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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

阿弥陀堂だより

2008年05月31日 | 小説(男性作家)
『阿弥陀堂だより』。まだ見ていませんが、映画化もされてるみたい。
作者は南木圭士(なぎけいし)、信州で医師を続けながら作家活動をしている方です。

東京で医師として働いていた妻が、流産ののち心の病にかかってしまい、作家のはしくれである夫は妻とともに故郷の田舎で暮らす決心をする、というあらすじ。

南木さんの作品はいくつか読んだことがあるのですが、田舎の自然の描写がとても素朴できれいだといつも思います。なかでもときどき出てくる浅間山の描き方が好きです。

登場人物はもちろん作者自身がモデルなのでしょうが、どの作品でも自分の非力さを情けないと自覚しながら生きるというのが典型です。
「気弱やなー」と思う反面、その謙虚な生き方にいつも共感します。
そして他の作品も読みたくなってしまいます。
やっぱり医師だからこそ書けるものなんでしょうね。

タイトルの「阿弥陀堂だより」というのは、阿弥陀堂の堂守をしている96歳の老婆(おうめ婆さん)の言葉を村の広報に載せたものなんですが、これがまたいいです。
どれもハッとさせられるような言葉でした。
年の功ではありませんが、やっぱり人の奥深さは人生を過ごした時間と比例するところがあると思います。
お年寄りは大切にせんとあかんね。

バーバー

2008年05月29日 | 映画(洋画)
『バーバー』だから床屋さんですね。
原題は『The Man Who Wasn't There』。

主人公は町の平凡な床屋で、とても無口な男。判で押したように髪を切るだけの毎日。そして奥さんは浮気中。
そんな日々から脱却しようと、投資話に乗って金を用意するが、結局これが裏目に出て殺人を犯してしまう。
しかもその容疑者として自分ではなく奥さんが捕まってしまい、後はあれよあれよと悪いほうに・・。

とにかく主演のおっさん、ビリー・ボブ・ソートンが渋いです。
こんなにタバコが似合う男はそうはいない。
淡々とした映画のなかにしっくりなじむ存在感です。
もっと言ってしまえばなんだか透明人間のような感じ。
口数が少なく、「結局おれはただの床屋だから」みたいな諦観的な雰囲気がとても似合っています。

やっぱり「床屋」ってところがいいのかな。
職業とその人のイメージは不思議な結びつきをしますね。偏見みたいなものかもしれませんけど。

ちなみに僕が見たのはカラーバージョンでしたが、特典映像のインタビューでは映像監督みたいな人が、モノクロバージョンの良さについてとうとうと語っていました。
もともとはモノクロ映画のようです。確かに雰囲気ありそう。







グラスホッパー

2008年05月25日 | 小説(男性作家)
伊坂幸太郎『グラスホッパー』。
この人の本はこれが初めてでしたが、楽しく読めました。

帯には「コメディ? シリアス? サスペンス? オフビート? 分類不能な『殺し屋小説』の誕生!」と書いてありました。確かに人がバタバタ殺されて話そのものは重くて生々しいんですけど、文章は軽快でユーモアもあり、さくさくいけちゃいます。

話は「鈴木」「鯨」「蝉」という3人の視点からの一人称語り。
「鈴木」は妻を殺された復讐をしようと、その組織(会社)に社員として潜りこんだ男。でも実はわりと気弱。
「鯨」は「自殺屋」とでもいうのか、依頼を受けて人を自殺させることを仕事としている。名前の通りの巨漢。
「蝉」は殺し屋。女・子どもも平気で殺す。武器はナイフ。

「鈴木」の会社の社長息子が「押し屋」(後ろから押して車や電車に轢かせるプロ)によって殺されてしまい、その行方を追って徐々に3人が交錯する、というのがあらすじです。

どちらかというと話の内容よりも文章が好きでした。3人のキャラクターもそれぞれ個性的なセリフやエピソードがあっておもしろい。ただこういう構成ってはじめのほうは視点がバラバラだから、一気に読んだほうがいいかもしれません、3日も空けるとつながりがよくわからなくなってしまいそうなので。

印象的なのは、エピローグ。「鈴木」がやり直す決意の儀式として、ホテルのバイキングを目一杯食べるシーン。
(このホテルで、死んだ奥さんが皿にバイキングを山盛りとってるのを見たのが最初の出会いだった)
「鈴木」が居合わせた初老の男性に言うセリフ。

「生きようと思うんですよ」「やっぱり、生きるためにはたくさん食べないといけないじゃないですか。だから、たくさん食べようと思うんです」頬張り、噛み潰し、呑み込む。それを繰り返した。

なんだか納得。確かに「食べる」と「生きる」ってときどき直結するような気がしてしまう。そりゃもちろん悟空やルフィみたいに、腹いっぱいになったらパワー全快で敵をやっつけるってわけにはいかないですけど。だからよく病気の人とか、落ち込んだ人にも「とにかく食べなさい」って無理やり勧めたりするんじゃないですかね。

でもその後で初老の男性はこう言うんです。

「そりゃ立派だが」男は同情するような、優しい表情になった。「そんな食い方してたら、あんた、長生きせんよ」


うーん、正論やね。



ゆれる

2008年05月23日 | 映画(邦画)
なんとなくブログはじめることにしました。
映画とか、本とか見るんですけど、いつもすぐ忘れてしまうんで、記録代わりにここに内容や感想を書いてくことにしました。
気が向いたら日記とかも書くかもしれません。

ま、ひまなときは見てやってください。
それで本選び、映画選びに役立ててもらえれば幸いです。


で、今日見たのは映画『ゆれる』。なんかこういうシンプルなタイトルって惹かれるんやね。
主演はオダギリジョーと香川照之。
二人は兄弟でオダギリが弟、香川が兄という設定です。
「ゆれる」というのは吊り橋のことで、ここから一人の女の人が転落してしまい、香川はその容疑者として捕まり、裁判にかけられます。その真相をめぐって兄弟の間に葛藤が起こる・・という話です。

うーん、話だけ聞いてもわけわからんな・・。

全体的に沈黙が多く、静かで地味で暗い映画です。でもいい映画。
特によかったのが、香川照之の演技。これまた地味な男の役なんだけど、各所で真に迫るものがあります。

それから裁判シーンの検察役で木村祐一が出るんだけど、これがまたえらいはまってました。関西弁交じりの丁寧言葉がいい。

監督は西川美和。うーん、はじめて聞いた。女の監督めずらしいね。
派手さはないけど、どのシーンもきれいです。ぜひ他の作品も見てみたい。

ぐっとくるのはラストシーン。いい終わり方です。