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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

2013年02月23日 | エッセイ

副題に「村上春樹インタビュー集 1997-2011」とあるように、10年ちょっとくらいの間に行われたインタビューをまとめたもの(単行本では「1997-2009」となっていたんだけど、文庫化に当たって2011年6月にスペインで行われたインタビューが追加収録されたようです)。

当該の期間に刊行された小説を中心にした作品解説的な内容もありますが、それよりも村上さんがふだんどんなふうに小説を書いているのか、何を考えているのかということがいろいろ書かれていておもしろかったです。インタビュー集という性格上、同じような内容が繰り返し書かれているところもありましたが、それによって彼が何を重要と考えているのかの濃淡がはっきりして、かえってよかったようにも思います。

本書のタイトルとの関わりで言うと、フィクション・ライターは目覚めているときに夢を見て、そこで体験したことを小説にするのだとか。ただし、夢を見るためには、自分の中の深く、暗い場所に降りていく必要があり、そのためには肉体的にも精神的にも強靭でなければならない。だから彼はタバコをやめ、酒の量を減らして規則正しい生活をし、マラソンや水泳、果てはトライアスロンまでやっているとのこと。村上さんがフィジカル面でかなりストイックな生活をしているのはなんとなく知っていたのですが、小説を執筆することとの深い関わりについては、今回改めて知ることができました。

それと、言葉として印象的だったのが、村上さんがもっとも書きたいという「総合小説」(古川日出男さんによるインタビューで言われている、「るつぼのような小説」)というもの。

<僕の考える「総合小説」っていうのは、とにかく長いこと、とにかく重いこと(笑)。そしていろんな人物が、特異な人から普通の人まで次々に登場してきて、いろんな異なったパースペクティブが有機的に重ね合わされていく小説であること。そういう感じになります。>(p.524)

そのモデルとして、ドストエフスキーが60歳近くになって書いた『カラマーゾフの兄弟』をあげていましたが、そういえば『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の中でも、すでにそれを思わせるセリフが出ていたような覚えがあります。

4月に新作長編が出るという64歳の村上さん、『1Q84』もボリュームからしてそれに近いものだったんでしょうが、さらに重厚な総合小説を期待したいものです。

どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか

2012年11月14日 | エッセイ

みうらじゅんとリリー・フランキーの対談本。

いかにもゆるいタイトルなんだけど、収録もほとんど居酒屋で行ったとか。
これで本になっちゃって、しかも自分みたいに買うやつがいるのもどうかと思うけど、でもやっぱり本の中で語られていたように、そういう話をしてお金が取れるってのもすごいわけなんですよね。

この二人ならではの「名言」的なものを拾っていく、というのが本書の一番まともな読み方かもしれないんですが、それよりも単純に感心してしまったのが、「この人たち、なんでこんなおもしろいことがポンポン出てくるんだろう?」ということ。

例えば、「『人間関係』にまつわること」という章のなかで、「それで結局、人間とは?」っていうお題があるんですが、「ららら……ですよ、拓郎的には(笑)」と吉田拓郎が出てきて、そのあとにボブ・ディラン、井上陽水、お釈迦さん、そしてお約束の下ネタにも発展していくわけです。

まぁ引き出しの多いこと多いこと。
そしてそれがいちいちおもしろいんですね。
さすがにというか、映画とか音楽とかには詳しくて、しかもそれがけっこう「あ、そうそう」という感じでヒットしてくる気持ちよさ。
下ネタっていうのも実はすべらないように語るのはけっこう難しいと思うんですけど、やっぱり単純に露骨なだけじゃなくて、「文脈のなかでのおもしろさ」みたいなのがあるんですね。

「くだらない話」と言ってしまえばまったくそのとおりなんですが、やっぱりこの二人で語ることの価値っていうのはあるんじゃないでしょうかね。
ソリが合わない人には「こんなのどこがおもしろいの?」って場合もありそうですが。

ザ・万遊記

2012年08月02日 | エッセイ

軽いものが読みたくて手に取った、万城目学のエッセイ集。

何といっても思い出すのは強烈におもしろかった前作のエッセイ集『ザ・万歩計』
そのときの衝撃を基準にしたためハードルが高かったせいか、今回の『ザ・万遊記』ではそこまでのインパクトは得られませんでしたが、それでも「やはりマキメはおもしろい」という気持ちはより強固なものになりました。

今回のエッセイの特徴としては、「スポーツ観戦モノ」と「渡辺篤史モノ」(渡辺篤史が何者かについては、ぜひ本文を読んでいただければと思います)が多いことでしょうか。
正直、どちらも個人的には関心が薄い話題で知識的によく知らないことも多かったのですが、それでもそれぞれに対する万城目氏の情熱(もしくは愛情)は伝わってきた気がします。
こうして同じテーマについて複数のエッセイを書くことで、逆にその人の偏愛するものがよく見えるのかもしれませんね。

ただ、もちろんそれだけではなく、他にも様々なネタがあって粒ぞろいのエピソードが満載。
特に、今回書き下ろしたという北朝鮮ツアーの話は秀逸で、本書のまとめとしてもすばらしい締めくくりになっていました。

ところで、万城目氏と言えば、同じく京都大学卒で年齢も近い森見登美彦氏と並べられることが多いかと思います。
それこそ、どちらも京都に対する並々ならぬ偏愛を反映させ、ツボにはまる「笑い」要素を多分に含んだ作品ということで、その共通点は多くの人が認めるところだと思いますが、両者の作品をいくつか読んできた中で、最近感じはじめたことがあります。

簡単に言うと、森見氏がどこまでも「天才肌」であるのに対し、万城目氏はどこか「ふつうの人」というか、「平凡さ」を感じさせるところがあるような気がします。
(まぁ何度も直木賞にノミネートされているような作家に対して「平凡」というのも失礼な話かもしれませんが…)
今回のエッセイがおもしろかった理由を考えても、自分がふだんから感じているような「くだらなさに対する愛情」と、それほど目線が違うような気がしないというか、もっと簡単に言うと、各エピソードに対して親近感を覚えたということがあげられます。
ただ、その目の付け所や表現力はやはり常人とは異なるのか…?
それこそ万城目氏が渡辺篤史の非凡さを敬愛するような要素が、そこにはあるのかもしれません。

母なる自然のおっぱい

2011年08月25日 | エッセイ

自然をテーマにした池澤夏樹さんのエッセイ集。
1993年に読売文学賞を受賞したもので、作品としてはかなり古いのですが、
内容の面では今読んでも強く共感するところが多々ありました。

もともとが理系出身の池澤さん。
自然を科学的に捉えた書き方はとてもわかりやすく、
感情論に陥りやすいテーマに、きちんと冷静な視線で対しているのが感じられます。
とにかく文章がうまくて、いたるところでいちいち表現の仕方に感心。
やっぱり作家ってプロの職業なんだなぁと舌を巻く思いです。

全体としてのテーマは自然と人間の付き合い方。
最後のほうの山とか川の話もおもしろかったんですが、
大きな前提として、冒頭の章で触れられていた内容が印象深かったです。

はやい話が、人間っていうのは、本来ものすごく時間をかけて進化するところを、
知性によって一気に飛び越してきてしまったということ。
その結果、時速200kmで移動したり、空を飛んだりできるようになってしまい、
一見、他の生物を凌駕しているかのように見えてしまう。

でもよくよく冷静になって考えると、結局人間は動物の一種(ホモ・サピエンス)でしかなく、
ちょっと油断すると、自然災害にやられちゃったり、クマに殴られて死んじゃったりもする。
ましてやジャングルに一人で放り出されたら、木に登って危険を回避したり、獲物をとることもままならない。
改めて個体としての生物という観点でみると、かなり弱っちい存在なわけで、
そこんとこちゃんと忘れないようにしなきゃだめだよっていうのがひとつの趣旨です。

確かに、今回の震災・原発事故ということでもないですが、
たまにはそういう自明のことを改めて考えないと、
生きてく上で地に足がつかないような状態になってしまうかも、という気はします。

収監

2011年07月28日 | エッセイ

「週刊朝日」の連載記事に書下ろしを加えたホリエモンのエッセイ集。
このタイミングということで、タイトルは「収監」、サブタイトルが「僕が変えたかった近未来」となっていますが、
さまざまな社会問題への批判と、「こうすりゃいいのに」という提言が中心です。

個々のテーマは基本的になんでもありですが、
全体で見ると政治・外交・検察などの「反権力」ものと、
それにも関連してくる「メディア」の話が多かったです。

巻末には東浩紀さんとの対談も載っていて、こちらがおもしろかったんですが、
分量が少ないのがちょっと残念でした。
主なところだけ抜粋すると、

東:つまり、この国ではマスコミと検察が万能なんですね。

堀江:食文化とロケット開発があるから僕は日本に残っている。

東:結局、メディアと検察が何を握っているかというと「価値判断」という権力なんですよ。

堀江:個人的な問題解決で言えば、日本から出ていけばいい。でも、めちゃめちゃ悔しいんですよ。

とかとか。

懲役期間は2年6か月。けっこう長いよなぁ・・。そこは率直に気の毒な気がします。
ホリエモン、今ごろ何を考えているのやら。
そして3年後くらいには何をしているのやら。