社会課題解決2020

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情報伝達の基本・・・北朝鮮ミサイル発射2度の誤報からの学び

2009-04-05 13:03:48 | Weblog
 今回の北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射に関する2度に渡る誤報は、わが国の初歩的な危機管理、初動態勢に対する不安感を助長してしまった。また世界各国から注目を集めただけに、「日本は大丈夫か?」と見られてしまったことも残念な結果であった。

 とりわけ、今回は危機管理としては異例である。なぜならば本来、災害やテロなどの危機的な事項は予期せぬタイミングで発生するのに対して、今回は事前に北朝鮮から通告があり、それに基づいて初動態勢を整えていたからである。その意味では本来の危機管理とは言えない。

 それにも関らず4月4日は2度の誤報が発生してしまった。1度目は,4月4日11:00過ぎに秋田県が、「10:48にミサイルが発射された」と発表したが、直後に誤報と訂正したとされている。県はこの発射情報は政府と自治体との専用回線エムネットからではなく防衛省の中央指令本部から届いたと説明した。

 そして2度目の誤報は、首相官邸から12:16に全国に伝わったもの。私の携帯にも12:18に「政府は北朝鮮から飛翔体が発射されたもようと発表した」の時事通信社の号外速報が入った。しかし12:21にはこの情報は誤りと官邸が撤回し、私の携帯には12:41に「政府は先ほどの発射情報は誤探知の疑いがあると発表した」との速報が入った。この時点で国民の多くが「こんなことで大丈夫なのか?」と不安や「だから政府の危機管理はなっていない」との怒りの感情を持ったのではないだろうか。

 特に秋田県民や市町村にとっては2度に渡る誤報でそれが倍増したと予想できる。
ではこうした誤報がなぜ発生したかということになるとそこには共通する原因が
ある。それは端的に言うと以下の2つに大別される。

①仕組みの問題

 今回の場合、仕組みとは「ミサイル発射情報の流れ」である。まずこの仕組み
が冗長で複雑であることが気になる。そもそも情報の発生元、つまり現場は北朝鮮の発射地点にある。もっとも仕組みを作る際にこの現場については「発生したかどうかの連絡をしてくれない」という前提であることは言うまでもない。そこで最もその発射の有無に関する情報をつかんでいるのが米軍の早期警戒衛星(DSP衛星)である。

 この衛星が掴んだ発射情報は在日米軍司令部(東京横田)を経由して防衛省中央指揮所(東京市ヶ谷)に伝達される。しかし仕組みはこれだけでない。防衛省の警戒管制レーダー(千葉旭)が把握した発射情報は航空総隊司令部(東京府中)に入り、そこを経由して中央指揮所に入ることになっている。情報の流れが冗長でいくつもの経由があるのは仕組み自体が不適切と言える。それは経由場所で情報が停滞することと、そこに人の思惑が入ってしまい情報が歪められるからである。

 そもそも米軍の早期携帯衛星はミサイルの発射時に放出される赤外線を探知する
もので最も迅速で正確な手段である。それに対してレーダーはあくまで補完的な手段に過ぎない。特に皮肉なことは誤報の元となった千葉県旭市飯岡には新型地上レーダー「FSP-5」が設置されたばかりで、それは従来型よりも高性能のもので低い高度を周回する衛星などにも感知すると言われている。

②運用の問題

 今回の場合、運用とはその情報の流れに沿って実際にそれに関る人たちが正しく判断して迅速に行動してそれを機能させるということである。

 まず秋田県で発生した第1回の誤報の場合。これは仕組み(=基本的な流れ)に従わずに人間が動いたから発生したものだ。本来は官邸から秋田県にエムネットを通じて情報を伝達する原則があるのに防衛省・自衛隊の陸上幕僚監部から全国の陸自関係部署にメールが誤配信されたと報道されている。しかも陸上幕僚監部は情報の流れには出てこない組織である。あくまで基本は防衛省中央指揮所から首相官邸
を通じて各自治体や報道機関に伝達することになっている。

 第2回の誤報については、4日12:16に千葉旭にある飯岡レーダーが航跡探知の情報を航空総隊司令部に連絡、さらにそれが中央指揮所に連絡されそこで担当官がマイクで発射をアナウンスしてしまい、そのアナウンスの声を官邸がモニターしていたのでそれをそのまま、発射情報として自治体と報道機関に伝えたとされている。

 情報伝達の基本は事実のみを正しく伝えることである。これらの情報伝達にはおそらく3名以上の人間が関っていたと予想するが、どこかの段階で誰かが思い込みをしてしまったり、特に仕組み上は情報が一元化している防衛省の中央指揮所において責任者が確実に複数の関係先からの情報を照合して最終判断していれば誤報は防げていたと推察される。
 
 その後、新聞やテレビで今回の誤報に関して識者が様々な見解を述べているが、
単に防衛省の各担当者がしっかりしていないとかという精神論に止まるのではなく
これを機会に、非常事態発生における情報伝達は仕組みと運用の2つの面から検証していかなければならないこと、それは防衛省の一つの部署を超えて、官邸や自治体も含めたトータルの仕組みとして捉え、これを一つの政策・施策としてマネジメントサイクルをきちんと回すことが重要である。

 特に防衛省に関しては昨年の8月に「防衛省改革の実現に向けての実施計画」が発表され、この2009年度から本格的な改革の実施が始まったばかりである。
www.mod.go.jp/j/news/kaikaku/20080827b.pdf

 この5頁に「情報伝達におけるプロ意識の確立」で研修等の機会を通じての周知徹底が掲げられているが、むしろ情報伝達の基本の徹底とすべきであろう。また6頁には①PDCAサイクルの確立、業務改善に関するガイドラインの策定とあるが、
当然、官邸も含めた危機情報伝達の仕組みと運用の改革にまで拡充すべきである。

 また②では部局間の垣根を越えたチームによる課題への対応とあるが、今回の出来事は組織横断的なプロジェクトというよりも関係機関の責任者が集まって情報伝達問題の本質、深層原因を究明して共有化すべきである。

 先述した通り、小手先の改善活動ではなく、政策評価と連動した「危機管理、非常事態発生時の情報伝達」政策施策のPDCAサイクル確立を本腰入れて行うことである。それでこそ国民に信頼されるための「防衛省改革」と言える。もちろん、新型地上レーダー「FSP-5」整備事業やエムネット情報システム整備事業の事後評価をきちんとやることは言うまでもない。
  
 
 


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