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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

旗を立てて生きる

2013年10月11日 | 一般書

晶文社の<就職しないで生きるには>というシリーズの本で、帯には「「ハチロク世代」の働き方マニュフェスト」。
脱サラしてブロガーになった1986年生まれのイケダハヤトさんが語る、これからの働き方。

内容をざっとあげると、

・安定雇用が望めない若者世代の現況
・会社を辞めても独立して働く心構えの重要性
・「問題意識」に根差した働き方(自分で課題を見つけ、それを解決することを仕事にする)
・それを実践するための具体的な方法(ITの利用法など)

という感じでしょうか。

章立のわかりやすさ、文章の読みやすさ、そして各章末にはご丁寧にまとめも書かれているという親切さ。こうした本の作り方も何となくハチロク世代なのかなという感じです。

イケダハヤトさんについては、一度だけシンポジウムみたいなので実際に話していたのを聞いたのですが、立て板に水という感じの流れるような早口と、常に他の人の話とかをMacBookでタイプしている姿が印象的でした。そのとき一緒だった小田嶋隆さんも言ってたけど、情報処理の速度が速く、しかもそれが身体的に染み付いている感じ。世代間格差を実感しました。

で、本書について言うと、内容的にはもっともだと思うのですが、私のような30代のサラリーマンから見ると、半分共感というところです。

自分の問題意識に依って(いわゆる「旗を立てて」)働き方を決めるというのはすばらしいことだと思いますが、たぶん世の中のみんながそれをやったら、全体としての労働は回っていかないような気がする。

人のつながりやITを使ってできることもたしかにたくさんあるけれど、製造や物流といった、物理的なモノやヒトが必要な事業については限界があるんじゃないかな。極端な話、「いい車を作って世界中で売りたい」と思った場合、そこではやはり、奴隷を使ってピラミッドを作るような規模の経済性と労働者が必要になると思うけど、それに従事する若者はどうなっちゃうんでしょう?

まぁそんなのも企業で働く人間の負け惜しみと言えばそうかもしれませんけど。いざ明日会社がなくなったらやっぱり困るし……。

「旗を立てて生きる」ってことは賛成だけど、それを必ずしも働き方の独立性と結びつけるんじゃなくて、「企業にいてもできること」に目を向けるのも、若者にとって大事ではないのかな。

修業論

2013年10月03日 | 一般書
これまで読んだ著作の中でも折に触れて合気道の話とかを書いていた内田樹氏。本書では「街場」シリーズとかとはまた違った切り口から武道に焦点を置いて書かれていました。

やはりというか、身体を鍛えるという一般的なスポーツのイメージなんかとは全然異なる内容。例えば「第2章 無敵とはなにか」なんかは、見出しを挙げると「敵を「存在してはならないもの」ととらえない」とかいう感じで、禅問答みたいというか、かなり思想/メンタル的です。

でも全体として肯けるところはあって、たとえばオリンピックや学校の運動部のように、その期間内だけめちゃくちゃに頑張るというのは、この武道的な視点から見るとおかしいというのは納得(もちろん、だから無意味というわけではないと断っていますが)。

そもそも本書では、武道は限られた時間の中で数値化できる成果を出すものではなく、それこそ一生続く「生きる」ということに根ざしたものだととらえています。これについては「武道家としての坂本龍馬」というところで書かれていた以下の箇所がわかりやすかったので引用。

(前略)武道修業の目的は危機的状況を生き延びるための能力だからである。それは身体能力・運動能力というところにとどまらない。もっと生々しい「生き物として生き延びる力」である。
刀をくるくると器用にさばく能力よりも、例えば「どこでも寝られる」「何でも食える」「誰とでも友だちになれる」といった能力のほうがはるかに有用である。この点について言えば、司馬が造形した龍馬は、まさにこの三点において、古今無双の「生きる達人」であると言うことができる。
>(p.217)

んー。たしかに、どんなに身体性を鍛えたところで、生き延びることができなければ終わりですからね。

男子家事 料理・洗濯・掃除の新メソッド

2013年09月22日 | 一般書

いかにもって感じの本でちょっと恥ずかしいのですが、立ち読みして衝動買い。

「あとがき」のタイトルにあるように、「義務でも趣味でもなく、自然に家事を楽しみにする」ということを追求して書かれた本。

以下、特に参考になったところで一部を箇条書き。

・靴はブラシをかけるのが大事

・キッチンや洗面所ではとにかく「水」を残すさない(「水=汚れと心得よ」)

・持っておくべき包丁・鍋とは?

・洗濯の脱水は30秒でいい(脱水しすぎるとシワになる)

・REGAL SHOPで教えてもらった靴磨き法

・Tシャツはピンチハンガーで逆さに干すといい

個人的には掃除・洗い物テクのところが読みたくて買ったので、料理のレシピとかは流し読みだったんですが、これもけっこう使えそうです。

そしてあとがきにかかれていたスペイン人男性・エリックのエピソードもいい話。
この家事哲学には賛同です。

上野先生、勝手に死なれちゃ困ります

2013年08月27日 | 一般書

報ステを見ていたら、官邸で消費税の集中点検会とかが開かれたみたいで、経団連や連合の会長といったエライひとたちに紛れてなんと古市さんの姿が。なんでも有識者として唯一20代でお声がかかったとのことですが、こんなところに出るようになるなんて、もはや世間的には若者代表みたいになってるんですね。

そんな古市さんと、上野千鶴子さん、親子ほど年が離れた団塊の世代と団塊ジュニアの対談になっている本書。そろそろ親の老後が気になってきた古市さんが、上野先生にアドバイスを求める(というか、ゆるーい感じで漠然とした不安を語る古市さんに、「あんた何も知らないのね」と上野先生が説教する)って構図なんですが、意外なくらいおもしろくてためになりそうな内容でした。

特に第3章で取り上げられていた介護保険制度のこととかは、正直ほとんど知らなくて、すでに2年くらい前の本なんだけど、恥ずかしながらこれを読んで初めてまともに知ったという感じです(保険料を払うのが40歳以上からってこともあるんでしょうけど)。

上野先生曰く、介護のタブーは以下のようなこと。

・介護のために仕事を辞めるのは絶対にダメ

・できるだけ同居は避ける

・親本人の意思を、できるだけ子どもは知っておいて、尊重する

要するに介護のために滅私奉公するようなことはせず、なるべく親との距離を保ちながら、でもしっかり対話をするということでしょうか。

それにしても、前よりよくなったとはいえ、日本の介護制度は相変わらずガチガチの家族主義立脚型のシステムなんですね。「国益より男益」という痛烈なことばもありましたけど、上野先生に言わせると、結局はそういう政治家たちが作ったしくみとのことで。具体的な対策として、シングルマザー支援なんかが挙げられていましたけど、その他にも外国人介護士の積極的な受け入れとか、家族がいなくても何とかなる制度というのは、たしかにもうちょっと充実化させないと将来キツそうな気はします。

ヤバい経営学

2013年08月14日 | 一般書

<ビジネスの世界は、いつも何か「うわべ」のものに包まれている。しかし、すべては言われているほど合理的でも、体系的でも、効率的でもない。そんなことは、誰だってなんとなく気づいている。しかし私たちも、社会的に浮いているように思われたくないし、愚か者とも思われたくない。>(pp.293-294:エピローグ)

「裸の王様」を引き合いに出してこう語っているように、「当たり前」と思われている経営の常識も、一皮剥けばおかしなことだらけ、という主旨の本書。(ちなみに原題は「Business Exposed」ということで、直訳すると「表にさらけ出されたビジネス」みたいな意味)

訳者あとがきでも触れていたように、「問題提起はするけど解決策は自分で考えて」という方針なので、いわゆる経営のハウツー本とはちょっと違います。とにかくいろんな事例を出してきて、皮肉交じりにその愚かさをこき下ろすといった感じ。一部、専門的な内容も出てきますが、冒頭の「モンキーストリート」をはじめ、いろんなたとえ話はわかりやすく、「経営学」というわりにはけっこう読みやすい本でした。

「Chapter5 仲間意識と影響力」、特にその中の「流行を生み出すアナリスト」や「取締役のクローン化現象」などはなんとなく思い当るところもあって納得。多少の飛躍はあるかもしれないけど、結局こういう感じでいろんなことが回ってるんですかね。

ちなみにこの本、先日八重洲ブックセンターに行ったらかなり平積みされてました。ビジネス書の扱いが多い書店ではまだまだ売れてるみたい。