副題に「村上春樹インタビュー集 1997-2011」とあるように、10年ちょっとくらいの間に行われたインタビューをまとめたもの(単行本では「1997-2009」となっていたんだけど、文庫化に当たって2011年6月にスペインで行われたインタビューが追加収録されたようです)。
当該の期間に刊行された小説を中心にした作品解説的な内容もありますが、それよりも村上さんがふだんどんなふうに小説を書いているのか、何を考えているのかということがいろいろ書かれていておもしろかったです。インタビュー集という性格上、同じような内容が繰り返し書かれているところもありましたが、それによって彼が何を重要と考えているのかの濃淡がはっきりして、かえってよかったようにも思います。
本書のタイトルとの関わりで言うと、フィクション・ライターは目覚めているときに夢を見て、そこで体験したことを小説にするのだとか。ただし、夢を見るためには、自分の中の深く、暗い場所に降りていく必要があり、そのためには肉体的にも精神的にも強靭でなければならない。だから彼はタバコをやめ、酒の量を減らして規則正しい生活をし、マラソンや水泳、果てはトライアスロンまでやっているとのこと。村上さんがフィジカル面でかなりストイックな生活をしているのはなんとなく知っていたのですが、小説を執筆することとの深い関わりについては、今回改めて知ることができました。
それと、言葉として印象的だったのが、村上さんがもっとも書きたいという「総合小説」(古川日出男さんによるインタビューで言われている、「るつぼのような小説」)というもの。
<僕の考える「総合小説」っていうのは、とにかく長いこと、とにかく重いこと(笑)。そしていろんな人物が、特異な人から普通の人まで次々に登場してきて、いろんな異なったパースペクティブが有機的に重ね合わされていく小説であること。そういう感じになります。>(p.524)
そのモデルとして、ドストエフスキーが60歳近くになって書いた『カラマーゾフの兄弟』をあげていましたが、そういえば『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の中でも、すでにそれを思わせるセリフが出ていたような覚えがあります。
4月に新作長編が出るという64歳の村上さん、『1Q84』もボリュームからしてそれに近いものだったんでしょうが、さらに重厚な総合小説を期待したいものです。