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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

スクラップ・ヘブン

2010年12月30日 | 映画(邦画)

よく見ると、『フラガール』、そして最近は『悪人』でも評価の高い李相日氏が監督。
(ちょっとまえにNHK「トップランナー」に出てたのを見たんですが、おもしろい方でした)
いかにもミニシアター系という感じですが、これだけかっこいい邦画を見たのは久しぶりかもしれません。

まずはキャスト。
加瀬亮、オダギリジョー、栗山千明という、3人の存在感が絶大で、
ジャケット見たらわかるように、これだけですでにオーラが出ています。
演技面でも3人の個性が出ていましたが、特にオダギリジョーのはまりかたは必見。
この人にしかできない、おもろいけどクールな役だったと思います。

そして音楽。
會田茂一さんが担当しているらしいのですが、これもシビれます。
なかでも拳銃を奪いに行くところのBGMがかっこいい。
ちなみにエンドロールの曲はフジファブリックでした。

ストーリーとしては、加瀬亮とオダギリジョーがタッグを組んで「復讐代行屋」みたいなことをするという話なんですが、
話の筋というよりは、脚本としてのおもしろさを感じます。
キーワードは「想像力」。


イノセンス

2010年12月26日 | 映画(アニメ)

押井守監督のSFアニメ映画。

『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』っていう映画の続編になるらしいのですが、
アンドロイドが一般的になった近未来の話で、
「公安9課」という、特殊犯罪に対応する公安組織の人たちが主な登場人物になっています。

サイボーグ化や、脳にコンピュータ機能を埋め込むといった、SF的な状況設定がいろいろあったんですが、
DVD版では本編前に15分くらいの解説映像があり、ここで予備知識を入れ込むことができました。

2004年公開らしいので、時期的にはひとむかし前の映画とも言えるんですが、
それでも映像に関しては終始圧倒されるクオリティでした。
オープニングひとつ見ても、ものすごいこだわりが感じられます。

一方、内容的にはかなり難解で、正直一回観ただけではよくわかりませんでした。
というのも、SF世界での設定やストーリーがけっこう複雑ということもありますが、
なんというかセリフのひとつひとつがかなり意味深になっています。
孔子やプラトンの言葉をはじめ、あらゆる引用を織り交ぜていて、
そのひとつひとつの意味するところを拾いきれないのがやや残念でした。

ぼーっと観ていてもそれなりに十分楽しめる映画だと思いますが、
細部にこだわるとどれだけでも深くなりそうな、「大人向けアニメ」という感じです。

鹿男あをによし

2010年12月25日 | 小説(男性作家)

京都の『鴨川ホルモー』、大阪の『プリンセス・トヨトミ』と、万城目作品を読んできましたが、
今回の『鹿男あをによし』ではどっぷり奈良でした。

大学の研究室から追い出されるようにして奈良の女子高に赴任することになった、主人公の「おれ」。
もともと神経衰弱気味だったことに加え、新しい環境のなかで生徒とのコミュニケーションもままならない。
そしてあげくには鹿に話しかけられて、とんでもない指令を任されることに。

笑い中心の小説かと思いきや、歴史を絡めて巧みに練り上げたストーリーや、
印象的な風景描写とか気の利いたセリフで読者を引っ張る筆力はあいかわらずすごいです。

なかでも、中盤の山場である、「大和杯」の剣道対抗戦のところ。
こういうスポーツ中継みたいなシーンを書くのってけっこう難しいと思うんですが、
すばらしい描写力で、電車で読みながら思わず拳をつきあげそうなくらいテンション上がりました。


ところで知らなかったんですが、この話、ドラマ化されてたみたいですね。
主人公の「おれ」は玉木宏ってことで、かなりイメージとは違ったんですが、
レビューとか見た感じではけっこうおもしろかったのかな?

来年には『プリンセス・トヨトミ』も映画化されるみたいだし、
万城目さん、けっこうブレイクしてますね。

ダーティハリー

2010年12月21日 | 映画(洋画)

つじあやのがカバーで歌っている、吉田拓郎の「加川良の手紙」という曲をよく聞くんですが、
その中で、「あの日の映画"ダーティ・ハリー"はどうでした」って歌詞がでてくるんですよね。
それがずっと気になってて、今回ついにDVDを借りてしまいました。

ちなみに歌詞ではそのあとに、「クリント・イーストウッドっていいでしょう~♪」って続くんですが、
確かにこの映画では「若き日のイーストウッド!」って感じが全開。
大型拳銃を武器に、容赦なく犯人を追い詰める行動派の刑事を熱演していました。
なんでも主役には、フランク・シナトラ、ポール・ニューマンなどへのオファーを経て、
結局、最終的にイーストウッドになったとのこと。まさに出世作だったんですね。

この時代らしく、超典型的な刑事もののストーリー仕立てでしたが、
アクションやセリフは今見てもかっこいいものがあったりして、
「ベタなものっていうのもいいもんだな」とか思ったりしました。
なんていうか、観ていて楽です。
むかしはこういうのが多かったんですね。

これからの「正義」の話をしよう

2010年12月19日 | 一般書
NHKの「ハーバード白熱教室」でも話題になったマイケル・サンデルの「正義論」。
ちょっとブームが過ぎてしまいましたが、今回手に入ったので読んでみました。

実は「白熱教室」はこれまで見たことなかったのですが、
本書を読み終わって、今日テレビを見ていたら、
なんともタイミングのいいことに再放送がやっているじゃありませんか。

「イチローの年俸は高すぎる?」ということをテーマに、
東大での講義(というかディスカッション)の模様が放送されていましたが、
サンデルの講義の進め方には、素人目にも非常に巧みなものがありました。

議論の中身にちょっと触れておくと、例えば、
日本の教員の平均年収が約400万円、オバマ大統領が約3500万円、
そしてイチローの年俸は約15億円とのこと。
イチローが教員の400倍、アメリカ大統領の40倍以上もの報酬を手にすることは正しいのか、
そしてこうした高所得者に対して高額な税金を課すことは許されるのか、
といったことが議論の中心になっていました。

会場の学生の発言をまとめながら、功利主義、リバタリアニズム、カントの考え方など、
それぞれの立場の違いを説明していくわけですが、
このへんは本書を読んだ直後ということもあって理解が進み、おもしろく見ることができました。

また、その後には、「東大の入学資格をお金で買えるか?」という問いを提示。
これも本書の中では「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」の議論として取り上げられていましたが、
けっこういろんな意見が飛び交い、文字通り「白熱」していました。

本書で展開されている「正義論」について、
サンデル自身は「正義には徳の涵養と共通善の判断が含まれる」という見解を支持することを明言していますが、
もちろんそれも完全な答えになるわけではないのでしょう。

哲学その他の知識受容としても、いろんなことが書いてあって勉強になる本でしたが、
それよりも、「いろんなことをもっとちゃんと考えんとあかんなあ」という啓蒙的な印象が強く残りました。
とかく模範解答みたいなものを手近に求めがちな昨今ですが、
答えの出ないことを「ウーン・・」と唸りながら考えることもやっぱり大事ですね。