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英国内務省の同国関係分野別の「なりすまし詐欺」にかかる被害総額の推定情報は正確か

2010-10-28 10:37:11 | 詐欺社会への警告と対応


Last Updated:March 31,2021
 

 2006年2月2日、英国内務省(Home Office)大臣Rt Hon Andy Burnham MP(労働党)は、

Andy Burnham: UK National Archivesから引用写真

なりすまし詐欺(ID fraud)の被害総額が17億2千万ポンド(約3,560億円)という数字(注1)公表した旨BBCやローファームPinsent Masosnが報じている。

問題となっているのは「振り込め詐欺」で、先般警察庁が発表した平成17年中の被害額の総額は約252.5億円とされているが、これらの公表数字は定義が曖昧であると意味のない数字になるという意味で、英国のセキュリティ情報専門会社(silicon.com)が独自に関係先に取材、確認した結果を記事としてまとめているのでここに紹介する。(BBCも2月2日、内務省の公表内容を紹介している) その他の批判サイトもある。
 要するに、大本営発表といった官からの情報に頼らないメディアの姿勢を貫いてこそ「言論の自由」「情報の自由」などが生きてくると言えよう。

 Silicon社は、以下の通り内務省の公表数字の問題点を指摘し、実際の被害額はその3分の1以下であると述べている。

 その違いの第一の理由は、英国の支払い決済調整機構であるAPACS (注2)の被害金額である。5億480万ポンド(約1,039億9千万円)とされているが、実はAPACSのスポークスマンであるマーク・ボウワーマンによると本物の詐欺被害額以外に盗難カードの被害額も含まれているのである。同氏によると、カード業界の2004 年中のなりすまし詐欺被害額は3,690万ポンドで、「カードのICカード化(いわゆるchip and pin)」などにより2005年前半の被害額は約16%減少していると述べている。APACSの「なりすまし詐欺」の定義は「実際犯罪者により被害口座が引き継がれるか他人の名前で口座が開設された場合である」。単にキャッシュカード等が盗まれることでなく、「なりすまし詐欺」はよりも今後の重大な犯罪につながる恐れがあり、直ちに金融機関や個人信用情報機関に届け出る必要のあるものとして分類しており、内務省の定義はその意味で合致しないとしている。

 第二に、内務省は資料中でなりすまし詐欺によるマネーローンダリングの正確な数字の把握は不能といいながら3億9500万ポンド(81億3,700万円)を加えている。

 第三に、財務省歳入税関局(HM Revenue and Customs:HMRC)がまとめた1年間に生じる貿易に伴う付加価値税詐欺(Trader VAT fraud)を含めているが、同局のスポークス・ウーマンはこの数字は犯罪にかかるなりすまし詐欺の被害額を推定するものではなく、あくまで説明上のものであると述べている。

 第四に、警察サービスにかかるなりすまし詐欺費用の見積もりは困難ということを了解しつつ、警察官の人件費を173万ポンド計上している。これは、今英国でもわが国と同様高齢者などを狙った「訪問販売詐欺(bogus caller)」(注3)が大きな社会問題化していることが背景にある。その対応に15,000日から20,000日費やしており、その分を計上しているのである。

 第五に、英国のパスポート・サービス(パスポート発行機関)がIDチェックや違法なパスポートの取得に対して取り組んでおり、内務省の数字にも6,280万ポンドを含めている。しかし、これらの機能はなりすまし詐欺の防止とは本来的に異なるものである。

 以上の再計算の結果、英国の「なりすまし詐欺」被害総額は4億9,400万ポンド(約1,017億6,400万円)となる。

 silicon社の指摘に対し、内務省スポークスマンは「今回の統計数字は、現在議会の上院・下院で論議されている国民IDカード法案を正当化する目的でない」と述べる一方で「精緻な科学的な数字ではないが、17億2,000万ポンドはあくまで内輪の数字である」と述べている。

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(注1) 英国政府の英国詐欺取締庁(National Fraud Authority:NFA)が毎年公表している年次報告の2012年3月発刊号を読んだ。その27頁以下にIdentity fraud £1.2 billion (individuals only)と記載している。この数字からみて17.2億ポンドという数字は疑わしい気がする。

  なお、テリーザ・メイ(Theresa May)内務大臣は2013年12月にNFAが2014年3月31日に閉鎖されると発表した。戦略的開発と脅威分析は英国家犯罪対策庁(NCA:National Crime Agency)に移管され、アクション詐欺局(Action Fraud とは、英国における詐欺とインターネット犯罪に関する情報の収集と啓発とを担当している機関である:http://www.actionfraud.police.uk/))はロンドン市警察に移管され、e-confidenceキャンペーンおよび不正防止チェックサービスの開発に対する責任は内務省に引き継がれた。(内務相のリリースから抜粋、仮訳)

(注2) APACS(Association for Payment Clearing Services)は、1985年英国の銀行等によって組織された非営利団体で、決済業務に関する民間業界団体、銀行・クレジットカード会社間の活動調整などを行っている。英国におけるカード決済の共同機関。2009年7月6日に新設された”UK Payments Administration Ltd (UKPA)”に引き継がれた。

(注3)訪問販売詐欺の手口について英国の警察サイトの説明などでわが国の「振り込め詐欺」と同様、大々的に広報活動を行っている。筆者は折に触れ、21世紀は正当なビジネスとの境界線が不明な高度な手口を使ったハイテク・ロウテク詐欺が急増する「詐欺社会」であると述べているのであるが、次回(2月6日)に英国の「訪問販売詐欺」の手口や消費者への警告内容などについて紹介する。

〔参照URL〕
1.内務省の公表資料(4頁もの)。各金融業態ならびに関連する被害額推定の統計数字をまとめている。また、英国銀行協会についてはAPACSの数字に含めるといった説明等があり、読者は正確な分析と思うであろう。
http://www.identitytheft.org.uk/cms/assets/cost_of_identity_fraud_to_the_uk_economy_2006-07.pdf

2.silicon社の記事
http://www.silicon.com/publicsector/0,3800010403,39156140,00.htm

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(今回のブログは2006年2月5日登録分の改訂版である)

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