長い廊下

勝手に思ってるだけ

「標本教室」に行って来た!

2008年08月04日 10時51分10秒 | 昆虫標本室
去る6月17日、このブログで「虫の詩人の館」という施設を紹介しました。
あの日以来私は幼虫恐怖を克服すべく、図鑑で、あるいはWEB上で幼虫画像をさがしては、人知れず「粘視(*1)訓練」にはげんで来たのです。その甲斐あって、きゃつらのめまいを感じるほど大胆多彩な配色にも、それぞれ独特に激しいメッセージ性のある模様と造形にも、画像で見る分にはほぼ動じなくなりました。
先日などは買い物帰りに、無防備に道に横たわる黄緑色のニクいやつを発見、道ばたにしゃがんで顔を至近距離まで近づけて観察したうえ、勇気の人差し指(*2)で仰向けにころがすことに成功しました(しかし裏側がまた新鮮な気持ち悪さだっため、すっ飛んで逃げる)。
ちょっと前までは、チラっとでも幼虫系の画像が目に入ろうものならいちいち黄ばんだ悲鳴を上げていた私だのに、我ながら長足の進歩です。すべては気合いだということが、今さらわかりました。誰にともなく、ありがとうございます。
 
で、今回はその「虫の詩人の館」で開催された「初心者向け標本教室」に、息子9歳といっしょに行ってきたという話です。
 
前回りきさんといっしょに「虫の詩人の館」に行ったときは、曲がるべきところで曲がらずに直進してしまったため無駄に歩数を稼ぐことになったけれど、今回は二度目、さすがにもう道に迷うことはないであろうと思っていたのに、またもや迷ってしまいました。どうやら今度は曲がるべきではない角で曲がってしまったらしい。片手にしっかりと地図を持ち、確信を持って間違った角を曲がってしまうおのれが憎い。方向音痴という言葉があるけれど、そんな言葉ではもう足りない、「方向痴呆」というのはどうでしょうか。
 
クソ暑い中余計な運動を強いられ、耳から毒ガスが吹き出す寸前に、やっと目的地に到着。
前に来たときはりきさんと私以外にはほとんど来館者は見当たらなかったけれど、この日は「標本教室」」があるため館内はそこそこにぎわっていました。
「標本教室」は、ふだんは立ち入り禁止の3階集会室で行われています。もちろん初めて入る場所なので物珍しくあたりを見回していると、虫関連の書物などがたくさん置かれている中に、奥本大三郎先生直筆の色紙や団扇が飾られているのを見つけました。それぞれ文字の他に、さっと描いたような絵が添えられていました。
私が前回ご署名をいただいたときもエッフェル塔の絵を描いてくださってとても嬉しかったのですが、そういう風にちょっと絵でも描いて遊んでみようかというような余裕が明治の教養人のようで、ますますお慕い申し上げてしまうところなのです。
けれども残念ながら、この日奥本先生はご不在でした。思えば前回がラッキー過ぎたのですが、最初にこういうラッキーなことがあると、つい期待してしまうものですね。ふたたびお目にかかれるつもりで楽しみにしていたので、かなりがっかりしました。もう一度先生を粘視したかったのに。またの機会があることを信じています。
 
さて、「標本教室」ですが、夏休みということもあって、いつもより希望者が多かったのではないでしょうか。定員10名となっていましたが、この日は15名くらい(おもに小学生)いたように思います。指導してくださるスタッフは7名ほどで、この方達は全員ボランティアだそうです。虫が大好きで、自分ひとりで楽しむだけでなくその楽しみを人と分かち合いたい、子どもたちに虫のことを知ってもらって、もっと虫が好きになってくれたら嬉しいというような、純粋な情熱の感じられる指導内容でした。みなさん優しくていねいに教えてくださるので、息子もリラックスして受講できたようです。
 
今回標本にした虫は、蝶が「コムラサキ」、甲虫が「パプアキンイロクワガタ(=通称パプキンだって)」。
標本にするには羽の模様や体の細部が見やすいように形を整えてなくてはなりませんが、これを展翅(=てんし 羽を広げて整える)・展足(=脚部の形を整える)と言います。なにしろ相手は小さな昆虫なので、細かい作業になります。細心さ・丁寧さの程度によって出来映えが如実に変わってくるので、慎重に作業を進めて行きます。
 
最初は蝶。まず胴部をピンで固定したのち、展翅板の上で羽の形を整えます。虫の羽はもろいものですが、それでも多少力がかかっても大丈夫な部分があるので(蝶でいうと羽の上の縁、太めの翅脈=しみゃくが通っている部分など)そういう場所を選んで針先などでひっかけ、そっと羽を広げていきます。
良い感じに広げられたら、かぶせた展翅テープの上から羽の外側ギリギリのところにピンを打ち、固定します。この作業は手際良くやらないとすぐに羽がもとの位置にもどってしまうし、やり直しが多いと鱗粉がはがれたりして羽の状態も悪くなって来るので、息子も少々苦労していました。
4枚の羽それぞれ位置を決め、ピンを打って固定し、触覚の形を整えれば終了。この時点で上の画像のような状態になります。この感じも、なんか良いですね。この囚われた感じが。これがコムラサキではなくもっとゴージャスな蝶、たとえば私の好きな「モルフォ ゴダルティ♂」みたいなやつだったら…「美女緊縛(♂だけど)」みたいな、ちょっと淫靡色を帯びた雰囲気になるかも(ならん。考え過ぎ。ヘンタイ)。
あとはこのまま形が定着するまでひと月ほど乾燥させるだけ。乾燥が終わったら採集年月日・採集地・採集者・種名を書いたラベル(=必須 ラベルが無いと標本として成立しない)とともに標本箱に収めます。
 
次は「パプキン」。蝶と同じく、まず胴をピンで固定する。角・脚それぞれ位置を決め、両方向からはさむようにピンを刺します。これはまあまあ簡単。今回は「初心者向け標本教室」なので、展翅は無しでした。甲虫の展翅は、蝶の展翅よりさらに難しいです。後日近所の公園で「コフキコガネ」を拾ったので、試しに片羽の展翅と展足をやって見ました。甲虫には外側の固い羽(鞘翅=しょうし)と膜状の後翅がありますが、この後翅がとても薄くてしかも複雑に折りたたまれているので、かなり扱いにくい。ピンセットを使い細心の注意を払って広げていたのに、ちょっと笑った拍子にピリッと破けくさった。というわけで、難有りだけど、これが私の標本第一号です。
 
標本製作にはクラフト的な楽しみがあります。美しい材料(昆虫)を使って細かい手作業をすることそれ自体に、喜びがある。そうしてその作業に集中しているうちに、より美しく仕上げたいという欲が出てくる。そのためにはどうすれば良いか?と考える。また対象に顔を近づけるので、自ずと細部を目にすることになり、昆虫の持つ不思議さや美しさをさらに実感することになる。
こういうことを子どものうちから好んでやっていれば、根気や審美眼や工夫する心が育つことは確実だと、私は思います。
 
しかし。
うにョ~し!この夏は息子と共に昆虫標本を作って作って作りまくるのだーー!!という気負い空しく、肝心の昆虫が全然つかまえられません。虫ってこんなにつかまえにくいものだっけ??子どものころは、蝶なんか手づかみでとってたけどな~…。夏休みが終わるまでに、せめてキアゲハ一頭でもつかまえたいです。
 
 
 
 
 
 
(*1) 粘視=ねんし。粘っこい視線で観察すること。6月17日に即席で作った言葉なので、まだ辞書には
        載っていない。来年の今頃にはおそらく載ると期待している
 
(*2) 駆除するつもりでなければ、幼虫には素手で触れない方が良いそうです。人間の皮膚についている
    バクテリア等で弱ってしまうらしい
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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (アイラブ武庫之荘hiroco)
2008-08-05 14:14:19
暑い中、お疲れ様でした。
それにしても、標本お見事です。
私は手先が不器用だから、多分胴体だけかな(^^;)
そういえば最近は、この辺でも蝶は飛んでませんね。

子供が興味を持っても、教え方が悪いと次ってなるので、
みなさんいい方で良かったですね。
あっという間の夏休み、エンジョイして下さいね(^ー^)




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Unknown (りき)
2008-08-05 16:44:48
奥本先生、いらっしゃらなくて残念でしたね~。
先生に関する記述の部分だけは非常に格調高くて
willow42さんの先生に対する愛が感じられます。
(いや、別に他が格調低いというわけではなく・・・)

しかし、今回の文章の中で一番反応してしまったのは
「美女緊縛」です。いいですね。芝居の「黒蜥蜴」の中にでてくる美男美女の剥製のようでございます。でも「パプキン」では「緊縛」にはなりませんね。凧糸でしばられた焼豚のような感じがします。

うちにはたくさん虫がいるので、昆虫採集に協力したいですが、つかまえられそうなのは芋虫系だけです。
芋虫の標本は異様にレベルが高いもんね。蝶々の一頭も捕まえられる事を、お祈りしてますわ。
返信する
Unknown (June)
2008-08-05 20:25:38
へ~。虫の標本をしたのですね~。
なんだか、懐かしいです。
子供のころ、標本セットを持っていました。麻酔薬とかハリとかいろいろ入っていて、わくわくしましたよ。 小さい繊細な虫にピンを打つのって難しそうですね。 笑った拍子にびりっと破けたって。。。ははは~。 でも、楽しそうでいいですね。

標本にしたくても虫がいないのね。
うちの子たち、結構虫を捕まえるの上手よ。
応援に行きますよ!
返信する
アイラブ武庫之荘hirocoさん (willow42)
2008-08-05 20:38:48


>そういえば最近は、この辺でも蝶は飛んでませんね。

そうなんですか~~
お盆のころ実家に帰る予定なので、そちらで虫とれるかな~と思っていたのですが。
私はやはり蝶が一番好きです。とりたいなぁー…。

>教え方が悪いと次ってなるので

そうそう。
教え方は大事ですよね。
「虫の詩人の館」のボランティアの方たちは「仲間」が
増えると嬉しい、というような動機で教えてくださってるような
感じがしました。

それにしても毎日暑いですね~~!
hirocoさん、ゴーヤー食べてますか?
夏バテしないように美味しいものいっぱい食べましょうね。


返信する
りきさん (willow42)
2008-08-05 20:51:09


>willow42さんの先生に対する愛が感じられます。
(いや、別に他が格調低いというわけではく・・・)

ははは!
私の幼虫修行も、奥本先生への慕情のなせるわざですからねー。

>「美女緊縛」です。いいですね。芝居の「黒蜥蜴」の中にでてくる美男美女の剥製のようでございます。

ふふふ…。ねぇ…
でもこういうこと言うと、清らかな虫屋さんに嫌われちゃうかも。

>でも「パプキン」では「緊縛」にはなりませんね。凧糸でしばられた焼豚のような感じがします。

焼豚ってー!(笑)
なんか可愛いよね、コガネムシって。コロっとしてて。

芋虫って二度言ったわね…。
まぁ、いいわ。
ちょっと今、幼虫育ててみようかなと思ってるんだけど、あなたどう思う?


返信する
Juneさん (willow42)
2008-08-05 20:55:41


>子供のころ、標本セットを持っていました。麻酔薬とかハリとかいろいろ入っていて

それ、私大人になってから買いましたよ。
注射器が欲しくて。別にそれで何をするってわけでもないんだけど、
なんかそういう医療器具みたいなものが好きなんです。
ああいうの、やっぱりわくわくするよね。

>うちの子たち、結構虫を捕まえるの上手よ。
応援に行きますよ!

あ~~それはぜひぜひお願いしたい!
そう言えばお姉ちゃんはセミとり名人だったような!
今度時間があるときに指導して欲しいです。ほんとに。
返信する
コンニチハ~! (トリカステラ)
2008-08-07 13:00:18
いいないいなっ(鼻息)
・・・取り乱して申し訳ないです^^;

標本キレイですね~
標本教室なんてあるんですねー!楽しそうです^^
私も機械があったらやってみたいです♪
手がブルブルしちゃって難しそうですけど・・・汗
それにしても、道端のアイツを指でつつけるようになるなんてカッコイイですね

まわりから怪しまれつつもチョウチョを見つけては追いかけてました。
友達と一緒でも(迷惑!)一人でも草むらでも柵があっても(笑)

キアゲハ頑張って捕まえてくださいね♪
応援しております
返信する
トリカステラちゃん (willow42)
2008-08-07 20:06:09


標本教室は楽しいですよ~。
「中級」では甲虫の展翅も教えてくれるそうです。
ケシゴムはんこであんな細い線が彫れるトリカステラちゃんならば
きっとお茶の子ですよ!

>道端のアイツを指でつつけるようになるなんてカッコイイですね

おらァやったド!
これで苦手なものは、クリームシチューとゴーヤーだけとなりました。
でもこの二つは、今のところ克服する動機がないッ!

>まわりから怪しまれつつもチョウチョを見つけては追いかけてました

トリカステラちゃんなら「虫愛づる姫君」って感じですね。
では私は「虫愛づるマダム(おばちゃん)」になります
返信する
スゴイなぁ~~@@;) (蟻ちゃん.M)
2008-08-07 21:31:51
色々とスゴイなぁ~と思いました。

>こういうことを子どものうちから好んでやっていれば、根気や審美眼や工夫する心が育つことは確実だと、私は思います。

なるほど!そして、きっと霊的な心も養われることでしょう。

こういう標本を壊してしまうヘルマンヘッセの短編がありましたよね。教科書にも出てくる”若き日の思い出”とかなんとかいうヤツ。ちょっとツライ話・・・
を、思い出しました。

うちに、ブラジルのお土産のモルフォ蝶の大群のタペストリー?がありますが、
それはそれは美しいものですが、
こんなに採って大丈夫?(なにが?)って思いましたが・・・・
額に入れたら、ホレボレしてしまいました。(オイ)
見せびらかしたくなってしまいました。(自慢かよ蟻ぃ~)
返信する
蟻ちゃんM (willow外郎42)
2008-08-08 10:45:01


ヘッセですか!読んだことありません(モジモジ)。
『車輪の下』を3ページくらい読んだことがあります(というか、
3ページしか読んでません)。
標本を壊してしまう…面白そう。今度さがして読んで見ますよ!

>ブラジルのお土産のモルフォ蝶の大群のタペストリー

えーいいな!
モルフォって言ったら、もう目がくらみそうですよね。
どうやったらあんな色が生まれるのか…。
見せてよ~。見せびらかしてよ~~。
ブライスとモルフォ、ぜったい合うと思うよー!!!

>こんなに採って大丈夫?

大丈夫!
昆虫は他の動物に比べて生まれる数がけたはずれなので、
それぞれに適した環境があればいくらでも増えるそうです。
人間が採集するくらいで絶滅したりはしません。
逆に言うと、森林伐採や大気汚染などで繁殖に適した環境が
無くなったり悪くなったりすると、あっという間に激減するということです。
あ、今私ちょっと、日本昆虫協会の会員っぽい…(酔いしれ)。
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