本から毛がはえた話

ある日曽野綾子の『ほんとうの話』という随筆集を読んでいたら、「私は時々、蒲団の中でこっそりお菓子を食べるのが好き－」という一文があり、曽野綾子のような真面目そうなひとがそんなことを、と意外に思ったものです。
この本に書かれていることで憶えているのが唯一そこだけという情けなさはさておき、「蒲団の中で何かを食べる」というロクでもないまねを、私もぜひ一度やってみたい。それもどうせなら、粉がボロボロこぼれるとか、汁がビシャビシャ飛び散るとか、後始末を考えただけで泣けてくるような、出来るだけリスキーなフードでチャレンジしてみたい。と思いつつ、なかなか一線が越えられません。蒲団の中というのは、意外と神聖な場所のような気がします。

 

ところでお手洗いで読書するひとは割とよくいるようですが、入浴中に本を読むことについてはどう思いますか？

お風呂の読書はいいですよ。私の場合、既に何度も読んでいる文庫本を持ち込むことが多いです。だからうちにある文庫本の中には、風呂場の湿気のせいでボヨボヨと波打っているものが少なからずあります。
上製本だとページの端がちょびっと折れるだけでも不愉快ですが、文庫本なんかは読めればいいやぐらいに思っているので、気になることが書いてあればページの角を折ったりもするし、ボヨボヨでも平気です。きたならしい本、大好き。ただし、この手できたなくした本に限ります。

由来のわからない汚れのついている本は、気持ち悪いですよね。図書館で本を借りて、お菓子のカスがはさまってるくらいはまだいいとして、血しぶきみたいなシミがついているのとか、不気味に臭いのとかに当たると、良い本でもとたんに読む気が失せませんか？

でも私には、シミやにおいならまだマシという体験があります。もうずいぶん前の話ですが、いまだに忘れられない思い出です。

 

ある夜、図書館から借り出して家に持ち帰った本を読み始めました。深更に及んでほぼ半分くらいを読み終え、さらに読み進めるべくペラリとめくった次のページとページの間の綴じ目のところに、２㎝ほどの長さに切り落とされた黒い髪の毛がびっしりはさまっていました。死んでもおかしくないほど、驚きました。

あまりにショッキングだったせいか、それが誰の何という本だったかを思い出せないのが、今となっては非常に残念です。

 

ちがう。そんな話がしたかったんじゃない。

 

私はただ、湯船につかりながら本を読むといい気分ですよとか、風呂で飴をなめるといつもと味が違いますねとか、そんなことを言おうとしていただけのように思うのですが、先を続けようにも、なんだかそろそろ水曜日が終わりそうな気配がして来たので、今日はこのへんで失礼します。