない理由
民主主義の「暴走」がEUの舵を狂わせる?
❸中国は二〇二〇年までに 「中進国の罠」にはまる
成長率の鈍化は景気だけの問題ではない
中国のボトルネックは「rule of law」の欠落
❹二〇二〇年、アジアの成長を牽引する国はどこか
二〇二〇年の中国は日本の脅威となるか
インドはやがて中国を追い抜く
ASEANは「コネクティビティ」で進化する
これから日本に吹く「ASEAN経済共同体」の追い風
おわりに
共通してないのは、自由主義や民主主義の根底に流れている人間の尊厳にかかわる宗教的価値観だと思います。例えば、「子供は親を選べない」とか「非認知能力(忍耐力など)の重要性」を主張していますが、宗教は明確な答えを持っています。(認知能力は分別..)
米国の年度改革要望書のお先棒を担いでいると批判されることが多い著者ですが、私も株式等価交換方式の導入を主張する同氏の姿勢は郵便銀行を米金融業に売り渡すのか!と亀井氏と同じ印象(国賊...失礼しました)を持ったことがあります。この懸念は外れました、よく考えたらそんな時間のかかる効率の悪いことなどを金融資本主義の権化がするはずもありません。巨大過ぎて引き受けてくれるヘッジファンドもいないと思います。
同氏の失敗は小泉政権の時代に金融庁や日銀に乗り込んで、流動性供給に最大限の精力を傾けながら、必要な財政支出を削りすぎてしまったことにあると思います。同じことを今も繰り返してるのではないでしょうか。
財政支出で大切なことは投資と消費をはっきり分けて考えることだと思います。
小さな政府に舵を切らなければならない時期ではあっても、投資を怠れば未来に禍根を残す、この現実的なバランス感覚はシビアな時代に生き残っている中小企業経営者に尋ねれば良いと思います。胃の痛みを感じながら、神にも祈る思いで意思決定をしていることが分かると思います。
ともあれ、はじめの全文と全体の章立と見出しを並べて見ます。
これだけでも、政策を考える上で参考となる切り口です。
(同氏は格言もうまく使っています、さすが!)
それにしても、記者からの「トリクルダウンはどうなったんでしょうか?」との質問に「そんなものはもうない」となぜ答えたんでしょうか、この章立てを見れば本音でないことは明らかだと思います。(記者の都合の良いとこどりかもしれませんが)
はじめに―「どうなる」ではなく「どうする」を考えよう
「コンパス」を持っているか
二〇二〇年以降、日本や世界はどうなっているのか。
巷間よく言われるように、財政破綻が近いのか。それとも「アベノミクス」が奏功して経済財政ともに再生するのか。それに伴って、私たちの暮らしや働き方はどう変わるのか。さらには混沌とするEUや、景気減速が顕著になった中国はどうなるのか。
こうした国内外にある諸問題に対し、私なりの「未来予想図」を提示したのが本書です。そこで、各章の冒頭には、簡単にその「見取り図」を示しました。来るべき未来の全体像を掴んでいただいた上で、その後の解説をお読みいただければと思います。
ただし、私が本書を執筆した意図は、たんに「未来予想図」を示すだけに留まりません。「これからどうなるか」を知ることではなく、「これからどうするか」を読者白身が考える、 そのきっかけにしていただきたいと思っているのです。
マサチューセッツ工科大学のメディアラポには、「The Principles」 と題された九つのキーフレーズが掲げられています。インターネットが登場する前(before Internet)と登場後(after Internet)では世の中のバラダイムが変わったとして、 具体的に九つの大きな変化を挙げているのです。
その中に、私がとりわけ興味を持ち、未来をもっとも象徴的に表していると思う言葉があります。
「Compass over Maps」―地図よりもコンバスが重要な時代になる、ということです。
変化の激しい昨今、地図はすぐに上書きされます。 最新版を手に入れても、しばらく経つと役に立たなくなる。しかし、どれほど地形や境界線が変わっても、コンバスがあれば自分の進むべき道がわかります。 針路はそれぞれが決めることですが、その根拠となる自分なりの哲学や座標軸を持つことが、 これからの時代には非常に重要になるということです。
従来、人生の地図には「定番」がありました。偏差値の高い有名大学を出て、一部上場の大企業に入り、管理職に就き、一戸建ての家を持ち、生涯安定的に暮らす、というものです。
しかし、みなさんも感じていらっしゃるとおり、今やそんな地図は何の役にも立ちません。いい大学を出ていい会社に就職したと思っても、 その会社がいつまで存続するかわかりません。勤め先が外資系の会社に買収されて、ある日を境に業務内容がガラリと変わる、ということも実際に起きています。あるいは会社は存続しても、白分の席が無事に残るとは限らない。そのとき、古い地図しか持っていなければ、たちまち路頭に迷うことになるでしょう。
知識がすぐに陳腐化してしまう世界
ここで重要なのが、「自分にはこれができる」というものを持っていることです。例えば、「財務のプロフェツショナルとしてやっていく」でもいい。あるいは「この方向に進めば間違いない」という信念を持つことでもいい。こういう確国としたものがあれば、慌てることはありません。それが「コンバスを持つ」ということです。
そう考えると、「Compass over Maps」とは、二十一世紀を生きていく私たちにとって象徴的な言葉のような気がしてきませんか。
とりわけ教育において、 この言葉は重要な意味を持つと思います。かのアインシュタインは、「教育とは、学校で習った知識をすべて忘れた後で、自分の中に残ったものを指す」と述べています。ここでいう「知識」が「地図」に相当します。便利なものではありますが、すぐに陳腐化するし、じつは間違っていたということもよくあります。
例えば鎌倉幕府の成立年を「いいくに(一一九二年)」と覚えた人は多いと思いますが、最近の歴史教科書では一一八五年と記されています。つまり知識白体は、あまりアテにできないわけです。
しかし、知識をひととおり得た後で概念のようなものを掴み、俗にいう「地頭」を鍛えることができれば、人生のあらゆる場面で役に立つ。それは本人の意志と努力しだいで身につけられるものだと思います。
「自力」を鍛えることがますます必要とされる時代に
「Compass over Maps」は、 「competitiveよりもcompetent であれ」と言い換えることもできます。「competitive」は「競争力がある」という意味ですが、ステージが限られます。例えば、excelを使って与えられたデータを解析し、表をつくり、さらにwordを使ってレポートを書く。これはcompetitiveな仕事です。しかし、数年後にはexcelもwordも古くなり、 まったく別のソフトがスタンダードになっているかもしれません。その時点で対応していなければ、競争力を失うわけです。
一方、「competent」とは「対応能力がある」という意味で、状況がどれほど変わっても競争力を維持し続けることを指します。前者が「知識による競争力」であるのに対し、後者は「自力による競争力」であると言えるでしょう。
例えばアメリカの大学では、最初の四年間で基本的な教養(arts & science)を広く学ぶのが一般的です。それを踏まえて、ビジネス、法律、メディカルの専門スクール(つまり大学院)で技術を身につけていくわけです。一見すると遠回りに思えますが、幅広い知識を吸収して世の中を知り、自分の頭で考える下地をつくるという意味で、欠かせないプロセスなのです。
実際、competentがいかに重要かは、世の中を見渡してみればわかります。 少し前まであった仕事が消滅するということは、当たり前のように起きている。身近な例で言えば、写真の現像屋さんはもうほとんどありません。アート写真ならともかく、私たちがデジカメで撮った写真ぐらいなら、せいぜい店舗にあるPCを自分で操作すれば十分でしょう。
あるいは、 小さな旅行代理店も消えていっています。 普は代理店で飛行機などの切符を取ってもらうといったニーズがありましたが、今ではネットで予約し購入しますから、ほとんど必要ありません。今後生き残っていくのは、自分でパック旅行を企画して売り込むことができる大きな代理店たけです。
新聞も変わるかもしれません。今はまだ配達が主流ですが、やがて電子版が主流になり、さらには自宅白で印刷するというバターンが定着する可能性もあります。 朝起きると、自分の関心のある記事だけが並ぶオリジナルな新聞がプリントァウトされる、という世界が来るかもしれません。すでにネット上では、ニュースを好みに応じてキュレーションできるサイトがいくつも登場しています。
そういう世の中で、古い知識や技術に固執しても意味がありません。頼れるのは自身がcompetentであるということたけです。
例えば私の場合、competentなものとして、長らく勉強してきた経済学を用いて基本から考えるという点にあると自負しています。先のギリシャの財政破綻問題にしても、ワイドショーのコメンテーターは「ギリシャは借りたお金をムダ使いして返さない。けしからん」としか伝えません。しかし問題の本質は、そもそもEUとは何か、ドイツやフランスは、それぞれどういった利害関係を持っているかということです。
後にも詳しく述べますが、ドイツ・フランスは、ギリシャのEU加盟を認めた時点で、やがてこういう問題が起きることはわかっていたはずです。それでもなお、仲間に加えたい事情があった。それがいったい何なのかまで考えなければ、 ギリシャ問題を見きわめることも、まして今後を見通すこともできません,そこで欠かせないのが、経済学的な「ものの考え方」なのです。
「悲観は気分である。楽観は意志である」
そしてもう一つ、認識しておくべきことがあります一一 残念ながら、 世の中はけっして公平でも平等でもないということです,
『「学力」の経済学』(ディスカヴアー・トゥエンティワン)という本がぺストセラーになっています。著者は私のゼミの卒業生で慶應義塾大学准教授の中室牧子さん。教育にまつわる常識を次々と覆す、たいへん衝撃的な内容ですが、その中に、「認知能力」と「非認知能力」という言葉が出てきます,
認知能力とは、 TOEFL®やTOEIC®などの点数や学校の成續など、計測できる能力を指します。しかし、実際に各方面で成功してきた人を観察してみると、認知能力については、社会的成功との関連がほとんど見られないそうです。それよりも非認知能力、例えば我慢強さ、時間を守ること、白制心などのほうがはるかに関係しているそうです。
では、非認知能力は何で決まり、それを高めるにはどうすればいいか。残念ながら、それはまだ十分に証明されていません,しかし私が思うに、ある程度は学校教育ではなく、家庭環境が関係している気がします。
少なくとも認知能力に関しては、親の教育水準や所得水準でかなり決まります。非認知能力についても、同じような傾向が見られるのではないでしょうか。
これは、教育の機会の平等には限界があることを意味します。例えば私の友人は、親が二ューヨークに赴任しているときに生まれ、若いころからアメリカ文化に馴染んで暮らしてきました,おかげで苦労せずに英語が話せます。生まれたときから、機会の与えられ方が違うわけです,
子どもは親を選べないので、これ自体は変えられません:とうしても機会の平等にこだわるなら、すべての子どもを一カ所に集めて教育するしかない,しかし、それは人間としてやるべきことではないでしょう。
たたし、これはあくまでも平均的な話です。親の教育・所得水準が高くても、かならずしも子どもの非認知能力が高いとは限りません,また、逆のパターンもたくさんある。世の中に不公平・不平等は無数にあると認めた上で、それを跳ね返すぐらいの気概が必要ということです。「コンバス」や「competent」と呼べるものを持つていれば、それは十分に可能だと思います,
アランの『幸福論』の中に、「悲観は気分である。楽観は意志である」という言集があります。自分の人生を平均に当てはめる必要はありません。何十年も先の将来を悲観したり、年金の心配をしたりしているようでもダメ。「自分はできる」と信じてチャレンジすること、失敗しても年金がセロになっても食べていけると楽観できること、あきらめずに努力することが、結局は「幸福」につながると思います。またそのプロセスの中で、非認知能力も自然に高まるのではないでしょうか。
冒頭にも述べましたが、本書はたんなる「未来予測」の本ではありません。重要なのは、いかに自分の「コンバス」や「competent」をつくっていくか。二〇二〇年の世界を知ることは、これからのあなた自身のコンパスをつくることに、 大いに役立ってくれると思います。本書がその一助となれば幸いです。
第1章 二〇二〇年東京五輪は、日本にとって最大かつ最後のチャンス
東京五輪で来るべき未来の姿
❶「改革のモメンタム」が到来する
二〇二〇年には自動車の自動走行が実現可能に
なぜロンドンは二ューヨークに勝てたのか
❷⃣世界は「大いなる収斂」の時代へ
アジアの中間所得層はあと数年で三・五倍に膨張する
バルコ二ーに駆け上がれるかどうかが、 勝敗を決める
第2章 いよいよ「イノベーションと英語の時代」が日本にも到来する
「イノベーションの時代」が運んでくる未来
❶イノベーションを起こす条件とは
『もしドラ』の女子マネージャーこそイノベーター である
ノベーションには「金融家」が欠かせない
❷何もしなければ堕ちていく時代
インドでもウォールストリートでも、同じ仕事ができる時代に
世界は一つになり、よりフラットに
グロー口バリゼーションは選択ではなく、 事実としてある
❸「仲間」と「英語」で生き残れ
なぜイノベーティブな起業家の傍らには、常に「相棒」がいるのか
国家公務員試験の課目にT OE F L® が入る?
今すぐ学校教育の英語から脱せよ
❹東京・名古屋・大阪がつながり、世界最大の都市圏ができる
将来の日本の強みは「メガ・リージョン」にある
二〇二七年、リニア新幹線で「超大都市圏」が誕生する
❺再生可能エネルギーが日本経済を変える
日本に到来する、 技術開発のチャンス
再生可能エネルギーは日本を救うか
東京五輪で活躍するか、 「水素プロジークト」
第3章「正社員」より「自由な働き方」を目指す時代
「働き方」の未来予想図
❶「終身雇用・年功序列」の強要は時代不適合
労働は人と社会をつなぐ接点
終身雇用・年功序列は、「守るべき伝統」ではない
経済を失速させた民主党の「ばらまき」政策
「働く者どうしが対立する」時代へ
❷二〇二〇年に向けて「解雇のルール」制定が必要だ
「雇用労働相談センター」で新しい働き方がつくられる
「同一労働・同一条件」の実現に向けて
日本人は「改革嫌い」か?
❸多様な働き方の先にあるものは
正社員礼費の固定観念は昭和の遺物?
「労働時間で給与を支払う」の問題点
海外からゲストワーカーを受け入れれば、 女性の働き方が一変する
❹「プ口」ならいつでも、どこでも生きていける
世界に通用する大学教育とは
どの会社に勤めているかではなく、どういう専門性を持っているか
「残業するほど暇じゃない」と言える日々を送ろう
第4章二〇二〇年、日本経済の再生なるか
改革の先にある、二〇二〇年の日本の姿とは…
❶規制改革が進まない理由
規制改革後進国・日本
日本の農業の未来は「オランダ式」にある
医療の行く末は変えられるか
❷近未来への布石としての「国家戦略特区」
「国家戦略特区」という突破口
日本経済の未来は「国家戦略特区」から見えてくる
特区が日本人の働き方の概念を変える
高齢化社会を見据えた「ドローン特区」
❸空港が日本経済を羽ばたかせる起爆剤となる
羽田空港を「片田舎の空港」から「世界のハブ空港」へ
成長戦略の目玉、空港の「民営化」が始まる
空港は地域活性化の原動力になる
❹「観光立国・日本」の伸びしろはかくも大きい
「日本版D MO」 が外国人観光客誘致のテコに
日本の世界遺産登録はまだまだ少なすぎる
第5章財政健全化への道、問題は改革実行力
二〇二〇年、財政は黒字化するか
❶「骨太方針」への期待と不安
「経済再生を優先」と明言
「霞が関文学」で曖昧にされた社会保障改革
❷若者向けセーフティネットの拡充が日本経済の原動力になる
社会保障の主役を若者に
「給付つき税額控除」の導入で働く人が増える
❸「プライマリー・パランス黒字化」は二〇 二〇年までに達成できるか
前提の数字を実態に合わせてみると
「説明責任」を果たさなくていいのか
❹歳出・歳入改革の未来
一度膨らんだ予算は、元に戻らない
日本から逃げ出す富裕層たち
第6章世界経済、変化する者だけが生き残る
二〇二〇年、世界経済のパワーパランス
❶アメリ力経済は強さを維持する
イノベーションを生むのは自由な空気
企業経営をガラス張りに
九〇年代に出現した二つの「フロンティア」
アメリ力の「格差」問題が二〇二〇年に影を落とす
❷それでもヨー口ツパは割れない
ギリシャがEUから見放されない理由
民主主義の「暴走」がEUの舵を狂わせる?
❸中国は二〇二〇年までに 「中進国の罠」にはまる
成長率の鈍化は景気だけの問題ではない
中国のボトルネックは「rule of law」の欠落
❹二〇二〇年、アジアの成長を牽引する国はどこか
二〇二〇年の中国は日本の脅威となるか
インドはやがて中国を追い抜く
ASEANは「コネクティビティ」で進化する
これから日本に吹く「ASEAN経済共同体」の追い風
おわりに