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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

ノマドと社畜

2013年08月04日 | 一般書

ツイッターの@May_Romaさんとしてお馴染みの、谷本真由美さんの本。『ノマドと社畜』というのは完全に流行り言葉を組み合わせたタイトルだけど、2013年2月の刊行というのはノマドブームがひと段落したあたりで、ちょっと乗り遅れたんじゃないかなという気もします。

要旨としては、ノマドスタイルの働き方に憧れる若者に対し、プロの厳しさを突き付けて痛烈に釘を刺すというもの。読みやすいんだけど、内容的にはけっこう当たり前のことが羅列されていて、想像の域を出るものではないというのが率直な感想です。

ただ、「世界を渡り歩くノマドたち」といういくつかの個別ケースや、日本の新卒一括採用に対して英米で起こっているインターンの獲得競争事情の紹介など、海外在住の彼女ならではの具体的な情報に関しては興味深いところもありました。

でもやっぱり全体としてはちょっと極端すぎるかな。少なくとも日本で働くうえではノマド的な仕事って職種としてまだまだ少数派だし、世の中で働く大半の人はノマドと社畜の中間的なところに位置しているような気がします(自分も含め)。

あと最近では以前ほど声高にノマドってことが言われなくなった気がするけど、本書でも言われているように、要は「フリーランサー」とか「自営業者」ってことなんですよね。世の中のIT化・ユビキタス化と結びつけて、スタバでMacBook使っているような人たちがノマドの象徴みたいになってたけど、言い方を変えればそれほど新しい話ではないわけで……。


統計学が最強の学問である

2013年07月12日 | 一般書

かなり売れているらしい統計学の本。著者の西内啓氏は東大医学系研究科助教らしいのですが、81年生まれとけっこう若い方です。一般書ということでそこまで専門的な内容ではなく、わかりやすい具体例を混じえながら説明されていました。

まずは統計を実用的に活用するということで、統計学が「最強」である所以と、基本として押さえておくべきことなど解説。たとえば、「データをビジネスに使うための『3つの問い』」ということで、以下のような提言がありました。

【問1】何かの要因が変化すれば利益は向上するのか?
【問2】そうした変化を起こすような行動は実際に可能なのか?
【問3】変化を起こす行動が可能だとしてそのコストは利益を上回るのか?

要するに、ビッグデータの活用とかデータマイニングとかって言われているけど、上記を押さえていなければ、「何かを分析してわかった気になってる」だけだと…。前半でこうした心構えについて触れたあと、後半では様々な統計手法についてより詳しい解説を行っています。

個人的に参考になったのは回帰分析の説明。p.170の「一枚の表」で示されているように、あらゆる比較や分析は、実は回帰分析を基本モデルとして説明が可能とのこと。回帰分析の原理的な考え方自体は思ったほど難しいものでなく、中学校で習った一次関数に説明変数や結果変数を当てはめた感じで、自分にも理解可能な範囲でした。

それにしても、本書でも言われているように、こうした統計分析を行うためのツールが昔に比べて格段に低コスト化したことはやはり大きい気がします。僕も以前、卒論か何かで分散分析をやったんですが、そのときはたしかフリーの分析ソフト(ANOVA)を使いました。ただ、ひと昔まえまではそういうソフトやエクセルとかもなくて手計算してたと思うと、その当時でも気の遠くなるような思いになったのをいまだに覚えています。

知の逆転

2013年06月29日 | 一般書

現代の知の巨人たちへのインタビュー集。

第1章 文明の崩壊(ジャレド・ダイアモンド)
第2章 帝国主義の終わり(ノーム・チョムスキー)
第3章 柔らかな脳(オリバー・サックス)
第4章 なぜ福島にロボットを送れなかったか(マービン・ミンスキー)
第5章 サイバー戦線異状あり(トム・レイトン)
第6章 人間はロジックより感情に支配される(ジェームズ・ワトソン)

この中で一番馴染みがあるというか、唯一ちゃんと知っていたのはチョムスキー。

というのもむかし言語習得研究や言語学をかじったときに、普遍文法をはじめ、その理論のいくつかを学んでいたんですが、本書の中では言語学者としての側面はそこまでクローズアップされておらず、むしろ国際情勢や政治、宗教などの分野に紙幅が割かれていました。

特に自国アメリカに対しては、「帝国主義の終わり」という章タイトルからも予想されるとおり、核保有や莫大な軍事費などを指摘して痛烈に批判。

 <もし平和的な関係というものが、互いを破壊する能力と、わずかでもそれが行使される可能性のうえに成り立っているのであれば、われわれはもうおしまいです。
 完全なる支配体制を築くのでない限り、軍事力は平和をもたらしません。>
(p.85)

という言は印象的でした。また、それらを踏まえた、オバマ政権への評価については以下のとおり。(ちなみにインタビューが行われたのは2010年4月と12月とのこと)

  <つまり現政権の政策は、前と少しは変わってきているけれだも、本質的な違いではない。オバマはまさに民主党の中道派です。それに尽きる。個人的には全く予想どおりです。予備選挙の前に彼のウェブサイトやそれまでの業績を調べて彼について書きましたが、特に目覚ましいことはなにも何もない。彼は上手な話し方のできる、ビジネス寄りの、普通の民主党中道派なのです。>(pp.93-94)

これまでの限定された学者としてのイメージが塗り替えられました。

もちろんその他の5人のインタビューもそれぞれに興味深いです。
ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』という本がおもしろそうなので、そのうち読んでみたい。

おどろきの中国

2013年05月26日 | 一般書

橋爪大三郎、大澤真幸、宮台真司の三氏による中国論の鼎談。いずれも東大の社会学博士課程出身ということで、一般的な新書よりはやや難解で専門性も高い内容という感じでした。

主旨としては、昨今の日中間の対立なども受け、「隣国である中国のことをもうちょっとちゃんと知っておいたほうがいいのでは」というのが発端。伝統中国の支配体制を支えてきた仕組みから始まって、近代化の過程、そして現代中国と今後の方向性まで、かなり幅広い範囲を扱っていました。

特に近代化のパートでは、歴史的経緯も含めて詳述されており、毛沢東や中国共産党のことなどが掘り下げて語られていておもしろかったです。イメージ的には強力なイデオロギーを掲げて文化大革命を扇動した中国のカリスマ的指導者っていうような気がしてたけど、実際は毛沢東って政策的にも人格的にも大したことなかったんだけど、形式化されたシステムにうまく乗っかって崇拝されるようになってしまった、とかなんとか。

それと、話が前後しますが、「そもそも中国は国家なのか?」という最初の問いのところで提示されたEUとの対比も「言われてみればなるほどな」と思いました。面積も人口も格段に大きな中国を、日本と同じような感覚で、同胞意識を持ったひとつの国家と考えるのはやっぱり難しいのですが、CU(チャイナ連合)と見れば、そこまで窮屈に考えなくていいのかもしれません。

以前読んだ『中国化する日本』もそうでしたけど、中国を軸にして日本(を含む世界)を見直すという発想はけっこうおもしろい。居所的な例を出すと、橋爪さんの発言にあった「日本と中国を反対にして南京事件を考えてみる」という、立場を入れ替えた思考実験なんかも、中国迎合という批判もあるかもしれないけれど、具体的で重要な考え方だという気がします。

直感でわかるゲーム理論

2013年04月25日 | 一般書

他にゲーム理論の本を読んだことがないから何とも言えないんですが、著者が繰り返し強調していたのが、いわゆる数学的、科学的な側面だけでなく、「知略で勝つ」という実用面でした。

読んでみると、冒頭の豊臣秀吉の戦略問題から始まり、たしかに具体例が豊富。中には「ん~?」と思う解説もあったような気がしますが、ひとまず読者に「勝ち方」を考えさせる内容で、根気よく読んでいくとけっこうおもしろかったです。

「東洋流」とか「兵法」といったことばがたびたび使われていましたが、確率や科学的思考に加えて人間行動学や感情要素なども交じっている「ハートのある」ゲーム理論であることが本書の特徴。タイトルにある「直感」というのはそのへんを指しているんでしょうね。

自分が単純なだけかもしれないけど、中でも「ゲームのルールを変える」という発想はちょっとなるほどと思いました。与えられた土俵の上だけで勝負をしていたら絶対に勝てないこともありますもんね。日本人はそういうの苦手そうだけど。