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メルセデスの伝説

2008-05-30 | 読書
 メルセデス・ベンツ。

 世界初のガソリン自動車を発明したカール・ベンツの名を挙げるまでもなく、ドイツを、いや世界を代表するプレミアムカーとしてその名は余りにも有名である。ボンネット先端で輝くスリーポインテッド・スターは陸・海・空のそれぞれを制覇するというダイムラー社の自負と誇りの表れだという。

 メルセデスという美しい名前をもつこの車も、ここ日本では少し前までは金と権力の象徴のように扱われ、あの萬田銀次郎も黒いSLに乗って取立てに行った。
 しかしコンパクトなAからCやE、Sといった端正なセダン、流麗なクーペや伝統のロードスター、SUV、果てはミニバン風のRなどまでラインナップするフルラインメーカーとなった今ではかつてのような特別イメージは無く、あくまでもプレミアム・ブランドの一つとして認知されている。

 街にはシルバーのE320の開業医、パールのC200のマダム、赤いA160の女子大生、黒いS600の政治家…さまざまなメルセデスが行き交う、そんな風景は珍しくも何でもない。スリーポインテッド・スターがミラーに映ったからといって焦って道を譲るような時代ではないのである。


 しかし今から70年前ならどうだろう?

 名実ともに特別なメルセデスがあった。770K、グロッサー・メルセデスである。メカニカルスーパーチャージャーを備えた直列8気筒7700ccの巨大なエンジンを、その車重が防弾仕様では4トンをゆうに超える巨大なシャシに搭載した怪物である。生粋のカー・マニアでもあった、かのアドルフ・ヒトラーが愛した車としても知られるグロッサーは各国の元首や政府要人のみが乗ることを許された特別な車である。
 2006年、皇室が長年使った御料車プリンス・ロイヤルに変わるリムジン、センチュリー・ロイヤルをトヨタが納入したのは記憶に新しいが、1930年代、御料車は菊の御紋をつけたこのグロッサーであった。いわゆる三国同盟にあった折り、皇室がドイツのメルセデスを使うのは時代の流れというものであろう。威厳と格式を備えたその巨大な車に、いや巨大な力に人々は畏敬の念を抱きひれ伏したのである。
 
 
 五木寛之著「メルセデスの伝説」。メルセデスを見る目が、少し変わる一冊。


 
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